やはり転生オリ主の青春ラブコメもまちがっている。(リメイク) 作:ヒラメもち
何もかもが上手く進んでいる。
いや、そう見えているだけなのかもしれない。
今もまた、まちがっているのかもしれない。
幸せだけ描いた物語なんてないことはわかっている。
だから、あがいて、少しでもちゃんとしたい。
やはりハッピーエンドが好きだから
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この応接室に入るのは何度目だろう。
初めてここを使った時は『大切なきっかけ』が起きた場所だったが、生徒会の仕事においてよく外部の人と話す時に使うことが多くなった。
「お待たせしました。ここにいる者が中心メンバーです。」
平塚先生がそう告げた。
先輩たちに加えて、生徒会から俺といろはだけが来ている。
奉仕部が部室を離れて、この応接室に揃ったことになる。
今まで感じたことのない重々しい空気だ。
俺も、気を引き締め直す。
「プロムについてだけれど、中止するべきだという意見があることは、事前にお伝えした通りだわ。」
先日撮影したプロムの紹介動画は、『高校生らしさ』を周知させるための目的もあった。
「やはり、高校生らしくないんじゃないかって心配していらっしゃるみたい。」
偏見だとか価値観だとか、人の考え方はそう簡単に変わることはない。
ドレスコードを推奨した謝恩会自体を懸念しているのだろう。
雪ノ下先輩の母親は、陽乃さんへと視線を向けた。
「……卒業生も、賛否両論みたい。」
発言を促されて答えたような、無機質な行動だった。
「まあ、別に否定的な意見が多いわけじゃないんだけどね。」
「少数意見だからといって、切り捨てていいことにはならないわよ。」
しつけるように、咎めるように、そう告げる。
親子の会話には口を挟むことはできないが、同時に俺たちにも意見が伝えられる。
話が上手い、と数分で実感させられた。
「私個人としては、節度を持ってやる分には構わないと思っているのよ。でもね」
「だからっ!」
雪ノ下先輩が言葉を遮る。
「保護者会と、学校側が連携して動けば問題は防止できる。そういうことで、すでに内諾をもらっている…はずよ……」
「懸念事項については、あらかじめリストアップしたはずです。」
少し感情的になっている雪ノ下先輩の発言に補足する。
「そうね。あくまで書類だけを見た段階での、内諾だったわ。」
にこりと微笑み、次に提示する意見に重きをおく。
「最終的な判断は、保留となっていたはずではないかしら。」
事実を述べた。
少数派意見の尊重という感情論と混ぜながら、しっかりと展開してくる。
「……ちょっといいですか。」
「ええ、どうぞ。」
「後でひっくり返ることがないように事前に話をしたんです。」
「その、みんなでちゃんと楽しめるようにがんばろう、っていうか……」
「問題を起こさないようにしようって、先輩たちはちゃんとできるはずです。」
高校生らしい感情論を投げかけることができるのは、いろはや由比ヶ浜先輩ならではだろう。
「それに躾けるのは、保護者の仕事でもありますよね。だから」
「一色。」
「……すいません。」
度を越えて感情的になってきたので、注意された。
まあ、これで『流れ』は転換できた。
「もちろん、皆さんもいろいろ考えているのだと思うわ。」
「それだったら……」
「やはり心配なのでしょうね。……縛りつけてしまったとしても、自由にさせてあげたつもりだとしても。」
儚く、そう告げる。
「心配、ですか……?」
「ええ。SNSのトラブルも増えていることだし。こういう派手な催しには過敏になっているのかしらね。」
俺たちに柔らかな笑顔が向けられる。
劣勢となった『流れ』でも、年上の余裕は崩れることはない。
「一色さん、とおっしゃったかしら。今あなたが言ったように、そうした事態は各家庭でも、学校の方でも、ちゃんと教えるようにするべきなのでしょうね。」
一度、言葉を区切る。
「でも、まだ充分とは言い難い。分別がつくはずの大人でさえ巻き込まれるし、引き起こすことさえあるのだから。」
だから、子どもはプロムはやるべきではない。
話が逸れているように思えて、暗喩的にそれを伝えてくる。
当の本人はというと、紅茶に口をつけて、雪ノ下先輩の出方を伺っている。
「企業のパーティーや、友人の結婚式、そういったものに将来的に参加することになりますよね。」
「そうね。」
「ちゃんと見守られているからこそ。今だからこそ。マナーだとか、各懸念事項への意識だとか、この謝恩会で学ぶことができるのではないでしょうか。」
あくまで高校生として、言葉選びに気をつけながら、教育的意味を事実として述べる。
「それでも、世間にあれこれ言われてしまえば、せっかくの門出に水を差すことにならないかしら。これまでの謝恩会の方は、特に不満があったわけではないでしょう?」
「……そうだよ。」
「その、私たち在校生たちにも、プロムは好意的に受け入れられてます。新しいことに期待する人は多くて……」
「でも、表に出ない意見に耳を傾けることも大事なことよ。上に立つ者にはその責任があるわ。」
変わるべき時に、平穏を求めて変わらないことを選ぶ人は多い。
俺も、かつてそうだった。
それはさておき、いろはも俺も、個人的な意見は見事に論破された。
しかし、ここまで一番知れてよかったことがある、
雪ノ下先輩の母親本人としては、プロムの開催がされるかどうかは、どちらでもいいのだ。
「私個人としては即中止という判断はしたくはありません。計画上不備のある部分を適宜修正し、保護者の皆様のご理解を得られるようにすべきかと。」
「先生のご意見はもっともだと思います。では、後日に」
「アンチ・プロムって知ってますか?」
話が切り上げられようとした時、
先輩が意表をついて、そう尋ねた。
「ええ、もちろん。」
「えーと、学校の許可なく自分達で行うこと、だよね!」
「そうよ、由比ヶ浜さん。えらいわね。」
「それって、本当に褒めてくれてるの!?」
2人の仲の良さに、静かに微笑んだ。
嬉しそうに、次の動きを待っている。
「それで?」
「すでに張り切っている人たちがいるんですよ。それも少数どころじゃない。」
「うん。ドレス着なきゃだし、いろいろとやらなきゃいけないからね。」
「いろいろしてるんですよ。2人とも。」
俺と先輩は、ちょっと気まずくなった。
「と、ともかく、もういろいろ進んでいるんですよ。」
「もし、いきなり中止になったりしたら、自分たちでやる人たちもいるのは確かね。」
「雪乃、あなたも?」
「自分たちで蒔いた種よ。私個人としてでも、やり遂げるわ。」
「ゆきのん……」
かつての文化祭、生徒会選挙、彼女は独りでやろうとしていた。
独りでしなければならないと思っていた。
「だって、ここにいるみんなでやりたいもの。」
そう、凛として言い切った。
「もちろんその時は、わたしたちも奉仕部として手伝いますよ。」
「うんうん。ヒッキーはどうする?」
「いや、まあ、乗り掛かった舟だな。」
「いつもの捻デレですね。」
「小町から聞いたのか、それ。」
「あら、すでに自覚させられていたのね。」
奉仕部という繋がりが、みんな好きだから。
たとえいつか自立したとしても、絶対に忘れない。
「これなら、ある程度管理下にある状況を選択したほうが賢明かもしれません。」
「そうみたいですね。」
「だから、手伝ってほしい、母さん。」
「何を?」
「保護者会への説得よ。そして、できるならプロムを見にきてほしいの。」
「わかったわ。予定を確認しておくわ。……でも、無理はしないでね。まだ夜は暗いのだから、もう少し早く帰って来なさい。」
「心配性ね。ありがとう。」
雪ノ下先輩から、平塚先生に向き直る。
「保護者会に関してはお任せください。」
「えっ、あっ、はい、こちらこそよろしくお願いします。」
「月村君も、お母さんに言っておいて。」
「わかりました。」
同級生らしいしな。
一筋縄ではいかないところとか、気が合いそうだ。
「雪乃、紅茶また美味しくなっていたわね。あのことも、相談しておくわ。……では、これで失礼します。」
珍しく困惑気味な陽乃さんを伴って退出していく。
最後に、先輩をちらりと見ていた気がした。
静寂が流れた。
すでに温くなったけれども美味しい紅茶で、一息つく。
「……まさに雪ノ下の母親だったな。」
「そうだね!」
「それは、どういう意味かしら。」
「似すぎなんだよ。」
「そうなのかしらね。」
「これならもう、異動して大丈夫だな。」
「もしかして、異動なのでしょうか。」
「移動?」
「……マジか。」
今日は、早めの追いコンになりそうだ。