やはり転生オリ主の青春ラブコメもまちがっている。(リメイク) 作:狩る雄
バレンタインデー。
それは女子にとって重要イベントの1つなのは自明だ。
3連休を準備に使うだろう。
だが今となってはあまりそう思っていないかもしれない。
友チョコ文化の方が主流だ。先輩や上司だからと渡す場合も多い。逆チョコだってある。これも確証はないのだが、義理チョコでも男子に渡したとして、それには一定の好意があるからだと思われる傾向にある。だから、勘違いを避けるために貰いに来る男子にのみ渡す。
家族から渡されるものはちゃんと受け取るとして。
そう、この現代社会では、待っているだけではもはや成果を得られない時代なのだ。
「こんにちはー!」
「こんにちはです。」
今日も奉仕部の扉を開く。
いろはも生徒会の仕事がない日は基本的にここへ来る。
サッカー部へ行くのはあまり気が進まないようだ。
寒いから。
まあ、自分に正直な方が、いろはらしい。
「やっはろー、2人とも。」
「…こんにちは。紅茶、淹れるわね。」
席を立つ雪ノ下先輩は、よく注視なければ分からないくらい、シュンとした。庶民にも味がわかるくらい美味しい紅茶を淹れてくれるのはいつものことで、感謝を述べることも形式的なものとなってしまっている。
だから、自費になるとはいえ菓子類を持ってくる。
自分たちが食べたいという理由はもちろんある。
「ていうか、そろそろバレンタインじゃないですかー?」
この唐突さにはすでに慣れている。
最後までチョコたっぷりを、机に肘をつきながら食べながら発言した。
「そ、そうだねー。」
「…そうね。」
反応としては、
すごい目を逸らしているのと、冷静さを保とうとしている。
「それでー、私暇ですし、なにかイベントをしようかと。」
「暇だからなんだ!?」
「学年末の仕事、そろそろ取り掛からないとなー。」
会計とか卒業式関係とか。
「……暇じゃないですかー?」
「現実とーひ!?」
ここで、扉が開く音がした。
雪ノ下先輩の視線が、本からそちらへ移る。
「先輩、おっそーい!」
「やっはろー!」
「こんにちは。」
「こんにちはです。」
「…うす。」
呟くような挨拶。
1つだけ残されていた空席に座ってマッ缶の蓋を開ける。
それを買いに行っていたせいで、少し遅れたのだろう。
「……なんだ?」
「いいえ、気にしないで。」
「うわぁ、先輩。うわぁ……」
「…は?」
「まぁ、いいです。それでそれで、イベントのことなんですけどー」
「まったく話がのみこめないんだが。」
先輩はそう言いながら、
FG〇のイベントを進める俺へ助け舟を求める。
雪ノ下先輩のことに関しては、自分でなんとかしてほしい。
「生徒会でまたイベントやろうってことじゃないですかね。」
「ああ、そうなのね。がんばってくれ……」
「ありがとうございます。」
労わってくれることに感謝を述べたら、
まるで、『そうじゃないんだよなぁ』みたいな目をされた。
マッ缶を飲みつつ、ラノベを開く。
新刊の『魔法〇高校の劣等生』。
アニメと二次創作だけしか知らないが、あの科学的な『魔法』が好きだ。
「先輩って甘いものって超好きですよね。」
「ヒッキーは甘いもの好きだよ!」
「そうね。」
「……いや、そうなんですけどね。」
「で、何が好きなのかなって。もうメチャ甘ですか?お砂糖食べます?」
「さすがの俺も砂糖は食べん。というか、月村の好みを聞けよ。」
「え、一緒に作るんだから問題ないんですけど。」
「まぁ、その予定ですね。」
いろはが勝ち誇ったような笑みを浮かべることに対して、俺は動揺を見せてしまう。2人きりのときはそうでもないんだが、先輩たちの前では珍しいことだ。羨ましそうな顔をしていたり、リア充滅べという視線を向けられたり。
「で?」
「で、って、これだな。」
先輩がマッ缶を掲げる。
まさか雪ノ下先輩へ追加ダメージを与えるつもりなのだろうか。
「へー、そうなんですねー。」
「お前が聞いたんだろうが……」
「うーん、それなら私も作れるかも」
「ばっかお前、ふざけんな。ただのコーヒーに練乳と砂糖を入れればいいとか勘違いすんなよ。いい加減にしろよマジで。」
「マジで怒られた!?」
マッ缶はわりと好きだが、俺はそこまで熱弁することはない。
「随分と苦い人生を送っているのね。」
「紛れもない事実だろう。」
どこか寒さを感じる、そんな雪ノ下先輩の皮肉に対して、あっけらかんと答える。
慣れって怖いね。
「そういえば先輩って、チョコ貰ったことないですよね?」
「ふっ、残念だったな。俺には小町がいる。」
「小町ちゃんに、今年はなしの方向でお願いしましょうかね。」
「ごめんなさい調子に乗りました許してください。」
「うわっ、シスコン。」
いろはは素の声で反応する。
ちなみに小町さんは受験生であっても、ブラコンだから、渡すつもりだろうけど。
「比企谷君に渡す相手は小町さん以外いないわよね。友達がいないのだから。」
「そういうお前も友達いないだろうが。いや、だが今年は戸塚がくれるかもしれない。」
「そう、よかったわね……」
部室の温度が下がりかけた時、扉をノックする音が聞こえた。