五席目の少女   作:今更とじみこにハマったマン

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冒頭なのでサクサクいきましょ。サクサクとね

6/2 主任のキャラ違いすぎぃ!?って事で小声部分を修正しました。なんでコイツ自分で作ったキャラクターの性格忘れてるんですかね……?



伊豆の攻防①

「確認されている症状は、倦怠感と疲労感でしたね?」

 

「はい……」

 

 折神家に戻った京奈は、紫の許可を貰って護衛を外れ、研究棟にある主任の研究室を訪れていた。

 まるで、病院で問診を受けているかのように椅子に座って主任と向き合い、自分の身に起こっている異常についての話をしている最中である。

 

「ふぅーむ……」

 

「何か分かりそうですか?」

 

 湯気の立つコーヒーを片手に主任は症状を記していく。やがてペンを止めた主任は、トントンと机をペンで軽く叩きながら言った。

 

「まだ何とも言えませんが、恐らく過労じゃないですかね。その歳で働きすぎて、身体が悲鳴をあげているのではないですか?」

 

「…………」

 

「身体を休めることをお勧めしますよ。今の新田さんは明らかに働きすぎです」

 

 両手で包むように持っているカップを、覗き込むように顔を俯かせる。コーヒーの表面に映った京奈の顔の輪郭が、ゆらゆらと揺れていた。

 

「……それは出来ません」

 

「なぜです?」

 

「満足に休めていないのは真希さんや寿々花さん、夜見さんだって同じなんです。私だけが休むなんて、出来るはずないじゃないですか」

 

 過労という可能性が無いとは言えない……というより、その可能性が一番高いかなと自分も思う。他の人より少し多く働いていることくらい自覚はしていた。

 しかし、だからといって休むわけにはいかない。他のみんなだって頑張っているのだ。そんな中で自分だけが休むだなんて、そんなことを京奈は出来なかった。

 

「高校生と小学生では、身体の作りも成長度合いも違うでしょう。あの3人が無茶しているからといって、新田さんが無茶していい理由にはなりませんよ」

 

「だとしてもです」

 

 退く気はないと、その目が語っていた。大人すらを怯ませられるような強い意志を感じる目を向けられた主任は、しかし表情一つ変えずにこう返す。

 

「ですがその調子で戦っても、却って足手まといになるだけではないですか?」

 

「…………それは」

 

「私も昔は刀使でしたから、荒魂との争いが神経を削るような作業である事を知っています。一瞬の油断が命取りになるのですから、気を張るのは当然ですよね」

 

「……刀使?じゃあ、あの御刀は……」

 

 そこで京奈は、研究室の壁に掛けてある一本の御刀を見た。最初ここに訪れた時から気になっていたものだが、まさか主任の御刀だったとは、と驚きを隠せない。

 

「ええ、私の御刀です。実地でデータを取る時もあるので、まだ返納していないんですよ」

 

「へえ……」

 

 もう30を越えた女性が刀使を現役でやっているという事にも軽い驚きを覚え、その直後に紫も似たようなものだったと思い出した。

 

「言っておきますけど、私は弱いですよ。それと燕さんには内密に。バレたら絶対に襲われますから」

 

「あはは……確かに」

 

 結芽なら絶対にやる、という嫌な信頼から生じた苦笑いと共に京奈は頷いた。そんな京奈に頷いた主任は咳払いを一つして話題をリセットすると、自分の結論を口に出す。

 

「話が逸れましたが、つまり私が言いたいのは、そんな衰弱した状態の新田さんを戦場に立たせる訳にはいかないという事です」

 

「…………」

 

「今の貴女には立場がある。折神家の親衛隊という肩書き……そして未来の英雄として向けられている期待は、貴女自身が思っているよりずっと重い」

 

 それは一度も倒される事が許されないくらいには重かった。

 

 終わりの見えない荒魂との争いに疲弊している力無き国民には、何か希望となる道標が必要なのだ。明日が今日より良くなるという、根拠の無い自信を持てるだけの強さと輝きが、この現代に無くてはならない物なのである。

 例えその道標が伍箇伝に通ってすらいなかった新米未満の年齢の子供だったとしても、それに縋ることで精神の安定を保つ者が少なくない以上は、その役目を成し遂げなければならない。

 

 その道標とは紫の事であり、現在は同時に京奈の事でもあった。

 

「貴女の肩には、全国一億人の期待と希望が掛かっているという事を自覚して下さい。貴女が倒れると、冗談抜きで日本に終わりが訪れかねない」

 

「私がそれほどの存在ですかね……」

 

「それほどの存在なのですよ。今も、そしてこれからもね」

 

 京奈はコーヒーを飲み干し、カップを置いて主任に目を向けた。

 

「言いたい事は分かりました。私が倒れる事で、多くの人が困ると言いたいんですね?」

 

「ええ」

 

「……分かりました。不本意ですけど、倒れて迷惑をかけるくらいなら素直に休みます」

 

 ここまで京奈が正直に退いたのには理由がある。

 一つは、さっき主任に言われたように、今の調子では友軍の足を引っ張る足手まといにしかならないと自覚していた事。二つは、この調子のままでは親衛隊の評判を落としかねない事。

 そして何より、自分の無茶で多くの人々に迷惑をかけてしまう事を考えると、自分の我が儘を通せないと思ったのだ。

 

「もし納得がいかないのなら考えを変えればいいんですよ。ご当主さまの警護の代わりに燕さんの子守りをする事になった、とか」

 

「…………結芽ちゃんが聞いたら怒りますよ、子守りなんて」

 

「まだまだ子守りが必要な年齢ですよ。燕さんも、新田さんもね」

 

 主任も自分のコーヒーを飲み干してカップを置くと、そのまま背伸びをしながら立ち上がりつつ京奈に言った。

 

「取り敢えず精密検査でもやっておきましょうか」

 

「え?」

 

「さっきは過労なんじゃないかと言いましたが、何か別の原因がある可能性も考えられます。一応念のために、精密検査も行うべきでしょう」

 

「でも私、まだ紫様に何も言ってない……」

 

「こちらから話を通しておきますから大丈夫ですよ」

 

 恐らく、紫もそれをダメだと言いはしないだろう。護衛だけなら夜見だけでも何とかなる。並みの襲撃者なら夜見だけで充分だし、どうせ名実ともに最強な紫を倒せはしない。それに、普段の京奈は紫の傍にいるだけなので業務に影響もない。

 そもそもの話として、厳戒態勢の折神家に乗り込んでくる自殺志願者がいるのかという疑問もあり、京奈が抜けても何の問題もないのであった。

 

「信じますよ、その言葉」

 

「ええ。信じてください」

 

 そうと決まれば、と主任は京奈の背中に手をやって歩くように促す。

 京奈の後ろをついて行きながら、主任は京奈には聞こえないように呟いた。

 

貴重なデータだから死なれても困るし

 

 

 

 正午ごろ、多くの職員が昼食のために入れ代わり立ち代わり詰めている本部室に緊張が走った。

 

「え……?」

 

 真希と寿々花が待機している厳戒態勢の中で、鎌府のオペレーターが僅かにどよめく。

 

「どうした?」

 

「横須賀基地から問い合わせがありました。えっと、南伊豆の山中にストームアーマーを射出したか、と」

 

 今の時間帯、正規のオペレーターは昼食のために8人いる内の4人にまで数を減らしている。

 もちろん4人では業務が回らないので、その穴埋めは鎌府の高校生がやっているのだが、この非常事態で使われるだけあって彼女達も経験豊富だ。

 

 そんな彼女達が、まるで初めてのオペレーター業務の時のように動揺している。

 その様子に並々ならぬものを感じ取った真希が問うが、返ってきた答えは予想だにしなかったものだった。

 

「なんだと?」

 

 寿々花に目を向けるが、無言で首を横に振っている。

 

「こちらには何の報告も上がっていない。どういう事だ……?」

 

「……あっ、横須賀基地から画像が送られてきました。モニターに出します」

 

 モニターに出されたのは、監視カメラか何かの画像だろうか。画質は少し荒いが、空を飛んでいる二つの物体の詳細が分からないほど荒いという訳ではなかった。

 

「これは確かにストームアーマーのコンテナだ。だが……」

 

 知らない。

 

 ストームアーマーは重要な装備品であることから、使用には事前の申請と事後報告の両方が必要だ。

 緊急時であれば、その旨をオペレーターに伝えて事前申請無しに射出する事もあるが、今回はそういう理由でもないらしい。

 

「寿々花。南伊豆の山中に部隊の展開はしていたか?」

 

「いいえ。そちらには荒魂も出ていませんでしたし、偵察任務に就いている刀使が居るか居ないかくらいでしょう」

 

「偵察任務にストームアーマーなんて普通なら必要ない……」

 

 それになにより、ストームアーマーなんて重要な装備品を使う時には、事実上の責任者である真希と寿々花の耳に入らない筈がないのだ。

 しかし現実として、今回の件は寝耳に水である。そして部隊が展開していない場所に射出されたストームアーマー。これらの事実から考えられるのは──

 

「まさか、ストームアーマーが盗まれたとでもいうのか……?!」

 

「射出されたアーマーは横須賀基地で管理されているものでしたわね。射出前後に、不審者などは見当たりませんでしたの?」

 

「今、問い合わせてみます」

 

 オペレーターが問い合せている間、真希は厳しい眼差しをモニターに向けていた。写っている2機のコンテナとストームアーマーは、一体誰の手で射出されたのだろうか。

 そんな事を考えていると、急に勢い良く扉が開かれた。

 

「親衛隊!貴様ら、何をやっている!」

 

 鎌府学長の高津雪那が、声を荒らげながら本部室に入ってくる。その一声で注目を集めた高津学長は、そのまま真希と寿々花に詰め寄った。

 

「ストームアーマーの件は聞いた!射出された地点が分かっているのなら部隊を動かすべきだろう!」

 

「……鎌府学長、南伊豆の周辺には刀使が多数います。部隊を動かさずとも、彼女達で対処できるならさせるべきです」

 

「現場を確認するために偵察隊を向かわせていますわ。報告をお待ちください」

 

「それでは遅すぎる!ストームアーマーを動かしたのが何処の愚か者かは知らないが、それを持ち逃げされてからでは遅いのだぞ!」

 

 高津学長の言うことにも一理ある。誰がストームアーマーを射出したのかは知らないが、明らかに持ち逃げするための射出としか考えられない。

 これが仮に、日本の優れたストームアーマーの技術を盗もうとする他国の工作員の仕業だとするなら、これは国益をも損ねかねない大事である。そういう意味では高津学長の言い分は正しかった。

 

「大体、偵察隊など出さずとも貴様たちが直接向かえばいいではないか!もし相手に並より上の刀使がいたらどうする!?」

 

「わたくし達も、出来るなら出撃したいですわ」

 

「我々親衛隊は、紫様から警護命令が出ているために動けません」

 

「……チッ!」

 

 盛大な舌打ちと共にモニターの前まで進んだ高津学長は、忌々しそうに荒い画像を睨みつけた。

 そのまま暫くそうしていると、今度はゆっくりと本部室の扉が開かれる。入口には夜見が立っていた。

 

「獅童さん。此花さん。紫様より出動命令が出ました」

 

「分かった。行くぞ寿々花」

 

「ええ……では高津学長。申し訳ありませんが、後のことは宜しくお願い致しますわ」

 

「………………」

 

 そう夜見が言うやいなや、真希と寿々花はすぐに入口に向かって歩き出した。

 高津学長は寿々花の言葉に返事を返さず、ただ黙って扉が閉まる音を聞いていた。

 

「今になって出撃とは、紫様も随分もったいつけましたわね」

 

 敷地内に敷かれた道路を歩いて車を待たせている場所まで向かう。夜見の前で真希の横というポジションで歩いている寿々花は、やっと下りた出撃命令に喜びを隠しきれなかった。

 

「紫様にも色々あるんだろう……それより、夜見が紫様のお側を離れるとは珍しいな」

 

「山中での索敵なら私の能力がお役に立ちますから、そちら目的での起用かと」

 

 親衛隊3人を同じ場所に向かわせるなど、はっきり言って前代未聞である。2人までなら部隊指揮の出来る真希と寿々花が出撃した前例が幾つもあるが、そこに夜見が加わる事は今まで無かった。

 

「結芽と京奈は?」

 

「あの2人は留守番です。燕さんは不必要な血を流しかねませんし、新田さんはどうやら過労で倒れる寸前らしいと、主任の方からストップが掛かっています」

 

「…………結芽は兎も角、京奈はそれほどか」

 

「無理もありませんわ。京奈はあの歳で、わたくし達に匹敵するほど働いていますもの。むしろなぜ気づけなかったのかしら」

 

 真希と寿々花は、反逆者騒動の影響で京奈にまで多くの仕事が舞い込んでいるのは知っていたが、それのせいで過労で倒れる寸前までだったとは知らなかった。

 2人は京奈が倒れなくて良かったと安堵する一方で、京奈にまで負担を掛けている反逆者騒動を一刻も早く終わらせなければならないと誓う。

 

「新田さんに関しては、それだけではありません」

 

「なに?」

 

「私の力を、新田さんに見られる訳にはいきませんから」

 

「……そうか。そうだったな」

 

 忘れていたが、京奈に夜見の能力の事は知らせていない。というか、京奈が知っている事の方が少ないだろう。

 京奈には教えていないし、そもそも教えてはいけないような事が折神家には山ほどあるのだ。夜見の能力もその一つである。

 

「ということは、どちらにせよ3人でのお仕事になっていたのでしょうね」

 

「そうだね。反逆者が居ると分かっているのに紫様のお側を親衛隊全員が離れる訳にもいかないし、やはり留守番をさせる事になっていたのかな」

 

 結芽と京奈という親衛隊内でも最高の組み合わせが残るのなら、防衛戦力としても不足はない。例え出撃中に折神家が襲われたとしても戻ってくる時間くらいは稼げるだろう。

 見せられない物を使うことを考えると、仮に京奈が健康であったとしても留守番になっていたに違いない。

 

「……雨が」

 

 ぽつりぽつりと地面を雨粒が濡らしはじめる。車を待たせている場所まではもうすぐだが、この調子で降ってくるとなると到着するまでにだいぶ濡れてしまうだろう。

 

「急ごう。作戦前に濡れねずみになるのは嫌だからね」

 

 そうして降り出した雨は次第に強く、激しさを増していった。

 

 この雨が完全に止んだのは日が完全に落ちきってからで、その頃には既に簡易拠点の準備は完了していた。

 

 真っ暗い夜だ。頼りになるのはぽつりぽつりと道なりに点在している電灯のみ。

 鬱蒼と生い茂る森は吸い込まれそうな暗黒を内に含みながら、そこに佇んでいる。

 

「雨、やっと止みましたわね」

 

「ああ」

 

 ここに到着してから数時間、この南伊豆の周辺を捜索している偵察隊からは衛藤可奈美及び十条姫和の姿を見ていないとの報告が届いていた。

 であるならば、あの2人はこの山の何処かに居る。

 

「さあ──」

 

 夜見は既に動き出している。そして夜見の飼う猟犬もまた、この山中を駆け巡っている。

 後は獲物が燻り出されるのを待ち、そして出てきたところを狩るだけだ。

 

「山狩りだ」

 

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