やはり転生オリ主の青春ラブコメもまちがっている。(リメイク) 作:ヒラメもち
一月往ぬるだとか二月逃げるだとか言うし、新学期が始まってからあっという間に日々は過ぎていった。2年生対象の進路相談会の開催に向けて、せわしなく準備していたこともある。
ちなみに2年生は進路希望調査票を1月中に提出しなければならない。つまり、三浦先輩の依頼のタイムリミットまですでに10日ほどだ。葉山先輩はすでに提出していて、文理のどちらを選んだかを明言していない。理由としては彼の『選択』が広く影響を及ぼすことにある。今日の進路相談会で現れることはないだろう。
「ねぇ、一緒に文系にしない?」
「うん、いいよ!」
すれ違ったカップルの、そんな会話が耳に入ってきた。
同じ進路に進みたい、少しでも青春を共有したい。
そんな想いがあるのだろう。
自分や相手に嘘をついてでも、相手の傷つかない、変わらない関係を選ぶ。それが『本物』と呼べるものならいいのだが。
「今日もサッカー部の応援行く?」
「でも今日って、進路相談会だし葉山先輩いないんじゃねー?」
「まじかー、それなら行かなくていいじゃん?」
「えー、でも相田君とか岡田君とかいるんじゃ?」
「理系は大学で単位取るのがきついっしょ」
「そーそー。文系なら大学も余裕だし、超遊べるぜ? 先の事ちゃんと考えないと。」
「だよなー。俺も大学入ったら彼女欲しいし。」
「いや、お前じゃ無理だろ。いいとこへの合格も彼女もやっぱ葉山みたいのじゃねぇと。」
「葉山かー。あの噂本当なら、マジうらやましいよな。」
『馴れ合い』が
葉山先輩と雪ノ下先輩の根も葉もない噂によって、どこか浮ついた雰囲気が続いている。年相応に青春ラブコメを謳歌しているとも言える。だがまちがっていないと断定することだけはしたくなかった。
「お待たせしました。」
「うん、ありがとう。こっちはだいぶ進んでるよ。」
会議室の扉を開いて、本牧先輩に話しかける。
2年生用の資料を200枚ほど運んできたのだが、果たしてこんなに必要だったかはわからない。1月後半、時期的に言えば文理選択についての相談が多いはずだ。しかし理由はともあれすでに決めている者も多い。ついでに軽く様子見してきたが 半数も来ないかもしれない。大学選びについての進路相談もまた来年度考慮する必要がある。
自主参加である以上、仕方のないことだ。
しかし個人的には、時期的にも、進学校であるし、多く来てほしい。
「秦野、相模、お疲れ様。ありがとう。」
手持ち無沙汰となっているクラスメイトの2人に話しかける。
「いいってことよ。」
「でもそろそろ時間だから失礼するぞ?」
「ああ。また時間空いたときに行くから。」
平塚先生経由で来てくれた先輩たちの他に、彼らが会場設営を手伝ってくれた。衝立や机を会議室に設置するのには男手が必要であったのだ。
彼らは遊戯部に所属していて、たまに大富豪や大乱闘ス○ッシュブラザーズをしに行くことがある。なろう小説や二次創作について語り合うことも多い。生徒の自主性を重んじる学校だからこそ、存在している部活な気がする。教室の私的利用が激しすぎることはそれとなく注意している。
「えっと、その、一色さんって意外とマジメなんだな。人使い荒いけど。」
「指示出し上手いよな。噂はアテにならないだろ?」
嫉妬によって作られた根も葉もない噂。
それが彼女の行動がもたらした結果であるとはいえ、状況を改善したいと思うのは彼氏として当然のことだ。印象や信頼を劇的に向上させることは容易いことではないし、少しずつちゃんと見せていくしかない。
きっかけは何でもよくて、ありふれたものでいい。
「まあ、確かにそうかも。いや、でも人使いは荒いぞ。」
「……そうか?」
「上級者だ……。」
「すげぇよ、あんた。」
ちゃんと考えたのだが。
まず無理難題を押しつけられるわけでもない。俺たちのやれる範囲で頼んでくれるし、筋も通っている。楽をしたいという考えも彼女にはあるが、華奢な身体に責任を背負ったまま気負うよりはるかにマシである。
結論を言えば、ドーンと構えてちゃんと見ていてくれるから、ベストを尽くそうと思えるのだ。
「あー、それじゃ、俺たち行くから。」
「あと がんばれよー。」
「ありがとう。」
さて、
会場を見渡しても、いろはや藤沢さんはいない。
OBの現大学生たちのところへ行っているのだろう。
先輩たちにも挨拶した後に、本牧先輩と最終確認を行っていく。クリスマスイベントのときよりはるかにスムーズに進んでいっている。第三者として生徒会の『変化』を知っている先輩の頬が緩んでいた。
「お、比企谷くんに、後輩くんじゃーん。ひゃっはろー! 来ちゃったよ♪」
「こんにちはー!」
「……ども。」
「こんにちはです。」
いろはたちと一緒に会議室に入ってきたのは、進路科の先生や10人の大学生と城廻先輩だ。雪ノ下陽乃さんは、俺や先輩を見るやいなや、楽しげで蠱惑的な笑顔を向けてきた。他のOBたちの視線が俺たちへ向けられる。
いろはもムッとしている。
「雪乃ちゃんも来てたんだ。それに、ガハマちゃんも。」
「お久しぶりです!」
「……姉さん。」
あまり姉妹仲は良くないことが伺える。
一方通行な好意を向けられているように見えるが、思惑的な視線が交錯している。
「それじゃあ、そろそろ時間なんでー、みなさんブースでの待機よろしくです!」
チューターの皆さんをそれぞれブースに誘導すれば、開催時間となって、待ちかねていた2年生が入ってきた。
「っべー、誰に相談すればいいんだろ。」
「文系と理系の人、両方に聞くべきだろうな。」
「かしこま!」
プリントに目を通しつつ、多くの者が誰に相談するかを迷っているようだったが、葉山先輩のおかげで少しずつ動き始めた。戸部先輩たちの付き添いとして葉山先輩は来ており、三浦先輩が雪ノ下さんを牽制するような目を向けている。
恋は盲目と言うけれど、文理選択や進路を誰かに委ねることを彼女にはしてほしくない。
「じゃ、俺たちも戻るわ。」
「はい、ありがとうございました!」
「また明日です。」
いろはに合わせて先輩たちにお辞儀する。
どうやら文理選択についての話題が多くなっているため、部室に行くようだ。
先輩たち自身はすでに決まっているし、葉山先輩も明かすことはないと判断したからだろうか。他にも、雪ノ下さんから距離を置こうとしたのかもしれない。
いや、雪ノ下先輩と葉山先輩をチラチラと見ている『雰囲気』が原因なのだろう。
「うまくいきそうですね。」
少し離れて、いろはと小さな声で話す。
すでに各ブースで盛り上がっているため、水を差すこともない。
やはり元生徒会長であってよく知られている城廻先輩のもとへ、多くの女子が集まっている。彼女は指定校推薦ですでに受かっていて、センター試験が数日前に終わったことで参加してくれた。指定校推薦とは大学から高校側に推薦の枠が与えられて受験することだ。
対して、雪ノ下さんは多くの男子及び女子をすでに従えている。
「人数も結構来てるな。葉山先輩や城廻先輩のおかげなところあるけど。」
葉山先輩は行くべきだと直接言ってくれたのだろうし、城廻先輩に相談したいという人も多いだろう。もちろん、各大学生のブースにも人だかりができていて、順番など気にせずに自由に話している。
「まぁ、確かに。でも初めてですし。」
「大学選びもまだ本気ではない、か。また5月か6月とかに開催すべきだな。」
雰囲気としては文理選択についての話題が多い。
他には大学生活の質問もしているようだ。
「ですかねー。やっぱり高校受験と大学受験って全然違いますね。」
「センター試験と二次試験の2回あるし。そういや、俺たちって共通テストなんだよなぁ。」
「ほ、ほら、最初ですし、優しめなんじゃないんですかー?」
「そうなると、平均点とか偏差値が上がるだけだよな。」
ちなみにセンター試験における、リスニングの『野菜(?)』や物理の『太郎と花子(仮)』はホットな話題である。真面目な話をするなら、物理は図を提示されて、深く思考する必要性が高くなっていたし、大学入学共通テストに向けて変化をしている最中なのだろう。プレテストを受けていたとしてもいまだに慣れない。せめて1年分でも過去問という分析材料が欲しい。
少しだけ静寂があった。
聞くかどうか迷いがあったのだろう。
「月村君は、進路のこと考えてる?」
すでにあった答えを伝える。
「○○大学の理工学系。教師か研究職かってとこ。」
「それは、やっぱり……?」
ある意味、『傷口』を開きに行くようなものだ。
前世で3年も通っていた場所とは、異なる場所なのは確かだ。
「ご想像通り。……一色さんは?」
「将来は まだ。でも大学には通っておきたいかなって考えるようになりました。」
「そうか。」
その『変化』の原因は俺にあるのだろう。
「でも同じところっていうのは無理みたいですね。その、物理はちょっと……。」
「数学も必須だからな。大学の物理って数学寄りだし。」
目線を逸らして、葛藤している。
「へ、へぇー……」
それほどまでに俺の選択が彼女を悩ませているのだろう。しかし彼女が文理選択をするまでちょうど1年であって、猶予はある。
「まぁ、いろんな人の考えを知って、ゆっくり選んでいけばいいんじゃないか。そのためにこういう場があるんだし、進路科の先生もいつでも相談に乗ってくれるだろうし。」
自由に進路を選べるというのは一見、すごく楽なように思えて、これが意外としんどい。文理選択は分岐点、大学選びは多方向、職業に至っては未知数。人生の指針がないなら、自分が進むべき道を、自分で決定していかなければならない。
親や家に一方的に決められることも苦しいし、
自分で選択していかなければならないことも苦しい。
だから、相談するべきなのだ。
「そうですか。やっぱり、大学には行っておきたいです。」
微笑みながら同じことを教えてくれる。
「そうか。」
俺も笑みを零して同じ返事をする。
俺も大学生活で随分と成長した。
彼女がその『景色』を見てみたいというのなら応援するし、力を貸す。