地球。それは人類発祥の地であり、日本を含めた国々が存在する惑星。その地球近郊で戦艦、巡洋艦、駆逐艦、空母、ミサイル艦などで構成させている五個艦隊十万隻もの宇宙艦隊が現れた。
ブリタニア帝国軍正規艦隊。それはブリタニア帝国が他の下位世界との戦争に備えて整備している艦隊である。
通常、二万隻で構成された正規艦隊は十八個存在しており、ユグドラシル・システムにより数多の三千世界に送り込まれる帝国の剣である。それは国内の護衛や治安維持を目的とした警備艦隊や警備隊などとは方向性がまったく異なる。
もっともブリタニア帝国は大規模な戦争をほとんど経験していないため、訓練ばかりの艦隊でもあったが、三千世界においてもブリタニア帝国の力はずば抜けており、対抗しうる国家は滅多に存在しない為問題になっていない。
またブリタニア帝国の艦隊編成は『銀河英雄伝説』を参考にしており、平時こそあの世界における銀河帝国の1.5倍程度の規模にすぎないが、戦時になればその百倍の規模まで拡大できる。
これはブリタニア帝国が、ゴールデンバウム王朝銀河帝国の約百倍の人口を誇る上に、省力化が進められており国力に至っては数千倍にもなっているからだ。
この大規模な宇宙艦隊はステルス処置を一切やらなかったので、当然ながら地球各国では大騒ぎになった。
地球各国には、異世界からブリタニア帝国の皇帝が護衛戦力を連れて地球にくるという情報は伝わっていたが、十万隻もの大規模な宇宙艦隊がくるなど完全に想定外だった。というよりも日本国を含めた地球側はブリタニア帝国の文明レベルを過小評価していた。
前回のゲート事件で、異世界の国家が中世レベルであったことから、ブリタニア帝国も文明レベルが低い国家だと思いこんでしまっていた。それゆえ護衛戦力も中世の騎士団と予想していたが、彼らの考えはまったくの的はずれであった。
もちろん、アズライトもブリタニア帝国の情報を意図的に伏せていたし、自衛隊が調査していた惑星イズモは文明がまったく存在しない無人惑星であったのだから、地球各国がブリタニア帝国の文明レベルを把握できなかったのも無理はないだろう。
地球各国は、ブリタニア帝国がブリタニアと呼ばれる異世界において2兆5000億人もの総人口を持ち、53の銀河系を領有する銀河間国家であるというとんでもない情報を知り恐慌状態になった。それは、まさに化け物国家と呼ぶしかないとんでもない超大国だった。
そんな大艦隊の中から一隻の円盤形の巨大宇宙船が東京を目指して地球に降下していった。
喧騒。現在の日本政府は正にそうなっていた。
確かに彼らはブリタニア帝国から要人が来訪することは知っていたが、彼らはゲートからやって来るのだろうと思いこんでいたのに、宇宙から大艦隊を率いてきたのだ。
そこで私が地球に展開している艦隊が、ブリタニア帝国軍であることを日本政府に教えてやったが、その時の彼らの驚愕ぶりは相当な物だった。まさに開いた口が塞がらないとはこのことだろう。
日本政府はブリタニア帝国との交渉を有利に進めるために、自衛隊を展開して日本の軍事力を背景に圧力を掛けようとしていたが、自衛隊など何の役に立たないカカシにすぎないと理解させられたのだ。
実際、帝国にとって自衛隊の戦力など無に等しく、近代兵器で武装した軍隊に対して竹槍で戦いを挑むような圧倒的な格差があった。このような状態で自衛隊を見せても鼻で笑われるだけである。
話は数日前に遡るが、惑星イズモの資源を欲した日本政府は、ブリタニア帝国と交渉することを決めて、私を東京に招致した。
最も、「私はただの代理人にすぎないので、資源の権利などは決定権がない」と説明したが、それで日本政府が諦めるわけがなかった。「帝国の上層部の人間と交渉したい」と言い出してきた。これは私にとっても好都合だった。というよりもこの為にわざわざ餌を見せ付けたのだから。その為、何回かの接触を経て皇帝陛下に地球に来て貰う段取りを整えた。
今のアズライトはいつもの青いゴスロリではなく、赤色で統一した上着にミニスカート、ついでにニーソックスを着ている。これは監察軍の制服で、特にこの赤色はアズライトがトリッパーであることを示している。
監察軍では、赤色の制服を着ていればトリッパーで、緑色の制服ならばトリッパーではないという風に、制服の色でトリッパーであるかそうでないかを識別されていた。
監察軍の制服は、男性は緑色か赤色で上着とズボンになっているが、女性の場合は緑か赤で、上着とロングスカートorミニスカートといった感じであるが、スカートの種類に関しては色さえ合っていれば自由に選ぶことができ、ミニスカートにしても女子高生風スカートやOL風スカートもあり、アズライトは動きやすい女子高生風のスカートにしている。ちなみにパンティストッキングやニーソックス、靴下などの選択は自由となっている。
アズライトは外見年齢が低すぎて監察軍の制服がいまいち似合わないから普段はお気に入りのゴスロリ服を愛用しているが、監察軍本部や皇帝立ち会いの公式の場ともなるとそうもいかず、こうして正装を着なければならなかった。
そしてアズライトが見上げる東京の上空には、先程宇宙から降下してきた巨大な円盤形宇宙船であるレッドノア級超弩級戦艦が待機していた。その艦はかつて聖王のゆりかごと呼ばれた聖王専用の質量兵器の流れを汲むブリタニアの巨大戦艦である。
直径は14.8㎞と原型となった『不思議の海のナディア』の衛星都市レッドノアより一回り大きく、主砲であるバベルの光の変わりに、超大型の重力波砲が次元跳躍兵器として採用されている。ぶっちゃけると反則的なまでに強力な戦艦な上に、威圧感があるので砲艦外交にも使える戦艦だ。
これを例えるならば、黒舟ならぬ赤舟来航という事かもしれない。
東京上空で待機しているレッドノアの真下で、トラクタービームが放たれて、リング状のエフェクトと共に数人の少女たちがゆっくりと地上に降下してきた。これは『不思議の海のナディア』のデウス・ウキス・マキナに搭載されていた牽引光線を改良した物で、このトラクタービームは実用性よりも「何かSFみたいで恰好良いね」というシドゥリの好みで採用された装置だった。
「アズライト氏、彼女たちは?」
「皇帝陛下と親衛隊の方々です」
「彼女たちがそうなのですか!?」
おや、驚いているようだ。そういえば帝国の支配層である皇族と貴族たちの情報も伏せていたので、外見を伝えていなかった。確かにいきなり女子高生ぐらいにしか見えない美少女が超大国の皇帝ですといっても普通は信じないだろう。
ちなみに近衛兵は平民であるが、親衛隊は軍人貴族で構成されている。親衛隊は、いまだ貴族になって経験が浅い者達が大半であるが、いずれも高ランクの騎士と石仮面の吸血鬼の能力を兼ね揃えた少女達だ。
「ブリタニア帝国の皇族と貴族は外見と実年齢が一致しないので、外見で判断しない方がいいですよ」
アズライトは日本政府高官にそういうと、シドゥリに視線を向けた。白いドレスの上に纏った黄金の鎧とシドゥリの長い金髪が陽光を受けて光り輝く。それはまさに皇帝としての華に溢れた姿だ。
紫外線を遮断する騎士甲冑を纏っているために、覚醒者でありながら太陽の下で動ける彼女は、昼と夜の支配者としてブリタニアに君臨している神聖不可侵なる皇帝であった。
アズライトはそんなシドゥリの元に近づいて跪いた。
「皇帝陛下。陛下のご到着を、このアズライト心待ちにしておりました」
「うむ、アズライト此度の働きご苦労だったな。余も報告は聞いておる」
「はっ、有り難き幸せに御座います」と、アズライトはへりくだって対応する。
本来、シドゥリとアズライトは同じトリッパーだから、こうもへりくだるのはアズライトとて本意ではない。
しかし、現在は地球とブリタニアの会談という公式の場であるし、ここにはブリタニア人と地球人の目がある。それを考慮すると最低限態度を弁えないといけない。公式の場というものは、どうしても制約があるのだ。
シドゥリの護衛として同行している親衛隊も、アズライトの制服を見て監察軍の人間であると気付いており、アズライトとシドゥリの会話を邪魔だてしない。こういうときは制服というのは便利だ。服を見れば相手の立場が分かるのだから。
そして、皇帝陛下が日本政府の方に向かうとアズライトは立ち上がる。
これでアズライトの仕事も終わりである。と考えていたが、どうもそうはいかないようだ。シドゥリに日本のマスコミが群がりだした。しきりにカメラのフラッシュが光っているが、それ帝国じゃ不敬罪扱いされるぞ。これは放置できない。前世の記憶を持つシドゥリはともかく、狂信的にまでシドゥリを崇拝している親衛隊は無礼討ちにしかねない。
「陛下に対して無礼な! 下がりなさい!」
アズライトはシドゥリの前に出て、無礼なマスコミを怒鳴りつけた。人目があるところで、怒鳴り散らすのは良くないが無礼討ちをするよりマシだ。まったく、なんだって相手を弁えないんだ。こいつらは馬鹿か?
「報道の自由の侵害だ!」
「国民の知る権利を侵害しているぞ!」
訂正。馬鹿じゃなくて大馬鹿者だ。
こいつらは、シドゥリが地球など軽く吹っ飛ばすことができる超大国の皇帝だと理解できていない。よほど日本で甘やかされていたのだろう。
確かこの下位世界の原作では売国奴がのさばっていたから、最初から期待はしていないが、さすがにこれはないだろう。ブリタニアでは考えられない事だ。
ちなみに帝国でこんな事をすれば不敬罪で即死刑。それにマスコミも厳しく躾けられているというか統制されているから、この様なこと自体がありえない。親衛隊が切れかかっているのがよく分かる。
「……そういえばそういう国だったな。すっかり忘れていたよ」
シドゥリが呆れた様子で苦笑いしていた。この世界の日本は良しも悪しも前世の日本と類似している。彼女にとっては2000年以上前の事だから確かに遠い過去の事であるし、私にとっても数十年も前だから記憶が薄れている。
「どうやら、この世界の連中とは話す価値もないようだな」とシドゥリは転移魔法を使ってその場から転移して、続いて親衛隊もマスコミを一瞥して転移した。
こうして会談は一時中断されることになる。
解説
■シドゥリの騎士甲冑(2031年版)
騎士甲冑とはミッドチルダ式魔法のバリアジャケットに相当するベルカ式のバリア系魔法の一種で、魔導師本人がデザインを自由に変更できるため、シドゥリは二千年以上もの間様々な改良や修正を繰り返してきた。覚醒者達によって騎士甲冑の最大の役割は紫外線の遮断であるが、シドゥリの騎士甲冑は強力な防御性能を誇る。現在は青いレオタードの上に白いドレスと金色の軽装鎧を纏うという三重構造にしていて、必要に応じて甲冑を解除できる。スピードを重視したり魔力の節約するときは金色の軽装鎧を省いて、レオタードとドレスの状態で活動している。ちなみにシドゥリの場合は一番下のレオタードに紫外線遮断効果を付加している。
あとがき
円盤形の宇宙船をトラクタービームで出入りするというのはロマンです。シドゥリだけでなく、トリッパーが使う宇宙船では割と使われています。「トラクタービームはいいね。SFが生み出したこだわりの極みだよ」byシドゥリ