やはり転生オリ主の青春ラブコメもまちがっている。(リメイク)   作:狩る雄

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エピローグ 青い春が幕を閉じ、そしてまた。

春夏秋冬、季節は巡っていく。

 

平成が終わりを告げて、約2年だ。先輩と一緒に、かばんちゃんとサーバルちゃんのことで嘆いたことが今となっては懐かしい。ぶっちゃけ去年の東京オリンピックよりも鮮明に憶えている。

 

 

さて、

 

かの俳人、正岡子規は季節が変わる度に妹の句を詠んだという。幼少期はいじめられっ子だった兄を自ら守ってきて、青年期は病に伏せる兄の看護に献身的だったとされるし、そして晩年には兄の歌を後世に残すことも行った。そんな素晴らしい妹なのだから、子規はシスコンにならざるを得ない。

 

そう言い切った。

 

「いや、そうかもしれないんですけど、断定しないでくださいよ。」

 

 

晴れ晴れとした青空、桜の花びらが舞っている。

 

季節は春。

スーツを着た新入生たちは初々しさがある。広大なキャンパスをキョロキョロとしながら彷徨い、未知の生活に不安がいっぱいであって、しかし確かな希望を持っている。ここから1ヶ月ほどは授業に身が入らないだろう。

 

 

「こまちぃ、こまちぃ……」

 

対して、ここにはどんよりとした空気が流れている。

 

「ていうか、まだ吹っ切れてないんですね。」

 

「当たり前だ。最期を看取ってもらうことを決めているまである。」

 

「まあ、先輩のシスコンは今に始まったことじゃないですけど。」

 

「ふっ、月村もいつかわかる時がくるさ。」

 

「うちの妹ってまだ1歳なんですけど。ていうか平塚先生、いい男性と会えたでしょうかね。」

 

「……報告はないよな。」

 

新しく赴任してくる先生もいるし、職場結婚の可能性は高まる。奉仕部の顧問である恩師との付き合いはたった1年だったが、いまだに連絡を取り合っている。今日の近況報告では、入学祝いと、多忙による愚痴だけだった。

 

「というか、ここにいていいのか?」

 

「今日は入学式だけですし、新歓に巻き込まれたくないですし。」

 

「それもそうか。」

 

新入生たちが、一斉に出てくる。

 

入学式は講堂で行われるとはいえ、さすがに全学部の新入生が入る余裕はない。だから、時間帯ごとにいくつかの学部ずつ行われる。運営側からすれば、同じ内容を数回行わなければならないことになる。

 

 

ともかく、文系と理系では入学式の時間が異なる。

 

 

「お待たせしました♪」

 

「おつかれ。」

「おつかれさん。」

 

背中まで届く亜麻色の髪は、いつも以上に手入れされている。いつも萌え袖を意識しているのに対して今は完璧に採寸されたスーツを着ているし、気合いの入ったメイクをしているし、出会った頃のような幼さはない。しかし、あどけなさがちゃんと残っていて、女子大生としての可愛さを放っている。

 

 

隣にいるスーツ姿の雪ノ下先輩と同様に、周囲の大学生の視線を集めている。言葉を交わすことはなく、1時間ほど座っていたベンチから立ち上がって講堂からひとまず離れていく。

 

 

「残りの学部のやつはいいのか?」

 

「ええ。学生挨拶の担当は他にもいるから。」

 

「ぶっちゃけ、式の中で一番反応良かったですよ。」

 

「練習の成果、出ましたね。」

 

「そうね。比企谷君の前ほど、緊張することはなかったわ。」

 

先輩はもちろん、言った本人も動揺している。

いまだに、付き合って間もないカップルみたいな反応をしてくれる。

 

 

「ゆ、由比ヶ浜はどうするって?」

 

「テニス同好会を手伝いに行くと言っていたわ。結衣さんも戸塚君も、夕食はこちらへ来るそうよ。」

 

 

手持ち看板か大量のビラを持った学生が、広場の方向へ急いで向かっている。大学どこでも新歓行為を行っていいわけではなくて、指定エリアでのみ許可されるのだ。いろはたちをチラチラと見ながら、惜しそうにすれ違っていく。

 

 

「なるほどな。今日、部室は?」

 

「借りられなかったわ。音楽系のサークルが使うそうよ。」

 

「あー、どこのサークルも借りたいですもんね。」

 

「……部屋、借りていいか?」

 

「もちろんよ。比企谷君から言ってくれるのは珍しいわね。」

 

「戸塚たちみたいに新歓の活動も積極的にしない上に、発足したばかりのサークルだ。それなのに、新入生が2人も入ってくれるんだからな。」

 

「えっ、先輩が先輩やってるんですけど……」

 

「やっぱり、新歓はしなくてよかったかしらね。」

 

笑顔で、2人はそう告げる。

むず痒しそうに、先輩は頭をかく。

 

 

「そうそう、先輩。着替えてきていいですかー?」

 

「ん、ああ、そうだな。一度解散にするか。」

 

「準備とか、手伝いましょうか?」

 

「大丈夫よ。簡単な料理を作るくらいだから。」

 

知り合いだけになりそうだし、飾りつけもしないのだろう。いまだ本気かどうか知らないが、専業主夫志望の先輩もいるから問題はなかったか。主に由比ヶ浜先輩のためのお料理会で、先輩も同様に鍛えられている。

 

 

 

 

T字路で、別々の方向に進んでいく。

自宅通いとすることもできたが、一人暮らしを経験しておこうということでアパートを借りている。由比ヶ浜先輩同様、いろはは女子専用の場所である。家賃はかなり高いが、防犯設備が揃っているのだ。大学生活について、義理の父が一番不安でいっぱいのようだ。

 

先輩も強制的に宅通を阻止されていて、小町さんと会えない日々だ。

 

 

「あっ、ここにもいっぱい桜咲いていたんですね。」

 

「そうだな。大学生活、不安か?」

 

「何から始めればいいかわからないっていうか。」

 

「明日からはガイダンスがあって、大学生活の注意喚起。明後日がカリキュラム作成だろうな。進路のこと気にするよりも、早いうちに授業に慣れることをすべき、かなー。」

 

将来的にどのコースを選択するかを決めておかなければならない。コースによって履修すべき授業が変わってくる。しかし、1年生では一般教養科目でほとんどのコマは埋まってしまうだろう。

 

「分からないことあったら、先輩に聞くのが一番だろうな。」

 

「それもそうなんですけどー、結衣先輩の話を聞くと、不安になってくるんですよね。」

 

「いろいろ、ギリギリだったらしいからな。」

 

それぞれの授業を履修して『単位』を集めていかなければならない。成績の出し方はレポートだったり、期末テストだったりする。特に必修科目がそうなっているが、授業によって難易度が異なるのだ。先輩の体験談は引き継がれて、隠れてブラックリスト入りする授業だってある。

 

第二外国語に関しては、いろは自身の趣味嗜好もあるけれども、先輩たちがどれを履修しているかも判断材料に加えたい。

 

 

 

「桜、綺麗ですね。」

 

見上げながら、そう呟いた。

こちらを微笑んだいろはは満開の笑顔で、魅せる。

 

「これからもよろしくな、いろは。」

 

「はい、いつき♪」

 

スタートラインは同じだけれど、道は違う。

何度別れと出会いの季節が訪れようとも、ずっと一緒にいたい。

 

 

桜の季節が一番好きなのだ。

 

 

 

****

 

「行きましょうか。」

 

お互いの部屋で私服に着替えて、来た道を引き返す。

長袖シャツと膝丈スカートのいろはは立派に女子大生である。まだ夜は肌寒いので、トレンチコートを持ってきている。対して、俺や先輩はパーカーの一般大学生なのだが、他人の恋愛ごとにはあまり深く踏み込まないのが大学生である。

 

「先輩から、みたいですねー?」

 

 

 

『ヘルプ』

 

俺といろはのスマートフォンが、同時に通知音を鳴らした。

グループラインで発信された文の、続きを待つ。

 

 

『新歓に来たい新入生がいる』

『Twitterを見たらしいわ。』

       『どうするんですか』

『どうすればいい』

『先輩が、先輩してくださいよ!?』

スタンプ

『なにそれウケる』

スタンプ

スタンプ

『姉さんは来ないで。新入生が怖がるから。』

スタンプ

 


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