やはり転生オリ主の青春ラブコメもまちがっている。(リメイク)   作:ヒラメもち

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いろはといろはす(水)コラボの影響で、自分も書く意欲が起きました。
渡航さんの書いた短編ですが、さすがと言うべき。敵わない。アンソロジー4巻のうち2巻も買いますが、アニメはいつになるのやら。


お誕生日特別編 4月16日

季節は春、4月も半ば。

 

3月末から咲き誇り、高校を華やかに彩っていた桜の木が目に入る。それも今は、緑の若葉を見せていた。いつもなら桃色の絨毯のようになって萎れて枯れていく、そんな桜の花びらも遠くへ飛んでいった。

 

ほんの少し空いた窓から風が入ってきていた。これが春一番なのだろうか。急に温かくなったと思ったら、再び寒くなった。また、風が強い日が続いていて、その割には快晴である。寒暖の差が激しく、先日の雨で桜は一気に散ってしまった。

 

次に満開の桜を見るには、1年待つことになるだろう。そんなことを考えながら、この空いた時間に窓の外の風景を、ぬぼーっと見つめていた。

 

「む、そろそろか。おーい、後ろから回してこい」

 

教卓を机代わりに、別クラスの提出物を確認していた先生がそう促してくる。小学校からよくあることが染み付いているのか、誰もが自然とせっせと手渡ししていく。今のクラスでは席には空白があり、一度立ち上がる場合もある。

 

先生はトントンと慣れた手つきで、その紙束を整える。物理基礎における力学分野の小テストだったが、古典物理学は2年からが本番だ。教科書のたった1ページと睨めっこしながら、覚えるのではなく理解に努めることは、俺も何度も経験してきた。

 

「予習と復習はしっかりするように」

 

チャイムの音と、号令による挨拶が重なり、こうして今日も6限目が終了する。今年から赴任してきた先生だが、毎度のことそれを伝えて帰っていくので、それが口癖なのだとすでにわかっている。

 

「おわったー」

 

物理選択で数少ない女子のうちの1人は、清楚のかけらもなく、ぐでーっとなった。新しい学年になったとしても、隣の席にいるのは、いろはである。

 

生徒会長というのは、その華奢な身体に決して軽くはないプレッシャーがある。『生徒会長=人気者or学力高い』というイメージは、昔ほどではないだろうが存在する。上位にまでは届くことはないが、平均より上はキープしている。最近は特に英語の成績が伸びてきていて、いつか追い抜かれそうだ。

 

「一度、生徒会室に寄るか?」

 

高校生の放課後の選択肢として、部活に行くか、教室で駄弁るか、生徒会で働くか。何か今日中にやるべきことが事務や先生から渡されるかもしれない。

 

すでに新メンバーも入ってやる気に満ち溢れているサッカー部の彼らは早速席を立っている。ちなみに俺やいろはは、新入生にサッカー部員とは知られていないだろうから、幽霊部員になりかけている。

 

「んー、さわちゃんは今日予備校って言ってたし」

 

いつもよりは放課後の騒がしさは控えめだ。生物選択のメンバーは荷物を持っていてそのまま帰る人もいる。最後の授業が別教室で行う場合は、生徒会書記の沙和子さんもそうする。

 

いろはは荷物を片付けながら、一度言葉を区切った。そして、桜の花びらがついたシャーペンを、大事そうに制服のポケットに入れた。

 

「今日くらい、よくないですかねー」

 

生徒会副会長はそれはもう生徒会長に甘々だ。笑顔で仕事サボりたいと伝えられたら、明日がんばることにするくらい。そして仕事が溜まる。

 

「はいよ」

 

荷物をまとめ終えた俺たちは、席を立った。

生徒会室以外なら、向かう先は決まっている。

 

早すぎても部長が来ているか限らないため、特別棟へ向かってゆっくりと歩いていく。

 

生徒会長に対して、新入生はちらちらと視線を向けている。その亜麻色の髪の美少女は、校内でトップレベルの知名度だ。それはもう、校長先生より有名かもしれない。堅苦しい入学式でも隠しきれないほんわかを醸し出すめぐり先輩も、俺たちの学年で人気だった。

 

キラキラしたシールが貼られたドアプレートが目に入った。その場所は、元はありふれた空き教室だったらしいけれど。

 

「やっはろーです!」

「あっ、いろはちゃん!やっはろー!」

 

いろはと、キラキラボイスで独特な挨拶を交わしたのは、結衣先輩。まあ、一時期は、塞ぎこまないかどうか心配していたが、心配するほどではないようだ。まだ時間がかかるだろうけれど。

 

「こんにちは。伊月君、いろはさん」

「こんにちはです」

 

透き通った声はいつ聞いても、耳に良いと思う。美しい所作で紅茶を淹れていく姿は、見慣れたとはいえ何度も見つめてしまう。俺が初めて訪れた頃よりも、常備されているカップは増えている。

 

「やっはろーでーす!」

 

明るくてクセのある声とともに、新たに美少女な小町さんが入ってくる。決して目は腐っていないし、むしろ輝いている。いろはと違って意図せず萌え袖となっているのは、あくまで成長を見越した新しい制服だからだ。

 

「うっす」

 

そして、続いて入ってきたのは彼女の兄だ。彼自身シスコンであり、ブラコンな小町さんと行動することが多く、4月からはどこか捻くれ度が下がり、お兄ちゃんっぽさが上昇している。最近、奉仕部内でブームが到来しているプリキュアについて、一番詳しい。キュアグレースについて超語る。

 

その手には、2本目のマッ缶が握られている。

 

「ほれ、おめでとさん」

「えっ、……ありがとうございますー」

 

早速とばかりに、いろはにそのマッ缶を手渡した。

 

「お兄ちゃん、早すぎるよ。フライングだよー?」

「そうだよ、ヒッキー」

 

テーブルを布巾で拭いたり、紙皿やクッキーを用意したり、ホールケーキを出したり、準備している彼女たちからお小言が入る。そういうところは先輩らしいから、咎めるというわけではない。

 

「本命はあっちだろ」

「2段構えとか、あざといですよ。卑怯です」

 

今日の主役はかなりうきうきしているようで、もらったマッ缶を鞄の中に入れた。

 

「あれ、小町ちゃん、あの男子は? ほら、川なんとか君」

「えっ、あー、今日も撒いてきちゃいました」

 

てへっとしている小町さんも、負けず劣らず小悪魔だ。彼女とは別クラスとなった川崎君だが、いまだ奉仕部に入ることは叶ってはいない。俺でも彼が去年から彼女にアプローチかけているとわかる。もちろん兼部でもいいのだろうが、きっかけを掴み損ねていることが大きい。今日も戸塚先輩が部長をやっているテニス部で、青春の汗を流しているだろう。

 

いろはと小悪魔同士で仲良く意気投合しているが、もしかすると同族嫌悪で反発し合っていたかもしれない。それか、腹の探り合いとか。

 

「さあ!準備もできましたし、さっそく! せーのっ!」

 

誕生日おめでとう!という声が、部室に響いた。

 

 

「……ありがとう、ございます」

 

少し頬を赤く染めて、いろはは身を縮ませながら返事する。

 

そこに、いつものような余裕はない。何度も言われてきたはずの言葉だろうが、今年からのものは今までよりずっと特別なものなのだろう。新年早々は雪乃先輩だったし、奉仕部員の誕生日会は、恒例のことになりそうだ。

 

結衣先輩は今回も、奉仕部の思い出をスマホで何枚も写真を残していく。

 

「さっ、食べよっか」

 

雪乃先輩が頷き、写真のモデルとなったケーキを6等分に切り分けていく。

 

「じゃあ、私たちからプレゼントということで!」

 

小町さんから手渡されたラッピングからは、度の入っていない伊達メガネ。それは雪乃先輩もパソコンを使うときによく使っているものだが、ブルーライトカットのものだ。

 

生徒会の仕事も、パソコンをよく使う。慣れている俺とは違って、いろはは目が疲れると話していた。

 

「なんか頭良くなった感じするよね。これで、いろはちゃんも仲間入りだね。」

 

結衣先輩は、赤い縁の眼鏡をクイっとする。

 

「ふっふーん、わかります」

「なんだかお二人共インテリっぽいです!」

 

いろはも真似して、桜色の縁のメガネをクイっとする。こっちを向いて、ニコニコしているので『似合っている』という本心を伝えておく。いつもかけていないからこそ、ギャップ萌えである。

 

「比企谷君、おかわりをいれるわね」

「ん、おう」

 

微笑ましく見ていた雪乃先輩が、先輩のコップに紅茶を注ぐ。

 

 

俺も初めから少し温めになっている紅茶に口を付ける。そりゃあ、猫舌の先輩を優先的に気遣うよな。間接的にガールズトークの内容をいろはから聞いたが、雪乃先輩の姉の陽乃さんどころか、あの母親からも、先輩結構気に入られているみたいだし。

 

 

その時の会話を思い出していたせいか、思わずいろはを見つめていた。幸せそうにケーキをもぐもぐと食べている手が止まり、フォークを唇にちょこんと当てる。眼鏡で少し大人っぽく見え、いつもと違う色を見せる彼女はにこりと微笑んだ。

 

「なんだか1年が始まったなって感じです」

 

4月16日、その特別な日は彼女にとっては新年度の始まりなのだろう。彼女にとっては、満足に始まっているようだ。

 

平塚先生が離任し、奉仕部の存続は危ぶまれた。同時に、人間関係から崩壊する可能性は確かにあった。もし俺がいない世界だとして、奉仕部はどうなっていたのだろうか。まだいろはは、本物を探しているのだろうか。まあ、あざとく上手いことやっていそうだけれど。

 

「……ああ。誕生日おめでとう」

 

生まれてきてくれて、出会ってくれてありがとう。我ながら、そんなクサいことを考えてしまう。その台詞を口に出せるほどのイケメン力はない。

 

転生を経験した俺が再び、こんな人間関係を築けるとは思ってはいなかった。目の前にいる5人みんなが素敵な何かを持っていて、俺はそれをちゃんと知っている。まさか俺を主人公とする青春ラブコメ、だなんて勘違いしてしまいそうだ。

 

それでも、少しくらいなにか気の利いたセリフをだな。

 

 

「あと、……今年もよろしく?」

「なんですかそれ。お正月ですか」

 

いろははクスっと微笑んだ。

 

 

あざとかわいい彼女と違い、俺はかっこつけるのはどうも苦手だ。まあ、別に、主人公なんてガラじゃない。ちゃんと見ていてもらえる人たちがいるから、目立たない脇役でいい。最近よく見かける転生もののように、ハーレムなんて築く気概もない。彼女がいるだけで贅沢だ。純愛万歳。

 

やはり転生オリ主の青春ラブコメもまちがっている。って脇役の1人は思う。

 

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