やはり転生オリ主の青春ラブコメもまちがっている。(リメイク) 作:ヒラメもち
千葉もあまり雪が降らないらしい。
先日1度だけ積もった日があったが、昼にはもう気にしない程度であった。その程度でも降ったと思うのは出身地のせいなのだろう。登校前に、手のひらサイズの雪だるまを作って公園にベンチに飾ったのは、仕方のないことなのだ。
今日も天気は良く、寒さは堪えるほどではない。
「なんかヒマなんですけどー」
「いや今仕事中でしょ、一応。」
冬になってもタイツを履くことはなく、スカートから伸びたすらりとした足をぶらぶらさせている。この空間で今何が起こっているかといえば、依頼について聞いている最中である。部長は優雅に紅茶を片手に読書中であるし、副部長()は同じくスマホをいじるばかりだし。
先輩と依頼人が向かい合ったまま静寂が流れている。
ていうか、相談人が一向に口を開かないせいだ。
「むぅ」
遊戯部部長であって2年、自称『先輩のソウルメイト』の材木座先輩だ。いつもトレンチコートを制服の上に羽織っていて、グローブを着用している。女子が多い部室は暖房がよく効いていて汗をかいている。
暑いなら脱げ。
平塚先生の指導をよく免れてきたな。
「……材木座、結局お前何しに来たの?」
「おお、八幡か!奇遇だな!」
「いや、そういう小芝居いらないから。」
「ていうか、話しかけてくれるのずっと待ってたんですか。」
先輩の辛辣な発言には耐性があったらしい。
しかし、『ウケる』が続きそうな発言によって撃沈させられた。
独特な咳払いのあと、持ち直す。
「我が編集者になろうか悩んでいる話はしたな?」
「もちろん初耳だ。」
先輩は冷静に返す。
そういう強引な話の持っていき方は、女子があざとくやらないと。
つまり前提条件から無理ですね。
「いつきいつき、仕事なにか残ってましたっけ?」
めっちゃ興味なさそう。
基本的に俺たち任せにしている生徒会の仕事の話すら持ちだして、依頼人の話から自分は回避しようとしている。
「2月って特にイベントがないし、次は卒業式関係じゃないか。進路相談会も来年度だろうし。」
「へー。」
「そう、進路についてだ!!」
勢いよく材木座先輩が立ち上がる。
ロクなこと言わないことは容易に想像できる。
「ラノベ作家も漫画家も世間の風は厳しいのだ……だから我は気づいたのだぁ!今の時代編集者こそ至高。安定生活、クリエィティブ、アニメ制作にも関わるかもしれん。さらにさらにー、声優さんとも結婚できるやもしれん!フハハハハハ」
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「…………どうでもいいんですけどー、そんなに簡単にいくんですかねー?」
ようやく口を開いたいろはも、まるで世間話のように俺へ聞いてくる。
「俺もあまり詳しくないからなー。でも有名な出版社となると大手企業が多いし、就活もそう簡単じゃないと思う。面接とかでそれなりの準備も必要そう。」
声優との繋がりは、努力と運次第だと思う。
「そうね、それにかなり求人も少ないでしょう。」
「へー。」
「なんか大変そうだね。」
飴を舐めながら答えたり、それなりの返事をしたりと、反応は散々だな。
「だが八幡よ。」
なんで先輩。
俺たちの話を聞いても、ドヤ顔はいまだに変わらない。
「就職対策も考えてある。」
「ほう……。」
「先ほど、月村氏が言ったであろう。それなりの準備が必要と。つまり!学生のうちに編集経験があれば、中小出版社には即入社できるだろう。そして、軌道へ乗った頃に転職によって大手へ挑戦すればよいのだ!」
このポジティブさ、ある意味武器になると思う。
どの企業も即戦力で持続する若者を欲しがっている時代だ。
「というわけで、同人誌を作ってみるのはどうだろうかと思ってな。」
「編集経験を増やす、それが依頼内容ですか?」
ここまで長かった。
さっきからスマホをいじっているいろはも、一応聞き耳を立てている。
ていうか、その言葉をよく女性陣の前で言えますね。
「うむ。我には一緒に作る『真の仲間』がいない。そして、我は求めてきたのだ、『真の仲間』を。」
「……で?」
「八幡、一緒に作ろうぜー!!」
「断る。というか俺は『真の仲間』とやらじゃない。」
そもそも『一緒に作る』っていう、0から100までのサポートは奉仕部の活動ではない。先輩個人に『真の仲間』として頼んでもらいたいし、ていうか本人もそのつもりでやってきたのだろう。
「いつきいつき、同人誌、って?」
「同人雑誌、のことな。俺たちのような一般人が書籍化、本として販売したりすること。最近は個人で出す場合が多いな。二次創作みたいなもの。」
「ふーん、なるほどー……。」
よかった、そのスマホで検索しなくて。
うちの彼女、あまり一般的に知られる同人誌とか知らないんだよな。
つまり、そういう知識にまだまだ疎い。
「あたし、知ってる!コミケってやつでしょ? 漫画を自分で描いたりするんだよね。姫菜が言ってた!」
「漫画より、個人的には文芸方面のイメージの方が強いわね。」
「そうですね。他にも数学や科学の論文とかもあります。コミケっていうのはコミックマーケット、年数回開かれる漫画の販売会みたいなものです。」
「なんか超儲かるやつですよねー」
そこにだけ興味を持ってしまったか。
確かに年末になるとテレビで報道されていることだ。
「いや、大抵はそうもいかないらしい。」
先輩が釘をさしてくれる。
「え、あんなに人がいるのに、手間なのに……儲からない…のに、やる?」
いや、自問自答しないでくれ。
「趣味の世界、なのかしら?」
「そうですね。アニメキャラの作品が多いです。ちなみにバンさんは皆無に近いです。」
「そう…。」
雪ノ下先輩はしゅんとした表情を見せる。
これで、うちの女性陣はコミケに行くことはないだろう。
行くなと言えば 逆に行きたがるメンバーだ。
「話を戻しますかね。」
材木座先輩は、女子たちが会話の中心にいると話せないみたいだし。
「で、どんな本を作るんだ?」
「うむ。やはり小説だ!……我、絵描けないから...」
「結局、ラノベか。というか『なろう小説』でいいんじゃねぇの?」
「最近、アニメ化もしていますからね。デビューの可能性もあります。」
『ハーメルン』は二次創作中心だし、『なろう』の方が適しているだろう。
「うーむ。だが我はあまりアレが好かんのだ。」
「なんでだよ。今人気だろ、異世界転生チーレム無双。」
「ダメです、先輩!やっぱり純愛ものですよっ!」
いろはが勢いよく立ち上がって抗議する。
大丈夫、俺にはチートもモテモテの素質もないから。
「お、おう。そ、そうだな。」
「ええい!人気だとかそういうことではないのだ!我はそういうのまったく気にしないしぃ、全然気になってないしぃ!順位づけとか、評価づけとか、辛辣なコメントとかぁ、我そういうシステムが嫌いなだけだしぃ!我の作品をディスプレイ前で判断されたくないっていうかぁ。それに、純愛ものとかクソくらえだ!」
「は?」
「ひっ!」
「ちょ、いろは、睨まないであげて。 ほら、読者の方々にも好き嫌いがあるっていうか。俺は純愛もの大好きだから。」
「……まぁ、いつきがそういうんだったら...」
渋々、座る。
この話題、いろはの前で絶対に言わせちゃダメなことがわかった。
「というか材木座、投稿…したんだな。」
「大した進歩ね。あんなものを世に出してしまうなんて。」
「勇気あるねー。」
そんなにヤバいのかよ、材木座先輩の作品。
先輩たちは一度読まされたらしい。
「いや、投稿はしておらん。酷評されている作品を見てそう思っただけだ。」
チャレンジすらしていないのな。
まあ、俺も読む専なのだが、材木座先輩はそういった作品にもちゃんと目を通しているらしいし、案外編集者には向いているのかもしれない。しかしラノベ作家ともなると、そういう酷評と向き合っていかなければならないのだろう。
「とりあえず材木座、他の方法を考えよう。編集者になる道は1つじゃない。」
「ふむ……。それもそうか!」
「雪ノ下、パソコン使うぞ。」
「うちはパソコンルームじゃないのだけれど。」
そう言いながらも、雪ノ下先輩がノートパソコンを用意した。
3人で1つの画面を見ているし、先輩の顔は少し赤くなっている。
だが上から覗き込む材木座先輩のせいで台無しだ。
スマホで調べている俺たちは、同時にため息をつく。
「筆記試験あるとこもあるんだな。」
「そうなんですかー?」
「らしい。」
互いに調べながらなので、会話は途切れ途切れである。
一般教養、教職教養、専門教養の3つがある公立の教採よりは準備は必要なさそうだ。そもそも免許取得に対して、単位が必要だったり教育実習だったりがある。
とか思っていたら、大手ともなると倍率がヤバい。
300倍とか。
「25で、年収一千万かー。」
「え、マジ。うっそだろ。」
新卒教員の何倍なんでしょうかね。
25歳って大学出たばかりだろうに。
「1発で、受かってくださいねー?」
「ま、まかせろ。」
数年後のことなのに、すごいプレッシャーを感じた。
「ていうか、なんかヤバそうですね。」
「大手を希望する人も多そうだしな。」
いくつかサイトを調べてみたとはいえ、それなりの覚悟を持って、大学進学や就活を行われなければいけないようだ。とりあえず、材木座先輩は面接が最大の難関ということだけわかった。
「……やはり、時代はラノベだな!転スラだな!アニメ化だな!はちまーん、我に付いてこい!」
現実を知ったようで、材木座先輩はドアに向かっていく。
たぶん声優さんと結婚するという夢は持ったままなのだろう。
その1つの目標に向かって道を模索しながらも、決してその目標は捨てない。
「……へいへい。」
原点ともいえる夢を捨てず、目標に進み続ける心意気は見習うべきなのだろう。
「材木座先輩、俺も手伝いますよ。」