やはり転生オリ主の青春ラブコメもまちがっている。(リメイク)   作:ヒラメもち

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第21話 進路

特別棟の真横のポツンとあるベンチ。

そこからはテニスコートが一望でき、寒空の昼休み中における練習風景を見ることができる。多くの生徒が暖かい場所でお弁当を食べているので外にいる生徒はほとんどいない。加えて、この場所は日陰になることが多くてひんやりとしている。

 

そんな先輩の場所に俺たちはたまに遊びに来る。

 

 

「一色はどうした?」

 

パンを静かに食べていた先輩が、ふと口に出す。

その返事の代わりに、1通の封筒をポケットから出して手渡した。

 

「ずいぶんと古典的ですよね。」

 

内容を簡潔に述べるなら、『一色いろはから手を引け』というところだろうか。文章を読み進めていった先輩の目が険しくなるのを見て、やはり優しい先輩なのだと再認識する。雪ノ下先輩が置かれている『状況』にも満足していない。

 

マッ缶の甘さと温もりが心地いい。

 

 

「大事を取っただけですよ。それに、いろはの方には『葉山先輩から手を引け』って書いてあったみたいですし。」

 

「……そういうことか。」

 

それだけ言って、先輩はマッ缶を飲み進める。

 

いろはは多くの女子から嫉妬を受けている。

この『流行』において、一歩リードしているように見える彼女を牽制しているのだろう。彼女は俺を頼りにすることが多いから、孤立させるために俺に対しても釘をさしたに過ぎない。

 

 

かつての俺ならこんな悪戯でも惑わされてしまっていただろう。

 

 

「それで、何か動きはありました?」

 

「葉山には見事に断られた。あと、三浦が直接依頼しに来たな。」

 

「へぇー、三浦先輩が。」

 

葉山先輩に対して直接問いただして失敗したとはいえ、先輩のやる気は消えていなかった。

 

 

「なに嬉しそうにしてんだ。」

 

「先輩が先輩でよかったなって。これってポイント高いですかね。」

 

「意味わからん。」

 

面と向かって話すことはなく、変わらない距離感。

テニスコートの練習風景を見ながら静寂を楽しむ。

 

 

「……なぁ、葉山の進路についてどう思う?」

 

「んー? まずサッカー選手にはならないんじゃないですかね。大学に行っても続けそうですけど、同好会に入りそうですね。」

 

体育専門の学部も存在し、プロのサッカー選手を目指して励む者もいる。対して、葉山先輩はサッカーというスポーツではなく、サッカー部という青春を楽しんでいるように見えるのだ。キャプテンの責任と部員の信頼をちゃんと受け取っている。絡みつくような幻想的な《期待》と違って、その重さは心地いいのだと思う。

 

「文系か理系までは授業態度を知らないのでわかりません。まぁ、どっちも意欲的に取り組んでそうですけど。」

 

たとえ理系大学志望だとしても、日本史や地理が好きだという者は確かにいた。

 

 

「理系の大学に来る人って、数学や科学が得意だとか好きな人がほとんどを占めるのは確かですね。まぁ、就職か大学院進学かに関わらず、ずっと数学に関わるようなものなんですよ。微分や積分とか代数学とか、がっつりやりますし。」

 

「……ほーん。数学ね。」

 

俺の情報が、先輩の手札に加わったようで何よりだ。

 

数学嫌いな先輩にとっては分かりづらい視点だっただろう。

 

 

 

「八幡! それに、月村君だよね。ここいいかな?」

 

「いいですよ、いつもここ先輩しかいませんし。」

 

この後輩、毒されて図太くなったな……

 

そう言いながらも、ちゃっかりと俺の方に軽く寄ってきてスペースを空ける。あざとい。

 

「? うん、ありがとう。」

 

先輩の小声に対して、ちょこんと首を傾げた男の娘に先輩の顔は緩む。

 

 

先輩のクラスメイトである戸塚先輩が合流してきた。総武高指定のジャージを着ていて、先ほどまでテニスの練習をしていたメンバーの1人のようだ。小さなお弁当箱を膝に丁寧に広げて食事を始める。

 

 

「……その、ちゃんと、部長やってたな。」

 

「見ててくれたんだ。まだまだ部長っていうほどまとめられてないけどね。」

 

照れつつ、苦笑いしつつ、謙遜しつつ、天使だ。

だが俺はあざとい小悪魔に惑わされたほうがいい。

 

「何を話していたの?」

 

「文理選択についてですよ。」

 

「そうなんだ。八幡はもう決まってるの?」

「俺は文系だ。」

 

即答だった。

 

「そっか……じゃあ、ぼくも文系にしようかな。」

「おお、そうか!」

 

「大学の学部とかも決めちゃってるんですか?」

 

戸塚先輩のことが好きすぎて嬉しくて感情的になっている先輩の代わりに尋ねてみる。

 

「えっと……、所沢のスポーツ科学か人間科学にしようかなって思ってるよ。」

 

「あー、あそこか。」

 

「うん。せっかくテニスやってきたし、関係することがいいかなって。2人はどうなの?」

「とりあえず千葉の文系のだな。」

 

「俺は○○大学の理工学系ですね。」

 

「月村君ってもう決めてるんだ。」

 

「……まぁ、そうですね。テストありの推薦も狙ってます。」

 

違う未来が待っているとはいえ、そこへ行きたい。

 

 

「葉山は、……どうなんだろうな、推薦。」

 

「うーん、部長会の会長もやっているし、面接も得意そうだよね。」

 

文武両道であって、文理の成績が良い。

人当たりもいいし、スポーツもできる。

仕事もできそうだし、体力もある。

 

「葉山、すげぇな。」

 

「うん。なんでもできるし、優しいよね。」

 

だから、《期待》されるのだ。

そして、自分を傷つけている。

 

 

「でも、あの噂すごいよね。」

 

「有名税とはいえ、大変でしょうね。」

 

「葉山君が好きなのって三浦さんのことかと思ってた。イニシャルがYだし。」

 

え、まじかよ……そこまでは明かしたことあるんですね。」

 

思わず、素が出てしまった。

イニシャルがYである人は俺でも多く思い浮かぶ。

 

三浦先輩、由比ヶ浜先輩や雪ノ下先輩、あと陽乃さん。

……それと材木座先輩。

 

いろはのイニシャルではないことに安心を覚えたことは確かだ。

 

 

 

 

チャイムが鳴って、戸塚先輩は一度部員たちに声をかけに行った。

 

「では先輩、お先に失礼します。お邪魔しました。」

 

「またな。」

 

「はい。今日も部活行けませんけど、何かあったら呼んでくださいね。」

 

「……ああ。 お前もがんばれよ。」

 

生徒会のこととか。

いろはのこととか、俺自身のこととか。

 

 

なんだかんだ面倒見のいい先輩って教師向きだと思う。

スキルポイントは溜まっていないとはいえ、専業主夫も案外似合っている。

 

 

筋肉痛を少し感じる足を俺も前に出した。

 

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