五席目の少女   作:今更とじみこにハマったマン

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1/10 珠鋼とか刀匠関係の内容を変更しました。とじとものストーリーを細かく見ないからこういう事になるんだ……


露出

可奈美(かなみ)ちゃーん。可奈美ちゃーん?」

 

 場所は変わって岐阜県。ここにある刀使を養成する訓練学校"美濃関学院"の敷地内で、友人の名前を呼びながら歩く少女がいた。

 

「あっすいません。可奈美ちゃん見ませんでした?……そうですか。ありがとうございます」

 

 途中、道行く人に聞いてみても姿は見ていないという。さあ、どうしたものかと少女は困り果てた。

 

「あと10分で中継始まっちゃうのに……」

 

 電話やメール、SNSにも応答は無し。一体どこで油を売っているのだろう。あれだけ楽しそうに今日という日を待っていたというのに。

 録画はしてあるが、可奈美は生でも見たがっていた。まさか忘れてはいないだろうが……。

 

舞衣(まい)ちゃーん!」

 

「可奈美ちゃん!」

 

 後ろから少女の名前を呼ぶ聞きなれた声がする。振り返ると、雑誌か何かを抱えた少女─舞衣の友達である可奈美が走ってくるところだった。

 

「ごめんごめん。今日発売の月刊刀使を買うのに、すっごい人がいてさー」

 

「そっか。でも良かった、あと10分で長船と平城の交流試合の中継始まっちゃうから、見つからなかったらどうしようかと」

 

 ……今ちょうど、あと9分になったところだ。

 

「えっ!嘘、そんなに時間かかってたの!?」

 

「何度も連絡したのに、1度も出ないし」

 

 可奈美がスマホを見て、「あ」と思わず声をあげた。そうしてから、気まずそうに舞衣を見て言った。

 

「ご、ごめん…」

 

「ふふっ、私は怒ってないからいいよ。でも急がないと、本当に見過ごしちゃう」

 

「あっ!い、急がなきゃ!」

 

 謝ったり走り出したりと忙しい友人の様子を見て微笑みながら後を追いかけていった。

 

 刀使を刀使たらしめる力の源である御刀は、特殊な力こそあれど日本刀である。なので、その製造は基本的に一振り一振り丁寧に職人が仕上げる昔ながらの製法で行われていた。……とされている。

 

 何故こんな曖昧な表現なのかというと、その辺りの事が記されたかつての資料が失われてしまっているからだ。消失したのか、水没したのかは定かではないし、それらが失われたタイミングは過去の大戦の時とも、それより前とも言われている。

 とにかく、現在の技術では御刀の材料である珠鋼を生産する事は不可能な事は確かだ。しかし、御刀の技術を伝承したり復元をする必要がある以上、どのみち刀匠と呼ばれる者たちは居なければならない。

 

 ここ美濃関学院は、その刀匠になるための課程が伍箇伝の中で最も充実しているといっても過言ではない。

 そのためなのか、鎌府と長船以外は共学である伍箇伝の残り3校の中でも、美濃関は男女のバランスが最も取れていた。

 

 他の学校は何処か貴族気質というか、お嬢さまお坊ちゃまが通うような雰囲気と校風だが、美濃関だけは比較的庶民的な事もウケている要因だろう。

 

「んふふー。楽しみだなー♪」

 

「可奈美ちゃん。毎月それ言ってるよね」

 

「当然!だって、これが私の楽しみの一つだもん」

 

 月刊刀使という、主に刀使関係者向けの色々が載った月刊誌は可奈美の毎月の楽しみだ。

 伍箇伝の刀使はもちろん、有名な刀使についての特集は、友人から剣術オタクと褒められるくらいの可奈美にとって最高級の娯楽なのだ。

 

「だけど、今日はすっごく混んでて。危うく売り切れちゃいそうだったんだよね。なんでだろ?」

 

 月刊刀使は人気の雑誌だが、発売日当日に大勢が詰めかけて買い漁る。という人気のレベルではない。少なくとも、当日に本屋にダッシュした可奈美が買えないなんて事になりそうだったのは、今回が初めてだった。

 

「今月は親衛隊の記事があるからじゃないかな?ほら、折神家の御当主様の」

 

 私は小耳に挟んだだけだけど。と舞衣が言うのを聞いて、可奈美はレジ袋から月刊刀使を取り出した。

 買う時は月刊刀使という文字しか見てなかったが、よくよく見れば表紙から既に親衛隊一色になっている。

 

「親衛隊って、確かすっごく強い人達で作られてるんだっけ」

 

「うん。全員が御当主様が認めた凄腕の刀使で、中でも第一席の獅童 真希さんは剣術大会で二連覇した実力者だよ」

 

 伍箇伝の5校から、1校につき2名の代表者を選出して行う剣術大会は、折神家の主催で年に一回行われる。

 そこで優勝するという事は刀使にとって大変な名誉であり、その刀使の将来は明るいものになりやすい。

 

 だが、全国から集まる猛者達を相手に勝ち抜くのは相当に難しい。一回の優勝ですら、並大抵の実力では不可能だ。

 

 それを二連覇。

 そんな快挙を成し遂げた真希の実力は凡百のものではなく、並みの刀使が複数で襲いかかったところで鎧袖を一触すらさせずに打ち倒す事が出来た。

 

「それなら私も中継で見た!あの人、本当に凄かったよねー。私だったら受けきれずに潰されちゃうかも」

 

 そして、ガードの上から叩き潰すような剛剣は真希の代名詞として知られている。

 自らは小細工などせず、相手の小細工は真正面から叩き斬るスタイルは多くの刀使の憧れのようなバトルスタイルだった。

 

「それだけじゃなくて、立ち振る舞いも凄くカッコよくて紳士的なんだって。だから全国にファンがいっぱい居るんだ。刀使にも、一般の人にもね。

 売り切れそうになったのは、その獅童さんが表紙だからじゃないかな?」

 

「言われてみれば、なんか明らかに刀使関係じゃない人も買ってたかも」

 

 その時の可奈美は月刊刀使に夢中だったので気がする止まりだが、そういえば近くの刀使関係ではない高校の制服も見たような気がする。

 親衛隊の人気とは、獅童真希の人気とは、つまりはそれほどのものだった。

 

「剣術大会といえば、今年は校内予選ギリギリ負けちゃったんだよね。あー!なんか思い出したら悔しくなってきた」

 

「可奈美ちゃんは凄いよね……。私達の代で先輩を追い詰めてたのって、確か可奈美ちゃんだけでしょ?」

 

「そんな、私なんて大した事ないって。結局負けちゃってるしさ」

 

 もう我慢できないのか、歩きながらパラパラと月刊刀使を捲る可奈美は、真希に続いて大きく取られた京奈の特集に目を引かれた。

 

「……あれ?こんな子、親衛隊にいたっけ」

 

 あまりにも表情を作るのが下手過ぎたために寿々花に指導されて、どうにか上手く表情を作ったという裏話のある写真が特集を大きく飾る。

 記憶に無いその姿に可奈美は首を傾げていると、それをチラッと見ながら舞衣が言った。

 

「その子、御当主様が自ら親衛隊に招き入れた刀使らしいよ」

 

「御当主様が?」

 

「風の噂だけどね」

 

 折神家の職員から各学園にリークされ、そして学園の職員達に広まった話は、学生達の間で既に話されていた。

 

「へー!じゃあ、この子も凄く強いのかな?」

 

「多分……。だって親衛隊だよ?選考基準も厳しくなってるって聞くのに選ばれたって事は、相当強いと思う」

 

 親衛隊に選ばれるのには厳しい選考基準がある。

 学生達の間では、そうまことしやかに囁かれていた。

 

 折神家から正式に発表された訳ではない眉唾物の話だし、事実として選考基準など紫の判断一つという無いに等しい物なのだが、そんな真実を知らなければそう考えるのは当然の事だった。

 

「歳は……一つ下かぁ。世の中こんな凄い子も居るんだねー」

 

「……戦ってみたいんでしょ」

 

「あ、やっぱ分かる?」

 

「目を見ればね」

 

 何でもないように可奈美は言っていたが、可奈美達は現在中等科の一年生。その一つ下という事は、つまり一般的には御刀に触らない歳だという事だ。

 

 そんな歳の子が全国に並み居る刀使を差し置いて親衛隊に抜擢される。

 世間一般で予想されていた、次の親衛隊入りが有力視されていた刀使ではない入隊者に、世間は大いに騒いだ。

 

 そんな彼女のバトルスタイルや彼女が使う御刀の名前。そして出身地や母親の偉業などは瞬く間に調べ上げられ、すでに大衆が知るところとなっている。

 

 つまり、

 

「なんか、凄い見られてるんですけど」

 

「まあ、そうだろうね」

 

 道を歩く度に、スーパースターの如き注目を集める事になるのだった。

 

 お昼のワイドショーで名前が出た時、京奈は飲んでいた味噌汁を盛大にむせた。

 いやなんでさとツッコミをテレビに入れた、そのお昼以降ずっとこの調子だ。何処に行っても人の目が凄まじい。

 

 いや、前から目線は凄まじかったが。しかしワイドショーに出てから、更に見られるようになった気がする。

 

「真希さんは良くこんなの耐えられますね」

 

「それも慣れだね。でも、なんで僕がこんな人気なんだろうな……」

 

「あはは……」

 

 無自覚って怖いなあ。と思いながら真希と並んで歩く荒魂討伐の帰り。今日は珍しく真希が現場に出てきていた。

 

「それにしても珍しいですね。真希さんって、普段は現場に出てこないのに」

 

「たまに身体を動かさないと鈍ってしまうからね。だから時々、こうして現場に出るのさ」

 

 指揮にばかり徹していては、いざ万一の事があった時に身体が鈍って十全な実力を発揮できないと、真希は常日頃から考えている。

 その考えの奥底には、己は紫の刃であり盾(親衛隊)。その刃が必要な時に力を発揮出来ないのでは意味がない。という想いがあった。

 

 だから指揮者でありながら、現場に自ら出てくるのだ。

 

「ところで、僕とこうして話しているって事は、今日は重傷者が少なかったって事で良いのかな?」

 

「はい。今日は普段の半分くらいで……このまま少しずつ、そういう人が少なくなるのならいいんですけどね」

 

「なるのなら、じゃない。少なくするのさ。僕たち刀使は、そのために日々戦っているんだから」

 

 荒魂の出現は未だ止むことは無い。その数を減らす有効な手立ても、まだ見つかってはいなかった。

 だが、いつかは見つかる筈だ。それが何年後、何十年後、何百年後かは分からないが、いつか──

 

「──人間は必ず勝つ。そして荒魂を必ず滅する」

 

「……そうですね、弱気になってちゃ駄目だ」

 

 僕達は負けない。そんな決意を口にした真希に、京奈も頷いた。

 

「そのためにも、まずは強くならなきゃね。帰ったら特訓だ」

 

「はいっ!」

 

 真希は京奈を引き連れて、迎えのヘリに戻っていった。

 

 さて、折神家に戻って来た2人がすたすた歩いていると、施設の警護に当たっている刀使達とすれ違う。

 折神家の敷地内には様々な機関の本部が併設されているために警備も厳重で、単一で凄まじい強さを誇る刀使も優先的に配属されていた。

 

「やった、獅童さんと会えた!」

 

「それに隣の子……御当主様が直々にスカウトしてきたっていう、あの子?」

 

「多分そうだよ!だって私、月刊刀使で見たもん」

 

「確か、お母様が20年前の英雄なのよね。母娘揃って優秀な刀使なんて凄いわよね」

 

 そんな彼女達は立場上こそ立派な公務員だが、中身はやはり普通の年頃の女子。

 2人が通り過ぎた後、声量こそ抑え目だが興奮気味に話してしまうのも仕方ないのかもしれない。

 

「まったく、弛んでるな」

 

「そ、それだけ平和って事ですよ。それに、ずっと同じ所に立ってると退屈でしょうし……」

 

「それが彼女達の仕事だ。しっかりしてくれなければ困る」

 

 仮にも折神家に所属しているのならば、その辺りの自覚が無いと困るのだ。軽はずみな行動一つが、折神家の品格というものを貶めるのだから。

 そんな事を分かっているのかいないのか。いや、きっと分かっていないだろう。

 

「後で注意しておかなければ。確かあのエリアの管轄は……」

 

「あー……」

 

 きっと怒られるだろう刀使たちに、京奈は心の中で頑張ってください。とエールを送った。

 

 

 2人が戻ってから暫くして、ノロを回収した車も折神家の中にある貯蔵施設に入った。

 汲み出し用のポンプから貯蔵庫に流れ込んでいくノロは、一瞬こそ結合しようとする素振りを見せたものの、あっという間に波立たぬ湖面のように静まり返る。

 

 このような光景は、貯蔵庫の大きさこそ違えど世界各地の貯蔵施設で見られるものだ。

 そしてこのノロが、世界各国の頭を悩ませる問題の一つでもある。

 

 何故かといえば、それは殆ど消滅しないというノロの特性が関係していた。燃やしてもダメ、超高温で溶かしてもダメ。そのくせ集まると、スライムの如く合体して荒魂と化す。

 文字に起こせば放射能なんかよりもっと重く深刻な環境汚染問題であるし、事実そうだ。

 

 国連で話し合われる内容も、大体これに行き着いたりする。先進諸国から排出されるノロの量は未だ増加の傾向にあり、その貯蔵施設は、そろそろ限界を迎えようとしていた。

 それを何処に保管するのか。保管したとして、その管理を誰がやるのか。

 

 国連が開かれる度に会議は各々の主張で混乱し、結局自国で管理するという結論に行き着くのだった。

 

「ふむ」

 

 そんなノロを見ることが出来る施設内のガラス張りスペースで白衣のポケットからタバコを取り出し、禁煙な事を思い出して戻す。

 厳しい世の中だとボヤきながら、代わりにココアシガレットを咥えて寂しい口元を誤魔化した後に、スマホを取り出した。

 

 消滅はしない。廃棄もできない。となれば、それはどうにかして有効活用するしかないだろう。

 そんな結論が世界各国で広まり、その手始めとしてノロの軍事転用が行なわれているのだった。

 

「暴動はいつも通り。でも最近多いな」

 

 今や、荒魂の脅威というのは全世界で共通する問題だ。過去──日本が鎖国を解いて開国するまでは日本固有の災害であったのに、それ以降は荒魂の発見報告が世界で見られるようになったと言われている。

 そして通常兵器で太刀打ちできない荒魂は、刀使が数えるほどしかいない地域では死神の如き存在なのだ。具体的に言えば、中東地域だとかアフリカ大陸の真ん中くらいとか。

 そんなものが跋扈するところに居られるか、ここより安全な国に避難させろという難民は後を絶たず、また、それによる暴動も発生していた。

 

 日本も他人事ではないが、周りが海で囲まれた国土と隣国との距離が若干遠いことから、陸続きの国と比べて相当マシではある。

 

「……比較対象が悪すぎるか」

 

 ノロを眺めていると、カツカツカツと靴音を鳴らしながら誰か来る。足音の早さ的に考えて、どうやら焦っているように思えた。

 

「主任!やっぱりここにいた!」

 

「おつかれー。休憩?」

 

「んなわけないでしょう!」

 

 やって来たのは主任の助手。放浪癖のある主任に胃と頭を痛ませながら日々戦う研究員である。

 

「そう大声を出すな。紫様が来たんだろう?」

 

「分かっているなら……」

 

「だが休憩というのは非常に大事だぞ。たとえ相手が紫様とはいえ、そこだけは譲れない」

 

「あなたって人は……!とにかく戻りますよ!もうっ!」

 

「はいはーい」

 

 ぷりぷり怒る助手の後ろ姿に笑みを浮かべて、主任は助手に聞こえないように呟いた。

 

「やはり、こいつは弄りがいがあるな」

 

 これは全くの余談だが、主任が彼を助手に選んだ理由は"反応がいいから"という一点だけだったりする。

 

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