やはり転生オリ主の青春ラブコメもまちがっている。(リメイク) 作:ヒラメもち
次の日から、文化祭実行委員の副委員長として、雪ノ下先輩が抜擢されたのだ。すでに打ち合わせていたようで確定事項のように発表された。
そして、優秀すぎた。
全ての部署の仕事を理解していて、その進捗確認に加えて、適切な仕事の追加も行っていく。とにかく抜け目がないし、気づきにくいことを指摘してくれる。優れたアドバイザーのおかげで余裕のある仕事ができている。雪ノ下先輩の評価は鰻登りであって、委員長である相模先輩は比較される。あくまで、委員長の顔を立てるような仕事ぶりだけれども、それすらも評価される。
隣の一色さんはというと、上手くバレないように『うわぁ』って顔をしていた。
それでも、
―――順調に進んでいたはずだった
定例会議の時に、クラスの方にもっと顔を出すことを、そのメリットを含めて説明したのだ。自分たち自身が楽しんでこそ良いものにできるだとか、先人の知恵にあやかるだとか。誰かに感化されたことが考えられる。
ちゃんと考えれば、両立なんてできないことはわかる。しかし、『めんどくさい』ことを最小限に留めて、クラスの催し物を手伝う流れとなった。その皺寄せがやってきて、残ったメンバーは仕事の山である。
溜息と、キーボードを叩く音が、今日も響く。
扉が開けば、相模先輩かと思って視線を向ける。
「って、葉山先輩じゃないですかー!」
さっきまでうんざりしながらも仕事をやっていた一色さんが、元気に駆けて行った。
それを見届けて、俺も席を立つ。
「先輩、いくつかやりますよ。」
「……あ、お、おう。」
高校生にして社畜のような目である。
それも、こういう状況がもたらしたのだろう。
雪ノ下先輩の次に、量の多い山からファイルを2つ取った。
「……悪い。」
「いえ。こういうこと、得意なんで。」
「……そうか。」
先輩は、どういう意味で受け取ったのだろうか。
葉山先輩に元気よく話しかける一色さんをちらりと見た。
「よっと。」
再び席に着いて、表計算ソフトを開いて数値を打ち始める。
あー、こういうの、グラフ化したら綺麗そうだな。
「なんか、増えてません?」
「減りはしてるよ。」
「ほんと、いつもいつも……」
一色さんも席に着いて、書類のチェックを行っていく。
お金関連は特に、少しでも数値が間違っていたら大変だからだ。
「……頼るのは大事でしょうけど、頼る気満々の人しかいないんですよね。」
その呟くような声が、静寂の部屋では耳に入る。
「ぐ、具体的にはあれだ。俺に仕事を押し付ける連中だ。」
一色さんの持っている書類がほんの少し、くしゃっとした。
「俺以外の誰かが楽をしているのは許せない。」
そう、言いきった。
「君、最低だね。」
生徒会長は諌めるけれども、優しい声だった。
「そっちも手伝うよ。」
「確かに、雑務にも皺寄せが言っているようです。一度考え直します。それと、お手伝いの件はありがたくお受けします。……ごめんなさい」
その謝罪は、たった独りに向けたもの。
「さっ、もう一踏ん張りがんばろ♪」
生徒会長のおかげで雰囲気は戻り、また仕事に戻る。
扉が、開いた。
「遅れてごめんなさーい!」
「…おつかれ。相模さんたちはクラスのほうに行っていたんだね。」
「うん。そうそう。」
『うわぁ』って、一色さんが小さく声を漏らしてしまった。
誰もが委員長御一行様に意識が向いていたが。
「相模さん、ここに決済印を。不備についてはこちらで修正してあるから。」
「うん、ありがとう……。ていうか、うちの判子渡しておくから、押しちゃっていいよ。ほら、委任っていうやつ。」
「……では、今後は私がやっておきます。」
「楽しいことやってると1日がはやーい!」
そんな独り言と、形式的な挨拶だけで、会議室から出ていった。
3人とも、様子見がてら来ただけなのだろう。
ちょんちょんと肘をつついて、紙を渡してくる。
『私って、普段あんななんですか?』
その質問の返答を書いて、こっそり返す。
『あれは空気読めてなさすぎ。
ていうか、責任感あるだろ。ちゃんと。』
そのお返事はなく、そっとポケットに入れていた。
「あー、やるか。」
そう俺が呟けば、残った人が次第に仕事を始めていく。
またパソコンに数字を打ち始める。
劣等感、それだけなのだろうか。
何かに困っていることだけは、ちゃんとわかる。
****
今日も今日とて、定例会議がある。
サボりがちなメンバーもこれには参加している。しかし会議が終了すれば、彼ら彼女らはクラスに行ってしまうし、俺たちには雑務が待っている。進捗状況の共有や、抜けがないかの確認、そういったことで会議の重要性が多忙な時期でも感じられるのは、雪ノ下先輩の手腕のおかげだ。そんな雪ノ下先輩がたった1日だけ休んだけれども、決して誰も責めることはしない。
「本日の議題ですが、文化祭のスローガンについてです。」
募集した案が、ホワイトボードに並べられていく。SNSや提出ボックスで集まったものを、その部署の担当があらかじめ選んだのだろう。ネタ要素を籠めてくる人も多いし、激務だったことは察せられる。
友情や努力など、ありきたりなフレーズに誰も頷くことはない。
『一意専心』は、何かしら期待を籠めているのでしょうかね。
彼女たちは、その四字熟語の意味を知ろうともしないだろう。
「おっ、ああいうのいいよな。1人はみんなのために。」
発案者は、ヒーロー好きな方か。
高校生は横文字が好きな場合が多いが、その綴りを選択したのだから、間違いない。
「そうですよねー!」
葉山先輩自身も好きな言葉なのかもしれないが、この状況を打開できる可能性も示唆しているかもしれない。『OneForAll』に葉山先輩が反応したことで、一色さんを含めた、多数の女子が賛同の声をあげる。
あちこちで『いいよね?』と、自然と味方を増やしていく。
これで、反対する意見を出せるなら、かなりの人物ではないだろうか。
今の俺には、できない。
「おお。独りに傷を負わせてそいつを排除する、1人はみんなのために、よくやってることだなー?」
机に肩肘をつきながら、あの先輩が愚痴った。
上手く収まりそうだった空気を覆すことはない。
ただ注目及び敵意を集めただけだけれども、雰囲気が確かに変わる。
「じゃ、じゃあ、うちらから!」
『☆絆☆
~ともに助け合う
文化祭~ 』
相模先輩自身が意気揚々と、そう書いた。
俺も、目が腐りかけた。
しかし、俺も、わざわざ敵を作ることはしない。
「うわぁ……」
「な、なにかな。変だった?」
葉山先輩の手前、相模先輩は好印象を崩したくないから、下手に取り繕った笑顔で対応していくが、それも次第に剥がれていく。
対する先輩は言いづらそうに、しかしどこか煽るように、相手の心理をついていった。
「嫌なら、他に案出してくれる?」
「それじゃあ……。人、よく見たら片方楽してる文化祭。」
正論を、淡々と述べた。
正しいことを隠さない姿勢が、まぶしい。
一色さんは、キョロキョロしている。
その対象は葉山先輩だけではなく、俺も含まれる。
先輩の自業自得とはいえ、どうにかしたいよな。
「あっははははっ!バカだ、バカがいる!もうさいっこう!ひ、ひぃ~、あー。ダメだお腹痛い!」
「笑いすぎだ……。」
凍った空気の中で、OBの女性が大笑いである。
ずっと真剣な表情を見せていた平塚先生に、諌められた。
「いやぁ、いいねいいねー!」
「説明を。」
「……いや、人という字は人と人とが支えあってとか言ってますけど、片方寄りかかってんじゃないっすか。」
先輩が、両手で人という字を作る。
「誰か犠牲になる事を容認してるのが『人』。だから、この文化祭に、あー、この文実に、相応しいんじゃないかと。」
「……そうか。」
「あー、俺とか超犠牲だよな。アホみたいに仕事させられてるし、ていうか人の仕事押しつけられてるし。あっでも、それともこれが委員長さんが言うところの『共に助け合う』って事なのか。助け合った事がないのでよく知らないんですけど。」
―――俺って助け合ったこと、あったか?
ともかく、先輩の思惑通りにヘイトを集める。
「ふふっ、……」
笑いを必死に堪えている雪ノ下先輩に全員が注目した。
ここで雪ノ下先輩が、先輩にどういう判決を下すのか。
それで、『悪』かどうかが決まる。
「却下。」
清々しい笑顔が、たった独りに向けられた。
咳払いをして、真顔に戻る。
「今日は解散にしましょう。」
「え、でも……」
「実行委員全員、各自で考え、明日決めましょう。以降の作業については全員全日参加にすれば、遅れも十分取り返せる……でしょ。」
「そう、だね……。じゃあ、みんな明日からまたお願いします。お疲れ様でしたー!」
その言葉で多くのメンバーが席を立ち、半数ほどは先輩を睨みながら、会議室から一度出ていく。ともかく、ようやく彼ら彼女らも仕事をするだろう、たった独りの敵を犠牲にして。
もちろん、ちゃんと感謝している人はいるし、同情している人たちもいるし、そしてちゃんと見てくれている人もいる。