やはり転生オリ主の青春ラブコメもまちがっている。(リメイク)   作:ヒラメもち

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第34話 咲いて廻って、雪の下で結われて、芽吹いて花開くまで。

ほとんどの3年生は前期及び後期試験に向けて勉強中であって、このピリピリ感はまだ続くだろう。しかし中学生たちの高校受験も無事に終わって、学校自体が少し穏やかになった。つまり、手の空いた教師たちが生徒会に対して年度末の仕事を委託していく。

 

俺や本牧さんはというと、ここ最近は数字ばかり見ていた気がする。もちろん俺たちが学校のお金を管理しているわけではない。部活連や事務とのパイプ役、また生徒会で使った費用について今年度の決算を行っていたに過ぎないが、かなりの激務だった。

 

 

 

こういうとき、例えば雪ノ下先輩がいれば百人力なのだろうが、重要な仕事は責任を持って生徒会が行うようにはしている。

 

ともかく、これでようやく卒業式関連の仕事に俺たちも参戦できる。

 

 

 

「いつき、プロムですよ!」

 

書記である藤沢さんを引き連れて、日の暮れた生徒会室に飛び込んでくる。

 

 

 

「待ってくれ、さすがの俺でもなにがなにやら。」

 

その細い腕に抱えられていたプロジェクターを、よいしょと机の上に置いた。

 

「謝恩会があるじゃないですかー?」

 

「卒業式の後の、イベントのことだな。」

 

分かりやすく言うなら、3年生を送る会である。例年通りなら、卒業式後に簡単なパーティーを行うのである。俺は実際に参加したことはないが、1,2年生も自由参加が可能な立食形式のものと聞いている。

 

「そもそも、プロムって何なのかな?」

 

本牧さん同様、その聞きなれない言葉に俺も首を傾げるしかない。

 

「ダンスパーティー、みたいなものでしょうか。」

 

「それで、そのプロムを謝恩会でやるのか?」

 

 

大学でも経験したことないし、開催のお知らせすら見たこともない。せいぜいハリーポッターとか映画で見たくらいで、わりと好きなシーンではあるけれど、実際に行うようになるとは思わなかった。俺のイメージとしてはタキシードやドレスを着て、さらにダンスも取り入れたパーティーだ。

 

例年の謝恩会が、ずっと派手なものになるだろう。

 

 

「……まあ、むずかしいのはわかっていますよ。」

 

 

初めての試みに、賛同してくれる人は多くはないはずだ。教師陣もPTAも、そして生徒たちも。

 

 

「でも、今動かないと、たぶん無理なんです。来年やるって言っても、否定されて……。だから、失敗したとしても、来年の布石をちゃんと……」

 

「私も、やりたいと思っています。」

 

藤沢さんが、はっきりと言葉を紡ぐ。

いろはたちが本当に求めているのは、1年後のプロムをなにがなんでも開催することなのだろう。そういうことは、俺にもちゃんとわかる。

 

「だから、お願いします。」

 

たまに見せる、本気の瞳は1つ前の春から変わらない。

こういう無茶ぶりがあるから、早めに仕事をこなしておく必要があるのだ。

 

わかっている。

 

 

「会計の仕事はさっき終わったよ。」

 

「間に合わせるぞ。」

 

来年度プロムを必ず開催させるには、今年度の成功こそが一番の武器となる。

 

 

そして、先輩が、俺たちが後悔しないために。

平塚先生の『異動』を俺が知っていることは、あくまで父親のおかげだ。

 

 

先輩は、まだ知らない。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

1週間も経たず、案が固まっていった。

ブレインストーミングなんてしていないからだろう。それある。

 

雪ノ下先輩の参戦、それがかなり大きい。ダンスパーティーに参加した経験や持ち前の知識を活かして、プロムの構成や会場設営について決めていく。ボッチ精神であまり乗り気ではない先輩も、交友関係の広い由比ヶ浜先輩も、それぞれの立場から意見を次々と出してくれた。

 

 

俺や本牧さんはというと、また予算について、ここ数日は頭を悩ませていた。来年度はいろいろ節約することになりそうだ。

 

 

ともかく、進捗状況としては凄まじいものだ。

すでに学校側やPTAにも仮承認が通っており、SNS及び貼り紙を通して生徒への告知も行っている。受験生からすれば急なことなのだが、無事に開催するためなので許してほしい。

 

 

 

「本当に、これを着るのか。」

 

先輩がありふれたタキシードを手に持って、つぶやいた。

 

「今日は紹介動画ですし、個人が特定されないよう撮影とか編集もしますし。」

 

今日の目的は、LI〇Eの公式アカウントに貼り付ける紹介動画の撮影である。

 

「だからといって、気が進まないんだよなぁ。」

 

「こういうの慣れてるのって、雪ノ下先輩くらいでしょうね。」

 

俺もタキシードに袖を通す。

こういうフォーマルな服は久しぶりである。

 

「そう、だな……」

 

「ところで、先輩ってダンスできそうですか?」

 

「体育でもここまでやらんだろ。創作ダンスを押し付けられただけだ。月村は?」

 

「こういうダンスは3時間くらい、お遊び程度です。大学で履修していたんですよ。」

 

「マジかよ、大学でもあるのかよ。」

 

「そもそも体育自体選択式でしたよ。俺って球技が苦手ですので、消去法です。」

 

「消去法、ね。」

 

「まあ、意外と冷めてたんですよ、俺も。」

 

変わったのは、『傷み』を自覚してからだった。

 

間違いばかりの俺が、正しくあろうとして、間違えた。

証明や計算ばかりで、取捨選択を恐れて、間違えた。

 

間違うことをわざと選んできた。

それももうすでに過去のことだが、忘れてはいない。

 

 

 

「なぁ、弁当のことなんだけど。」

 

「どうかしました?」

 

量は半分ずつにするよう俺たちで取り決めしたし、由比ヶ浜先輩についても何度か俺たちが練習に付き合ったし、雪ノ下先輩も相変わらずの実力であるし。

 

一体、何を相談してくることがあるのだろうか。

 

「あれって、お前らの仕業」

「入ってもいい?」

 

先輩の話が途切れる。

雪ノ下先輩の声が扉の外から聞こえてきた。

 

「ん、ああ。服は着た。」

 

扉が開けば、男装の麗人が目の前に現れる。ありふれた燕尾服は彼女のスタイルの良さを引き立てており、髪は1つに纏められていて雰囲気はいつもと違う。まさにプロムキングに相応しい出で立ちである。

 

「じゃ、俺は先に行くんで。」

 

「お、おう。」

 

2人は見つめ合ったままで、もう俺は蚊帳の外だった。

 

「では、よろしくです。」

 

「そ、そうね。……さ、そこに座りなさい。ぼさぼさ谷君。」

 

「……へいへい。」

 

椅子を指差した雪ノ下先輩に、先輩は素直に従う。

 

そんな2人を見届けて、更衣室から出る。

そうすれば、体育館は様変わりしていることを再び実感させられた。

 

 

カラフルな光源やバルーンアート、ミラーボール、まさにパーティー会場である。

床がそのまま木のフローリングであるのは、高校生らしさが滲み出ているのではないだろうか。

 

 

当日も、卒業式を市民ホールで行って、この体育館がプロム会場となる予定である。

 

 

 

「いつき!」

 

その聞き慣れた声でお仕事モードから引き戻される。

 

「……ニアッテル」

 

「はい♪ いつきもかっこいいですよ!」

 

褒め言葉をなんとか絞り出したものの、ちょっとポイントが低かっただろうか。

 

オレンジを基調としているドレスワンピースで、ボリュームのあるスカートが特徴的である。袖や裾からはすらりとした手足が伸びている。控えめな化粧は女の子らしく、胸元から見える黒いレースは女性の魅力を秘めていた。セミロングの亜麻色の髪は編み込みによって、いつもよりゆるふわ感が増している。薄黄色の小さなリボンがヘアアクセサリーとして可愛さを引き立てている。

 

 

 

「うへへ」

 

さて、

俺の腕にちゃんと手を添えて、とろんとした顔でご満悦ないろはをあまりじっくり見ているわけにはいかない。

 

ツッキーってば、キモいくらい見ていた。

 

 

お仕事モードに戻る。会場内にすでに10ペア準備ができており、少し緊張気味に撮影開始を待っている。メンバーは国際科やサッカー部を中心に集められている。各パートナーが彼氏彼女の場合は少ないので、プロムというより合コンっぽい、ちょっと背伸びしたような初々しさが体育館内にはある。

 

 

 

そして、主役の登場に会場内はどよめく。

いつもより大人っぽい由比ヶ浜先輩を、男装した雪ノ下先輩がエスコートして、会場の中心に立つ。2人は校内で1位を争う美少女であることは周知の事実なのだが、いつもと違う雰囲気の2人が並んでいるのだ。

 

女子はキャーキャー、男子はみとれている。

ていうか、2人ともノリノリである。

 

 

 

曲が流れ始める。

『咲いて』というフレーズと同時に、動く。

 

 

 

プロムキングとプロムクイーンの役を任せられた2人は、見事なダンスを披露する。もちろん雪ノ下先輩のエスコートが素晴らしいのだが、由比ヶ浜先輩はそのエスコートに逆らうことなく順応している。

 

まさに、阿吽の呼吸なのだ。

 

 

「さあ」

「いきましょうか」

 

俺たちも自分たちなりのダンスで、参加し始める。

雪ノ下先輩のようにエスコートできればカッコいいのだが、そこまでのスキルはない。

 

 

お互いに振り回すようなダンスだ。

ミスをしても、それすらも楽しむ。

やはり楽しいことが一番だから。

 

 

「こういうの、女の子の夢なんですよ」

 

「そうなのか、俺のお姫様」

 

「はい♪ 私の王子様」

 

普段ならこういうことは言わないので、雰囲気に流されていることは確かだ。

 

 

どこのペアも課題点の多いダンスだが、それがいい。異性の手を握ることすら緊張していて、高校生らしさがちゃんと表れている。

 

撮りたいものが撮れて、運営側としては満足である。もちろん、俺個人としても。

 

 

「先輩って、罪作りな人ですよね」

 

なんだかんだ運動会でやるようなフォークダンスに似ている。気になる異性と触れ合うことのできる時間で、しかもこの曲の間だけは、パートナーを独り占めできる。

 

 

少し息切れしている雪ノ下先輩や由比ヶ浜先輩の視線は時折り、先輩と川崎先輩に向けられていた。

 

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