五席目の少女   作:今更とじみこにハマったマン

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 新田京奈という名前は、一般人と刀使との間で受け取られ方が微妙に異なる。

 

 一般人からは、その名は将来的に国を代表するであろう英雄の卵という存在として。

 そして刀使からは、その実力が疑わしい存在として。まるで正反対の受け取られ方をされていた。

 

 というのも、実は京奈が人と戦っているところは今まで公にされていないのだ。

 結芽や真希と立ち合っている姿が見られるのは折神家の中庭であり、一般人はもちろん普通の刀使も見る事は出来ない場所である。そして、それ以外の場所で京奈が人と戦った事は無い。

 荒魂となら何度もあるが、それは強さを測るには不十分とされていた。ある程度の腕があれば、誰でも対処できるとされているからだ。

 

 リークで京奈が真希とそれなりに立ち合える事は知っている者は居るが、その情報は職員の中でもそれなりに高い地位の者にのみ齎されていて一般刀使にまでは回らない。

 

 そんな状況であるから、一切の情報が入らないにも関わらず、やたらと持ち上げられる京奈に対して不信感や嫉妬を抱く刀使は多いのだった。

 この不信感と嫉妬を抱く者は鎌府に最も多く、長船が最も少ないと言われている。

 

「紫様!」

 

「鎌府学長か。何事だ」

 

 鎌府に最も多いとされている理由の一つに、鎌府が所謂エリート校であるという事が挙げられる。

 どうしてエリートである自分達ではなく、ぽっと出の田舎娘が栄えある親衛隊に選ばれたのか。という思いが一際強いのだ。

 

「親衛隊の事についてお話に参りました!」

 

「増員の予定は無い。少なくとも当分はな」

 

「そうではなく、親衛隊の新田京奈についてのお話です!」

 

「……ほう?」

 

 そしてそれは、学長も強く思っている事である。

 

(なぜ紫様は完璧な刀使である沙耶香ではなく、あんな欠陥だらけの刀使を選んだのかしら?!)

 

 ……むしろ誰よりも強く思っているかもしれない。

 

「紫様のお考えは、わたくしには分かりかねますが、実力が不明瞭な刀使を親衛隊に置くのは宜しくないと思いますわ!」

 

「私の親衛隊に誰を選ぶかは私が決める事だ。他の誰にも口出しは許さん」

 

「それはそうですが、世の刀使達も思っている事です!新田京奈の実力が親衛隊に本当に相応しいのかということは!」

 

「何が言いたい」

 

 さっさとしろ。そう紫の目は告げている。

 そんな、常人なら言葉を発するのも難しくなりそうな眼光に見据えられても、高津学長は語調を緩めなかった。

 

「証明して欲しいのです!新田京奈が、紫様をお守りする親衛隊に相応しい実力を持っているという事を、不満を持つ全ての刀使に!」

 

 何を馬鹿な事を……と言おうとして、しかし一理ある。と紫は考え直した。高津学長の言葉の裏にあるものをハッキリと感じ取っているが、正当性が何一つ無い訳ではない。

 

 それに、親衛隊の部隊員として配属されるのは近場という地理的な都合もあって全てが鎌府の学生なのだから、その鎌府からの信頼が得られないと京奈に部隊を率いさせる事は難しいだろう。

 将来的には京奈にも部隊を率いさせたい紫にとって、そのデメリットは看過できないものだった。

 

 考え方を変えれば、これは好機だ。上手く使えば京奈の力を鎌府の全ての生徒に知らしめるだけでなく、高津学長の言うように伍箇伝に存在する不満を持つ刀使も黙らせられる。

 

「……つまり、高津学長は新田を選んだ私の目に狂いがあると。そう言いたいのか」

 

「いっ、いえ!そのような事は……」

 

 そこでようやく、高津学長は己が紫に疑いをかけているという事に気付いたらしい。顔を真っ青にしながら否定した。

 紫としては冗談というか、一種のジョークのようなつもりだったのだが、高津学長は本気にしてしまったようだ。

 

「まあいい。高津学長の言う事にも理解はできる」

 

「紫様!それでは……」

 

「そこまで言うのなら、そちらで相手を用意して貰おうか。勝負は1週間後、どちらかの写シが一度剥がれるまで続ける決闘形式。それで構わないな?」

 

 疑問形ではあるものの、否とは言わせぬ雰囲気であった。が、高津学長にも特に否定する理由は無い。むしろパアっと破顔して頷き、

 

「はい!」

 

 と即答するくらいだった。

 

 そうして高津学長が出ていった後、紫は背後に控える夜見に一枚の書類を手渡す。

 

「この書類を回した後、新田に伝えておけ。覚悟を決める時間というものも必要だろう」

 

「了解しました」

 

 そんなわけで、唐突に御披露目という名目で京奈と鎌府の刀使による決闘が決定したのだった。

 

 

「…………なんで?」

 

 その知らせを受けた京奈の第一声がこれである。ポロっと箸から焼き鮭の切り身が落ち、味噌汁に沈んでいった事も気にしていられないくらい京奈は混乱していた。

 

「何故と言われましても、決定した事ですから」

 

「京奈ちゃんいいなー。私もそういうのやりたいのに」

 

「なら代わってよ」

 

「替え玉できたらやってますー」

 

「だよねー……はぁ。今から憂鬱」

 

 溜息をつきながら食事に意識を戻して、そこでようやく味噌汁に浮いた焼き鮭の切り身に気付いたようだ。微妙な表情で口に入れ、米と共に飲み込んでから、また溜息。

 

「しかもそれ、テレビ中継もされるんでしたよね」

 

「そうですね。実情は兎も角、名目上は新田さんの御披露目という事になっていますから」

 

 ──そう。京奈が憂鬱になっている理由は、何の脈絡も無く戦えと言われたからだけではない。未来の英雄の実力を大衆に知らしめるという名目で、テレビ中継までされるというのが大いに関係していた。

 

 なんでこんな事に、と京奈は内心で嘆く。自分は裏方で細々と人を助けていられれば良かったのに、どう歯車が狂ったら未来の英雄などと担がれてテレビ中継までされる羽目になるのだろうか、と。

 

「もしやと様子を見に来てみれば、やはり憂鬱になっていますのね」

 

「寿々花さん……」

 

 そこに寿々花がやって来た。食事を持って京奈の隣に座る寿々花は、どうやら話を聞いているらしかった。

 

「もしやという事は、此花さんもご存知でしたか」

 

「わたくしだけではありませんわよ。もう折神家中で噂になっていますし……もしかすると既に全国にまで広まっているかもしれませんわね」

 

「うわぁ……」

 

 こういう噂は広まるのが非常に早い。

 それを寿々花は知っているから、かもしれないと言いながらも既に広まっているだろう事は確信していた。断言しなかったのは、京奈の負担を少しでも軽減したかったからだ。

 

 この様子を見る限り、その気遣いは無意味な気がしなくもないが。

 

「っていうか、また高津学長が原因なのね。……何であの人私に突っかかってくるんだろう」

 

「高津のおばちゃん、なんか京奈ちゃんのこと大っ嫌いだよね」

 

 あんまりこういう事は言いたくないが、京奈は高津学長の事が苦手だった。

 持ち前のキツい雰囲気に加えて、挨拶しても返事が返ってこないという対応の悪さや、事ある毎にこんな感じで突っかかられているからだが、京奈に心当たりはまるで無い。

 自分が悪いのなら関係改善の余地もあるが、向こうが一方的に嫌っている現状ではそれも望めないだろう。

 

 そういう感じであるから、京奈の中で高津学長は"出来れば会いたくない人"というカテゴリに分けられているのだ。

 

「そんな事される心当たりはまるで無いんだけど……」

 

「まあ気にするだけ無駄だと思うよ。高津のおばちゃんって、なんか理不尽なとこ多いみたいだし。京奈ちゃんが嫌いなのもその理不尽なんじゃないかな」

 

 聞いた話だが、鎌府学内でも凄まじい圧政を敷いているらしい。彼女の気分と指先一つで、幾つもの研究が始まったり廃棄されたりしていて、鎌府内部の研究者達は戦々恐々としているのだという。

 そんな高津学長を一言で表せば、理不尽という言葉が最も適切だ。京奈もその被害を受けたのだろう。と結芽は思っていた。

 

「それで、相手は誰なんだろう?鎌府の人なのは確実だろうけど……」

 

「恐らくは、糸見沙耶香でしょうね。彼女は高津学長の一番お気に入りの刀使ですし、天才とも言われていた筈ですわ」

 

「ああ、あの沙耶香ちゃんね」

 

「結芽ちゃん知ってるの?」

 

「紫様の前まで高津のおばちゃんが連れて来た時に、一回だけ見た。立ち合った事は無いけどさ」

 

 よほど可愛いのだろう。高津学長が沙耶香について、聞いてもいないのに凄まじく熱弁していた事を思い出した。

 

「でもいいなー。いいなー!私もやりたーい」

 

「私はやりたくないよ……ほんとに替え玉できたらなぁ」

 

「ねー」

 

 と、京奈が落ち込みながら食事をとっている時、鎌府の学長室では高津学長が窓の外を眺めていた。

 

(新田……何故また現れた)

 

 ──20年前の事を思い出す。いつもそうだ。いつもいつも、お前達は肝心な時に限って紫様のお傍に現れる。私がお仕えしようとしたタイミングで、まるで狙ったかのように。

 

(片田舎でひっそりと暮らしていれば良かったものを)

 

 ここ一番の重要な局面で、紫様が真っ先に信頼を置いたのは常に新田だった。記憶に残る大事な戦いでは、いつもあいつの背中が紫様の横にある。

 私が追いつけない遥か先、手を伸ばしても届かぬ場所に。

 

「なぜ私の邪魔をいつもする……!不愉快な奴らめ」

 

 ……だが、それも昔の話だ。今回は事情が違う。

 

 今の私には沙耶香が……私が見出した最高の刀使がいる。鎌府……いや、伍箇伝全体を見ても、これ以上に優秀な刀使など見つからないと豪語できる程の刀使が。

 沙耶香の伸び代はありすぎて、私でも測れない。この歳でこれだけの才能を持っておきながら、まだまだ成長が確約されている沙耶香は、親衛隊のような先の見えた欠陥品とは違った本物の天才。紫様をお守りするのは、彼女こそが相応しい。

 

 唯一足りないところを挙げるのなら、ありすぎる伸び代のせいでまだ成長途中という事だけれど、それは向こうとて同じこと。

 現在の力量でも、あの忌々しい新田京奈を打ち倒すのに不足は無いだろう。いや、むしろ過分かしら?

 

「そうよ、紫様に相応しい刀使は沙耶香だけ。他の有象無象など必要ない」

 

 ……そこで学長室の電話が鳴った。受話器を耳に当てれば、聞きたかった私の愛しい沙耶香の声がする。

 

「終わったのね。よくやったわ、流石は我が鎌府の代表。……先に戻ってきなさい、後片付けなんて雑務は他にやらせればいいわ。今は、あなたの体調管理が第一よ」

 

『……はい』

 

 そこで通話を終える。そうしてから私は親衛隊共が集まっているであろう折神家に目を向ける。今は夜の帳が降りきっているから昼間ほど良くは見えないけれど、そこに向けて私は言った。

 

「新田京奈も、親衛隊も。私の邪魔をするものは、皆消えればいい」

 

 

 …………それから一週間後の当日。

 新田京奈の御披露目という名目で行われる鎌府の代表との親善試合は、発表されたその日から連日報道される事となった。

 これは異例だ。名が売れているとはいえ、たかが一刀使の戦いに、こうも世間の関心が集まるなど他に類を見ない。

 

 もちろん、全国の刀使達もこの戦いに注目していた。伍箇伝の中でも特にエリートとされる鎌府の高津学長から寵愛を受けている代表と、全ての刀使の憧れである親衛隊でも特に紫が気に掛ける未来の英雄の決闘。

 これを気にならない関係者はいないだろう。普段は『刀使の戦いが目で追えないから』という理由で観戦しない刀匠のような男子たちまで、この戦いを一目見ようとテレビを見つめていた。

 

「可奈美ちゃん……?まだ始まるまで1時間もあるけど、流石にテレビの前で待つのは早すぎないかな」

 

「…………え?」

 

「だめだこりゃ……」

 

 また、あまりにも楽しみすぎて、つい開始時間を一時間も間違えてしまう者もいた。

 

「あいつが何を考えているかは知らんがちょうどいい。彼女の娘の実力がどれほどのものか、じっくり見せてもらおう」

 

 学長室のテレビを点けている綾小路の学長は、何かに期待するような目を向けていた。

 

「さてさて。私たちの脅威であるのか否か、見物デスネー」

 

「……なあ、やっぱり録画で確認しちゃ駄目か?今すっげぇ眠いし面倒なんだが」

 

「学長からの拳骨が欲しいなら構いませんケド?」

 

「……これは、面倒な事になった」

 

「ねねー」

 

 別の意図を込めた目を画面に向けた組織の者達もいた。

 

 こんな風に、全国各地で決闘の開始を今か今かと待たれている側である京奈はというと、

 

「あわわわ……」

 

 ガチガチに緊張していた。その震え具合といったら凄まじく、膝の上でトントン相撲が出来てしまいそうだ。

 

「そんなに緊張する事かなぁ……」

 

「仕方ないだろう。京奈はこういう場所に出るのが初めてなんだ」

 

 その様子を見た結芽は呆れ顔で、真希も珍しいものを見たと思いつつも結芽に言った。

 

「逆になんで結芽ちゃんは緊張しないの?!」

 

「だってどうでもよくない?」

 

「よくないよ!」

 

 ちくしょう、聞く相手を間違えた。結芽は割りとマイペースなところがあるから、こういう見られる緊張とは無縁なんだという事を忘れていた。

 

 京奈は、きっと数分後には自分が立っているであろう会場をチラ見した。そこには集められた鎌府の刀使達と、それに混じったテレビのカメラがある。

 陽光を反射して煌めくカメラのレンズの数は両手の指では足りない程だ。それが暗に京奈への期待を示していて、それを理解した京奈は目眩を感じた。

 

「……テレビでは、もう生中継が始まっている頃か。そしてこのカメラの数。そこまで注目されているという事の証明だな、これは」

 

「それだけでなく、どうやら海外のテレビカメラまで来ているようですね」

 

「えっ本当に?どこどこ?」

 

 確かに良く見れば、明らかに日本人ではない見た目のカメラマンもいた。京奈の御披露目というイベントは、日本国内だけでなく海外からも注目を集める事柄らしい。

 

「もう勘弁してぇ……」

 

「京奈ちゃんが丸くなっちゃった」

 

「大丈夫ですか新田さん」

 

「……大丈夫じゃないです。大問題ですよ……」

 

 逃げだせるのなら、今すぐに逃げだしたい。そもそも注目されるのに慣れていないのもあって、京奈の胃はキリキリ痛み始めていた。

 

「京奈?準備はよろし……なにをしていますの」

 

「寿々花さん……」

 

「見ての通りさ。もう気が滅入ってる」

 

 寿々花が控え室に入って見た光景は、部屋の隅まで移動して縮こまった京奈というものだった。

 そんな京奈に寿々花は近づくと、脇の下に手を突っ込んで無理やり立たせながら言った。

 

「しゃっきりなさい。もう紫様も到着なさいますわよ」

 

「紫様がここにいらっしゃるのか?」

 

「ええ。京奈へ激励のお言葉を掛けに」

 

 そう寿々花が言い終わらないうちに、威厳のある足音が控え室の外から聞こえてきた。そして京奈が渋々立つのと同時に扉が開かれる。

 案の定、そこには紫が立っていた。

 

「どうだ、調子は」

 

「……紫さん」

 

「京奈。緊張しているのは分かるが、呼び方は……」

 

「いや、いい。好きに呼ばせてやれ。その程度で目くじらなど立てん」

 

 ガチガチに緊張してしまっている京奈が思わず紫への様付けを忘れてしまった事を真希は咎めようとするものの、それを紫本人は許して京奈の前に立つ。

 

「……その調子だと、どうやら相当参っているようだな」

 

「…………はい。あの、やっぱり間違いだったんじゃないですか?私なんかが、紫さんみたいな凄い人の親衛隊なんて」

 

 鎌倉に来て、やっと京奈は自分が不相応な場所に立っている事に気がついた。刀使になるって知らされた時は、そんなこと全然感じなかったのに。

 だがなってから気付いたのだ。ここはもしかすると、自分如きが立っていい場所ではないのではないか、と。

 

 実際、京奈の刀使としての力は尖りすぎている。そして、その尖り具合が自身の扱いづらさを産んでいる事など、とうに知っている。

 

 もし京奈に特殊な能力が無ければ、こんな風に取り沙汰される事は無いと断言できていた。

 一刻も早い荒魂の討伐が求められるこの御時世、守勢専門の刀使の居場所など殆どないのが現状であるからだ。

 

 そして京奈のように攻撃が出来ない刀使は欠陥品という評価が下されるのが常だ。

 そうだろうな、と京奈も思っている。それは現場に出る度に感じている事であったから。

 

 攻撃が出来ないという事は荒魂を倒せないという事であり、それは荒魂が暴れる時間が増えるという事。そして暴れる時間が増えるという事は、街への被害が拡大するという事だ。

 修繕の費用は無限にある訳ではなく、また、修復中はそこは使えない。大通りから少し外れた場所なら良いが、もし電車の線路が壊されてしまうと近隣住民は急に通勤通学の手段を失ってしまう。

 

 京奈が増援の刀使到着まで単独で戦線を支えるという仕事を完遂した時、ふと周りを見て思うのだ。この壊された建造物の数々は、自分以外の誰かが此処に居れば壊されなかったのではないかと。

 

 京奈の能力があれば命は救える。だが命は救えても、さっきまであった、いつも通りの生活までは救えない。

 命あっての物種とは言うものの、その命を繋ぐためにも安定した生活基盤……つまり交通インフラやライフラインは必要不可欠なものだ。そこまで守って初めて、刀使の仕事を果たしたと言えるのではないか。

 

 破壊された街を見るたび、その思いは強くなっていった。

 

 そんな京奈の悩みを紫は完璧に見抜いたわけではないが、しかしどうやら己の才能について悩んでいるらしいという事は分かっていた。

 ここは言葉を慎重に選ばなければならない。

 

「私と初めて会った日の事は覚えているな?」

 

「えっと、はい。紫さんにボコボコにされた日の事ですね」

 

 今にして思えば、対人経験の無い自分の初戦が最強の刀使だなんて無理ゲーにも程がある。手加減されて、それでもボッコボコにされたとはいえ、よく3分も耐えられたなと京奈はしみじみ思った。

 

「そうだ。あの時の私は一刀のみだったが、しかし私を相手に耐えきったのは紛れもない事実だ。その実力は並では無い事、私は良く知っている」

 

 ぽん、と何気ない感じで紫が京奈の肩に手を置いた。それは誰も見た事の無い、紫の気安さを感じる動きだった。

 

「自分を卑下する事はない。私を相手取れる時点で、半端な才しか持たぬ者より優れている事に疑いの余地は無いのだからな。

 ……さて、そろそろ時間か。行くぞ」

 

 もちろん攻撃の才も備えているのが理想ではある。が、人間には持って生まれた才能の限界値というものがある。

 それが中途半端に割り振られた器用貧乏なステータスであるよりは、尖りまくった一点特化の方が使い道は多い。

 

 それをどう使うかは、指揮官の腕の見せどころだ。

 

「……それに、新田のような守勢専門の刀使にも役割はある」

 

「え?」

 

「なにも全員が攻撃に参加する必要は無い。個人に出来る事は限界があり、それを補うためにチームが居るのだからな。

 ……守る事しか出来ないから役に立たないなど大間違いだ。例えそれしか出来なくとも、チームに大いに貢献した刀使を私は知っている」

 

 ……これは、もしかして遠まわしに励ましてくれているのだろうか。会場に向かいながら、京奈は紫の後ろ姿を見た。

 

「だが最近は、どうもその事を忘れている者が多いようだ。攻撃こそが華、などという思想が蔓延しているからだろうが、あまりにも防御を軽視する刀使が多すぎる」

 

 攻撃は目立つ。つまり、攻撃をすればするほど自分をアピールするチャンスが多くなる。自分を上手くアピールできれば名前が売れ、就職や進学にも有利になる。もしかすると親衛隊に声が掛かるかもしれない。

 そういう思考が刀使たちの間で蔓延しているからだろう、チームを組んだ時の攻撃手の倍率は一番高い。その反面、守備手は地味だの引き立て役だの散々な言われようで、いわゆる窓際族のような扱いをされていた。

 

「京奈。私が最も信頼した刀使の一人娘にして、決して破れぬ最強の盾」

 

 であるからこそ、これから繰り広げられる戦いは刀使に大きな衝撃を与えるだろう。これは、閑職扱いされている守備手の下克上のようなものなのだから。

 

「破れぬという事がどれほど頼もしく、そして恐ろしいのかを攻撃一辺倒の馬鹿共に証明してみせろ。お前になら、それが出来るはずだ」

 





決して破れぬ(ただし結芽には負け越し)。まあ激励だから多少はね?
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