五席目の少女   作:今更とじみこにハマったマン

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お待たせしました。
日常回をまだ続けるかさんざん悩んだんですが、今回から胎動編に入ることにします。まあほら、日常回なら本編終わってからやればいいから……
ちなみにストーリーですが、アプリ版とアニメ版を混ぜて進行します。なので調査隊メンバーも出します。そして、あの変態は推しキャラなので絶対に出ます。



胎動編
踊る切っ先


 

「……んぅ……ん?」

 

 いつも通り、暖かい布団ですやすやと寝息をたてていた結芽は、何か物足りない感覚で意識が浮上した。

 微睡みの中で手を動かしてみると、シーツのスベッとした感覚を感じる。

 

「あれぇ……京奈ちゃん?」

 

 横を見れば、そこに居る筈の京奈の姿が見当たらない。

 上半身を起こして寝惚け眼を擦りながら周囲を見渡しても、あるのは積まれたイチゴ大福ネコと八つ橋ネコシリーズのぬいぐるみ達のみ。

 

 少しの間混乱していた頭は、時間が経ってハッキリしてくるにつれて落ち着いていく。そして思い出した。

 

「……そういえば、先週から部屋を別々にしたんだっけ」

 

 そう。同じ部屋を使っていた結芽と京奈は、一週間前に部屋を分ける事にしたのである。

 ちなみに、あまりにも結芽の荷物が多すぎたために、最初から部屋を使っていた筈の京奈がこの部屋から出ていっている。そして今は隣の部屋に移っていた。

 

「…………」

 

 静かすぎる部屋には未だ慣れない。すぐ近くにあった人肌が無くなった事に寂しさはあるが、結芽はどうしても、一人部屋にならなければならない理由があったのだ。

 

「……くっ」

 

 それが、これ。

 心臓がまた痛み始めた。最近では、ほとんど毎日起こっている発作だった。

 

「はぁー……はぁー……」

 

 両手で心臓のある部分に手をやって震える呼吸を必死に整えようと注力する。こうしていても楽にはならないが、こうしなければもっと苦しくなるような気がした。

 そうやってしばらく動けないでいると、結芽の胸の内から何かがこみ上げてきた。

 

「うっ!けほっ、けほっけほっ」

 

 それを堰き止めよう、なんて考える暇もなく、結芽の口から真紅の血が吐き出されていく。

 寸前に口を覆うように片手を当てられたから多少はマシだが全ては止められず、その血は真っ白いシーツに紅いシミを作ってしまったのだった。

 

 そこで一通り吐き出した後、苦しい胸を抱えながら部屋にある洗面所へと小走りに向かう。

 そこで更に洗面台に血を吐き出してから顔を上げれば、鏡に映るのは今にも死にそうなくらい顔色が悪く弱々しい女の子。

 

「ひっどい顔」

 

 吐き捨てる声もまた、信じられないくらい弱々しい。声に出した自分も、これが己の声なのか?と一瞬分からなくなるくらいだ。

 

 そのまま蛇口を捻って、出てきた水で顔に付着した血を洗い流し、続いて血の味がする口を何度も何度も濯ぐ。

 大体は洗い流せたかな。と感じる頃には、鏡の中に居た弱々しい女の子は姿を消し、代わりにいつもの自信に溢れた結芽の姿があった。

 

「……うん、大丈夫。私は強いんだから」

 

 言い聞かせるようにそう呟く。こんなものに負けるほど、まだ弱くない。

 

 まだ、弱くは、ない。

 

 奥歯を噛みしめながら、言葉にはせずに心の中でそう呟いた。

 そうしてから振り返ってみれば、さっきまでは必死すぎて気付かなかったが、ぽたぽたと指の隙間から垂れていたであろう血が、結芽の足跡を示していた。

 

「これ……京奈ちゃんが来る前に隠さないとな」

 

 ……京奈には、この事を未だに話していない。

 誰に強制もされていない。結芽は己の状況を自分の意思で黙っていた。

 

 何故かと問われれば、それは単なる意地と、僅かばかりの怯えが関係している。

 

「京奈ちゃんには、私の凄いところだけを知ってて貰わないと。じゃないと……」

 

 人の記憶は時と共に劣化する。それは何年、何十年という長いスパンを掛けてという訳ではなく、昨日の夕飯を思い出す事すら一苦労するくらいに劣化が早い。

 そんな風に移ろっていく記憶だから、普通の人との記憶なんて、すぐに忘れてしまうに違いなかった。

 

 まさか京奈が結芽の事を忘れるとは思いたくないけれど、もしかしたら京奈の将来に結芽が霞むような出会いが無いとも限らない。

 そして、その出会いの後に京奈が結芽を覚えてくれているかもまた、分からないのだ。

 

 だから京奈に結芽という存在を刻みつけて消えないようにする為にも、結芽は弱みを見せるわけにはいかない。京奈の前だけでも、最高に凄くてカッコいい燕結芽でなければならないのだ。

 

「……っ」

 

 もちろん結芽だって死にたくはない。長く生きられれば、それだけ京奈の記憶を結芽の凄いところで染め上げる事が出来るのだから、生きられるのであれば、それに越した事はない。

 だけど、これ以上は難しい。どうにか騙してきた身体の限界が刻一刻と近付いている事は、何となく察していた。

 

「あと何年……ううん、あと何ヶ月かな……」

 

 一年は難しいかもしれない。半年くらいかもしれない。いや、そこまですら持たない可能性だって捨てきれない。

 

 京奈に言えば、こんな寿命問題なんて簡単に解決出来るだろう。それが出来ると、あの主任も言っていた。

 

 しかし、どうしても一歩が踏み出せない。

 両親に見捨てられた経験が牙を向いていたのだ。生きている内に、もうあんな思いは味わいたくなかったから、だから一歩が踏み出せない。

 その痛みは、自分が存在したという事実が誰にも知られずに消えてしまう事への恐れと比べても、圧倒的に勝っていた。

 

(やっと……やっと出会えたんだから。私と同じ場所に立ってる、初めての友達に)

 

 生まれてこの方、結芽は友達という存在を作った事が無かった。それは、わざわざ弱い奴と友達になる必要性を感じなかったからだ。

 ………きっと一生できないだろうと思っていた。でもそれで良かった。弱い奴に足を引っ張られるくらいなら、最初から居ない方が良いから。

 

 だが現れた。方向性こそ違えど、自分と同じ場所に立っている同年代の子が。そんな子に対して、結芽が非常に執着を見せるのは必然だったのだろう。

 しかもそれは、今まで殆どの人に嫌われても構わないとさえ思っていた結芽が、嫌われる事を恐れて動けなくなるくらいの執着具合だった。

 

 弱い奴は嫌いだ。

 

 過去の無力な自分を見ているような気がして、酷く不愉快になるから。

 

 群れる奴も嫌いだ。

 

 弱いから群れる。しかし、塵も積もれば山となるとは言うが、どこまで行っても塵は塵。大きな力の前には無力だ。群れたところで現実は覆らない。

 

 だが京奈は、そのどちらにも当てはまらない。結芽と同等に強いし、基本的に群れることも無い。

 思い描いたような理想の相手を離したくないし、相手から離されたくもない。それは結芽でなくても思うに違いなかった。

 

「…………行かなきゃ」

 

 結芽は弱々しい足取りで扉まで歩いた。顔は普段の自信に溢れた結芽だったが、身体は正直に今の結芽の状態を表している。

 そのアンバランスさは見る者が居れば、その者に言いようもない危機感を抱かせたであろう。

 

「……ふーっ」

 

 もう春だ。桜が満開に咲き誇り、ひと時パッと輝いたかと思えば、あっという間に散っていく季節。始まりと終わりが交差する時期。

 

「ふぁぁ……ねむ……あ、おはよう結芽ちゃん。今日は頑張ろうね」

 

 自分の部屋の扉に寄りかかっていると、隣の部屋から京奈が出てくる。京奈の声に反応して、結芽はいつも通りに笑った。

 

「うん、おはよう京奈ちゃん!」

 

 口から出た声は、ほんの僅かに震えていた。

 

 

 儀式と聞けば、昔に行われた根拠の無い(まじな)いというようなイメージが一般的だ。

 昔に行われていたとされる雨乞いや、あるいは、現代では初詣や神社への参詣などがそれに当たるかもしれない。

 

 とにかく儀式というものは、大抵の場合は何やら胡散臭いものとして捉えられるものだ。

 最近では新興宗教だとか、カルト教団の怪しげな儀式という名の暴力行為によってマイナスのイメージも付属してきている。

 

 だが刀使にとっては、儀式というものは非常に大切で欠かす事の出来ないものだ。

 

 そもそも刀使には神薙ぎの巫女という別名があり、その語源は最初に誕生した刀使が巫女だったからと言われている。

 そしてノロを祀り鎮める儀式が各地で伝承されているように、そういった行事とは古来から密接な関係にあるのが刀使なのだ。

 

 つまり、刀使の世界では今も儀式が大真面目に行われていて、それを正しく行えばキチンと効力を発揮するのである。

 

「珠鎮め、お疲れ様です」

 

 そんな儀式の一つである珠鎮めを終えて祭殿から出た紫を、真希が一礼して出迎えた。そのまま歩いていく紫の斜め後ろに仕えながら、京奈を含めた5人も早朝の回廊を歩いて折神家に戻っていく。

 

 まだ陽も昇らぬ早朝。靄がまるで雲のようになっていて、まるで雲海のような光景を作り出していた。

 

眠い…………

 

 早く起きるのが苦手ではない京奈も、こんな早くから動くのは少しばかり厳しい。しかしこの後、親衛隊として重大な仕事が待っているから少し昼寝をする事も出来ない。

 

「…………御前試合かぁ」

 

 長い回廊を歩きながら、眠気でぼんやりした頭の中に残っていたワードを思わず口に出した。

 

 真希が二連覇し、寿々花が二度の準優勝を成して親衛隊入りした剣術大会こと御前試合は、毎年5月に行われる。

 剣術とか良く知らないし、強さとかも京奈はあまり興味が無いから詳しくは分からないが、要は剣術の全国大会だね。と言葉にはしないで理解していた。

 

「そして、夜見と京奈は紫様のお側で……京奈?どこ行くんだ、そっちじゃないぞ」

 

「え?あっ、はい」

 

 まだ完全覚醒していない頭で考え事をしながら歩いていたからか、真っ直ぐ行くはずの道をさも当然のように右に曲がってしまっていた。

 

「……眠いのは分かるが、今日は特に気合を入れてくれ。今日は年に一度の御前試合だ、万が一を起こすわけにはいかないからね」

 

「……気をつけます」

 

 曲がった先には京奈の部屋に通じる廊下があるので、どうやら寝たいと思われたらしい。眠いのは事実だっただけに、京奈は何も言わずに謝った。

 

「さて……それじゃあ、それぞれの持ち場に着こうか。紫様、僕達は一先ず失礼します」

 

「ああ。皐月、新田、来い」

 

「了解しました」

 

「はい」

 

 真希、寿々花、結芽の3人は会場の警護と監督に向かう事になっていた。

 これは御前試合に限った話ではないが、紫が見に行くまでもないものの誰かしらの監督が必要な時は、親衛隊の誰かしらが紫の代わりとして監督する事になっている。

 

 予選は朝の9時から始まり、紫が見ている前で行われる決勝戦は、前後するものの大体10時くらいから。

 決勝戦までの間、紫はお偉いさん達と顔を合わせて話をしたり、あるいは直前まで御前試合に関するリストなどを見ていたりと忙しく働いていた。

 

 その紫に付いて回る夜見と京奈もまた、まあまあ忙しなく折神家の中を歩き回る事に必然的になる。

 とはいっても紫とは違って特に書類仕事などは無いので、京奈は己のあくびや眠気を抑える行為に注力することが出来た。

 もし今の京奈の内面を知られたら、こんなんで護衛として務まるのかと心配されるだろうが、これでも京奈なりに気を張っている。紫の盾として前に出る準備も覚悟も既に出来ていた。

 

 

 あの日から、京奈の扱いは大きく変わった。

 エリート校と知られ、それに恥じない実力を持つ鎌府の代表を殆ど一方的に打ち倒したという事実は、京奈という刀使の価値を"能力だけが珍しい一般刀使"というものから、"圧倒的な守備力を兼ね備えた回復役"というものに押し上げたのだ。

 

 以前は京奈にはそんなに向けられていなかった畏怖やら敬意というものも、今では向けられない方が珍しいくらいになった。

 主に敬意は、チームで守備手として動いている全国の刀使たちから。逆に畏怖は、その異常性を理解できた者達と沙耶香を知る鎌府の刀使から。それぞれ向けられている。

 

 今まで日陰に追いやられてきた防御主体の刀使達にとって、京奈という存在は守備手というポジション、ひいては自分達にスポットライトを浴びる機会をくれた刀使である。

 しかも防御のみで親衛隊にまで入隊しているという事実が、彼女達を大いに奮起させた。防御のみでも上へ登れるという事が証明された事で、より訓練に熱が入るようになったのである。

 

 そして今、伍箇伝では第二の新田京奈を探して部隊の再評価が進んでいる。

 京奈の能力こそ固有のものだが、探せば京奈に匹敵するだけの守備の名手が出てくるかもしれない。頭の固い上の人間も、その可能性を認めざるを得なかったのだ。

 

 当然だが攻撃が出来ないという事に関して、一定数は反感を持つ者も居た。しかし誰も、それを表立って見せることはなかった。

 基本的に実力主義な刀使の世界で、その実力を見せつけたという事もあるが、しかし何より沙耶香との戦いが原因であった。

 

 端に追い詰められた沙耶香が突如発狂したように見えたあの戦いは、京奈に得体の知れない不気味なイメージを持たせるのに十二分の働きをしたのだ。

 まるで不思議な術を使ったかのような沙耶香の豹変具合を見て、もしかしたら自分もああなるのではないか。と考えてしまったら、誰も京奈に突っかかろうとはしなくなった。

 

 だから京奈には一部の熱狂的なファンが新たに出来た反面、それとは対照的に不気味なイメージを持たれてもいる。が、どちらにしても優秀な刀使であるという評価は下されていた。

 

「紫様……!」

 

「御当主様よ……!」

 

 決勝戦の舞台は京奈と沙耶香が戦った場所だ。紫が観覧する場所も、その時と変わっていない。会場の警護に当たっている鎌府の優秀な刀使達に一礼されながら、紫がその姿を現した。

 例年なら滅多に見られない紫に生徒達は興奮し、凄まじく注目するのだが、今年の紫に向く目線は例年より非常に少なかった。

 

「そして、あの子が京奈様……」

 

「紫様が認めた天才刀使で、未来の英雄……あの歳で凄いよね」

 

 京奈が聞けば凄まじく嫌そうな顔をすること間違いなしな会話は、幸運にもこの場で京奈の耳に入る事は無かった。

 ……そう、紫に向く目線が少なかったのは、京奈の方に殆どが向いていたからである。

 

 何処からか漏れたらしい、紫が認めたという枕詞が、京奈の注目度を凄まじく上げていた。

 

(……あれが折神紫と、新田京奈か)

 

 そんな2人を険しい目で見つめる1人の刀使がいた。

 

 平城学館の制服を纏った彼女は、決勝戦にまで駒を進めた実力者である。

 名前は十条(じゅうじょう) 姫和(ひより)。スピードタイプの刀使であり、迅移の扱いが他の刀使より遥かに上手い。

 

「双方、構え」

 

 その姫和と対戦相手の可奈美は、いつかの京奈と沙耶香のように紫の布の上で向かい合った。

 

(私の時も、こんなだったのかな……?)

 

 その様子を今度は見る側になった京奈は、そんな事を考えるだけの余裕があった。

 当事者でないというのもあるだろうが、やはり昔よりはこういう場に慣れたのだろう。

 

 そうやって穏やかな気持ちでいたからか、京奈は姫和の目線の向きが対戦相手の可奈美ではなく、紫に向いていた事に気づくことが出来なかった。

 

 そして──

 

 姫和の姿が消えた、かと思った直後、御刀同士がぶつかり合う音がした。

 その音が発生する事自体は変ではない。刀使の戦いは御刀がぶつかり合う事も多い。

 

 しかし、それが姫和と可奈美の間からではなく、姫和と紫の間から出るのは明らかにおかしな事だった。

 

「え……」

 

 きっと自分は、これまでにないくらい間抜けな顔をしているだろう。まさか真希や寿々花を抜けて紫に切りかかる刀使がいるとは、予想できなかったからだ。

 

「それがお前の一の太刀か」

 

 紫が姫和に向けて静かに言った。その言葉を聞いて、京奈はようやく硬直していた身体を動かせるようになった。

 そして、それは真希達も同じだったのだろう。姫和が飛び退き、再度切りかかろうとした瞬間に動きだした真希が背後から胸を貫いた。

 

「くうっ……!」

 

 京奈が見ている前で真希が上段に御刀を構える。容赦なく切り捨てる気だという事は、遊びの無い目から分かった。

 それは姫和も分かっていたから、真希の御刀である薄緑が振り下ろされると、もはやこれまでかと観念して思わず目を閉じた。

 

 しかしここで更に乱入する者がいた。

 真希が振り下ろした御刀を、迅移で割り込んできた可奈美が弾いたのだ。

 

「迅移!」

 

 その可奈美の行為を真希はもちろん、助けられた筈の姫和も異様なものを見るような目で見ていたが、可奈美の言葉に反応して迅移を発動。2人して門の方から逃げ出そうと走り出した。

 

「逃がすかっ!京奈!」

 

「はいっ!」

 

 当然、見逃されるわけはない。元より止めようとしていただけに、真希の号令に対する京奈の反応は素早かった。

 姫和は立っているだけでも辛いらしく、京奈の迅移で追い抜かせるくらい遅かった。

 

「逃がしません……!」

 

「姫和ちゃんは下がって!」

 

 立ち塞がる京奈に、姫和を庇うように可奈美が前に出て切り結んだ。

 

 京奈が御刀で可奈美の千鳥を弾きあげる。固い手応えと共に火花が散り、その直後に弾かれた千鳥が弧を描いて振り下ろされた。

 その攻撃を横に薙ぎ、また弾き、はね上げて、切り返す。

 

 幾度となくやってきた行為を繰り返しているうちに、京奈は何だか不思議な感覚に囚われ始めた。

 

(……なに、これ?)

 

 ふと気付いた時には、京奈の全身が、かあっと燃え盛っていたのだ。内側から溢れる熱が空気まで侵食し、それが可奈美の周りまでを呑み込んでいる。

 そして可奈美もまた、自分から飛び出した熱い何かが、京奈と自分を繋いでいるような錯覚を感じていた。

 

(こんな感覚、初めて)

 

 その熱に浮かされるまま、可奈美と京奈は無我夢中に御刀を振るった。そうやって振るった御刀がぶつかり合う度に、2人の意識は何処か遠いところへ沈んでいく。

 相手の動きに誘われて動き、その動きに誘われてまた動く。御刀は空気を切り裂き、唸りを上げるほどの凄まじい速さで振るわれているというのに、2人にはそれがスローモーションのように遅く見えていた。

 

(楽しい──!)

 

 それは果たして、どちらが抱いた感想だったのか。

 そんな事が分からなくなるくらい、2人の心は近付いていた。初対面で、しかも敵同士だというのに、まるで旧来の友人のように繋がったのである。

 

「あれは……何だ?」

 

「まるで舞のような……」

 

 そんな2人の動きは、傍から見れば舞のようだった。

 互いの技が絡み合い、一切の無駄なく繋がり、それらが全て一つの流れとして完成された舞のように、場違いにも観客を魅了した。

 それは真希や寿々花も思わず足を止めてしまうほど美しい舞だった。邪魔する事が躊躇われてしまうような、芸術品とも言えるものだった。

 

 永遠に続くかに思われた2人の斬り合いは、風が穏やかになっていくような自然さで徐々に速度が遅くなっていき、やがてスッと動きを止めた。

 京奈と可奈美は大きく息を吐き……2人にとっては長く感じられた今の戦いが、息を止めていられる程度の短い時間しか経過していなかった事に気付かされる。

 

「…………」

 

「…………」

 

 今の感覚を、相手は感じていたのだろうか。

 戸惑いと困惑が混じった沈黙を破ったのは、姫和の声だった。

 

「そいつとあまり打ち合うな!奴らの思う壷だ!」

 

 姫和のその言葉に、可奈美と京奈の両方は同時にハッと思考の海から抜け出した。こんな事をしている場合ではない、という事を思い出したのだ。

 

「ごめん姫和ちゃん、行くよ!」

 

「あっ、ちょ!?」

 

 京奈が慌てて止めようとしたが、可奈美が動く方が僅かに早かった。

 姫和の腕を掴んだ可奈美は、そのまま大跳躍をして市街地へと逃げ出したのだった。

 

「紫様を狙ったあの者達を捕らえよ!絶対に逃がすな!」

 

 寿々花の声が会場中に響き渡る。バタバタと慌ただしく走り始めた刀使達は、後を追うようにして市街地の方へと向かって行った。

 その傍らで、京奈は1歩も動かないで呟いた。

 

「今のは……何だったんだろう」

 

 まるで御刀を用いて相手と会話をしていたような、そんな気分だった。

 初めて感じた未知の感覚に戸惑いながら、京奈は暫く可奈美と姫和が逃げていった方向を見つめていた。





今回駆け足すぎない?と感じた貴方は多分正しいです。しかしアニメで描写されてるところはアニメを見ればいいので、他の描写に力を入れるためにも、ある程度は省略させていただきます。
ではまた次回
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