やはり転生オリ主の青春ラブコメもまちがっている。(リメイク) 作:ヒラメもち
日の光が眩しい。
背伸びをすると 机の上のパンさんがふと目に入る。物静かな愛らしいクマというわけではなく、カンフーが得意なパンダである。その鋭利な爪で悪を狩る姿は、子どもたち及び雪ノ下先輩に大人気である。
日曜日と言えば 寝溜めのためにあるのではないか。
早起きしてプ〇キュアを見る子どもたちと大人たちは尊敬する。ちなみに後者には比企谷先輩が含まれている。今度、話題の男の娘プリキュアについてどう思うか聞いてみよう。戸塚さんのこともあるし 好きになってそうである。
7時から二度寝を開始して、今や11時。身体に良くないことは理解していても睡眠欲という三大欲求に勝てないから仕方ないのである。まだまだ眠ることはできるが、そろそろ起きなければ母さんが来てしまうだろう。たとえ俺の部屋に来たところで焦るような物は置いていない。せいぜいラノベや漫画が目立つくらいだ。
「髪伸ばそうかな……」
「え。」
「……おっはよーございまーす!」
「おはよう 元気いいね服も髪型も可愛いね。」
昨日は先輩たちと合流した後は何事もなく夢の国から帰って、ちゃんと夢の世界へ旅立ったはずだ。
現実逃避から生還して彼女の姿を見る。桃色のモコモコパーカーや白いスカートを身につけた、亜麻色の髪を一つ結びにした俺の彼女が俺の部屋で本を読んでいる。普段髪を下ろしている可愛い女の子がそういうことすれば可愛いに決まっている。
「べ、別に参考書なんて探してないんだからね!」
確かに俺はセカン党所属だが、なぜツンデレキャラにジョブチェンジしたのだろうか。ここでいう参考書とは 彼女が全く手をつけていない物理の参考書などではない。そう、俺の攻略本である。その事実に対して 彼氏として嬉しいと思うのは当然である。
「それで、なにしに来たの?」
「お土産を届けに来て、2人でおでかけするから面倒みておいてって言われました!」
敬礼してニコッと笑えば、ドキッとしてしまう。
「いやいや、男と2人きりとか危ないでしょう。」
「あー、確かにお父さんがうるさく……いつもそういうこと言ってきますね。でも彼氏と2人きりって素敵なことなんじゃないんですか?」
「……とりあえず俺以外とは気をつけて。先輩とか葉山先輩はいいけど。」
「それって浮気しちゃダメってことですね。もちろんしませんよ♪」
両親は俺がヘタレなのを知っているから 任せたのだろう。
ただしいろはのご両親と早めに会う必要性が上がったのは確かだ。
一度部屋からちゃんと出てもらいパーカーとズボンに着替え、身だしなみを整えてリビングに降りる。俺の普段着が基本パーカーであるし あえて合わせてきたのだろうから、今日は俺なりのおしゃれでいいのだろう。
「それで、何か作るけど希望ある? ご飯ものとか麵類とか。」
いつ来てくれたのか分からないが、もう12時前だ。ここはお詫びにお客様である彼女に昼食を作ってもいいだろう。技能は自炊レベルはあるとはいえ、レパートリーは少ないことが事実なのだが。
「いえ、ここは私が作りますんで。」
水色のエプロンをすでに装着している。
さらにあらかじめ食材まで用意してくるとは、かなりのやり手である。いろはがテキパキ準備していく食材の中には塩麴に漬け込んだ鳥ムネ肉まである。米はすでに炊けているし、うちの彼女のポテンシャル高すぎなのでは。
「キャベ千くらいはやるかな。」
「手、切らないでくださいよ?」
玉ねぎの下ごしらえもしているようだし、包丁とまな板を使うことはないだろう。まずはボウルに氷水を入れておく。包丁をあらかじめ研いでおいて、キャベツ半玉を千切りしていく。
「へぇー、上手ですね。」
「これでも飲食店バイトしていたから。」
いろはがフライパンで鳥肉を焼きながら話しかけてくる。
「それは手強いですね。」
「野菜の仕込みが中心だったし、胃袋を掴むのは簡単ですよーっと。」
癖になっているのもあって、千切りキャベツはざるに入れて氷水で3分間だけ冷やす。シャキシャキ食感をもたらす効果もあるが、ある程度水分を含ませて長持ちする意味合いがある。後者は店長に言われたからで本当かどうかは知らないし、ちゃんと表面の水は切る。
鳥ムネの塩麴焼き、キャベ千、味噌汁、米、みかんという家庭的な料理が食卓に並ぶ。みかんは元県民としては譲れないところである。俺にとっては昼飯兼朝飯なのだが、愛情がいっぱいなので十分腹が膨れた。
つくづく素晴らしい彼女を持ったものである。
このまま家にいてもいいらしいが、お出かけすることにする。
目の前にはいつもの公園があって、そのさらに向こうに見えるのが彼女の家なのである。つまりご近所さんだったのだ。俺は高校入学前にマンションから引っ越しをしたので、実は幼馴染だったということはない。
「ところでこれってデートでオーケー?」
「もちろんですよー。こういうのが有効的な攻め方だって知ってますので。」
「そうか。本チャンは期待してて。」
「っ! ほーんとあざといですね。」
いろはも俺も顔真っ赤だ。
ロマンチックなデートはこっちから誘ってほしいって意味合いはちゃんと伝わった。あざとい策略家であっても、この可愛い小悪魔は純情な乙女なのだ。
バスに乗って駅近くのショッピングモールに着けば、服飾関係やアクセサリーショップを中心に回っていく。彼女にとって自分磨きは特技と化しているようで、流行に疎い俺を引っ張っていってくれる。千葉県民御用達の場所であるし総武高生もいるだろうから、手を繋いでいるわけではない。
予想通り、知っている顔が見えた。
「あっ、葉山先輩―!……と、三浦先輩と海老名先輩もこんにちは。」
「こんにちは、戸部先輩も。」
葉山先輩と戸部先輩繋がりで軽く知っているとはいえ、2人の女子の先輩とは自己紹介を交わす。俺も生徒副会長であるし、軽くは知られていたみたいである。
三浦先輩がいろはを警戒していることから、葉山先輩に好意を持っていることはわかる。だが海老名先輩の「君が噂の後輩君かー。先輩と後輩っていうのもいいよね……グフフ」って顔が緩んでいるのは一体何を想像しているのだろう。
映画まで時間を潰しているとのことで、ショッピングモールを一緒に回り始めた。女子は3人集まってファッションに夢中になっているみたいだし、男子3人は遠くで待機してニセ〇イの話をすることにした。やはり原作を読んでいたから実写版を見るのであって、自然とどのヒロインが好きかという話に至る。
俺が万里花、戸部先輩がるりの魅力について語るが、葉山先輩は選ばない。
「隼人くーん、俺らしか聞いてないしいいじゃんかー?」
「勘弁してくれ、戸部。」
「誰も選ばないっていう終わり方だったら どうだったんでしょうね。物語はいつか終わってしまうから、最後まで選ばないことはできないですし。」
彼の抱えた事情も過去も知らないし、聞いても断固として教えてくれることはないだろう。傷つけたくないからなのか傷つけたからなのかまでは分からないが、何も選ばないことは誰かのためなんだと思う。
自分に言い訳して自分勝手に自己完結して 独りで苦しむのだ。過去に囚われて、今を生きることに必死で、不確かな未来を恐れる。
いろはが少し大人びた服を持ってやってくれば、胸の痛みは治まる。
「これとかどうですかー、月村君!」
「抜け駆けすん、なし……?」
「似合うと思うよ、優美子。」
「あ、ありがと……」
対抗するようにやってきた三浦先輩は作戦に引っかかっている。葉山先輩と2人きりにしてあげようとすれば、自然と3つのペアができて衣料品店を回り始める。
彼のことをちゃんと見ていてくれる人は ちゃんといるのだ。海老名先輩をとことん褒めて軽くあしらわれるけれどめげない戸部先輩も、葉山先輩にまっすぐ向き合う三浦先輩も、誰もがみんな『本物』を探しているのだ。
もちろん俺といろはも『本物』を見つけただけでは満足していない。
映画館に向かった葉山先輩たちとは別れ、引き続きショッピングモールを回る。
「うーん……あっ、こっちも可愛い!」
アクセサリーショップで、本日限定販売だという指輪を見比べながら迷っている。
生き生きとした姿を目の前で見れることは感慨深く、そして優越感がある。このまま見続けていたいが、どうやら候補を絞る事ができたみたいで 3つの指輪を手のひらに乗せて見せてくる。自分の好みをちゃんと考えつつ、俺にも意見を求めてくれるのだ。
「これかな。」
「参考程度に理由を聞いてもいいですか?」
「いろはにはその色が一番似合うから、かな。」
淡いピンク、いや桜色のガラス玉が輝く指輪は直感で選んだ。直感による俺の意見が求められたのであって、ちゃんと応えた。
嬉しそうにレジに向かういろはを呼び止めて、半額分を奢るという選択肢を選ぶ。
***
夕日の下、買ったばかりの指輪は右手の薬指で確かに輝いている。
今までいろんな男子とお出かけした。でもどの男子もしつこいくらいに見栄を張ってきた。取り繕って、必死にカッコよく見せようとしていた。だからそういうことをしない葉山先輩に惹かれたのかもしれない。結局、一度もデートをしたことはなかったけど。
まぁ、私も
だって私もわたしを可愛く見せようとするから、
デートで疲れが溜まったから、違う人とデートしてみた。
どんどんデートでストレスが溜まっていった。
どんどん自分が嫌いになりそうだった。
でも、―――
「ファッションも勉強しなくちゃなー。」
伊月を初めて誘ったときも気晴らしのつもりで、伊月からすれば初デートだったみたい。何も考えてこなくて行き当たりばったりだったし、スタバの注文もぎこちなかったし、奢るとか奢らないとか何にも考えていなかったし。
いつも彼なりにデートしてくれる。
「もー、私が教えてあげますって。」
「ありがとう。でも、デートなのに頼りっぱなしなのはマズいよな……」
私を可愛く見せることを頑張るわたしをちゃんと見てくれる。
いつも教えられてばかりの私が、教えてあげるチャンス。
「まぁ、女子的にはポイント低いでしょうね。」
「うっ、精進します。いろはが頑張ってくれるし 俺も怠けていられないよな。」
「でもデートって自分が楽しいのが一番だと思うんですよね。だからわたし的には100点満点なんですよ。」
彼と過ごす時間は―――
本当に、楽で、
本当に、楽しい。
「それなら、俺的にも100点満点だな。」
「そうですかっ♪」
腕を絡めれば 伊月はビクっとする。
私も彼もぎこちなく支え合って歩く。
「わたし以外とデートしないでくださいね……」
「俺も同じこと考えてた。」
「……ごめんなさい。」
なんて自己中心的でワガママなんだろう。
私はいろんな人とデートしてきたのに、一途に想っていてくれる素敵な彼を独占したいと思ってしまう。
「本音を言えば 結構キツかった。でも今もこれからもいろはの素顔を見れるし、くよくよしてる暇はないな。」
速くなった心臓の鼓動が重なる。
彼には歯痒い思いをさせたみたいだし、
「………これからは わたしの初めて いっぱいあげますね。」
甘く本音を囁いてみた。
「ヴェアアアアアアアア!?」
「うぇっ!? すごい湯気出てますよ!?」
いつも年上の余裕を見せているのに 実は
彼氏ができたら自慢するだろうなって思っていたけど、今は秘密にしたいなって思っている。