やはり転生オリ主の青春ラブコメもまちがっている。(リメイク)   作:狩る雄

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第18話 彼女と過ごすクリスマスは

クリスマスイブ及びクリスマスをどうお過ごしでしょうか。

恋人や家族と過ごす時間、大乱闘スマッ〇ュブラザーズに明け暮れる日々の1つ、お客の少ない定食屋でのバイト、宿題や試験勉強の追い込み、みんな思い思いの青春を謳歌していると思う。

 

 

俺たちは午前中からケーキやクッキーをひたすら焼いていった。お菓子作りのスキルレベルが高いいろはや雪ノ下先輩は、社畜レベルの高い俺と比企谷先輩をこき使ってくれる。桃缶をケーキではなくクッキーに入れようとした由比ヶ浜先輩に、今日のところは料理をさせないことに注意を払う。料理上手な小町さんも途中参加し、戸塚先輩や材木座先輩もサポートにまわってくれた。

 

 

クリスマス合同イベント自体は午後から始まる。

海浜総合高校によるバンド及びクラシックの出張コンサートの2つとはいえ、クリスマスソングによる盛り上がりは確かにあった。理想とされたカタチよりボリュームダウンされたとはいえ、一週間もない状況で2団体を呼ぶにはかなりの労力を要しただろう。バンドとクラシックのギャップをちゃんと楽しんでくれる人も多かった。

 

 

2部構成として、後半は総武側が仕切る。

集められた選択肢の中で、いろはは『賢者の贈り物』を選んだ。ナレーション主体で進む物語であるため、役者とセリフを分ける必要もない。俺も読んだことはなかったけれども『好き』になった。

 

舞台や衣装が手作り感に溢れた学芸会に過ぎないが、温もりは誰もが実感した。先輩を気にかけていた女の子も主演として場の雰囲気を魅了した。ラストのシーンでは園児が天使の格好をしてケーキを配り、1つ1つの蝋燭に炎を灯していく。そのサプライズに保護者及び川崎先輩は大興奮である。

 

全体として見れば綻びもあるけれど、一瞬を魅せることを大切にしたのだ。

やっぱり小学生と園児は最高だぜ!!

 

 

こうして俺たちも緊張の糸は解け、お茶会に移行した。

給仕として会場を動き回るけれども肩の荷は降りていた。

 

小学生たちに引っ張りだこされつつも、海浜側の席でお互いの活動を讃え合う。最後の会議から玉縄さんを中心としてテキパキと動いていた。別の道を進んだけれども、お互いにリスペクトできるパートナーシップを築けてシナジー効果は生まれていた。「それあるね。」って玉縄さんが言い続けていたんだけれど、実は草食系男子なんだな。

 

好きな女子の前だからって張り切っていたんだろう。

 

 

 

ガチャ

 

ゆっくりと扉を開く音に意識を現実に戻す。

時計を見れば すでに22時となっている。

 

「調子はどう?」

 

見慣れた亜麻色の、背中まで届く髪を持つ美人の女性が小さな声で話しかけてくる。

 

 

「まだ熱はありますけど、スヤスヤ眠ってますね。」

 

適度な湿度が保たれた、暖房の効いた部屋。

綺麗に整頓されているが物は多い。勉強机には勉強した形跡や裁縫をした形跡がありのまま残されている。小さな本棚には少女漫画、ファッション雑誌、レシピ本、ラノベ。その本棚の上にはウサギとヒツジのぬいぐるみが寄り添っている。

 

あの指輪は大切にしまっているのだろうか。

 

 

「安心したわ。良い子を見つけたみたいで。」

 

「ど、どうも。」

 

「いろはったら、昔からいろんな男の子に好かれるのを喜んでね。このまま大人になってしまうのはちょっと心配だったの。学校のこと、何も話してくれなくなったから。」

 

入学当初のいろはは、とにかく多くの男子から好かれるように行動していた。多くの女子から嫌われ、いつしか『偽物』の人間関係ばかりができていた。高嶺の花として扱われていたとはいえ、男子の目線や女子の嫉妬を受けるようになっていた。

 

「でもね、いつからかあなたのことを話すようになったの。頼りになる友達ができたんだーって、その男の子と一緒に生徒会やるんだーって。心からの笑顔を見せてくれるようになったの。だからありがとう、これからもいろはをよろしくね。」

 

 

そう言われても、救われてばかりなので実感がない。加えて、彼女が本来歩む物語を振り回して壊したのだ。彼女は気にしていないけれど 俺が『異物』であるという事実は変わることはない。まして、生きる意味をくれただなんて思い上がったことはもう言わない。

 

間違ったことだらけの俺が正しくあろうとするのだから、

誹謗中傷は本来言われるべきものなのだ。

 

 

転生の事実を伝えて、両親から反対されることは覚悟している。

彼女から一度離れて、時間をかけて態度と行動で誠意を示すという覚悟もある。

 

 

大切な女性を愛することをどうしても求めてしまうから、独善的でおぞましい感情をもう隠さない。

 

大切に想うことは傷つける覚悟をすることだって知ったから、傷つけることからもう逃げない。

 

 

「またちゃんとご挨拶に来ます。一線までは越えてませんし 大人になるまで越えるつもりもありません。それだけは信じてください。」

 

「はい。あなたの誠意ちゃんと伝わりました。……あっ!もしかして結婚したいと思ってるのね嬉しいけど私をお義母さんって呼んでからにしてくださいねごめんなさい。」

 

早口と、感情の籠った笑顔。

彼女の照れ隠しは親譲りのようだ。

 

「ていうか、あなたなら、うちの()もっと誑かしてもいいのよ。それにー、今日って、うるさい……真面目なお父さんいないのよ。だ・か・ら・……」

 

「決心揺らぎそうなのでやめてくださいごめんなさい。」

 

「あらあら、草食系男子なヒツジ君に任せて邪魔者は退散しますねー。」

 

ニヤニヤしながら嵐は去っていく。

 

 

 

 

「いつき?」

 

手を弱々しく握ってくる。

存在を確かめるように。

 

「さっきまでおかあさん来てたぞ。」

 

「そうですか、お母さんが……あっ、お義母さん呼びってことは……もしかして結婚したいと思ってるんですかね嬉しいんですけど……お父さんにも会ってからにしてくださいごめんなさい……はぁーはぁー

 

「あんまり喋るなって。」

 

早口ではなかったけれど 息切れしている。

ぬるめのスポーツドリンクを手渡す。

 

 

 

「いつも迷惑かけちゃってますね。」

 

「迷惑と思ってないし役得だし、いろんなもの貰ってるから。さっきのプレゼントとか。」

 

「わたしもです。元気になったら読んでみますね。」

 

いろははたぶん疲労からきた風邪だ。

ここ数日、激務をこなしていたからだ。クリスマスパーティーの片付けくらいから、覇気がなくなっていった。平塚先生に頼んで車で送ってもらったが、付き添いをしていた俺を放してくれないからずっと看病している。

 

 

「はいはい、ベッドから出ようとしない。」

 

「ぶー、初めてのクリスマスだもん……。生徒会長命令で」

 

「職権濫用はダメです生徒会長。まぁ、この1ヶ月の疲れが溜まってたんだろうな。」

 

「そう言ってピンピンしてる癖に。」

 

「経験の差だろうな。」

 

生徒会が本格的に始まって初めてのイベントは波乱なものだった。お互いにまだまだ纏まっていない状態で、かつ地域を巻き込んだからだ。総武側と海浜側とで言葉がすれ違い、子どもたちの対応に明け暮れ、手探り状態で進むしかなかった。比企谷先輩たちが第三者として整えてくれなければ危うい雰囲気が漂っていた。

 

華奢な身体には重すぎる責任を背負っていた。

 

 

 

「もう1年が終わるんですね。」

 

春には平成も終わる。

そしてもうすぐ俺が転生してから1年が経つ。

 

「ていうか、4月くらいの伊月って先輩くらい腐った目をしてましたね。」

 

「いろいろあったし、それに隣の席が口説き会場と化すし。」

 

「ほ、ほら、私って可愛いじゃないですかコホコホ

 

「彼女が可愛いと彼氏として誇らしいから安心しな。」

 

そう言いつつ、咳き込む彼女の背中をさすってやる。

 

 

「その、ずっとここにいたら、うつっちゃいますよ?」

 

「そのときは責任取って看病してもらう。」

 

「なんなんですかもう……熱、上がっちゃいますよ。あざといです卑怯です大好きです。

 

本当はずっと離れてほしくないし、俺もずっと離れたくない。

 

それでもいつかは自立しなければならない。

 

 

 

恥ずかしそうに上目遣いをしてくる。

「せなか ふいてもらっていいですか?」

 

お義母様に任せようとしたけれども、そのウルウルとした瞳に屈した。

 

 

白いタオルに ぬるい水を軽く含ませる。

桜色のパジャマを捲り、白くて綺麗な肌を拭いていく。

 

肩に力が入っているし彼女も緊張しているようだ。

 

 

 

「これもう伊月以外にはお嫁に行けません。針千本用意しておきますから、最期まで責任取ってくださいね。」

 

「稼ぎができたら、な。」

 

「もう、カッコつけてもいいところなのに………まって、ます、ね

 

理性を保つことに必死になっていたら終わっていて、整った寝息が聞こえている。

 

 

「ゆっくりと大人になろうな。」

 

ちゃんと自立して、それでも寄り添いたいと思えるはずだ。

 

それまでは待っていてほしい。

大人になることを焦っては大切なことを見逃してしまう。

 

一度きりの青春はまだまだ続くのだから。

 

 

 

***

 

恋人に何を贈りましたか。

アクセサリー、花、時計、服、楽器、お食事、などなど。

サイトや雑誌と睨めっこしながら決めたんでしょうね。

 

 

『賢者の贈り物』

それは、最高の夫婦のお話。

パートナーが一番欲しいものをプレゼントした『本物』の物語。

 

すれ違うこともあるけど、相手のことをちゃんと見ているから本当に欲しいものがわかる。

 

 

 

『Love Is: New Ways To Spot That Certain Feeling(愛は特定の感情を見つけ出す新しい方法)』っていうお伽話の、伊月なりの日本語訳をした手書きの冊子。

 

不安と覚悟の両方をちゃんと見せてくれた。

だから、この本は絶対に返却しませんよ。

 

 

『本物』をくれるし、愛もくれる。

 

わたしも彼も、

来年もその先もクリスマスを一緒に過ごすことを願うだなんて ホントあざといですよね。

 

 

冬休み、いっぱい楽しみましょうね。

 

 

 

 

***

 

「Happy Christmas.」

 

そんな、粋な寝言を聞いて部屋から出た。

彼女をお義母様に任せて、帰途につく。

 

 

すでに0時を過ぎ、クリスマス。

今年最後の満月と言われる月は太陽のように輝いている。

 

 

輝く星空の下で、手編みの月色のマフラーを早速首に巻く。

 

「ほんと幸せ者だよな。」

 

そう呟いた。

 

 

 


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