やはり転生オリ主の青春ラブコメもまちがっている。(リメイク)   作:ヒラメもち

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第31話 たった2人の後輩として

バレンタイン当日、それは総武高の受験日である。

そのため、1日前である今日、いまだ放課後になっても喧騒はやまず、学校中が甘い香りで充満している。

 

俺たちはさっさと部室へ避難した。

暖房が効いていて、紅茶の香りはするけれども、息苦しかった。

 

「この間は、ごめんなさい……。その、母が。」

 

遠慮がちに、雪ノ下先輩がそう告げる。

俺たちが見ていない間に、何かあったのだろうか。

 

『気にするな』という軽い仕草に対して、由比ヶ浜先輩が大振りに反応する。

 

「そうそう!あたしも帰りが遅いって、よくママに言われるもん!」

 

「母ちゃんっていうのはそういうもんだ。あれこれ言いたがるもんだ。」

 

「私的には、お父さんがちょっとうるさい時ありますかねー。」

 

心配してくれているだけで、かなり優しい人のはずだ。

もちろんまだ見ていない顔もあるかもだけれど、家族仲はかなりいいと思う。

 

「そう、比企谷君のお母様は特に大変そうね。手癖が…」

 

いつもの言葉遊びをするのかと思いきや、先輩と雪ノ下先輩は目を逸らし合う。

 

「…ヒッキーのママってどんな人なの?」

 

「普通だな。小町とよく似ている。」

 

「そういえば、小町ちゃんも明日受験だよね。」

 

「ええ、そうね。でも小町さんなら大丈夫だと思うわ。」

 

先輩を安心させるように、そう告げる。

 

「ん、ああ、そうだな。月村が勉強見てくれたらしいし。一色もついでに。」

「ついでですとぉー!?」

 

「どうもです。」

 

年明けから定期的に勉強会をしていた。

この時期ともなると、時に同級生とは気まずくなったり、息抜きばかりしてしまったりするから、かなり感謝されていた。塾にも行っていなかったみたいだ。

 

先輩と同じで理系科目に不安があったが、かなり伸びたと思う。

 

雪ノ下先輩に面接対策してもらったって言っていたな。

 

「やはり心配なのかしら?」

 

「ああ。小町とか可愛すぎるだろ?絶対人気が出るだろ? 男子の警戒もしなきゃいけないし、何よりロクでなしな兄の存在を知られないようにしないといけない。」

 

「うわ、シスコン。」

「ていうか、合格前提!?」

 

だからといって、なんだかんだ兄が好きな小町さんのことだから、奉仕部に入りたいって言いそうである。

 

どんな終わり方になるかわからないが、残さないとな。

 

 

「あっ、先輩。」

 

「なんだ?」

 

「雪道に気をつけてって、先輩からも言っておいてください。」

 

「ああ、確かに降るかもな。去年は積もったんだっけ。」

 

「そうですね。あと、受験票忘れた時の対処法を教えておいてください。」

 

それなら、俺もこれを言おう。

 

「ん? ああ、わかった。」

 

「いやー、あれから1年かって思うと、なんでしょうかね。大人になったっていうかー。」

 

「あっという間だったな。」

 

この世界に転生から、日々が過ぎていくのは早い。忙しく、充実した毎日を送っている証拠にもなるだろうか。俺たちだけの秘密に、静かに微笑み合う。

 

先輩は、視線を本の字へ戻そうとする。

 

 

「で、先輩。なんかお腹空いたんですけど。」

 

「また急だな。」

 

いろはがとうとう痺れを切らした。

場を整えるために動き始めたのである。

 

今日のためにあえて準備してきたのに。

ここ最近、お茶菓子を持ってきていたのに。

今日はないのかと不思議がるところだろうに。

 

そこに気づかないところが先輩クオリティである。

俺もいろはも、今日は鞄には菓子が入ったままだ。

 

「で?」

 

「いや、別に。」

 

空気がピシャリと凍った。

女性陣は清々しいまでの笑顔を貼り付けている。

 

「……今日、間食でもしました?」

 

まさかとは思う。

今日は昼休みのベストプレイスで監視もした。

 

何人か候補が頭の中に受かぶ。

城廻先輩は今日登校していたっけとか、平塚先生にそういう動きがあったかどうかとか。

 

「悲しいことに、食べていないな。」

 

そう先輩が告げたことで誰もが安堵する。

雪ノ下先輩の手が鞄に伸びたことに、由比ヶ浜先輩は寂しそうに微笑む。

 

「……なら、その、よかったら、ちょうど作ったから。」

 

いつもより少しカクカクした所作で、バタークッキーを紙皿に分けていって差し出す。

 

お互いに目を逸らし合っていることには気づいていない。

 

「……うまいな。」

 

大切そうに、先輩はクッキーを1つ1つ味わっていく。

もちろん俺たちも食べてさせてもらっているが、やはりいろは並みの美味しさである。

 

チョコ要素がないことで、まだ本命ではないことを察した。

2段構えとは、恋愛初心者なのにかなりのやり手だ。

 

「そ、そう? いつも通りなのだけれど。」

 

緊張を解くように紅茶を注いでまわる。

先輩からちょっと離れたあたり、初心である。

 

 

 

***

 

結局、依頼が来ることはなく、活動を終了させた。

粉雪がほんの少し降っているが、傘を使うまでではない。しかし1年前と同じで身を引き裂くような寒さだ。

 

このマフラーがなければヤバかった。

 

「うー、さぶっー」

 

「マフラー、ちゃんと巻いた方がいいわ。」

 

由比ヶ浜先輩のマフラーをテキパキと直してあげている。

 

「その……あなたもよ。」

 

「ん、ああ。そうだな。」

 

2人を微笑ましく見ていた先輩が自分で締め直す。

いろはは舌打ちしそうなところを堪えた。

 

「そのっ……」

 

雪ノ下先輩が、続く言葉を紡ぐことはない。

憤りを解消してあげるために、いろはをこちらへ引き寄せようとする。

 

それを、

コツ、コツ、という音が聞こえて、中断した。

 

「雪乃ちゃん、迎えに来たよ。」

 

「姉さん……」

 

雪ノ下さんだ。

詳しくないから名前も知らない、赤色の車が校門近くに止まっている。

 

「迎えに来られる用なんてないと思うけれど……」

 

「お母さんに言われたの。しばらく一緒に住むようにって。」

 

確か雪ノ下先輩は実家から離れて暮らしていたはずだ。

 

「もう春休みだからね。あ、荷物は明日届くから。午前中ならいいんだけど、午後から用事があるんだ。もしかしたらお願いしていい?」

 

「ちょ、ちょっと待って。なんでそんなこと急に……」

 

その家族の会話に俺たちは割って入ることはできない。

まだ目の前で起きていることはマシだろうか。

 

雪ノ下家に対して、覚悟を持って近づけるかどうか、そこにかかっているのかもしれない。

 

「あるでしょー?心当たり。」

 

「……それは、私が自分でやることよ。」

 

「ふふっ、雪乃ちゃんに自分なんてあるの?」

 

「なっ」

 

「今まで私がどうするか、私がどうしてきたかを見て決めてきたのにね。自分の考えなんて話せるの?」

 

「それは…」

 

「雪乃ちゃんはいつも自由にさせられてきたもんね。」

 

雪ノ下さんと違って、か。

年が離れているとはいえ、なぜそう極端なのだ。

 

「今だって、どう振る舞っていいのかわかってないんでしょ?」

 

「そんなこと……」

 

姉の笑顔から目を逸らし、迷子のように誰かを探す。

先輩が深く白い息を吐きだし、踏み出した。

 

「姉妹喧嘩なら余所でやりませんか?」

 

「ケンカなんてしたことないよ。昔から、一度もね。」

 

悲しそうな瞳を見せる。

安易に関わるなという意味、先輩は心の中で歯嚙みする。

 

「あの、ちゃんと考えてます。……ゆきのんも、あたしも。」

 

「そ。じゃあ、帰ったら聞かせてもらうね。」

 

踵を返して車で去っていく。

白い息を漏らしたまま、それをずっと見つめていた。

 

 

 

 

 

「え、えっと……そだ。うち、くる?」

 

「え、ええ。由比ヶ浜さんがいいのなら……」

 

「ああ。そうした方がいい。頼めるか?」

 

「うん、ママも許してくれると思う!」

 

今にも帰りそうな先輩たちを引き止める。

後輩として、先輩たちにちゃんと前に進んでほしい。

 

「せんぱーい、ちょっといいですかー?」

「明日、奉仕部みんなで遊びに行きませんか?」

 

それが終わりを告げるものであっても、これ以上『独り独り』が苦しんでほしくない。

 

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