やはり転生オリ主の青春ラブコメもまちがっている。(リメイク) 作:ヒラメもち
18時前。
すっかり日は暮れていて、月は暖かく輝いている。
しかし先日のスーパームーンほどの明るさではなく、次第に欠けて行くのだろう。
暖房の効いた生徒会室の窓からチラリと外を見る。
夜の寒空の下、どの部活もすでに切り上げているようだ。
あっという間に終わったと感じられるほど進路相談会は盛り上がりを見せた。ホクホク顔で帰る人もいれば、悩んだままだったり悩み始めたりした人もいた。答えを得ていることと悩みを抱えていることに優劣などない。高校生らしく悩めるなら青春は間違っていることはない。
そう簡単に人の価値観や考え方は変わらないのだが、しかし何気ない経験や言葉が時に人を大きく成長させる。
ともかく、奉仕部としても生徒会としても、有意義なイベントを行えたのではないか。
「ほんと、すごくいい先輩たちに来てもらえて助かりました!」
会場の片付けも葉山先輩たちやOBの方々が手伝ってくれたのでスムーズに終わった。そんな彼らもすでに解散している。今生徒会室に残っているのは俺といろはと、城廻先輩や雪ノ下さんだ。
「そう?別に大したことしてないよー?」
「いえ、はるさん先輩なんか超カッコいいです!憧れちゃいます! わたしも、はるさん先輩みたいになりたいなーって……」
「ありがとー!」
気に入られて抱きしめられているように見えるが、小悪魔は魔王に掌握されているだけだ。加えて、彼女との戦力差にいろはは、口元を軽くヒクヒクさせている。母性の象徴とか美貌とか、大人らしさとか。
微笑ましく見ている城廻先輩は2人の『裏』に気づいていないようだ。
「それでー、なにか面白いことない? 雪乃ちゃんに関することとか。」
大きめの机に溜め込んだお菓子を広げてお茶会をしている。
雪ノ下さんが、久しぶりに会った城廻先輩と話したいだけなのだろうが。
「普段と変わらずですかね。」
「それ、何かあるって言ってるようなものだよ。」
かつて先輩が言ったように、あえて言ってみただけだ。
どうせ先ほどの『雰囲気』によって、感づいている。
「教えて?」
その一言と、そして目で問いただしてくる。
先輩がガクブルしそうなドロドロな笑顔である。
「強いて言うなら、雪ノ下先輩と葉山先輩が付き合っているんじゃないかっていう、噂のことですかね。」
事実を述べた。
あくまで噂にすぎないが、噂の大本であることは確かだ。
「そう。」
手のひらに顎を乗せたまま、冷めた相槌をした。
才色兼備である彼女には多くの挑戦者が集まってきたのだろう。それは葉山先輩や雪ノ下先輩も例外ではない。上辺だけを見て近づいてくることに、もはや慣れすぎてしまっている。
いろはは戸惑って、俺や雪ノ下さんを交互に見る。
「なんだか素敵だよねー。」
この場において、城廻先輩は純粋な笑顔と感想を見せる。
雪ノ下さんが本心から気に入っている数少ない人なのだろう。
自分にないものを持っていて、裏を見せても遠ざかることがないからだと思う。
「あくまで噂みたいですけどね。」
「へぇ、そうなんだー。」
センター試験に向けて忙しかっただろうし、城廻先輩はあまり噂について深く知らないようだ。
「じゃあさ、比企谷くんはあれからどう?」
話題を変えて再び尋ねてくる。
「進んではいますけど、止まってますね。」
「へぇー、よく見てるね。感心感心。」
その一見矛盾とも思える答え方が、合うのだ。
近しくなることを躊躇い、もう遠ざかることもできないということ。
「それは後で本人たちに聞いてみるとして、後輩くんはもう進路決めてるの?」
興味のあることにはどんどん取り組むタイプなのだろう。
質問を重ねてきた。
いろはにまるで興味を示していないことに、ムッとしそうになるのを堪える。
「理系です。○○大学かなって。」
「へぇー。そこ 私が通ってるとこだよ。」
「え、まじかよ。……まあ、2年後なんで、雪ノ下さん卒業してるかもですけど。」
その事実と、彼女が単純に関心を示したことに、
思わず素の声が出てしまう。
「そうかもね。なんだか後輩くんってよく似ているね、学部の人に。」
低い声で呟くように告げる。
真実に行き着くことはないけれども、俺の『違和感』にますます興味を示される。
本心を時々見せているのに、まるで掌の上で弄ばれているように、行き着く先が見えない。
そして、彼女は席を立つ。
俺も同じく夜空の暗闇を見る。
生半可な覚悟ではこの人は変わらないのだろう。
彼女の『素敵な何か』は俺には見ることはできない。
「自分自身で決めているなら、いいことだよ。」
面と向かって、言ってくれなかった言葉。
だから、考えてしまった。
俺は『過去』に即したいだけなのではないか、と。
なぜなら知らない世界というのはひどく恐いことだから。
「えっと、あのー、好きな人と同じ大学に行くとかどう思いますかー?」
雰囲気を変えようと思ったのか。
はたまた単純に悩みを聞いてほしかったのか。
「へぇ、一色さんってそういう人がいるんだー。」
「いいと思うよー、本人たち次第じゃん。」
いろはの質問に対して返ってきたのは、当たり障りのない答えだった。
「ですよねー!」
だから、仮面を必死に保ったまま、心の中で歯嚙みしている。
かける言葉が見つからない。
いや、俺は躊躇しているのだ。
いろはの自立のためにはならないだとか。
俺は中途半端な覚悟しかできていないとか。
「おっと、比企谷くん、みーっけ!」
生徒会室の窓からは中庭が見える。奉仕部の今日の活動が終わってから帰ろうとしている先輩を見つけたのだろう。
外にいる先輩に向かって、彼女の存在を示すように声をかけている。
「それじゃ、めぐり行こうか。」
「はい。じゃあ、またね。生徒会がんばってね!」
「また何かあれば頼りにさせてもらいますね♪」
「後輩くんも会長さんもまったねー!」
「お気をつけて。」
彼女は窓を開けたまま去っていく。
そこから吹く夜風が、暖房の効いた生徒会室を冷ましていた。
「先輩たちって、3人とも来年は受験一筋って感じになっちゃいますよね。」
寂しげにそうつぶやく。
「由比ヶ浜先輩にとって、スパルタな1年になるだろうな。理系科目については先輩もだけど。」
「でしょうね。今のうちに英語がんばらないとですねー。」
「あと1年もすれば、意識しなきゃいけないのか……。」
「数学とか化学、また教えてくださいね。」
「はいよ。」
いつもより遠慮がちに会話を続ける。
近づくことができないし、いつもより楽じゃない。
「奉仕部、いつまで続けるんだろうなー。」
儚いつぶやきだった。
いつか彼らとの関係にも、終わりがくるのだろう。
凍てついた風は、熱を少し冷ましていた。