やはり転生オリ主の青春ラブコメもまちがっている。(リメイク) 作:ヒラメもち
今回も駅近くのコミュニティセンターで開催されることになった。広めの調理室もあって、両校から近い場所に位置するので都合がよかったのだ。海浜総合高校も急なことだったとはいえ、パートナーシップ云々を出せば引き込めた。
海浜側も生徒会メンバーを中心として、人が集められた。
その女子の中にはちゃんと折本さんもいる。
合計人数としては25人だが、2割ほどを占める男性陣は基本的に手持ち無沙汰状態だ。調理器具や材料運びといった肉体労働もすでに済んでいるが、帰りにはまた活躍してもらう。
だから玉縄さんと戸部先輩はもう少し落ち着いてほしい。
先輩や葉山先輩は冷静すぎる。
教室の後ろで待機してないで手伝ってあげてほしい。
「私たちも始めますかね。」
「うん、よろしくね。いろはちゃん。」
男子も参加させてくれるグループはいくつかある。
例えば、俺たち生徒会がそうだし、城廻先輩たち元生徒会がそうだ。
「まあ、やることといっても、チョコ溶かして固まらせるだけなんですけどね。」
「えっ、そうなんですね。」
いろはは簡単だと言っているが、お菓子作りのレベル高いだけだ。ケーキやドーナツもいとも簡単に作る。チョコレート菓子も凝ったものを作るとなるとそれなりの技が必要になる。
「さわちゃんって、あんまり料理やらないんですね。」
「うぅ、お恥ずかしながら…」
まずは市販のビターチョコレートを細かく刻んでいく。
藤沢さんや本牧さんは少し危なげない。
「いろはの言った通りにやっていれば大丈夫ですよ。」
「うん、そうさせてもらうよ。」
俺も大学で一人暮らしをするまで、家庭科以外で包丁を持ったことはなかった。何度も指を怪我しながら飲食店バイトで鍛えられたのだ。
刻み方にはコツがある。
チョコを均一に溶かすために、大きさを揃えておく。
今から作るチョコレートにはあまり影響はないが、知っていて損はない。
刻んだチョコレート、お砂糖や生クリームを鍋に入れる。
生チョコはテンパリングだの相転移だの物性科学だの、そういう手間がないのだ。
「えっと、えっと…」
「た、たしか、味調節するんだよね。」
「そ、そうでしたね。」
見ていて初々しい。
俺やいろははサクサクなので、2人の様子を楽しみながら作っている。
「いつき、あーん」
スプーンで掬った液状のチョコを口に入れる。
ちゃんとフーフーして冷ましてくれている。
「ココアパウダーだな。」
「了解です♪ ……ていうか、なにぼーっとしているんですかー?2人もちゃんとやってくださいよ。」
いろはお手製のレシピにもそう書いてある。
あまりいろいろな調味料を混ぜて良いものができるとは限らないので、アレンジされているのはここくらいだ。
「いろは。」
「ん……うーん。ふむふむ。」
俗に言う、間接キスである。
味についてもちゃんと考え、ほんの少しだけラム酒を入れた。
「これで完成ですかね。」
「だな。」
星やハートといった型に慎重に流し込んでいく。
これを冷凍庫で1時間ほど冷やせば完成だ。
「そっちはどうですかー?」
「え、うん!?だいじょぶ!?」
「で、できた、よ?」
ちゃんとレシピ通りにやったようで、無事に顔真っ赤である。
「それはよかったです♪」
さて。ここまでは平和に大成功に終わった。
周りを確認していこう。
まず由比ヶ浜先輩には雪ノ下先輩が付いてくれているので一安心だ。しかしあの桃缶は一体どこから持ってきたのだろう。
雪ノ下先輩は同時に三浦先輩や川崎先輩とその妹さんにも教えている。彼女でも教えながら作るのはさすがにキツいようで、葉山先輩が三浦先輩のサポートに入っている。
海老名先輩は不敵な笑みを浮かべながら作っていて、ドキドキを抑えられていないながらも戸部先輩は言われたことを手伝っている。
「え、なに、お前らもう終わったの?」
「ここの味見役じゃなくて、雪ノ下先輩や由比ヶ浜先輩のところへ行ってください。」
「いや、暗黒物質だったし……」
「冷凍食品だろうが、白飯だけだろうが、ちゃんと食べるのが男でしょう。」
「そんな父親が可哀想なんだが。どこかで聞いた話かと思えば、俺の親父か。」
「まあ、冗談はさておき、暇なんですね。俺は平塚先生に挨拶したいんですけど。」
「ああ。俺も行く。」
入試関係で忙しいのに、様子を見に来てくれたようだ。
今は雪ノ下さんと話をしている。
そんな雪ノ下さんは旧生徒会メンバーを中心にいくつかのグループで指導していた。
「なんだ、もう終わったんだ。」
「生チョコだったので。」
「おー、やるじゃん。」
「教えてもらいながらですけどね。」
「謙遜することないよ。家庭的男子ってモテるじゃん。」
そういうこと、雪ノ下先輩にも言われたな。
「順調のようだな。」
「はい、特に問題も起きていません。」
「ねー、比企谷君や後輩君もお酒飲みたくならない?」
「いきなり何を言ってるんですか。」
「それって、チョコと一緒に酒飲むってことですか?」
「そ。」
「君は未成年に何を言っているんだ。」
「まあ、飲める年齢になったら試してみますよ。」
「そっか。 そうだ、静ちゃん今度飲みに行こうよ。」
「君に、本当に積もる話があるのならな……。」
雪ノ下さんの瞳が、ほんの一瞬だけ無機質になった気がした。
初めて見ることのできた笑顔以外の表情だった気がする。
「ふふっ、じゃあ、予定合わせないとね。めぐりと比企谷くんや後輩君を誘ってさ。」
「いや、俺たち未成年なんですけど。」
「えー、じゃあ、大学の友達でも呼ぼう…かな…」
声が途切れ途切れになっていく。
もうすぐ大学は春休みだろうし、呼ぶことは容易なはずだが。
「陽乃、どうした?」
「ちょっと予定を思い出しただけだよ。」
「そうか。」
またいつもの笑みに戻った。
その仮面とも呼べる笑顔が良いことなのか悪いことなのか。
「チョコといえば、比企谷くんや後輩君って、誰かからもらったことあるの?」
その言葉に何人かが反応する。
作業を止めることはないが、聞き耳を立てている。
「いや、ないですよ。」
「俺もなかったですね。」
そうだった。
彼女は最期までちゃんと見てくれなかった。
「つまんないなー。隼人は昔からたくさんもらってたのにね。」
単なる世間話だ。
「雪乃ちゃんもだっけ?」
場に影響を与える事実を的確に述べた。
それが良い変化をもたらせば、よかったのだが。
比企谷先輩の手は握りしめられている。
助けを求めていた雪ノ下先輩とは、一瞬だけ目を合わせただけだ。
「小学校に上がる前、陽乃さんと一緒にくれましたね。」
葉山先輩が事実を述べてくれたおかげで、事なきを得る。
三浦先輩もホッとしている。
「そうだったねー。で、雪乃ちゃんは誰かにあげる予定はあるの?」
「……姉さんには、関係ないでしょう。」
「そっか。まぁ、渡す相手なんて限られてるけど。」
「馬鹿馬鹿しい。勝手に……」
ボウルの転がる音が部屋に鳴り響く。
肘が当たって机から落ちたが、運よく中身はなかったようだ。
「ご、ごめんなさ……」
2度目のボウルの音が軽く鳴る。
先輩と同時に取ろうとしたためである。
そのボウルは由比ヶ浜先輩が鮮やかに持ち上げる。
そんな彼女は寂しげだった。
そして、
変わらない笑顔の上に付け足すように、微笑む。
そんな雪ノ下さんを見て俺は自然と冷や汗をかいていた。
同時にこの疑問がちゃんと浮かんだ。
この女性が苦しんでいる原因は一体何だ?