やはり転生オリ主の青春ラブコメもまちがっている。(リメイク) 作:ヒラメもち
作ってくれた朝ごはんを食べ サッカー部に顔を出す。
生徒会に入ってからはあまり行くことがなかったが、9月から定期的に手伝いに行っているのだから 完全にやめたわけではないのだ。自転車を使って10分ほどで着く範囲に住んでいるから、ある程度早起きができれば支障はない。
いまだに持たされている合鍵を使って部室を開けようとしたとき、「おはよーう。」という元気な声でいろはさんが駆け寄ってくる。昨晩 L〇NEで朝練に来るかどうかの話題が出たため、彼女が来ることは知っていた。気温が寒いということもあって俺も彼女も学校指定の体操服を着ている。学年によって色分けされているジャージであって 1年は赤である。
「おはよう。」
よほど急いできたみたいで一安心するように、 ふーっと息を吐く。
「ごめんなさい、遅れちゃいました。」
「まだ部員来てないし、間に合ってるんじゃない?」
「はい。間に合ってよかったです。」
ニコッと笑みを浮かべれば 昨日のことを思い出してしまう。
持っていた鍵はするりと取られてしまう。
「さ、始めますよー。」
「お、おう。」
タオルやスポドリの準備をいつも通りに行っていく。気温が低いこともあって 温かいお茶も用意しておく。温かいスポドリには賛否両論あるからだ。適材適所で分担しているとはいえ、仕事量は増えているはずなのに 独りでやっていた時よりもテキパキと動けている。部員たちが集まり始めた頃にはすでにノルマをこなしていた。
葉山先輩の人望によって集まりは悪くないが、気温が低いことと朝早い時間であるために集中力が欠けている。人に言われたから、いつもやっているから、効果がありそうだから、そんな曖昧な考え方なのだ。辛い、やりたくないという負の感情を隠したままチームに合わせる。華やかな青春が表面的に表れていたとしても それが正しいと断定することはできない。
「いろはさん、ちょっと行ってくる。」
「……はい?」
球技全般が苦手であってサッカーも苦手だ。
具体的な練習方法を俺は知っているわけではない。
それでも、
「葉山先輩、俺も混ざっていいですか?」
「ああ、いいよ。」
他のメンバーからもマネージャーの1人として扱われているようで 否定する意見はなかった。今日の走り込みは指定時間内グラウンドを走るだけであって、ボールを持ち込んでドリブルだったなら苦戦していただろう。
「よーい、スタート!」
いろはさんの合図で集団から飛び出すのは俺と葉山先輩。
スタートダッシュするとは思わずに 出遅れたメンバーも続く。彼らと違って毎日とはいかないが、定期的にランニングは行っている。大学時代では年1度の地域のマラソンには参加していたため、スポーツが苦手な俺もこうして競り合うことができるのだ。
葉山先輩も俺も少し距離を開けているだけで一周遅れとなるメンバーはいない。いつもどこか流していたメンバーも寒空の下、確かに走っていた。たった20分の走り込みだけれど、青春は確かに存在していたのだ。
だがサッカーの練習に混じれば、教えられる立場に回った。
「今日はありがとう。あいつらも少しはやる気を出してくれた。」
「いえ、結局邪魔しちゃったみたいですし。」
「楽しそうに教えていたし、いいんじゃないかな。」
「そうですか、それならよかったです。」
「……君もいろはも変わったね。」
「俺たち高校生は、三日会わざればなんとかってやつですよ。それじゃあ 失礼します。」
スピードワゴンはクールに去るぜってとこだ。
葉山先輩に制服を着た女子2人が話しかけている。
たぶん1人は付き添いで もう1人が恋する乙女だろう。トップカーストにいる『獄炎の女王』は葉山先輩に押し掛ける女性の数を削減してくれた。理想像を彼に押しつけて中途半端なアプローチをかけるところは、葉山先輩の人気度は理解しているとはいえ 葉山先輩の部活仲間たちからすれば好ましいものではなかったのだ。葉山先輩の居場所は確かにここに1つはあった。
「はいどうぞ、お疲れ様。」
「なんかごめん。仕事任せちゃって。」
「いえいえー、伊月君もご苦労様でした。」
途中参加してきたマネージャーもいてタオルを配り終わったみたいで、すでに部員たちは授業に向けてクールダウンしている。かくいう俺も慣れないことをしたため ベンチに座りこむ。
「走るのが速いとかサッカーが上手ってことじゃないんですけど、なんていうかカッコよかったですよ。……あ、今のって私的にポイント高くないですか!?」
「そういうセリフどこかで聞いたようでまだ聞いていないよな。」
彼女が手渡してくれたタオルで汗を拭く。
顔の熱は収まることはなく 心臓はバクバクと音を立てる。
『実感』もちゃんとあるし、『成果』もちゃんとくれた。
「ていうか1時間目体育なんですけど大丈夫ですか……」
「え……」
「がんばって休んでくださいねー。」
「手を抜けば……」
「ダメですよ副会長♪」
***
一色いろはは可愛くない後輩である。
あざとい。
自分の長所を理解していて、幼さやあどけなさをうまく利用する小賢しい部分がある。自分をキャラクターづけし それを保持しようと努める。その打算的可愛さに屈した男子が多いことだろう。しかし妹の小町と比べてしまえば、可愛くないあざとさに過ぎないのだ。
購買で菓子パンを買っていつもの場所に腰掛けていた。
冬空の下、温かいマッ缶は全身に染み渡る。
こっちは陰口言われないかヒヤヒヤしているのに、呑気に隣で弁当を食べる後輩がいる。膝の上にお弁当箱置くところも計算された行動なのだろう。
「そういえば、月村は一緒じゃないんだな。」
いつも生徒会でこき使っているし、2人とも友達少ないし。俺、戸部、あの会計とともに『一色いろは被害者の会』に所属しているが、同じクラスだから階位は上だ。
「まるでいつも一緒みたいな……はっ!もしかして相性がいいっていうことですか詳しく聞きたいところですが今はやめてくださいごめんなさい。」
早口でまくし立てたから何を言っていたのか八幡ワカンナイ
「い、月村君なら教室にいるんじゃないんですかねー。葉山先輩ほどじゃないですが人気ありますし。先輩と違って。」
「いやそこまで強調しなくていいから。ついでに俺と葉山を比較しなくていいから。」
月村はいい奴であることは間違いない。
葉山ほど期待されることはあまりないようだが、頼りにされればちゃんと応える。勉強で分からないところを聞けば教えてくれるような、都合の良い奴として扱われる。高校デビューを満喫しているリア充にはさぞ都合の良い犠牲者だっただろう。
「先輩は『依存』ってどう思います?」
声色が真剣なものに変わる。
ネット依存をはじめ世の中には『依存』で溢れている。ここで言いたいのは人間関係についてだろう。詳しい事情を察することはできるが、以前の月村は頼られることを存在意義とまでしていた。対して、一色は媚を売って人を頼ることに長けている。一色は月村に助けられることに、月村は一色を助けることに、かつて依存していた。
さて、依存は是か非かという問いを考えていこう。
世間一般で言えばネガティブなイメージであることは確かだ。人間関係の依存は特に『悪』とされている。その対象がいないと身体的または精神的に正常の状態を保つことができないし、依存が進めばいつしか自分自身を見失う可能性もある。
かつての月村は、嫌われることをひどく恐怖していた。
しかし今の月村は、間違いを正そうとあがいている。
「………考えてもがいて、あがいて悩め。そうでなくては 『本物』じゃない、か。」
平塚先生の『お説教』は確かに胸に響いたな。
「間違っているかどうか自分で決めればいいんじゃねぇの?」
「なんかむずかしいですね……。でも、甘えてていいのかーとか。独り占めしていいのかーとか。ほんと悩んで損しちゃいました。ありがとうございます。」
「お前、葉山のときはあんなにアタックかけてたのにな。」
「それは正攻法が効かないっていうかー、反撃されちゃうっていうかー。……って、あっま!!」
「社会が厳しいんでな。コーヒーくらい甘くていいだろ。」
社会は常に犠牲者を生もうとする。俺ならそんなまやかしは全部捨てて ぶち壊して台無しにしてしまいたくなる。だからといって、俺はあいつの生き方を否定することはない。生き方を肯定して、そしてあいつをちゃんとさせてやる奴が1人いるんだ。
「月村は好きだぞ、それ。」
「甘いですけど嫌いではないですよー♪……ってなんですかその超めんどくさそうな顔。めんどくさくない女の子なんていませんよーだ。」
「そうだろうな、めんどくさくない人間がそもそもいないし。」
「その方が人間味があって素晴らしいことなんじゃないですかね。一色さんお待たせ。先輩 今日もお邪魔します。」
「いいぞ。ほれ。」
膝掛けを持ってきて一色に渡すという紳士的行動を見せている月村にもマッ缶を渡す。やはり人助けは性分に合うようで、『実感』とともに『成果』をちゃんと求めるのだ。言うなれば、サービス業の社畜だな。ワーカーホリックと化して 天然由来のあざとさを見せるまである。
一色もお礼にと いろ〇す みかん味を渡している。
あらかじめ用意していたアイテムを取り出したところ、あざとい。
3人で座るベンチは狭いとはいえ、しかし悪い雰囲気ではない。
あざとさをぶつけ合った結果、
ともかくお互いが秘めている『素敵な何か』に触れたのだろう。
俺にとってそれなりに身近な彼女たちも色違いのものを持っている。