やはり転生オリ主の青春ラブコメもまちがっている。(リメイク)   作:ヒラメもち

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第4話 後輩と先輩

30人もの推薦人、おそらくそれ以上の人数によって拙い悪戯が行われた。一色さんは強制的に生徒会長選挙に立候補させられることとなったのだ。今の状況として、立候補者は彼女だけであって信任投票である。具体的な依頼内容としては、生徒会長になることを阻止するということだ。

 

解決策は、今のところ3つある。

 

まず比企谷先輩の言うように応援演説が原因で落選するという方法だ。具体的なやり方はともかく、確実に落選させるには当日の雰囲気を最悪にするレベルの演説が求められる。依頼人である彼女の名誉は傷つけられることはないが、一体どれほどのヘイトを『独り』が負うことになるだろうか。

 

もう1つは、新たな立候補者を擁立することだ。この学校でも生徒会選挙とは人気投票のようなものだ。美少女であって人気のある彼女から票を確実に奪える人物が必要となってくる。また、その立候補が生徒会長という職に前向きでないと、誰かを犠牲にしていることに他ならない。

 

最後は、あまり表沙汰にできない方法だ。学校側が得票数を操作して、結果だけ提示するということ。これなら彼女に確実に勝てる人物でなくとも、依頼は完遂することができる。しかし選挙管理委員や学校側の落ち度とはいえ、認められることはないだろう。

 

 

 

 

 

冬が近づいてきたのがわかる。

早めの帰宅であるのに、すでに夕暮れどきとは言えず暗くなってきた。自転車の速度で相対的に感じる涼しさもすでに冷たい。

 

入部直後から比企谷先輩と帰宅することが多くなり、ラノベやアニメの話を中心に雑談する。前を向いて並走しながら目を合わせず、独り言を呟き合うことで成立する会話に過ぎない。だから、奉仕部の過去については触れたことはない。それでも彼と話すというのは、信頼できないクラスメイトと言葉を交わすよりはるかにマシだった。

 

おそらく先輩も一定の距離を保って話す俺を気に入ってくれているのだろう。インドアで家が大好きな先輩が、駅行こうぜ という一言を呟く。部活の後輩とはいえ、人を遊びに誘うことを選んだのだ。静かに笑みを浮かべて、わかりました と呟く。やはりお互いに静寂を好んでいても、時には話し相手を求めるのだ。

 

 

自転車を、偶然見つけた無料の駐輪場に停める。少し駅から離れていて、それほど多くはないので帰りも出しやすいことだろう。秋葉原に敵わないとはいえ、中央駅にはアニ○イトや映画館といった施設が集まっている。何気なく書店に寄りVRMMORPGに関するラノベの新刊を1冊だけ買って、先輩と合流する。

 

数多くある喫茶店の中から、某有名ドーナツ店を選択して入っていく。某有名コーヒー店は一瞥したものの避けたため、独りで入店したことはないのだろう。かくいう俺も一色さんを頼らなければ注文すら憚られる。

 

 

「おや、珍しい顔だ。」

 

小さめでいろいろな味を楽しめる球の集合体を買って、席に座ろうとしたら話しかけられた。ランキング上位に入るだろう2つを買った先輩に対して視線は向けられており、知り合いなのだろう。たぶん大学生の女性がいる4人席に会釈して座る。

 

「……まじかよ。」

 

そう小さく呟いて先輩は渋々座ったところ、あまり得意ではない部類の人らしい。嫌悪しているのではなく、警戒しているようで動きがぎこちない。無料でもらった氷水を口に含んで冷静を保とうとしている。

 

「へぇー、比企谷君が男友達を連れているなんて珍しいね。君のおかげでちゃんと座ってくれたよー。」

 

「……友達じゃなくて 学校の後輩ですよ。それに男友達も女友達もいませんよ、1人も。」

 

油断すれば多くの男たちが惚れてしまうような美貌の彼女とは目を合わせず、呟くように告げる。ここで部活の後輩とは言わなかったあたり、目をつけられれば面倒ごとになると思ったのだろう。平塚先生の拳の味同様その恐怖を知らないために 助けられたと言っていいのか悩ましいところで、心の中で苦笑いするしかないが。

 

「はじめまして、月村伊月って言います。比企谷先輩とはボッチ仲間といったところでしょうか。」

 

「ふーん、わたしは雪ノ下陽乃。よろしくね。」

 

まるで観察するようにこちらを見つめられて、自己紹介を交わす。

しかし、その苗字には思わず反応しそうだった。比企谷先輩と知り合いというよりは、雪ノ下先輩の姉もしくは従姉妹なのだろう。ベクトルが違うとはいえ並々ならぬ雰囲気を纏っている。

 

視線を本に戻したことを見るに、そこまでは目をつけられなかったようだ。彼女の目を気にしながらも、外に冷たく硬いチョコがかかっていて中には甘いクリームを含むフレンチクルーラーへ先輩はがっつく。俺はそれぞれ違うトッピングを持つボール状のドーナツを1つずつゆっくり味わっていく。

 

「こんなところで何してるの?」

 

「とりあえず、暇つぶしを。」

 

「私は友達とご飯行くまでの時間つぶしなんだ。」

 

「じゃあ、お邪魔にならないうちに退散しますね。」

 

「えー、まだ先の話だよ。いいじゃん、一緒に暇つぶししようぜ~」

 

そう言って近づけられてきた綺麗な指から、先輩は手のひらを全力で逃がす。確かに彼女の甘い囁きには甘い毒があるように思えて、先輩は常に離れる方法を模索している。蠱惑的な笑みを浮かべて姿勢と視線を変える。いくつもの仮面があるように、人によって接し方が変えるのだと、前例があったため理解する。

 

「比企谷くんみたいなタイプが一番いいよね。後輩くんもそう思うでしょ?」

 

ここで言われているのは、付き合いたい異性のタイプなどではない。簡単に言えば、一定の距離を保って話してくれる『独り』だということだ。おそらく才色兼備である彼女には、男女問わず多くの人が集まるのだろう。中にはお近づきになりたい存在としてアタックをかけられる。

 

一色さん及び多くの女子にアプローチをかけられる葉山先輩もこういう気持ちで、だから、誰とも付き合うことはないのだろうか。

 

「まあ、そうですよね。」

 

「そういうところは君もいいよね。比企谷くんが気に入ることも頷けるよ。」

 

俺や先輩が話しかけることがなければ会話は途切れる。しかし、どうしても先ほどまでいた暖房のない場所と比べてしまう。これが心地よい静寂なのだと感じてしまい、久しぶりに読書ができた時間だったのではないか。

 

「雪乃ちゃんは元気?」

 

「……まぁ、普段と変わらず、ですかね。」

 

「それはよかった。それで、調子は?」

 

あまり良い雰囲気を築いているとはいえないことを先輩は誤魔化した。また、どうやら姉もしくは従姉として 雪ノ下先輩と先輩の関係が気になるようである。

 

読書に集中することにして、そういった事情には踏み込まないことにする。話が飛び火したらたまらないのである。

 

俺自身、踏み込んでほしくないのだろう。

 

 

生徒会選挙というワードに対して、意識が現実に戻ってくる。どうやら現生徒会長である城廻先輩と知り合いのようで感慨深く話をしているだけのようだ。再び、意識を仮想現実に戻そうとしたが、近づいてきた海浜の女子高生3人に対して意識を向ける。

 

「……折本。」

 

「うわ、超ナツいんだけど!レアキャラじゃない?」

 

呟く先輩の表情は硬くなっていて、出会いたくない人と出会ってしまったことがわかる。初対面のメンバーも多いので互いに自己紹介を交わしていく。どうやら中学時代の同級生の1人であって、過去に1度告白したことのある1人らしい。

 

「まぁ、昔のことなんで……」

 

そう呟かれた言葉だけしっかりと耳に入ってきた。誰もが優しい笑みを浮かべて 思い出の1つとして数えてくれた。しかし、先輩が本気だったことはこの場では俺にだけ伝わった。それは失恋の経験があるかないかによるのだろう。携帯に登録された1つのアドレスを宝物にして、クラスで交わす1言を胸に刻み付けた。人によって初恋は根付いていて、思い出や笑い話になんてできないのである。そして、失恋の経験は一種のトラウマとして残る。

 

ここまで思考して、

過去に告白する勇気がなかったことで後悔が蝕み、

今も告白する勇気がないことで諦めを抱いてしまう。

 

2度目の青春ラブコメもダメそうだ。

 

 

 

 

葉山先輩の話題が出てから雪ノ下さんは一早く電話して本人を呼び寄せた。折本さんたちのグループのうち1人が彼とお近づきになりたいとのことで 願いに応えたのだろう。もっとも彼女にとって遊びの範疇なのだが、葉山先輩からしてみればいい迷惑である。こういったことに慣れているようで、15分もすれば折本さん達は帰っていった。

 

「うん、いい感じに時間もつぶれた。じゃ、わたしはもう行くね。比企谷くんに後輩くん、付き合ってくれてありがとうね。」

 

そう言って彼女は帰っていったが、嵐が過ぎ去ったといってまちがいはない。残されたのは会話についていけなかった被害者と言っていい男3人のみ。葉山先輩にずっと聞きたいことがあったが、先に口を開かれた。

 

「君たちは……ヒキタニ君は、陽乃さんに好かれているんだな。」

 

「は?アホか。あれはからかってるだけだろ。」

 

「あの人は興味がないものにはちょっかい出したりしないよ。……何もしないんだ。好きなものをかまいすぎて殺すか。嫌いなものは徹底的につぶすことしかしない。」

 

クスっと笑った先ほどまでの表情は消え、真剣で暗い表情で言った。その事実に対して先輩は何も言わない、何も言うことはない。その会話は終わったとみて、月村伊月はようやく声を出す。なるべく嫉妬を抑えながら、聞きたいことを直接聞きだす。

 

「じゃあ、さっきの女子とか、みんなの好意は気づいているんですよね。他にもサッカー部のマネージャーとか。今のところ、葉山先輩が『1人』を選ぶことはありますか?」

 

「……ないよ。」

 

俺の真剣な表情に面じてだろうか、本心を答えてくれた。

ここで俺が出せた勇気に、どれほど俺は救われたか。

 

「そうですか。葉山先輩も頑張ってくださいね。」

 

この夜、

葉山先輩は敵ではなくなった。

 

今は、これだけでいい。

たったこれだけなのにこんなに勇気がいるんですね、先輩。

 

 

 

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