ブリタニア帝国記 If編   作:ADONIS+

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その十二(シドゥリ暦2031年)

 恒星シリウスを中心とするシリウス星系に、その船はいきなり現れた。監察軍所属巡洋艦カキツバタ。アズライトが使用しているカキツバタは、全長300m級でブリタニア帝国軍の基準においては巡洋艦に分類されるどちらかといえばコンパクトな艦であるが、十分な性能は保有している。

 

 今回のゲート地球とブリタニアを繋ぐゲートはシリウス星系に設置していた。設置といってもそれは船を転送する一瞬だけで、その後はすぐに消去するのだが…。

 

 この位置は監察軍にとっては地球から最寄りの場所であるが、恒星間航行技術を保有していない地球の文明レベルでは絶対に干渉できない遥か遠い場所であった。アズライトは、万が一にもブリタニア本国に干渉させるのを嫌ったので、わざわざそんな場所にゲートを設置していた。

「ゲートを無事に突破したわね。スサノオ何か問題はある?」

『アズライト何も問題ないよ』

「そう、それは良かったわ」

 最もユグドラシル・システムを使った異世界転移は1400年もの時間によって既に技術的に成熟しきっているので、今更問題が起こるわけがない。

 

 ちなみにスサノオとは、私が『機動戦艦ナデシコ』の世界にいた時代に育成をしたオモイカネ級スーパーコンピュータである。カキツバタが撃沈しても生き残り、私と共に監察軍に渡った相棒である。というよりもマシンチャイルドの能力を発揮するためにはスサノオが必要だった。スサノオも監察軍で大幅に魔改造されているので原作とは違うのだよ。

「というわけで東京にはすぐに付くよシドゥリ」

「そう、それはよかったわ」

 アズライトは、カキツバタのブリッジにいるシドゥリに話しかけた。

 

 今はブリタニア人も地球人もいない。この場には私たち二人とスサノオだけなので、礼儀に気をつける必要はない。

「スサノオ、日本政府にはすでに話をつけているので、東京上空にこのまま直行してね」

『わかったよ。アズライト』

 素直に従い地球に進路を向けるスサノオ。男性型の人格をしているせいか私に懸想しているらしく、時々私に好きだとか言う困ったちゃんですが、まあいいでしょう。仕事はきちんとしてくれますから細かいことまで文句はいいませんよ。

「ふう、まさかイズモの領有権をこんなに早く切ることになるとは思わなかったわ」

 アズライトは予定外の事に溜息を零す。

 惑星イズモの領有権。それはシドゥリや監察軍にとって大きな外交カードで、これが早々に切られたのは大韓民国の滅亡が原因だ。

 

 あの処置はブリタニアにとっては当たり前であったが、地球各国ではそうではない。当然ながら、ブリタニアの行動に反発する意見が出てくる。

 

 そういった脅威論を押さえるためにアメを与えることにしたのだ。とはいえ事が事であるので、アズライトが代行してやるわけにはいかないので、シドゥリに再び来て貰う事にした。

 ブリタニア帝国皇帝直々に日本国への惑星イズモの領有権の譲渡と領有の承認をやるというのは、日本国に対して「これだけ配慮してあげているんだぞ」という意思を示すという政治的に大きな意味がある。規模が馬鹿でかいから日本政府には大きなプレッシャーになるでしょうけど。

 

 今回は前回の様な大々的な護衛付きではないし、レッドノアも使っていない。私のカキツバタで送ることにしている。

『ついたよ。アズライト』

「そう、ご苦労様。では、フィールドを解除してハッチを開いて」

『わかったよ』

「では、シドゥリ参りましょう」

「そうね」

 東京上空2000mに待機しているカキツバタから私とシドゥリは飛び降りる。アズライトは未元物質の翼で、シドゥリはベルカ式魔法で東京上空を飛行した。

大神side

 東京上空に一隻の宇宙船が浮上している。アズライト氏から今回は300m級の宇宙船で東京に行くと伝えられていたので、予定通りといえた。

 

 アズライト氏は、今回もマスコミを遠ざけるように念入りしていた。マスゴミはアズライト氏が提供した資料(様々な不正を記している)を元に捜索されて今では自分たちが記事のネタになっていた。というよりも、アズライト氏はこの時期に合わせてマスゴミ潰しをしていた。

「あれが監察軍の巡洋艦か」

 アズライト氏によるとユグドラシル・システムに対応した様々な異世界を渡るための船という話だ。前回に比べれば小規模であるが、あれはれっきとした軍艦だ。

「どうやら来たようだな」

 カキツバタから二人の少女が降りたのが、大神にも確認できた。二人はパラシュートを持っているわけでもないのに生身で空を飛んでいた。人は鳥じゃないから、空を飛べないが、それはブリタニアだからこっちが理解できない技術を使ってもおかしくないと納得させた。

 

 そして大神のいる首相官邸前に着地する二人。一人はアズライト氏だから問題ない。

 

 しかし、もう一人はブリタニア皇帝だ。金色の髪にオッドアイの瞳という特徴的な外見を持つ見た目は白人の女子高生にしか見えない美少女だが、彼女は2047歳とブリタニアの最年長者でもあるらしい(トリッパーの中にはシドゥリよりも高齢な者もいるが、彼らはブリタニア人ではない)。

 

 それに対してこっちは百年も生きていない小僧でしかない。見た目でうっかり年下扱いしたら雷が落ちる。

「皇帝陛下このたびのご訪問、誠にありがとうございます」

 まず、頭を下げる。皇帝がわざわざ出てきているのだ。それが礼儀というものだ。それに国家間の力関係もそれに関係している。ブリタニア帝国の不興を買うなどできない。

 実は今回の皇帝訪問は日本政府にとっても計算外だった。

 

 切欠はアズライト氏が「ブリタニア帝国が近々惑星イズモの領有権を日本国に譲ることを検討している」ということをマスコミに漏らした事から始まる。

 

 この大ニュースをマスコミが過熱報道を行った為に、世論は「わざわざ相手が惑星イズモの領有権を譲渡するといってくれているのだから素直に受け取るべきだ」となっていった。

 

 日本政府はブリタニア帝国の真の目的が読めなかったために、慎重論を主張したかったが世論には勝てない。

 

 今から思うとアズライト氏はうっかり口を滑らせたのではなく、ワザとマスコミに情報を流して世論を誘導したのだろう。これでは政府は嫌でもイズモの領有権を受け入れなくてはいけなくなった。

 他国から見れば異常なまでに好待遇を受けて、嫉妬の対象となっている日本であるが、そんな日本もそれなりに憂鬱だった。

 

 もっとも衆愚政治と名高い日本だけに、国会議員の中にも「ブリタニア帝国は友好を求めてくれているんだ」ととてつもない楽天的な思想をする馬鹿がいるので胃が痛い。というか何でこんな馬鹿が議員なんだと突っ込みたくなる。

 

 いや理由は分かる。改革党は選挙で議席を大幅に増やし与党となった。その際、実力不足の人間を受け入れた為に、最低限必要な知識すらもたずに議員なった者の為に勉強会を開く羽目になった。この〝大神チルドレン″とマスコミに呼ばれる議員たちは素人だ。それだけに頭数にしかなっていなかった。

 

 そして元々の議員にしても、何か実績を出して上に上がってきた者達などほとんどおらず、他人のあら探しをして非難することで成り上がってきただけの者達ばかりで、そうした者達がいざ与党として責任のある立場となったときにちゃんと実績をだせるのか甚だ疑問である。

 

 つまり改革党は政権与党といいつつも、その内情は素人と実力に疑問がある人間の寄せ集めだ。大神はそんな彼らを率いて政府を切り盛りしないといけない。内心では「政権取るよりも保守党と連立組んでいた方が良かったのでは?」と思っているが立場上それを口に出せなかった。

 大神は考えを表に出さずにシドゥリを総理官邸の中に案内する。総理自らが案内するというのは立場上必要だった。ここで一介の官僚などに任せていたら相手に軽視されたと思われかねない。

「……では、この条約をもって惑星イズモの領有権を日本国に譲ります。また、惑星イズモの日本国領有をヴァーブル朝ブリタニア帝国皇帝の名において承認します」

 総理官邸にて滞りなく事は進んだ。この第二次イズモ条約によって、惑星イズモは日本の領土となった。更にブリタニア帝国がその領有を承認したと宣言した。

 

 この一部始終は政府関係者が撮影しており、後に情報公開されることになる。

 ここで何故に政府関係者が、と思う方もいるだろう。実はブリタニアの要請でマスコミを遠ざけた為に政府関係者が映像を撮影する羽目になったのだ。

 

 更にアズライト氏は、この映像を動画サイトに投稿して、情報公開するように薦めていた。ネット社会の現在では何もマスコミでなければ情報発信できないわけではない。その気になれば政府関係者でも情報発信はできるのだ。

 

 大神は、そこまで日本のマスコミが嫌いなのか?とドン引きしながらもそれを受け入れた。特に日本の国益を損ねる事でもなかったからだ。

 その後、一部の議員たちが何とかブリタニア皇帝とお近づきになりたいと擦り寄ってきたが、皇帝は無難にそれをやり過ごした。

 

 その際に、馬鹿な議員が皇帝に握手を求めたりするハプニングも起きたが、それは流石に皇帝から注意された。ブリタニアでは身分に差がある貴人に対しては、本人の許しがない場合は馴れ馴れしくしないのが礼儀らしい。

 

 ブリタニアからすれば、未開惑星の弱小国家の平民(当然ながら議員たちは皇族ではない)が、至高の貴人たるブリタニア皇帝に馴れ馴れしくしている、と思われてしまったようだ。

 

 ブリタニア帝国皇帝という相手の身分や格式を考えると、辛うじて皇帝に握手を求めることができるのは天皇陛下のみだろう。これには問題の議員も皇帝に頭を下げて謝罪した。皇帝は「誰にでも間違いはあろう。これからは注意せよ」と寛大な態度でそれを許したが、まともな議員は冷や汗をかいて、馬鹿な議員たちを皇帝から遠ざけた。

 

 皇帝に無礼を働いた大韓民国政府が連帯責任を問われた民衆共々問答無用で消去されたのは記憶に新しい。それ故に神経質になるのは当然だった。

 最後に、私が皇帝と話すことになった。無難に雑談を交わしていたが、話題が日本人をどう思うかという話になった。

「大神総理、そちは日本人の悪いところは何処だと思う?」

「それは熱しやすく冷めやすい所でしょうか?」

 これは日本人の特徴としてよく言われることだ。

「そうだな。それもあるかもしれん。だが余が思うにもっと別の問題があるように感じるぞ」

「といわれますと?」

「日本人の悪いところは、極端から極端に走る事だ。例えば幕末の頃は無意味に西洋を敵視して攘夷を主張していたのに、維新後は過剰なまでに西洋文明をありがたがるようになった。また戦前は極端な軍国主義だったのが、戦後は極端な平和主義になっておる。余から見るに日本人は『程々に』とか『バランス良く』というのができていないと思うぞ」

 何事もやりすぎは良くないということか。

「その所為でいろいろと悪影響も出ている」

「悪影響ですか」

「例えば愛国心だ。戦前は軍部が愛国心を強調していた反動で、戦後教育では愛国心をかなり軽視しておる。これは余から見るとかなり拙いな」

 愛国心か。我が国では確かに愛国心は軽視している。

「愛国心がなければ国家の為に貢献しようとする気持ちがなくなる。おまけに私腹を肥やす為に国益を売りたくもなる。国を愛していないのならば己の利益を優先するのはある意味当たり前だからな。つまり愛国心が欠如している教育は売国奴予備軍の大量育成になりかねないぞ。いうならば国家という家の大黒柱をシロアリに食い散らかされているようなものだ」

「政治家やマスコミが民衆の政治不信を煽っているので、日本の場合は更にタチが悪いな」と付け加えていた。それらの言葉は、後々まで大神の脳裏にこびりついていくことになる。




あとがき

 改革党の党首である大神総理は、政治家としては可もなく不可もない凡庸な人物です。その為、シドゥリも彼を日本の指導者としてそれなりに相手にしています。もし、大神総理が某宇宙人みたいな人物だったら、シドゥリは総理や閣僚のスキャンダルをマスコミに流しまくって早々に潰していたでしょう。そういった意味では改革党にとっては彼が党首だったのは幸いでした。また、シドゥリは日本政府を信用していないので、自分たちが求める事柄に関しては口約束では済まさず、きちんと条約を結んでいます。こうなると日本がちきんと約束を守らないと条約違反になりますから、日本政府は嫌でも守らないといけないわけです。
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