やはり転生オリ主の青春ラブコメもまちがっている。(リメイク) 作:ヒラメもち
いつも通りの時間に起きて学校に行き、何気なく授業を受ければ、すでに放課後である。部活に全力疾走していった者、授業で疲弊して背伸びをしている者、帰宅することなくまだお喋りを始める者、みなそれぞれの青春を思い思いに過ごしている。
「今日はどうするの?」
隣の席で座ったままの、一色さんは携帯をいじりながら話しかけてくる。先ほどの世界史の授業では机の下で操作していたが、今は堂々としている。かくいう俺も前世同様あまり気が乗らない科目であるため、本日課された数学の宿題を消化していたのだが。
「人に呼ばれているから 無理だな。」
一色さんの質問はサッカー部のマネージャーのお手伝いをするかどうか、そして俺は手伝えないことを伝える。ちなみに奉仕部には半強制的に行かなければならないのだ。平塚先生の拳の味を最も知っている比企谷先輩が帰り道に語ってくれた。
「女子?」
急に真顔になるからドキッとしちゃう。
「先生に、かなー?」
「そうですか♪ 私もちょっと用事あるから行けないんですよねー。じゃあ、また明日です!」
可愛い女子が可愛い敬礼をすれば可愛い。
ところで彼女も行けないとなると残されたマネージャーたちが苦労しそうに思える。しかし あの葉山先輩のイケメンさのおかげである。参加率が低い女子もいるんだが、マネージャーの人数自体は多い。特に午後練のときはギャラリーまでいる。それにしても、葉山先輩に猛アタックをしかけている一色さんが諸事情があるとはいえ 休むのは珍しい。
「月村君とマジ仲いいよね。」
「それなー」
「わかる!」
一色さんが鞄を持って教室から出ていって、俺も荷物を纏め始めていたところへクラスメイトが近づいてくる。先ほどまで携帯片手に大声でお喋りをしていた女子グループである。派手な金色に染めていて、髪型も主張が激しい。葉山先輩狙いのはずだとか、にゃんついてるよねだとか、はげどーだとか、もう彼女たちの会話についていけない。
もちろんついていく気もない。
「カラオケワンチャンない?」
「あるある!」
「月村君もどう?」
ようやく俺に話を振ってきたが、やんわりとお断りを入れる。心の中では完全否定であるのはバレていないようだ。
なぜカラオケという遊戯で精神を摩耗しなければならないのだろうか。大学でも経験したが、やはりカラオケに行くメンバーは厳選したほうがいい。お互いに知らないアニソンやボカロを歌ってもいい雰囲気こそ至高である。
「えー、付き合いわるーい。」
「ガチしょんぼり。」
興味を失くして離れていってくれたので、荷物を持って教室から出ていく。ここまで冷静を保った俺を褒めてほしいものだ。イライラしていた要素は一色さんの陰口に対してである。根も葉もない噂をでっちあげて話題の1つとしていた。
ここでもし彼らに文句を言ったとしても、その場の解決でしかない。加えてスクールカースト上位である者の言葉にしか耳を貸さないだろう。自分に都合よく人の性格や考え方は変えることはできない。だから、できることは敵も味方も作らず中立と見せることだ。影ながら一色さんをサポートしてあげればいい。
そうやって、自分に言い聞かせる。
枯れ葉が目立ってきた外の景色を見ながら、拳には自然と力が入っていた。
奉仕部の扉を開けば紅茶の香りはするけれども、どんよりとした空気が流れている。軽い会釈とともに席に座り、持参したラノベを開く。比企谷先輩や雪ノ下先輩は各々真剣に本の字を見つめている。由比ヶ浜先輩は携帯をいじりながら たまにキョロキョロしている。
言葉はなく、行動することすらなく静寂の時間は流れていく。奉仕部の活動は不定期である。総武高生が直接依頼を持ってきたり、サイトを介して依頼を持ってきたりする。
だから、基本的には暇なのである。
つまり、この場所が換気されたことはこの1週間はない。1つの長机の端と端で、男子2人と女子2人は分かれている。
ノックとともに平塚先生が入ってくる。返事はまだしていないが、もしかしたら転機になるから無意識に急いでいるのだろう。引き連れていたのは2人の女子であって、『依頼』である。癒し系美少女生徒会長の城廻めぐり先輩と、一色いろはだった。
「あ、いろはちゃんじゃん。」
由比ヶ浜先輩は口を開くと、一色さんは首をちょこんと傾け笑顔で挨拶を返す。
「結衣先輩ですよね、こんにちは~」
「うん、やっはろ~」
これが彼女たちのコミュ力の高さか。2人とも総武高生の中でもトップを争う美少女である。お互いにそういう視点で見てはいないだろうが、校内の有名人であることはまちがいないので知っているのだろう。
「さっきぶり。」
「えと、はい、こんにちは。」
挨拶をすれば、戸惑いつつ返してくれる。確かに言ってなかったけれども、まるで俺が奉仕部にいることを困惑しているようである。彼女の用事が依頼に関係することなのかと、俺も困惑している。
先輩たちには俺たちがクラスメイトだということが伝わったようである。
「2人は、一色さんと面識あるんだね。……もうすぐ生徒会役員選挙があるのは知ってる?」
城廻先輩はうんうんと頷きながら言って、真剣な表情となって本題に入り始める。生徒会は学校行事の運営や各種委員の上に立つ組織だ。城廻先輩は3年生であってそろそろ任期が終わり、この選挙で次の代へと変わる。2年生を中心として選ばれていくため、詳しくは確認していない。
「ええ。既に公示も済んでいますね。立候補者も発表されていたと思いますが。」
「さすが雪ノ下さん。そうなの。もう’副会長以外’は発表されてるの。」
代表して部長が口を開くと 城廻先輩は笑顔で軽く拍手する。ちなみに彼女の素の行動であって、表情豊かで純粋無垢な天然の癒し系美少女である。世知辛い生き方をしている比企谷先輩は頬が緩んでいる。
「それで、選挙も公示までは終わったんだけどね。」
「こうじ……?」
「確かに、選挙の日にちと立候補者は一度発表されましたね。」
これは分かっていないなと思って由比ヶ浜先輩をフォローする。市内ではなかなかの偏差値を誇る総武高合格は並々ならぬ努力をしたのだろう。ガッツはあるので、よく宿題を手伝っている。そんな先輩は感謝をジェスチャーで示して、誤魔化すように笑う。
「そ、それでそのコウジがどうかしたんですか?」
分かってないじゃん。
「一色さんはその生徒会長選挙の候補者なの。」
城廻先輩は一色さんを見ながら言いきった。
それは俺も初耳だったため、思考が止まる。
「あ、今向いてなさそうとか思いませんでした?」
「いや、別に。そういうんでも……」
一色さんは計算高い笑みを浮かべて尋ねると、比企谷先輩は屈した。おそらくそう思っていたのだろう。
ようやく俺も思考を再開する。
一色さんは生徒会長に立候補するとは思えない。たしかに意外と真面目で責任感もあって、努力家だ。しかし1年生で生徒会長になるということは、人望と度胸が必要だ。加えて、立候補の理由が分からない。葉山先輩が生徒会長やるんだったら意地でも副会長やりそうだが。
まさか先ほど聞いた陰口のうち、『あの1つ』は本当だったのだろうか。直接聞くことはなかったとはいえ 事前に対策することができなかった。そんな自分に腹が立ってきた。
「それで、何が問題が?」
部長が話を進めるために口を開くと、城廻先輩が答える。
「一色さんは生徒会長に立候補してるんだけど、当選しないようにしたいの。」
「……要は選挙に負けさせてほしいってことですか?」
「えっと…つまり、生徒会長をやりたくないってこと?」
八幡先輩や由比ヶ浜先輩は不思議そうに問いかける。奉仕部各々が聞きたい情報を少しずつ引き出していく。
「あ、はい、そうです……。」
一色さんはおそるおそる答えた。
表情は曇っていて、クラスで見せた笑顔は仮面に過ぎなかったのか。心の底では今日の公示に対して『悩み』を持っていたのだ。すでに冷めているマッカンを口に含む。
それに鬼の大和撫子がいることだし、せめて俺が言うことにする。本人からは言いづらいだろうし、今からでも力になりたい。
「一色さんは立候補されられたってとこですね。あまり良く思っていないやつらが拙い悪戯をしたんでしょう。」
先輩たちは一色さんのせいじゃないと納得してくれたようで、各々考え込む。おそらく熱血担任は 自分のクラスの生徒が生徒会長になるだろう状況を喜んでいる。そして自分に都合のいい理想のサポートを始めるだろう。すでに聞く耳を持たないので、生徒指導である平塚先生を通して奉仕部に来たのだろう。
「無論、しでかした子らにはこちらで指導する。推薦人30人の署名は本名だったしな。」
平塚先生が口を開く。
少しは怒りが呆れに変わってくれた。
「応援演説で失敗すればいい。応援演説が原因で不信任になるなら、一色はノーダメージだ。」
一早く先輩が解決策を提示する。
一体どれだけの人がこんな手を思いつくだろう。どんな手段を取っても、助けを求める人を助けることに先輩は長けている。確かに危ういものだがその考え方は、今の俺には眩しかった。しかし空気がさらに重くなり、賛成の声を出すことはできなかった。まさにその解決方法が地雷であって、比企谷先輩も失言をしてしまったと口を閉ざす。
もし先輩に手札がもっとあればよかったのだが、数少ないカードで最も扱いやすい『自分』を使ったのだ。本人は分かっていて、その『やり方』を選ぶのだ。おそらく先輩は1度どころか何度も、自分を犠牲にしてきた。自己犠牲をしているのだと周りからは見えてしまう。そして雪ノ下先輩や由比ヶ浜先輩はそんな『やり方』を拒絶してしまったのだろう。
もちろん、決して彼に対する嫌悪などではない。
優しさが裏目に出てしまったのではないか。
真実は、今の俺にはわからない。
だから先輩を同情及び憐れむことはまちがっている。
だから俺は1人の後輩として付き合うだけで、向き合うことはしない。