「東京ね。やっぱり人混みが凄いわね」
ブリタニア帝国帝都ヒルデガルドも膨大な人口を誇るブリタニア帝国の都だけあって人口が多かったが、東京は人口密度だけならヒルデガルドを圧倒している。これはどう考えても東京の土地が狭すぎる所為だろう。なにしろ帝国は土地が有り余っているから、わざわざ狭い土地で窮屈な思いをする必要などない。
「それに何でもかんでも首都に集中させれば良いという物でもないのだけどね」
「これは手厳しい」
アズライトの言葉に伊藤が苦笑する。
日本政府がアズライトと交渉することを決めたために、伊藤はアズライトとそれなりに面識があるということで上官から案内役をやらされることになった。
「まあ、首都なんて首都機能さえあればそれでいいのだから、何も経済と金融の中心地である必要はないわ」
「確かにそうだね」
ブリタニア帝国の経済と金融の中心地は勿論帝都ではない。帝国はそういった物は分散させているのだ。
これは非常時にそれらを一気に潰されないようにするという危機管理の意味もあるが、それらを過度に集中させることで、それらが機能不全になるのを恐れたからだ。これは帝国の国家規模があまりにも巨大過ぎるためだ。分散してなんとか管理しているというのが実状だ。
ブリタニア帝国が建国されて2000年以上が過ぎ、国家規模を拡大し続けてきたが、そろそろ限界が近づいている。そもそも一国家で統治できる規模は限られている。いくらチートな超大国でも無限の領域を支配できるわけがない。
現在は53の銀河系を領有しているものの既に息切れ状態で、それどころか領有している銀河系にしても半分も実行支配できていない。これでは、とてもじゃないがブリタニアに存在する数多の銀河系全てを支配などできはしない。
帝国が地方の封建貴族達に多くの権限を与えて地方分権を進めているのも、国家規模が肥大化しすぎていて中央集権ではやっていけないからだろう。国の規模が大きくなれば、やるべき仕事もそれに比例して大きくなるのだから当然だ。
「指定の場所はあそこだけど、本当にマクドナルドで会談するのか?」
「意外性があるでしょ? 下手にこそこそするよりも意表を付いた方が良いよ」
「そういうもんか」
日本政府高官との会談は、総理官邸などの政府施設では行わない。そんなことをすれば私が日本政府と会談をしたことが知れ渡ってしまい、それでは機密を守ることができない。
しかし、旅館とかでコソコソ話すのもあまりよくない。この場合意表を付かないといけない。だから私たちはマクドナルドに入店して、四人組の席に座った。
「相席よろしいですか?」
「ええ、いいですよ」
そこに見知らぬ男が私達の所で空いている席に来た。手筈通りだ。
「しかし、随分と変わった場所を指定しましたね」
「私たちは、食事中にたまたま相席したというわけですわ」
「そうですね」
その言葉に外務大臣が苦笑する。彼は日本政府の交渉人である。たまたまマックであっただけ、という形式を整えるためにこんな猿芝居をしていた。
「まあ、長話をしても仕方ないので単刀直入でいきますが、そちらの用件はイズモの資源についてでしょう?」
「はい。是非とも帝国と交渉をしたいのです」
「しかし、あの惑星は皇帝直轄領です。事前に皇帝陛下から許可されている事以外は、私の一存では何もいえません」
ここでは余計な言質をとられないように、言い回しに気を付けないといけない。間違っても勝手に許可など出してはならない。
「では、どうすればよろしいでしょうか?」
「帝国政府ではなく、皇帝陛下と直接交渉するしかありませんね」
帝国直轄領に関して他国と交渉するとなると、監察軍は勿論だが帝国政府ですら勝手に交渉などできない。
「では、帝国に使者を送る事はできませんか?」
「残念ですが、皇帝陛下の許可なしで本国が存在する世界に外国人が立ち入る事は禁じられています。破れば問答無用で死罪ですし、それに陛下はあなた方に許可を出すつもりはありません」
アズライトは外務大臣の言葉を否定する。国防の問題から、外国人にはブリタニアの正確な位置は機密とされている。
ジュエルシードのように宇宙その物を容易く崩壊させるような危険極まりない代物が実在する世界なのだ。万が一それらを使ったテロなどおこされたら極めて危険だし、いきなり帝都で大量破壊兵器を使用されるリスクもある。そのため帝都ヒルデガルドどころか、帝国が存在する宇宙に立ち入る事さえ認められていない。例外はアズライトの様な監察軍のメンバーか、皇帝の許可を受けた者だけだ。
帝国では昔からその傾向が強かったが、監察軍創設以降は更に強まっていった。かつてはブリタニアにたまたま紛れ込んでしまった次元漂流者を元の世界に返していたが、現在では次元漂流者は機密保持の為に社会秩序維持局に処分されている。
「ですから、皇帝陛下とお話をしたいとなると、陛下に直接地球に来ていただく必要がありますが、護衛戦力もなしではそれも難しいです」
「護衛ですか」
「ええ、日本政府が皇帝陛下の為に帝国の護衛戦力の派遣を認めるのなら、交渉を申し込むこと自体は可能だと思います」
ここで外務大臣は考え込む。日本国内に他国の兵力を受け入れないといけないワケだからね。
帝国本土に交渉人を派遣することを拒否され、実質的には交渉は日本で行うと通達された。ここで拒否すれば交渉は拒絶されることは理解できているのだろう。だからメリットとデメリットを天秤に掛けているのだ。その結果、問題ないと判断したのか表情に余裕がでてきた。
恐らく彼は帝国の文明レベルを低く見積もっているのだろう。皇帝の護衛戦力=精々中世の騎士団程度という考えなのだ。それならいざというときは自衛隊で排除出来ることは先のゲート事件で実証されている。
それは間違ってはいないだろう。ブリタニア帝国の文明レベルが本当に中世レベルであったならね。
「それで護衛戦力を受け入れて皇帝陛下と交渉を行うのならば、その旨を総理大臣が公表してもらいたい」
「それは…」
「どのみち護衛戦力を連れていく以上、極秘行動は不可能です。なら事前に国民に説明しておくべきでは?」
日本政府としては秘密裏に交渉を進めておきたいのだろうが、それは無理だろう。それに日本政府が護衛戦力の受入を許可したと公表することに意味がある。そうなれば後々都合が良い。
「それは、私の独断では決められません」
「なら総理や他の閣僚達と相談すればいいでしょう。別にこの場で決めて欲しいワケではありませんから」
「わかりました」
シドゥリside
「そう、日本は餌に食いついたか」
『はい。これで陛下がこられる準備が整いました』
モニターには今回の計画を主導しているアズライトがいた。
「ふむ、では五個艦隊を連れて行く」
『五個艦隊も連れていかれるのですか?』
アズライトがやや驚いた顔をしていた。それはそうだろう21世紀初頭の地球など相手にならない弱小勢力にすぎない。それなのに五個艦隊十万隻もの宇宙艦隊は明らかに過剰戦力だ。
「砲艦外交というものだ。戦いを挑むのも馬鹿馬鹿しい圧倒的な差を見せ付けて一気に押すのだ」
『……なるほど確かにあの世界ならば、それが一番手っ取り早いですね』
ゲート世界の地球は、本格的な宇宙進出ができる文明レベルではないが、宇宙艦隊という概念はあるから、それを見せ付ければ圧倒的な力の差を理解する位はできる。そうなれば下手な手を打てないだろう。
「まあ、後で連絡をしておく、ご苦労でした」
『はっ』
用は終わったので、こちらから通信を切った。通信の場合、上位者や上司の方から切るのが礼儀なので、この場合はシドゥリが切らなければならない。
さて、これで準備が整った。これから相手をする世界は原作通りならば日本は問題ないだろうが、外国はいろいろと厄介だろう。その為にも抑止力がないといけない。
帝国という前例がある為か、日本を含めた諸外国はブリタニア帝国を侮っている。そうなるように意図的に情報を隠蔽したのだが、アズライトは上手くやってくれたようだ。後は圧倒的な力を見せ付けて大ショックを与えればいい。
かつての黒舟来航のように、こういうのはインパクトが大きい方が良い。事前にある程度覚悟した場合と、そうでない場合では違うからな。意表を付かれて狼狽える地球人たちを想像しながら、シドゥリは微笑した。