やはり転生オリ主の青春ラブコメもまちがっている。(リメイク)   作:ヒラメもち

6 / 45
13巻発売したので、完結目指してリメイクします。


本編
第1話 加速し始めた青春


イチョウの葉が庭に運ばれてきた。

 

心地よい風、

夕日が照らす畳の部屋で寝転び、物思いに耽る。

 

 

青春とは虚像であり、透明である。

桃色にも灰色にも、そして’亜麻色’にも、何色にでも染まる。

 

そして、

ほんの一瞬のことで気づけば遠く過ぎ去るものだ。

まさに泡沫の夢のようなもの。

 

青春時代の思い出が次々と頭に浮かぶ―――

 

 

「あれ?もしかして寝てます? ふふ、悪戯しちゃいますよ~」

 

大好きな女性に似た音色で、我に返る。

 

「は? 起きてたんですか?」

 

まるで人格が変わったように、

目を細めて低音ボイスで言われてしまった。

 

そんな少女に対して冷静さは保ったままだ。

 

「ああ、いろはか。おかえり。今日もかわいいな。」

 

「なんですかそれとうとうボケてしまったんですか。まだ生きていてもらわないといろいろ困るんでちゃんと長生きしてください

 

その早口で特徴的なアクセントをつけた『照れ隠し』にはグッとくるものがある。

 

「ていうかそれ、お祖母ちゃんの名前ですよ。私はなつきですよ。」

 

孫娘は学校帰りなのだろう、見覚えのある懐かしいブレザーの制服を着ている。ゆるふわセミロングや容姿、性格といった点でまるで生き写しのように彼女と似ていた。

 

「あ、ほらほら! 買い物一緒に行ってくれるって約束したじゃないですか!」

 

「何か買ってやろうか?」

 

「っ!……ありがとう おじいちゃん!!」

 

自然と声が出た。

癖とでもいうだろうか。

 

対して、なつきは先を読まれたことで一瞬動揺したな。

 

「あー ところで、学校の宿題でですね、お年寄りから昔の話を聞きましょう!というのがありまして。」

 

急に思い出したように笑顔になって、 

ちょこんと小首をかしげて聞いてきた。

 

「おじいちゃんなら、薄っぺらい…丁寧なお話してくれるかと思いまして―。」

 

嬉し涙が流れる。 

人生を聞いてくれる嬉しさが哀しみを(まさ)ったのである。 

 

「若いころか…。」

 

告白できないまま終わってしまった青春と、

大好きな彼女に振り回された青春。

 

「いろいろあったが、

 

―――やはり俺の青春ラブコメはどっちも……

 

 

 

°°°°°

 

 

ジリリリリリ

 

「うるせぇ、、」

目覚まし時計を叩いて止める。

なんだか長い夢を見ていた気がする。

 

 

まだ6時半でずいぶんと早い時間だ。俺は昔から目覚まし時計というものが嫌いだったので、いつも『お袋』に起こしてもらっていた。窓から自動車の有無を確認すると、公務員である父さんや母さんはもう出かけていることがわかる。

 

毎日大変だな と思いながら朝の準備を始めた。

 

 

俺は顔を軽く洗面所で一洗いし、制服へと着替える。このブレザーに腕を通して もう約半年なのだが、学ランではないことに違和感を未だに感じている。一定数の男子の準備は一瞬だが、世間の青春を謳歌している生徒諸君はもっと時間がかかるだろう。

 

朝ごはんは今日も抜く。それほど生活リズムの乱れた大学生活を経験していたのである。オレンジジュースだけ飲んで、早朝から作ってくれたお弁当を持って家を出た。

 

自転車に跨ってスピードのある安全運転を始める。ここまでで起きてからの所要時間は10分である。

 

 

俺の名は月村伊月。元21歳。

いわゆる転生者または転移者だ。神様には会っていないが そういう一次作品や二次作品はよく読んでいたため、自分の身に起こった状況の理解はできた。

 

二次創作を書くために、何かの学園もののラノベを買った帰りだったはずだ。途中で別れた後、横断歩道でスピード違反の車に轢かれてしまった。あの帰りは同じ学部のリケジョと帰るとかいうラッキーイベントだったはずだ。

 

 

気づいたら、

名も知らない県立高校受験当日。大学3年だった俺はとにかく焦った。転生に対する事実ではなく、試験内容に対してである。

 

英語なんて1年勉強しておらず、社会なんて3年以上前。定期的に中学生に勉強を教えていた経験があったとしても この2科目の苦戦は免れなかった。

 

幸い、父さんと母さんは‘親父’や‘お袋’に似ていたし、違和感なく俺は「いい子」だったと思う。結果が出た時、英語と社会の点数は心配されたが。

 

 

 

 

今では、

前方に見えてきた千葉市立総武高等学校に通う高校1年生だ。7時になる前に無事到着することができたので、自転車を止めてグラウンドに歩いて向かっていく。

 

「一色さん来てないじゃん」

 

思わず口に出てしまったが、人気(ひとけ)はないようだ。

 

この進学校である総武高校にもサッカー部がある。しかし俺は部員ではなく入部届も出していない。言うなれば、部員たちをサポートするマネージャーの仕事のサポートなのである。部室の鍵を開けて タオルやスポドリの用意をする。20人程度の部活であるため 独りでも十分間に合うだろう。

 

ふと考える。

なぜ部外者の俺が鍵を持っているのだろうか と。

 

自問自答を繰り返していると、サッカー部員の姿が ちらほら見え始めた。サッカーは観るのは好きなほうだが練習風景なんてテレビの向こうの超次元サッカーしか見たことはない。口出しをする権利も技能もないけれど、走り込みに対するやる気と時間がイマイチであることは素人にも分かる。真面目なのは 葉山先輩くらいである。文武両道を心がけているという、見た目も中身もイケメンさんである。

 

彼の近くにはいつのまにか一色さんの姿があって、彼女の黄色い声援を受けて彼は感謝を言う代わりに笑みを返す。そもそも彼女がマネージャーとして入部したきっかけは青春ラブコメのためである。もちろんライバルは多いが、部活内恋愛として一歩リードしているのではないか。しかし彼は好意に気づいているが応えることはない。

 

  

さっさと自分の教室に向かう。

元々サッカー部のマネージャーじゃないし、十分にやるべき仕事もこなした。

 

すでに多くのクラスメイトがいて、挨拶をしたら適当に返される。彼らとは親しいか親しくないかで言えば困る関係である。話題を振られれば会話に混ざるし、同じ空間で過ごす学友としては接することができている。転生の経験による世代ギャップよりは都会の高校特有の活発さによって躊躇してしまっている。

 

 

席に着いて物理の問題を解き始めるが、シャーペンを握る手に力が入ってしまう。いわゆるガリ勉さんにも話しかけてくれる女子が1人いた。しかし心を落ち着かせようとしていたのにタイミングが悪い。

 

「月村君、おはよ!」

 

明るい声の挨拶が耳にスッと入ってきた。

 

「おはよう、一色さん。朝からお互いにお疲れ様だったな。」

 

どこか遠慮がちに挨拶を返す。

視線は彼女の後方で彼女を直視しない癖があるが、これが意外とばれてはいない。

 

「なんですかそれじぶんのほうが頑張っていたのにそういうこと言ってくれるんですかちょっとときめきかけましたがやっぱり冷静になってみたら無理ですごめんなさい。」

 

彼女の早口はまだ全ては聞き取れないが、ごめんなさいって言っていた気がする。

 

「ていうか、月村君もお疲れ様。」

 

「朝起きれさえすれば問題ないよ。今日は放課後もあるんだろう? がんばれ。」

 

いつだったか…。

朝練のときは早起き大変だって話から、いつのまにか俺の早起きが始まった。何を言ってるのか わからねーと思うがおれも何をされたのかわからなかった…。

 

 

彼女の背後から視線を外して解答に戻る。心臓の鼓動は速くなったままだが、表情には出ていないはずであるし彼女も気づいている様子はない。

 

「そ、そうなんです。部活頑張ってるから、数学の宿題やってなかったりして。とにかくヤバいんですよー。」

 

手のひらを合わせて、文系の彼女が懇願してくれる。可愛い女の子が可愛い仕草をしたら可愛いのはまちがいない。

 

「じゃあ、昼休みな。」

 

「いつもいつも、ありがと!月村君。」

 

いつものことだ。

答えを写させてだとか ノートを貸してだとか、そういうことは言わない彼女だからこそ『教える』ことに昼休みの時間を割く。人に頼ることの多い彼女だけれど、実はこのクラスの誰よりも裏でがんばっているのだ。要領もいいし 一度決めたことは人の力を借りてでも責任を持ってやり遂げる。

 

クラスでよく話す彼女は 一色いろは。

見た目の可愛さや仕草の可愛さで、学年を問わず男子に人気である。しかしそんな人気を集める彼女だからか、モテたい女子とはあまり上手くいっていないらしい。葉山先輩にアタックしかけていることを疎む上級生の女子も少なくはない。本人は気にしていないようだが 女子の友達は少ない。

 

  

ちらりと隣に座って携帯を見ている彼女を見る。

よく手入れされている亜麻色のセミロングの髪はふわっとしている。たしか地毛だとか言っていて、染めていないのなら好感が持てる。瞳は大きめで、顔は非常に整っていて化粧を軽くしている。少々寒くなってきたし薄桃色のカーディガンを制服の中に着ていて全体的に少し着崩している。

 

 

 

チャイムが鳴り、担任が入ってくる。

なかなか熱い人で、思い込みが激しい教師だ。自身の理想とする’教育’をする、そんな教師であって俺はなんだか好きになれない。

 

多くの者が席にゆっくりと着き、スマホを机の下に隠した。

 

 

いつも通り単純な朝のHRののち、1時間目。

 

俺たちの国語を担当するのは、平塚先生だ。

勉強にやる気を見せるのではなく先生の魅力が高いからだろう、周りの男子と女子のテンションが上がっていた。

 

たしかに、

あれだけ若いのに生活指導を担当する教師だ。その人望と手腕を俺は尊敬している。背が高くスタイルもいい黒髪ロングのかっこいい系美女だ。

 

年齢は30前後で未婚だっけ。

 

なんだか隣から視線を感じてちらりと見たが、いつも通りの一色さんだった。加えて、教卓の平塚先生から恐怖のオーラを感じた。

 

 

「あれ、明らかに枚数が足りないぞ あれ…」

 

作文の提出ということで、後ろから受け取り前に回していく。しかし、平塚先生の持っている作文用紙は少ない。半分ほどだったため、彼女の拳が火を噴いた。

 

 

2時間目英語 ヤバかった。

何年も英語を学んだがまだ抵抗感があって 英会話は日常生活レベル以下である。

 

3時間目体育 ヤバかった。

体力は人並みにあるけれど、球技は観る専門である。

 

4時間目物理基礎 楽しくてヤバかった。

古典物理学の初歩とはいえ 解析力学に役立てることは十分可能な範囲だ。

 

 

そして、

全学生が待ち望む昼休み。

 

こちらを見ながら一色さんがウィンクしてくれる。

 

「それじゃあ 先生、お願いします♪」

 

まるで音符マークがつきそうな声だ。

 

「それじゃ、始めるか。」

 

これでも教員志望の大学生だったため、高1の数学なら即興で教えられる。担当する数学教師は、毎回宿題を出すが量は少なくて、授業の復習及び予習が中心である。

 

今回もサポートする程度で、彼女は自力で解いていく。 

 

 

―――男子と女子がこれだけ仲良さげなんだ。世間の高校生が喜びそうな『青春ラブコメ』だろう。

 

 

しかし今日も いつもと変わることのない、

月村伊月と一色いろはの日常だった。

 

窓の外を見るとイチョウが風で舞っていた。

転生してからもうすぐ9ヶ月だが、青春はゆっくりとだけれどまだまだ残っている。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。