五席目の少女   作:今更とじみこにハマったマン

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明けましておめでとうございました。今年もよろしくお願いします。



揺れぬ天秤

 

「ふぅーむ……」

 

 カタカタとパソコンのキーボードを叩きながら、主任は悩みを声に乗せて外に出していた。

 何度調べても、何度アプローチを変えてみても、結果は同じ。これといって特異な点は見つからない、今まで幾度となく見てきた赤羽刀と同じだった。

 

「未知の発光に加えて、非常に短いスパンでのノロの再結合。そして特定個人を狙った荒魂のルーチンの変化……どれも今まで無かった現象だ」

 

 親衛隊から齎された奇妙な報告。それが主任を悩ませている原因である。

 

 曰く、赤羽刀が原因不明の発光を行い、その直後にノロが再結合。しかし結合速度が早すぎたのか、ドロドロに溶けた荒魂となって襲ってきた。との事だ。

 更に、前で戦っていた真希達を無視して後方に居た京奈目掛けて突っ込んできたともいう。

 

 言葉にすれば簡単なものだが、この文を見る者が見れば非常識さに目を見開くだろう。

 報告を上げたのが研究対象である京奈を擁する親衛隊でなければ、あるいは信じなかったかもしれない。

 

「面白い」

 

 しかし、京奈であれば何を起こしても不思議ではないという思いが主任にはある。

 研究を重ねた結果、詳しい事が殆ど分からない事が分かった京奈の力が、どこで何に作用するのか。

 

 そこのところが最近の楽しみでもあり、研究のテーマでもあるのだ。

 

 楽しい悩みとでも言うべきそれに連日連夜、寝食すら忘れて没頭していた。

 

「おーい助手。ノロの結合時間の測定データは、もう上がってるんだろうな?」

 

「ええ。このUSBに入っている筈です」

 

 デスクに置かれたUSBを主任のノートパソコンに刺して、そこからデータを移し替える。

 作業が終わったそれを助手に投げ返しながら、主任は不満そうに呟いた。

 

「しかし、なぜ現代という情報化社会になっても我々は紙やUSBを人の手でやり取りしなければならないんだ」

 

「仕方ないでしょう。情報漏洩を防ぐためなんですから」

 

 機密を盗み出すのは物理的に無理だと判断されたのか、最近は捕縛される人も殆ど出なくなっていた。

 が、その代わりに増加したのが不正アクセスやハッキングである。物理的に無理なら電子的に、と考えたのだろう。

 

 そんな感じで四六時中やってくるハッカーやウイルスを相手にするのが面倒になってきた研究者達は、情報サーバーにダミーをぶち込みまくって、昔ながらの紙やスタンドアロンのパソコンを使うことにしたのだった。

 

「まったく、やられるこっちの身にもなって欲しいもんだ。そんなに研究成果が欲しいなら、自国の刀使をバラせば良いだろうに」

 

「主任!」

 

 まだ良識を失っていない助手が咎めるように声を荒らげるが、主任は何処吹く風だ。

 

「事実だ。彼女は現状、世界で唯一かつ随一の研究素材ではあるものの、その大抵は刀使をバラせば出てくるであろう成果だからな」

 

 それをやらないのは、仮に研究をバラされた時に受けるダメージが大きいからだろう。人体実験が明るみに出てしまえば、国内外を問わず多くの批判に晒される事は想像に難くない。

 普通に考えても、その時の首相や大統領は解任されるだろう。もしかすると経済活動にすら影響を与えるかもしれない。

 

「日和ってるのさ。あるいは、研究のために悪魔に魂を売れるだけの度量の持ち主が居ないのか……。

 どっちにしても、目の前に素材はあるんだ。それなのに手を出さないのは、ただの怠慢だよ」

 

「この人、なんでこんな考えしてて捕まってないんだろう……」

 

「助手にはこの言葉を贈ろう。思想・良心の自由って知ってるか?」

 

 気さくなやり取りを行っている間にも手は止まらない。

 研究機材のモニターとパソコンの画面を交互に見ながら、広く面積が取られた実験場に立つ刀使にマイクで声をかけた。

 

 《やあ、調子はどうかな?》

 

「そういうのいいから。さっさと始めてよ」

 

 その刀使とは結芽のことだった。京奈が戦場に出ている間は暇していると聞いていた主任が、暇してるならと連れてきたのだ。

 そんな結芽はつまらなさそうで、その態度は歳上にするものではないが、主任は特に気を悪くはしない。むしろ若干上機嫌になっていた。

 

 《いいねぇ。単刀直入で面倒なやり取りをしなくていい。実にいい、気に入った》

 

「だから、さっさとしてって」

 

 《ああ、じゃあ始めよう。といっても、君にやってもらうのは簡単な事だ》

 

 結芽を選んだのは、彼女が暇だったから。という理由だけではない。むしろ、そっちはオマケだ。

 この研究は、彼女でなければならない理由がある。

 

「ふーん。それって、あの赤羽刀が関係してるの?」

 

 《そうだ。あれは君達が回収した赤羽刀。報告にあった再結合の早さがどれくらいか、実物で確認したくてね》

 

 再結合が早すぎるとは聞いているが、それがどれくらいの早さなのか主任には分からない。実際の現象を見ていないからだ。

 だから、それを見た彼女にどれほど早かったのかを確認してほしかったのである。

 

「再結合ねぇ……それなら私より、夜見おねーさんとかの方が適任なんじゃないかなぁ?」

 

 《今動けるのが君しかいないのだから仕方ない》

 

「そっかー。まあ暇潰しになれば、そういうのはどーでもいいけど」

 

 《では始めようか。まずは普通にノロを結合させる》

 

 状況を再現するため、ノロの貯蔵庫から持ってきたノロを実験場に解き放つ。

 すると、まだドロドロのノロは赤羽刀に纒わり付いて、それがどんどん大きく膨れ上がっていった。

 

 やがて形が整えられていき、最後には刀使が見慣れた荒魂の姿になる。

 まるで飴細工かガラス細工のような変化の仕方。研究者からすれば見飽きた光景だが、普段は既に出来上がった荒魂しか見ていないだけに、結芽の目には変化が新鮮に映っていた。

 

「■■■■■■■!」

 

 《これが、普通に結合した場合。比べた感想は?》

 

「遅い」

 

 《そうだろうね。ではどのくらい?その辺りを具体的に、出来る限り話して欲しい》

 

 《ちょっと主任。いくらなんでも、荒魂が目の前にいるのに集中を乱すようなことは……》

 

 マイクの向こうで助手が主任にストップをかけている。が、主任は特に悪びれる事なく言った。

 

 《なに、問題は無いさ。彼女であれば、この程度は集中する必要もないだろう》

 

「分かってるじゃん、メガネの人」

 

 並みの刀使なら集中しなければいけないだろう。しかし、結芽にとっては準備運動にもならない軽いものだ。

 むしろこの程度だったらキャンディ片手にだって出来ると思っている。

 

「それそれー。えーい」

 

 荒魂を軽く捻って、倒れたまま放置する。

 倒された荒魂から出てくるノロを放置していれば再結合して新たな荒魂となる事は周知の事実であるから、このまま置いておけば再び荒魂が出てくる筈だった。

 

 《さて、ここからどんな風に結合したんだい?》

 

「あの時は、ノロがずざざーってすごい勢いで集まって、それからドロドロな感じの荒魂が出てきたけど」

 

 《かかった時間は?おおよそでいい》

 

「5秒くらいじゃない?」

 

 《5秒……5秒か……》

 

 有り得ない。

 

 主任の脳裏で導き出された結論はそれだった。

 通常、放置されたノロが再び荒魂となるには最低でも1時間を有する。それが5秒など、当然ながら類を見ない。

 もちろん、これは結芽の主観であるから、実際はもう少し遅いのだろうが。しかし、それでも早すぎる事に変わりはないだろう。

 

 《確か赤羽刀は抜き取っていたそうだね。となると、それを核にしたとも考えづらいか》

 

「ねぇ、もう終わり?終わりなら帰っていい?」

 

 《ああ待ちたまえ。あと数回は付き合ってもらって、その後に君には身体のことで少しだけ用がある》

 

 身体のこと、と言われて結芽は怪訝な顔をした。

 結芽の身体のことは、主任や助手は当然知っている。親衛隊の定期検診を担当しているのが2人だからというのもあるが、延命のためのアンプルの試作品は、主任が作っていたからだ。

 

「身体の……なんなの?」

 

 《すまないが、ここでは話せない。防諜に自信が無くてね》

 

「……まあいいけど」

 

 《では次のノロを放出……といく前に、今使ったノロを回収しなければならない。面倒だろうが、少しそこで待っていてくれ》

 

 実験場にノロを回収する人達が現れてノロを吸い取っているのを見ながら、結芽は楽しみにしていたお昼ご飯が遠ざかったのを感じたのだった。

 

 

「あら真希さん。もしかして、それがお昼ご飯ですの?」

 

「そうだけど」

 

 場所は変わって本部室。いつ荒魂が出るか分からないので常に警戒態勢である此処には、真希と寿々花のどちらかがほぼ常駐している。

 迅速に荒魂討伐の指揮を取るためであるが、その仕事の性質上、食事は手軽に取れる物が好ましい。

 そんな理由もあり、2人のお昼ご飯は大体が鎌府内にある7の字のコンビニで買う物だった。

 

 そんな真希の本日の昼食は、塩むすびが2個とブロッコリーや卵焼きなどのおかずが少々。おかずは手を汚さないように使い捨ての爪楊枝が用意されていた。

 珍しくコンビニ系ではなく、誰かが手作りしたような暖かさが感じられるお弁当。まさか真希が作ったわけではないだろうが、では誰が?と寿々花は疑問に思った。

 

「朝に偶然会った夜見と京奈に持たされたんだ。おにぎりは夜見から、おかずは京奈から。刀使は体力勝負だからとね」

 

「あら羨ましい。京奈は料理も出来るんですのね」

 

「ああ。お爺さんと2人で暮らしていたから、自然と練習するようになったらしい。

 …………そんなに見なくても、後で分けるさ」

 

「……穴があくほど見つめてなんていないですわよ」

 

 真希のそれを見ていると、手持ちの温めたコンビニ弁当が少々味気なく見えてくる。

 いや、美味しいんだけれども。しかし手作りの暖かさには敵わない。しかもそれが見知った仲間のならば尚更だ。

 

「でも、なぜ2人は料理を作っていたのでしょう?」

 

「あまり詳しくは聞いていないけど、京奈の方は結芽が作ってくれと言ったらしい。夜見は……自分用じゃないか?」

 

「ああなるほど……夜見は大のお米好きですものね」

 

「あそこまで行くとお米狂いのレベルな気もするけどね。さて、さっさと食べてしまおうか」

 

 おかずはどれも2つずつ入っていた。これ幸いと真希は全てを1つずつ寿々花に分けてやり、寿々花も弁当のおかずを少し真希に分ける。

 そうしてちょっと彩りが変わったお弁当を前にして2人が手に取ったのは、京奈の卵焼きだった。

 

「どれほどの腕前か……いただきます」

 

「いただきます」

 

 見た目は綺麗に出来ているが、味はどうか。ぱくりと大きく一口いって、2人の表情が少し綻んだ。

 

「少し甘めの味付けなんだね」

 

「もしかしたら頭を使うから糖分補給、と気を利かせたのかもしれませんわね。あるいは結芽のためか。

 まあ、甘い卵焼きが好きなだけなのかもしれませんけれど」

 

「なんでも良いじゃないか。美味しいんだし」

 

 そのまま無言で食べ進めること暫し。ひと段落ついたところで真希が雑談として、こんな話題を出した。

 

「僕がコンビニでエナジーゼリーを良く買うのは知っているだろう?」

 

「ええ。あの慣れれば10秒チャージですわね。それがどうかいたしましたの?」

 

 手軽で手を汚さない。しかも手早く済ませられるエナジーゼリーは、真希にとって最高の昼食の一つであった。

 栄養バランス的な意味で宜しくないというのは分かっているが、自らの任の重さを考えると、のんびりと食堂で食事を取るという事は難しいのである。

 

「…………最近、あのエナジーゼリーを手に取ると頭痛が走るようになってね。

 そして頭の中に響くんだ。お米は完全なエネルギー食……って」

 

「それは軽いホラーですわね。……でもそういえば、わたくしも似たような事が」

 

「寿々花もか?」

 

「ええ。コンビニでお弁当を買う時、玄米は栄養バランス抜群の完全食……と響いてくるのです。そしてありもしないのに、玄米の姿を探してコンビニを彷徨ってしまうことが……」

 

「「…………」」

 

 笑い話として処理するには少々ヘビーな話題だった。

 幸か不幸か、あの時の記憶は2人からスッポリと抜け落ちているが、その経験はしっかりと脳内に刻まれていたようだ。

 

「いったい僕達は何をされたんだろう……」

 

「力の副作用……ではないですわよね。もしかしたら何かに取り憑かれているのかもしれませんわ」

 

「おいやめろ。怖い事を言うな」

 

「あら真希さん。もしかして、幽霊が怖いんですの?」

 

 弄りに最適な話題を見つけたと言わんばかりに寿々花がニヤッと嫌らしく笑った。

 

「そうは言うけどな。寿々花だって笑い事じゃないんだぞ。例えば……夜中にトイレに行こうと鏡の前を通ったら、鏡に居るはずのない人が寿々花の後ろにピタリと張り付いていたのが映るとか、あるかもな」

 

「ちょっと!なんてこと言うんですの!?」

 

「君が僕をからかおうとするからだろう」

 

「まだ何も言っていませんでしたのに!しかもそれなら、真希さんも夜中は気をつけた方がよろしいですわよ!」

 

「ほーう。何に気をつけるっていうんだ?」

 

 ビシッと効果音がつきそうな勢いで真希に人差し指を突きつけた寿々花に、真希は余裕綽々で聞き返す。

 が、その余裕は即座に崩れ去った。

 

「真希さんが夜に人気の無い廊下を歩いていると、背後から同じペースで歩く足音が……」

 

「おい待て!それ最早ただの怪談じゃないか!?」

 

「真希さんのだって怪談でしたわ!わたくしにもさせなさい!」

 

「誰がさせるか!」

 

 まだ少し残った弁当を横のテーブルに置いて、食後の運動というには少し過激なキャットファイトが始まる。

 

「はああああああ……!」

 

「ぐぬぬぬぬぬぬ……!」

 

 子供同士のじゃれあいにも、ただの痴話喧嘩のようにも見えるそれを、近くを行く人は誰も止めようとはしなかった。

 この程度ならいつもの事であるし、この2人は喧嘩するほど仲がいい。

 

 それになにより、巻き込まれたら面倒くさい。

 

 そのまま暫く続いた2人の争いは、"京奈が怪我人の手当てを終えて帰ってきた"という報告で終息したのだった。

 冷水をぶっかけられたようにテンションが落ちていくのを自覚しながら、寿々花は冷静になった頭で一つの考えを出していた。

 

「…………1度、お祓いに行くべきなのかもしれませんわ」

 

「ああ……そうだね……」

 

 手が空いたら必ず行こう。と決意を固めた2人だった。

 

 なお完全な余談だが、この日から夜になると周囲をやけに気にしながら歩く2人組が時々見られるようになったらしい。

 

 

「…………それ、本当なの?」

 

 結芽は、今聞いた言葉を信じられずにいた。その真意を確かめるように目の前に座る主任を見つめて言葉を待つ。

 

「事実だ。君の病気が治る可能性は、かなり高くなった」

 

 何でもないように言い放ち、タバコを吸おうとして……横に待機している助手に取り上げられる。

 助手に抗議の目線を送る主任に、結芽は信じられないという思いを滲ませながら言った。

 

「……だけど。私の病気は」

 

「そうだね。医者が匙を投げる程度には難病だ」

 

 結芽の身体を蝕む病気は医者が匙を投げるくらいの難病である。治療のしようもなく、本来ならば、もう命の灯火が消えていてもおかしくない。

 そんな状態の結芽が今日まで命を繋いでいるのは、ひとえに延命のためにアンプルを使っているからだ。

 

 しかし、それだって尽きかけの命を先延ばしにしているだけにすぎず、根本的な解決には至っていなかった。

 

「だけど彼女……新田さんには、既存の考えは当てはまらない。ぶっちゃけてしまうと、彼女の能力を使うだけで治療が出来るだろう」

 

「そうなの?」

 

「本人の自己申告もあり、臨床実験もした。

 恐らくは病気も身体の異常であると考えるのだろうさ。そして、その異常を正常に戻すあの力は、あらゆる病気にとって最高の特効薬だね」

 

 身体の傷は治せた。では、病気は治せるのか?ということは当然考えるだろう。

 本人の自己申告もあり、そしてデータ取りの実験も済んでいる。そこから出した結論を言うのなら、それは"可能"だった。

 

「治るんだ……本当に」

 

「ただ……」

 

「ただ?」

 

 嬉しさと戸惑いを混ぜた感情に水を差すかのように主任が言い淀む。

 

「今の君は、身体に入れたアンプルで命を保っている。それは分かっているね?」

 

「分かってるけど……それがなに?」

 

「さっきも言ったが、新田さんの力は異常を正常に戻す。御刀を突き刺した部位から中心に、やろうと思えば全身にまで効果範囲を広げられるだろう」

 

「だから?」

 

 段々と結芽のイライラが高まっていく。主任が命の恩人である事は理解しているが、その事実をもって抑えても我慢の限界というものは訪れるのだ。

 が、次の主任の言葉で、そんな苛立ちは吹き飛んだ。

 

「あらゆる異常を治すといえば素晴らしいのだがね。それは裏を返せば、病気と共に君の命を保つアンプルを消し飛ばすという事でもある。

 つまり、治療の途中で君が死ぬ可能性があるということだ」

 

「…………!」

 

 言われてみればそうだ。

 彼女に投与されているアンプルは、明らかに身体にとって不要な異常である。

 アンプルがどういう物なのかを理解している結芽は、その可能性に気付いて僅かに顔を強ばらせた。

 

「それだけじゃない。君自身も分かっているだろうが、アンプルに使った材料は()()()()()

 それがもし、彼女の能力によって自らの存在消滅の危機に瀕したら……何をするのかは分からない。君の身体を乗っ取ろうとするかもしれないよ」

 

「それは……」

 

「そして、もし少しでも変な兆候を見せようものなら、彼女は必ず疑問に思う。材料の反応によっては、核心に辿り着いてしまうかもしれない」

 

「主任、もういいでしょう」

 

 有り得る話をつらつらと述べていくにつれて、結芽の顔色が悪くなっていく。

 そんな様子を見かねた助手がストップをかけるが、主任の口は止まらなかった。

 

「君は彼女に打ち明けられるかい?自分の身体に受け入れた人類種の敵の事を。

 いや、そもそも紫様が許すかな?彼女に紫様が知らせなかったという事は、つまりそういう事なのかもね」

 

「あ…………」

 

 荒魂は討たれるべき。というのが当然の考えで、京奈もその価値観を持っているに違いない。

 

 そして、折神家には京奈には知らせていない事実がある。

 もし世間に明るみになれば批判は免れず、下手をすれば折神家そのものが消えかねない核爆弾のような闇が。

 

「……さっきから助手が殺してきそうな目で見てくるから、ここまでにしておこう。

 だけど、よく考えてから決めて欲しい。彼女に真実を話して治療を行うのか、それとも何も話さず短い時を生きるのか」

 

「…………」

 

「ああ、もし治療をするのなら言ってくれ。紫様に話を通す必要もあるが、なによりデータを取らねばならないからね」

 

 …………話はこれで終わりらしい。とぼとぼと歩き出した結芽の心には、暗雲が立ち込めていた。

 折神家の闇であるそれを話した時、京奈は受け入れてくれるのだろうか?

 

 きっと受け入れてくれる。たぶん大丈夫。京奈ちゃんはそんな事しない。

 そんな都合の良い言葉で、必死に思い込もうとした。大丈夫だから、と。

 

 ──だけど、完全ではない。もしかしたら、ひょっとすると、拒絶されてしまうかもしれない。

 

「ぁ──」

 

 ひゅっと息が細くなった。呼吸が安定しなくなり、思わず壁にもたれかかってしまう。

 

 過去に両親に裏切られたという、その事実が結芽を怯えさせていた。

 あれほど信頼していた両親でさえ結芽を見限った。であるならば、京奈もアッサリと結芽を拒絶するのではないか。

 

 すぐ近くに見えた未来への希望と、また失うかもしれないという恐怖。

 

 その2つを乗せられた天秤は、恐ろしいほど微動だにしなかった。

 

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