プロローグ
「ねえ、貴方自由の身になりたい?」
私、ジェイル・スカリエッティは、町中で歩いていたときに突然そう言われた。話しかけたのは17歳ぐらいの少女だ。
「いきなり何をいっているのかい?」
「貴方は自由を望んでいるのではないのか、無限の欲望よ」
「!?」
それは、最高評議会派の者しか知らぬはずの自分のコードネームだ。
「君は一体?」
「そうね。管理局を嫌う者と名乗っておくわ。まあ、安心して良いわよ。私は貴方をどうこうするつもりはないわ。ただ取引を申し込みに来ただけ」
「取引?」
「そう、私達が技術提供をするので、その実戦データを貰いたいのよ」
「馬鹿馬鹿しい。そんな話に私が乗るとでも?」
私は眉を顰めながら、少女に話す。
「……まあ、良いでしょう。取り敢えずこれを渡しておくわ。これには貴方の気を変える物が入っているから。」
そう言って少女はメディアを私に手渡して、その場を立ち去っていった。それが彼女との出会いだった。
彼女から渡されたメディアには、強力な広域AMF発生装置、レリックウェポン、数種類にも及ぶAMF搭載型機械兵器など様々のデータが記載されていた。
私ですら未だ研究中の技術なのに、更に完成度を高めたデータ。驚愕すると共に私は興奮状態になった。これは私に対する挑戦状か?
私は必死にデータの内容に追いつこうと研究を重ねた。暫くして、また彼女とあい、私は彼女に取引に応じる事を伝えた。彼女も快く応じ、それからも様々なデータが提供されるようになった。
驚くべきことに彼女は、ミッドチルダ地上の管理局員で最強と呼ばれているストライカー級の騎士だった。何でも、組織の意向で管理局に潜入しているらしい。私にはそんな事はどうでもいいが。
それは、後にJS事件といわれる大事件が起こる15年前の事であった。
時は流れ、新暦75年10月
ジェイル・スカリエッティ事件。ミッド地上で起きた大規模テロは、地上本部公開意見陳述会の場で戦闘機人とガジェットの襲撃から古代ベルカのロストロギア『聖王のゆりかご』の浮上という事態にまで発展した。
管理局はそれを何とか解決したが、問題もあった。地上本部襲撃後に、スカリエッティが管理世界中のネットワークに自分の出生と管理局との繋がりや、管理局の非合法研究などの不正行為の数々を証拠付きでぶちまけた事で、管理世界中で管理局の信頼がどん底にまで落ちてしまったのだ。
「ルビア・スターゲイザー元一等空尉?」
JS事件が解決してから一ヶ月後、事件の調査をしていたフェイト・T・ハラオウン執務官が、親友の八神はやてに調査結果を話していた。
「そう、彼女はあのゼスト隊と共に8年前の戦闘機人事件の捜索で殉職した事になっていたけど、実はかなり前からスカリエッティと通じていたらしいんだ」
「それって…」
はやてが言葉を詰まらせる。
「ええ、彼女は生きているんだ。そして彼女はスカリエッティと取引をしていた反管理局組織の一員だった。でもその組織の事はさっぱり分からないんだよ。スカリエッティも全然喋らないし!」
実のところスカリエッティ自身も、その組織の事はよく知らないのだが、それを知らないフェイトは苛立っていた。
「まあ、落ち着きいなフェイトちゃん、もうスカリエッティは逮捕されたんや。大きな問題はあらへんやろ?」
「それはそうだけどね」
フェイトは憮然とする。
「でも手がかりがないから、迷宮入りだよ」
「仕方あらへん、解決できへん事件もあるやろ。所でそのスターゲイザー元一尉はどんな人なん?」
「それなんだけど、おかしいんだよ」
相違ながらデータを表示する。
「確かにおかしいで」
スターゲイザーは空戦SSランクの騎士、しかも古代ベルカ式の使い手だった。空戦SSランクといえば、なのはちゃんとフェイトちゃんよりもランクが上だ。
はやての知り合いでは、アギトとユニゾンしたシグナムぐらいしかまともに対抗できないだろう。そんな人物は何処の組織でも主力だ。それを工作員に使うなど常識外れだ。
もしくはSSランクの騎士を工作員に回しても問題ないほどの戦力がある組織なのかと思ったが、そんな組織など聞いたこともない。
ちなみにルビア・スターゲイザーは、管理局ミッドチルダ地上部隊では最強であり、評判が極めて良かった。
その十代後半ぐらいの美少女にしか見えない容姿と、優しく面倒見が良かった性格で、上司からは信頼されて、部下からは慕われていた。その上、誰にも負けない圧倒的な強さで事件を解決し、ミッド地上を守り続けた。出世にも興味を持たず、本局の引き抜きの誘いにも地上の平和の為に断った彼女はミッド地上部隊の英雄だったのだ。
それだけに彼女が、反管理局組織が送り込んでいた工作員であった事に、地上本部には衝撃が走っていた。
「まったく、身元や経歴がわからん不信人物を入れるなんて陸は何を考えてるんや。せやからこんな事になるんや」
はやては愚痴る。
しかし彼女は気付いていなかった。そもそも信用できない人物という意味では、闇の書事件の当事者というはやてと、PT事件でプレシアに従っていたフェイトは相当なものだ(ギル・グレアムのやったことが不問となった為に、はやてが事件の首謀者という扱いである)。
複数の世界を滅ぼしかねない大事件の首謀者や共犯者と、過去の経歴が不明なだけの者、どちらが信用できるかと聞かれれば普通は後者だと答える。
そもそもフェイトやはやては、大規模次元災害の首謀者や共犯者として裁かれているのが普通だ。それを役に立つからと局員にして受け入れた。それを考えれば、スターゲイザーを局員として受け入れられたのは当たり前の事だった。
「まあ、どのみち手がかりはあらへんな」
八年も前に姿を消した人間だ。今更探しようがない。
はやてはこの件は諦めることにした。それが後の崩壊を防ぐ最後の手がかりだったが、彼女たちはそれを見過ごしてしまう。