今日は厄日だ。大神内閣総理大臣はそう思った。朝一に巨大ゲートの出現という緊急事態が勃発。そして異世界からの使者が来たという一報。
先の選挙で政権を取ってこれからという時期なのに、何でこんな厄介事が自分が総理の時に起こるんだ!
大神はゲート関係の事件が先の政権で終わって安心していた。正直、あんな有事はたまった物ではないから、これからは平時の政治をすればいいと思っていたのに、この事態だ。
諸外国も日本に注目しており、どう動くか分かった物ではない。ともかく件の使者に会わねばならないだろう。この状況で、「会うつもりはないのでお帰り願う」とは言えない。そんなことをしたら周りから叩かれるからな。
そんなわけで見た目10歳の少女にしか見えない異世界からの使者アズライト氏を国会に招くこととなった。これにはちょうど国会がやっている時期であったことと野党からの要求が大きかったからだ。
そこでアズライト氏が議員達に説明した内容は、ブリタニア帝国とはブリタニアと呼ばれる異世界で約2000年前に建国された国家であること。帝国は1400年前に別の世界に移動する技術を開発したこと。それと帝国ではその異世界転移技術、通称ユグドラシル・システムを使って異世界に勢力を伸ばすといった事は積極的に行っていないことだった。
ここで「門を開くことが出来るのならば、大々的に異世界に進出できるのでは?」という疑問を抱いた議員に対して、異世界には土地や資源、そして新たなる市場などがあるが、ユグドラシル・システムはあまり使い勝手がよくないため問題があると言われた。
何しろ大規模な設備が必要で、一つの世界につき一箇所しか輸送路を確保出来ない上に、その輸送路も大きさに制限があり、このためコストと運用に難がありすぎる。
それなら異世界に進出するよりも宇宙開発に力を入れた方が効率がいいという話だった。
ちなみに別の下位世界ではベルカ式魔法は使えないためブリタニア貴族達が異世界進出に興味がないという地球側が知らない裏事情があったりする。ごく一部の下位世界を除けばまったく使えないので、三千世界におけるベルカ式魔法の互換性の悪さは定評があったのだ。
とはいえ折角開発した異世界転移技術を有効活用しないのも勿体ないので、異世界の調査の為に『三千世界監察軍』という皇帝直轄機関が発足されて、以後1400年かけて監察軍は数多の異世界を調査してきたらしい。
少なくともブリタニア帝国では表向きはそう説明されていたが、実際は各世界のトリッパーの支援だけでなく、異世界の知識、技術、情報を収集というのも監察軍の大切な役目だ。
ブリタニア帝国は、新しい試みとして表だってこの世界と接触しており、念の為にブリタニア帝国本国の世界と直接ゲートを繋げるのではなく、別の異世界にある無人惑星にゲートを設置していた。
その現地惑星イズモの情報は、アズライト氏の提供してくれた資料に地理、資源情報、生態系などが書かれていた。
その後、やはりというか議員達からアズライト氏の年齢に関する疑惑が出てきた。彼女はどう見ても10歳ほどの少女にしか見えないが、普通そんな少女を使者にするわけがない。
しかし、前回のゲート事件で異世界人の年齢は必ずしも外見と一致するわけではないと学習していただけに、好奇心が押さえきれず、ある議員が質問すると、「42歳」という答えが返ってきた。
途端に周囲がざわめく。不老不死といった声も聞こえた。前例があるとはいえ、見た目10歳の子供が実は42歳というのはショックが大きい。
アズライト氏が言うには、帝国では不老長寿に関係する技術が発達しているらしい。
不老長寿の技術か。確かに特地でも長命な種族はいたが、帝国ではそれが技術として確立しているのか。これは人によっては興味深い内容だろう。というより世の女性たちが黙っていない。
と、ここまでは良かったが問題は次の言葉だった。
何と日本政府がゲートの向こう側に興味があるのならば、自衛隊をいくらかイズモに送ってもかまわないといい、おまけに皇帝陛下の許可も貰っていると言われたのだ。これには大神も困惑した。何故、自衛隊を送るのを認めるのかと。
普通は自国に他国の軍が立ち入るのを嫌い、入国は民間人に限ると制限をするはずだと疑問に思ったが、イズモは知的生命体がいない無人惑星で、そのかわり危険な野生動物は豊富にいるので、非武装の民間人では荷が重く自衛隊の方がいいらしい。確かに危険な野生動物がうじゃうじゃいるならば民間人では無理だろう。
これによって、議会は惑星イズモに自衛隊を送るべきだという意見と、送るべきではないとの意見に二分したが、現地の安全性からやはり自衛隊を送ることになった。
「それで各国の反応はどうなっている?」
「はい、総理。現在イズモに調査隊を送りたいとの要望が殺到しています」
やはりというか何というか。ブリタニア帝国という異世界の国家が日本と接触してきたという事実は各国を大きく刺激していた。そして日本が異世界(しかもゲートを開く技術を保有する国家)との交流を独占している状態に不満が起こっているのだ。とはいえ各国とも先の大震災の影響でろくに動けない。
何しろ世界的にも耐震体勢が整っていた日本はともかく、それ以外の各国は大震災で受けた打撃が大きかった。こちらにちょっかいをかけてくる余裕すらないというのが実状だから断っても問題ないだろう。
しかし、政府はそうでも国内外の資本家はまた異なる反応をしていた。異世界国家との平和的な接触(少なくとも現時点では)と地方の田舎町に現れた大規模ゲートの存在はそれだけ大きい。
前回の銀座ゲートは、場所が首都東京の一等地であったために普段から渋滞気味な上、道路事情を弄りようがない。とどめにゲート自体もとても小さく輸送が不便極まりないと、交通面が絶望的に悪かったが、今回の福岡ゲートは違う。
交通事情は悪くないし、更に道路を拡張する余地は十分にある。おまけにゲートも縦横ともに200mというとんでもない規模なのだ。これなら物資の輸送も容易いと思われ、それだけに彼等の期待も大きく、それは東証株価の高騰という形で現れていた。
日本にとって好都合なのが、件のゲートは帝国が管理権を有するという現状だ。
これはアズライト氏が、ゲートはブリタニア帝国の技術によって展開されているものであり、その維持に必要なエネルギー供給も帝国が賄っており、もし帝国がゲートを維持する為のエネルギー供給を止めればゲートが消えることを述べ、ゲートの全権限は帝国にあると主張したことが大きい。
何しろ、各国がいくらゲートを国連の管理下にしようと主張しても、相手を怒らせるといきなりゲート封鎖という事態になる。つまり全てのカードを相手が握っているわけで、これでは何も言えない。その為、日本政府はゲートの管理権問題で各国と揉めずに済んでいた。
「何はともかく調査隊の報告で状況も動くでしょう」
「そうだな」
アズライト氏から提供された惑星イズモの資料をもとに現在自衛隊が現地で調査をしている。その報告待ちであり、報告内容によっては今後の対応を決めねばならないだろう。