五席目の少女   作:今更とじみこにハマったマン

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なんだか凄い評価やらお気に入りやらの急増で嬉しい反面プレッシャーが凄い作者です。いや本当にやばいって。
そんな当作品の今年最後の投稿、楽しんでもらえたら嬉しい限りです。



オフの日

「原宿にとうちゃーく!」

 

 ある日、親衛隊5人は原宿に足を踏み入れていた。

 

「こら結芽。あんまり離れると迷子になるぞ」

 

「はしゃぐのも程々に、ですわよ」

 

「なんで私まで……?」

 

「ここが……原宿……」

 

 5人とも、いつもの制服ではなく私服姿で街を歩いている。なぜなら今日は珍しくオフの日だからだ。

 まあオフとはいっても刀使である以上、御刀は持ち歩いているが。そんな、私服姿での御刀装備は少しアンバランスに見えるらしい。道行く人の物珍しいような目線が集まる。

 

「ふふふん。京奈ちゃんは原宿に驚いて声も出ないようですなー」

 

「うん。なんか……凄く……」

 

 京奈はそこで周囲をキョロキョロと見回した。数多くのビルや飲食店、そして鎌倉とはまた違った活気と人々の往来。そこに立っているとなんだか……

 

「酔いそう」

 

「その反応は予想外だったなー……」

 

 田舎者の京奈には、この人の多さが少々堪える。来たばかりなのに、もう気疲れし始めたのがその証明だ。

 

「慣れれば大丈夫だとは思うよ。それより、結芽ちゃんの行きたい場所って何処なの?」

 

「それならこっちだよ!」

 

 来る前にリサーチは済んでいたようで、結芽は京奈の手をとると迷わず道を歩き始めた。そして、その後ろを3人がゆっくりと着いていく。

 

「やれやれ、やっぱり子供だな」

 

「それはそうでしょう。結芽だって刀使である以前に女の子なんですもの」

 

「そうだね。本当に普通の女の子だ」

 

 今の2人は御刀さえ見なかった事にすれば、ちょっとおませな子供と、無理やり連れてこられた内気な友人という風にしか見えない。まるで最初から友人同士であったかのような──

 

「獅童さん、どこか嬉しそうですね」

 

「ああ。僕は今、すごく嬉しいんだ。結芽があんな風に、普通に笑ってくれている事がね」

 

 昔から神童などと持て囃されて武芸以外の事をマトモに教えてこられなかったからかもしれないが、普通の女の子らしい事をして笑う姿なんて、結芽は滅多に見せることがない。

 今のように普通の女の子みたいにお洒落をして友達と買い物をする様子なんて、真希は初めて見た光景だ。そしてそれは、寿々花と夜見も同じだった。

 

「……確かに、燕さんのあんな姿は貴重ですね」

 

「ええ。……こんな事を言うのは本当は宜しくないんでしょうけれど、わたくしは京奈が親衛隊に来てくれて良かったと思っていますわ」

 

 本来なら、京奈や結芽のような幼い子供が刀使として戦場に出るのは喜ばしくない事だ。真希や寿々花のように自由意志で刀使になったのならまだしも、己の才能で道が強制的に決められるなんて、なんて残酷なのだろう。

 だが、その才能が無ければ2人が出会う事が無かったのも事実。山奥の京奈と病院の結芽では接点が無さすぎる。

 だからこの光景が見られて良かったと思う反面、刀使という職業の残酷さを垣間見た気がして、寿々花は嬉しさ半分、複雑半分な気持ちでそう言った。

 

「みんな何してるのー?!早く来ないと、置いてっちゃうよー!」

 

 結芽が赤信号の前でそう言っている。それほど距離は離れていないが、気が急いているだろうか。あるいは、他に周りたい場所があるとか言っていたから、その時間が欲しいのかもしれない。

 

「まあ、とにかく行こうか。せっかくの休日だ、楽しまなければね」

 

「……そうですわね」

 

「行きましょうか」

 

 今日という1日は貴重な時間だ。親衛隊全員でオフの日が重なるなんて、今度は何時あるか分からない。

 この1日を無駄にしないように、早足で3人も進んでいった。

 

「とうちゃーくっ!」

 

 そしてやって来たのは、いかにも若い子向けの物が揃っていそうな店。外見、そして店先で売ってる小物類。そのどちらを見ても何だかキラキラしている。

 当然ながら、結芽以外の誰もこんな場所に縁は無かった。

 

「ずいぶんとファンシーなお店ですのね。ここで何を買うんですの?」

 

「本当なら京都限定のイチゴ八つ橋ネコのグッズだよ!」

 

「…………親戚が居たのか、あれ」

 

 イチゴ八つ橋ネコは、イメージ的にはバブ○スライムのような姿で、それがキモカワイイと評判だ。今、若い子の間でトレンドのアイテムでもある。

 

「いや待って。もしかして、まだぬいぐるみとか増やす気なの?」

 

「そんな心配しなくても大丈夫だよ~。今回はぬいぐるみとかじゃなくて、キーホルダーとかの小物だから。置き場所には困らないから」

 

「それならいいけ……ん?今回は?」

 

「何にしようかなー」

 

 何やら不穏な事を言われたような気がしたが、近くの人混みが煩くて詳しく聞き取れなかった。もう1度聞き直せばいいんだろうが、選ぶのに夢中になっている結芽を邪魔するのは気が引ける。

 時間にして10秒ほど悩んだ末、京奈は結芽を信じる事にした。お小遣いという制約もあるし、ぬいぐるみなんていう持ち帰るのも大変なアイテムを此処で買いはしないだろう、と。

 

 だから選んでる間、店頭に並んでいる物を見て待つ事にする。

 京奈が適当に見て回っていると、その様子を見た真希が声をかけてきた。

 

「京奈は何か買いたいものとか無いのか?」

 

「特には無いですね。なんかこういうのって、あまり興味なくて」

 

「なら、他に興味があるものは?」

 

「お茶ですかね。あとは、お菓子とかかな……」

 

 殆ど何もない山中では、食事こそが娯楽というような部分があった。

 まあ殆ど何もないとは言っても流石にテレビはあったが、しかしそれもニュースを1日1回見るか見ないかくらいの使用頻度。アニメなどは見向きもしなかった。

 だから結果として、物より食に考えが寄ってしまうのだろう。

 

「ちなみにお茶とは紅茶の事ですか?」

 

「いえ、緑茶の方です」

 

「そうですか……」

 

「ああでも、紅茶も美味しいですよね!夜見さんの淹れてくれる紅茶を飲んでると本当にそう思います」

 

「そうですか。なら良かったです」

 

 話にスッと入ってきた夜見に急いでフォローを入れたが、それは本心からの言葉でもあった。

 今まで京奈の中で紅茶といえば、コンビニで買える午後の奴とかリ○トンとかの物。しかしそれらは京奈の口には合わず、結果として紅茶への苦手意識を持ってしまっていた。

 だけれども夜見が淹れる紅茶は、夜見が物凄い拘っているというのもあるのだろうが、市販品とは味が違う。淹れたてというのも関係しているのだろうか?

 

「お茶とお菓子か……」

 

「あの、どうしたんですか?」

 

「いや。そういえば京奈が入隊してから、ろくに何もしてあげれてなかったような気がしてね。今日はせっかくの機会だし、何かしようと思ったんだ」

 

「初日の歓迎会も、結局は途中で中止でしたものね」

 

 仕方ない事だが、刀使というのはスケジュールが不定期になりやすい。荒魂の出現に規則性が無く、出現場所もバラバラであるからだ。

 

「そんな事ですか。気にしなくていいのに……」

 

「いいや、僕達は気にするんだ。特に最近は、京奈にばかり無茶をさせているしね」

 

「それは真希さん達もでしょう」

 

「僕達はいいんだよ。自ら望んで選んだ道だからね」

 

「でも……」

 

「いや……」

 

 ああ、これは終わらないな。と寿々花は瞬時に理解した。こういった時に京奈が遠慮するのは分かっていたし、真希も譲らないのは分かっていたからだ。

 

「ですから……」

 

「だからだな……」

 

 お互いが本気でお互いの事を思って言っているだけに、どちらの肩だけを持つ訳にもいかず。しかしかといって放置していたら、軽い口喧嘩に発展しかねない。

 何か双方が納得する方法は無いかと咄嗟に周囲を見回せば、近くにアイスクリームショップがあるのを見つけた。

 

「寿々花!この分からず屋を説得してくれ!」

 

「夜見さん!この意地っ張りな人に言って下さい!」

 

「…………えっ」

 

「そうですわね……」

 

 こうなった時、真希が寿々花を頼るのは分かっていたから涼しい顔で案を考える素振りをしてみせたが、まさか自分に飛んでくるとは夢にも思わなかった夜見は珍しく虚をつかれたような声を出した。

 そんな様子が面白くて、寿々花は少々答えるのを先延ばしにして困惑している夜見を観察する。

 

「…………!」

 

 寿々花の観察するような目線に気付いた夜見が目で助けを求めているような気がするが、寿々花は知らないフリをした。

 目は口ほどに物を言うとは言われているが、やはり口にしなければ本当の思いは伝わらないのである。それに助けを求めているというのだって、寿々花の思い込みの可能性を捨てきれない。

 

「寿々花、何か思いついたか?」

 

「……ええ。思いつきましたわ」

 

「……!本当か!」

 

 しかし、いつまでも放置はしていられない。夜見が可哀想だし、真希の我慢の限界だって訪れる。そろそろ答えるべきだろう。

 

「ええ。アイスですわ」

 

「アイスか?でもなんで……」

 

「真希さんは京奈に何かを買ってあげたい。しかし京奈は奢られるのを気に病む。ならば、お互いがお互いに買ってあげれば解決できますわよ」

 

「お互いに……ですか」

 

 真希は京奈にアイスを買えるし、ただ奢られるのが嫌な京奈も納得はする。

 最良とは言い難いが、咄嗟に考えたにしてはマシな方法であった。

 

「どうです?それなら納得のいくでしょう」

 

「……まあ、それなら」

 

「そういう事なら、僕はトリプルを買ってあげよう」

 

「むっ。なら私もトリプルです!」

 

 ……しかし、これはこれで別の問題が発生したような気がする。また張りあいだした2人に、買い物を終えた結芽が割り込んだ。

 

「ちょっと!私を置いて楽しそうな話しないでよー!」

 

「結芽。買いたい物は決まったのか?」

 

「うん!今回はケータイのストラップにしたんだけど……それよりアイス食べるんでしょ!?じゃあ私はイチゴとチョコとバニラがいい!!」

 

 小さなレジ袋を腕にぶら下げ、そんな事を言った。そしてアイスクリームショップへと歩き始めた結芽の後を、寿々花が追従する。

 

「では結芽のアイスは、わたくしが買ってさしあげますわ。このように5人で出かけられた偶然に感謝、という事で」

 

「ホント!?やった、寿々花おねーさん大好き!」

 

「……夜見さんは何味にします?」

 

「いえ、私は……」

 

「向こうにお米アイスとかありますけど」

 

「……ではそれで」

 

 足をアイスクリームショップへと向けた、その直後の事だ。

 

「■■■■■■!!」

 

 向こうで、何かが吼える音がした。

 そして直後に、その方向から人々の悲鳴が聞こえ始める。

 

 それが何を意味するのかは、京奈にも理解できた。今まで嫌というほど聞いてきたからだ。つまり

 

「──荒魂ですね」

 

「こんな時に……行くぞ!」

 

「京奈と結芽で荒魂の対処を!わたくしと真希さん、そして夜見の3人で避難誘導を行いますわ!」

 

「分かりました!結芽ちゃん、暴れすぎないでよ!?」

 

「わかってるーって!私を信じてよ」

 

 逃げ出す人々の流れに逆らうように進んだ5人が見たのは、小型の荒魂の群れだった。かなりの数である。

 

「かなり多いな……」

 

「……これは作戦を変更する必要がありそうですわね。まずは皆で数を減らしましょう」

 

「なら、どれだけ倒せるか競争だね!行くぞーっ!!」

 

「あ、こら結芽!」

 

 一番最初に切り込んだのは結芽だった。いきなり攻撃された荒魂達は単騎で突っ込んできた結芽を包囲しようとするが、続いて来た真希の攻撃で更に切り崩される。

 

「京奈と夜見は道の封鎖を!そうすれば荒魂は流れない筈ですわ」

 

「はい!」

 

「わかりました」

 

 京奈がここでやるべき事は、背後で逃げ惑う人々へ荒魂を通さないように道に蓋をする事だ。

 荒魂は人を狙うが、それにも優先順位があるのは既に知られた話である。

 動植物よりは人間、そして人間の中でも一般人より刀使を優先して狙う傾向があるのだ。

 

 荒魂が人を襲うのは、己の神性たる珠鋼が人間に奪われた恨みからだとされている。そして刀使が優先して狙われるのは、その珠鋼で造られた御刀を持っているからだと言われていた。

 

 だから荒魂の前に京奈が立てば、少なくとも後ろに流れる事はない。まあそれは受けきれればの話だが、そうやって荒魂を通した事は今まで無かった。

 

「流石にこれくらいは……!」

 

 襲いかかってきた荒魂の突進を闘牛士の如く受け流して、その進路上に御刀の刃を置いておく。単純な思考しか持たない小型であれば、突進の勢いで勝手に刃に両断されて倒れていくから、京奈の壊滅的な攻撃センスでも問題はない。

 撃ち漏らしの小型荒魂と何度か戦った際に、どうにか出来ないかと考えた方法がこれであった。しかし、自滅を誘うしか効率的に処分できない辺り、己の才能の無さに悲しくなってくる。

 

「おっ、とと……」

 

 そうして荒魂が両断された直後に、別の荒魂が京奈に襲い来る。今度は2体同時だ。

 京奈は2体に挟み込まれるように前へ出て、左右から突進してきた荒魂が激突するように上手くタイミングを合わせる。そして体勢が崩れた隙に横薙ぎで始末した。

 

「今度は上!」

 

 間髪入れずに空から襲ってくる鳥みたいな荒魂が3体も地面にめり込む勢いで京奈を噛み砕こうとしてきた。

 バックステップを3回踏んで飛び込んでくる荒魂を躱し──更に頭上に荒魂の影。

 

 ぞくりと肌が粟立ち、上を見る間もなく自らの直感に導かれるままそこを飛び退く。すると、今立っていた場所に急降下してきた荒魂が地面を砕いた。

 

「あっぶな……!」

 

 冷や汗が一筋、つうっと伝う。いくら写シがあるとはいっても、直撃すればタダでは済まないのだ。

 

「■■■■■■!」

 

 無茶な飛び退き方をしたせいでつんのめってしまい、荒魂にも立て直す時間を与えてしまった。

 京奈を襲うため、合計4体の飛行型荒魂が再び宙に羽ばたこうとした、その瞬間。

 

「とーう!」

 

 結芽が一閃、荒魂をたたっ斬った。慌てて飛び立とうとした荒魂の上をアクロバティックに乗り継ぎながら次々と頭部を切り落とす。

 結芽が街灯の上に着地すると同時、足蹴にされて地面に落ちた荒魂の丸い頭部が、ごろりと京奈の前に転がった。

 

「ごめん、助かった結芽ちゃん!」

 

「後でジュース奢ってー」

 

「きな粉もちチョコで我慢して!」

 

「ケチ」

 

 どうやら、京奈が荒魂の対処に手間取っていた間に3人が殆どを倒していたようだ。結芽が援護に回れるくらいに前線は収拾がついているらしい。

 

「ところで、こっちに来て良いの?荒魂の数は前の方が多いはずなのに」

 

「ん?ああ、それなら大丈夫だよ。ほら」

 

 標的を結芽に切り替えた小型荒魂を一瞬で2体片付けながら、結芽が来た方……つまり前線の方を指さした。一時的に安全が確保できた事を確認した京奈は前を見て、そして表情が固まった。

 

「なんか京奈ちゃん目掛けてるみたいだし」

 

 群れの3分の2くらいの量の荒魂が、こっちに向かって突っ込んできている。陸と空の両方から、恐らくは結芽の言う通り京奈を目掛けて。

 ここで京奈は思い違いに気がついた。前線の収拾がついて暇だから来たのではなく、前線が京奈の方に移動してきたのだ。

 

「なにこれ」

 

「京奈ちゃん何かやったの?例えば荒魂を晒し首にして煽ったとか」

 

「結芽ちゃんの例えが怖すぎるし、何やったのかなんて私が聞きたいよ」

 

 いくら小型とはいえ、数が集まればそれなりの威圧感を伴うようになる。そんな威圧感と数の暴威で作られた壁を目の前にした京奈は、臆するでもなく結芽と並び立って御刀を構えた。

 

「……結芽ちゃん」

 

「なに?」

 

「フォローお願い」

 

 こんな大軍を相手にするのは初めてだが、不思議と負ける気はしない。それは隣に結芽という、京奈が恐らく最も信頼を置いている最高クラスの刀使が居るからかもしれなかった。

 

「それは良いけど、その代わりに……」

 

「……代わりに?」

 

「私の背中は守ってね」

 

 そう言ってから、結芽は自分の発言に驚く。自分でも予想外の言葉だった。

 結芽は刀使となってから、戦場で誰かに頼るという事はしたことが無い。誰も彼も自分より弱かったから、そもそもそんな考え自体湧いてこなかったのだ。

 

 だけど隣にいるのは自分が認める守勢の名手であり、互角に戦える同年代にして友人。それなら文句はない。

 己の実力には絶対の自信がある結芽が背中を預けるのを良しとするのは、今のところは京奈のみだった。

 

 無意識に零れた言葉は、そんな気持ちの現れだと言えるだろう。

 

「任せて。いざとなったら身体を盾にしてでも守るから」

 

「普通なら冗談だと思うんだけど、京奈ちゃんが言うと洒落になんないなぁ……」

 

 そのやり取りを最後に、2人は荒魂の群れの中へと自ら入っていった。

 

 京奈を台風の目として、京奈に近づく荒魂を結芽が全て切り刻む。京奈が受けた荒魂を横から結芽が倒し、割り込みで隙が出来る結芽の背中を京奈が守る。

 

 荒魂の恨み辛みや殺意といった念で肌がひりつく感覚と共に悟った。少しでも動きを止めてしまえば喰われてしまうと。

 2人が踊るのは、止まることは許されない上に一歩間違えればそこで終わりの死のダンス。しかも終わりが見えない。

 数は確かに減らしている筈なのに、減っているような気がしないのだ。

 

 実時間は1分、しかし京奈にとっては10分相当の時間が経過した時、ようやっと聞き慣れた声がした。

 

「結芽、京奈!すまない、遅くなった!!」

 

「おねーさん達おそーい!」

 

「2人なら持ちこたえられるだろうと信じての事ですわ!」

 

「援護します」

 

 前線に残った荒魂を片付けた3人が戻ってきたのだ。

 そして、ここで形成が逆転した。

 

 内側からは結芽が、そして外からは真希達が。内と外の両方から随一の実力を持つ刀使達に攻められた荒魂の群れは一体たりとも逃げられず、それほど時間が掛からずに殲滅されたのだった。

 

「うわぁ。凄い数のノロ……」

 

 もう動く荒魂はいない。戦闘の余波で傷ついた道や店舗などの建物を見ながら京奈は言った。

 京奈を中心に広がっている荒魂の遺体から出たノロが、大きな水たまりのように広がっている。

 

「この量だと、回収にも時間がかかりそうだな」

 

「夕方までに終わればいいですけれど」

 

「えっ!?今日もしかして、これで終わり?」

 

 周りを警戒しながら、掛かるであろう時間を脳内でおおよそ算出しながらの寿々花の言葉に結芽が反応する。

 荒魂を討ちはしたが、まだノロの回収は済んでいないし機動隊への引き継ぎも終わっていない。そこまで終わって初めて刀使の仕事を完遂したと言えるのだ。

 

「そうなるんじゃないでしょうか」

 

「ええ~~……せっかく、みんなで原宿に来たのに」

 

「まあまあ。また来れるよ、きっと。ほら、チョコ食べて落ち着いて」

 

 まだ何処か行きたかった結芽は不満げだ。そんな結芽にポケットのきな粉もちチョコを一つ渡しながら、京奈は先ほどまで賑わっていた道の先を見つめた。

 見るも無残に荒れ果てた道だけ見れば、ここが原宿だなんて信じる者はいないだろう。

 

「怪我人は居ないんでしょうか?」

 

「荒魂出現時の混乱で多少は居るだろうね。だけど、その殆どは軽傷で済んでいる筈だ。これだけの数の荒魂を、被害が広がる前に止められたんだからね」

 

「……なら良いんですけど」

 

 憂いを見せる京奈に、かける言葉が見つからない。怪我人などの詳細な情報は無いから、今は怪我人が少ないことを祈るしかできなかった。

 

 

「それにしても、なんで荒魂は急に京奈の方へと猛突進していったんだ?」

 

 ノロの回収班を待つ間、真希は先ほどの現象について考えはじめた。

 どう考えても不可解な出来事だ。目の前に獲物の刀使が居るのに、それを無視してわざわざ後方の刀使を狙うだなんて。

 近い者から狙うという単純な思考ルーチンであるとされている荒魂だが、もしかしてそのルーチンに変化が生じたのだろうか?

 

 もしそうだとしたら、それは由々しき事態である。最悪の場合、戦術を一から見直さなければならなくなるだろう。

 

「新田さん。心当たりはありますか?」

 

「いや、なんにもありません。むしろ私が聞きたいくらいで……」

 

「っていうか、なんで街中なのにこんな大きな群れが出来たんだろ?楽しかったからいいけど」

 

「それはきっと、これが原因ですわね」

 

 寿々花が軍手を着けた手に持った物を軽く掲げてみせる。それは、世にも珍しい錆びついてしまった御刀だった。

 

「赤羽刀か」

 

「これが……すごい、本当に錆びてる」

 

 御刀は錆びつかないし、刃こぼれもしないというのが常識である。その原理は解明されていないが、珠鋼の神性によるものだという解釈が一般的だ。

 

 しかし、10年ほど前から、その常識を覆す御刀が現れるようになった。それが、今寿々花の持っている赤羽刀と呼ばれる錆びた御刀である。

 話には聞いていたが、京奈は実物を見るのは初めてだ。珍しい物を見た、という気持ちを隠さずにまじまじと見つめている。

 

「ねえ寿々花おねーさん。ちょっと触ってみていい?」

 

「指でなぞるくらいなら良いですわ。だけれど、怪我しないように気をつけること。いいですわね?」

 

「流石にこれで怪我なんてしないよ~」

 

 同じく初見の結芽が表面を人差し指でなぞってみる。錆びた物特有のザラザラっとした感じが指を通して伝わってきた。

 

「うーん……なんか、普通に錆びついてるって感じだね」

 

「そうなの?じゃあ私も……」

 

 結芽がなぞったのと同じところを京奈もなぞろうとして、赤羽刀に指が触れた。その瞬間──

 

「あれ?」

 

 ──赤羽刀が、微かに発光しはじめた。

 

「ッ!?なんだ一体!」

 

 未知の現象の発生に、真希は反射的に飛び退いてしまう。その輝きを京奈が呆然と見ている間に、光は少しずつ強くなっていく。

 

「京奈も離れて!」

 

「は、はいっ!」

 

 半ば強引に指が引き剥がされると、その輝きは収まった。が、直後に新たな問題が発生する。

 

「獅童さん。此花さん。燕さんに新田さんも」

 

「夜見さん?」

 

「来ます」

 

 いつの間にか、水たまりのようなノロは足下から消えていた。それが何を意味するか、理解できた時には自然と御刀を再度構えていた。

 

 今度は大きな荒魂が一体、形作られていく。

 そのカタチは歪で、"腐ってやがる。早すぎたんだ"という感想が浮かんできそうなくらいドロドロだが、それは確かに荒魂だった。

 

「そんな……!?こんな短時間でノロが結合するなんて有り得ない筈だ!」

 

「これは赤羽刀の影響?それとも……」

 

「動きはじめた……!」

 

 思考の海に埋没しそうになった寿々花は、迫り来る脅威を前に一旦思考を切り替えた。今はこのムカデみたいな奴を倒さなければ。

 

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