ブリタニア帝国記 If編   作:ADONIS+

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その十三(シドゥリ暦2031年)

 第二次イズモ条約。この条約によって日本はイズモを正式に日本領に編入させた。

 

 この事態に他国では反発する動きもあったが、最終的には多くの国が承認することになった。その理由として、日本のイズモ領有に関しては文句を付けようがないほど正統なものであるし、ブリタニア帝国との関係を強化しつつある日本との関係をこじらせたくないという政治的配慮もあった。

 

 驚くべき事に、あの中国や朝鮮まで承認したのだ。実は両国は反日国家であるために、イズモを手に入れて今後強大化していくだろう日本に潰される危険があったのだ。その為、反日は避けるようになった。

 ちなみに惑星の名前はイズモと元々日本人に親しみやすかったために、領有後も漢字で『惑星出雲』と記すようになっただけで特に名称変更はなかった。そんなわけで『イズモ』改め『出雲』に日本は進出していった。

 しかし、その基盤は問題が多かった。特に日本列島と出雲とを行き来するために必要なゲートをブリタニア帝国に依存しないといけないのが問題だった。いうならば国内の移動をブリタニア帝国に握られている状態で、当然ながらゲート技術を手に入れて自分たちで自由に行き来できるようになりたいと思うものだ。

「ブリタニア帝国は基本的に他国に知識や技術が流出することを嫌っており、仮に要求しても拒絶されるだけだし、下手をすると戦争になりかねないから、その手の要求は厳禁です」

 しかし、アズライト氏から事前にそう警告を受けていた。

 

 ブリタニア帝国は技術、知識、情報を独占することで他国に対する優位性を確保しておきたいのだろう。となると国内の移動をブリタニアに握られる状態になる。

 

 もっともアズライト氏は、ゲートに依存しないために惑星出雲に日本国を国家移転させるように勧めている。これによって日本列島を放棄して惑星出雲に全力で開発する勢力が急速に台道していた。

「……と、ここまではよかったのですが」

 アズライトは呆れた様子で、総理官邸前で行われるデモを見ていた。彼らは「出雲を日本一国で独占するな!」とか「出雲は各国で共同開発するべきだ!」とか書かれたプラカードをもっている。

 彼らは外国人ではない。護衛役の黒服の男がいうには、彼らは日本の国家公務員らしい。

 先日の条約によって用は終わったので、シドゥリは本国に帰還した。シドゥリとしては東京観光をしたかったようだが情勢からそれは見送った。

 

 実はアズライトも帰還したかったが、観光客の受け入れ作業があるので断念せざるを得なかった。条約により日本で観光ができるようになったので監察軍メンバーたち(主にオタク)がやってくる。

 

 アズライトは監察軍で働いている科学者であったので、いつまでも外交官まがいな事をやりたくないのだが、現状ではそれもままならないが、もう暫くの我慢だろう。

 というわけで仕事前に息抜きに、伊藤に東京の観光案内を依頼した。伊藤は今でこそ福岡に引っ越ししているが、元々は東京に住んでいたらしい。その為、地理に詳しいので助かった。伊藤は突然の話に驚いたようだが、元々の性格からかあっさりと引き受けてくれた。他にも護衛として二人の黒服の男がアズライトに付いていた。

 

 日本政府としては、アズライトが危害を受けると外交問題になるので、守らざるをえなかったのだ。今日はそんな東京観光の一時であるが、嫌な物を見てしまった。

 まったく、こいつ等は馬鹿か。そもそも国際社会において外交とは基本的に富と資源の奪い合いだ。昔は直接的な軍事力で植民地支配を行い無理やり富や資源を吸い上げていたし、現代でもあの手この手と手段は変えてはいるものの、それは変わることはない。

 

 出雲というパイをまるまる手に入れたというのに、それをみすみす切り分けてどうする。それも国際協調や国際友好だのと綺麗事を並び立てて、さも自分たちが正しいのだと主張しているから始末に負えない。惑星出雲は日本国民一億二千万人だけで独占するからこそ今後数百年に及ぶ日本の将来は保証されるのに、それを十億二十億と、分母が増えれば危うくなると何故分からない。

 

 しかも、国家公務員という国民から集めた税金で給料を貰っている立場の人間が国益を売り払うなど愚の骨頂だ。

「というか、今日は平日なのに何故参加しているのよ」

「当然、仕事をサボっているんだよ」

 伊藤はそう吐き捨てる。

「ふうん、国家公務員は暇なのね。そんなに暇なら人数減らしたらどうです。人件費削減になりますよ」

 アズライトは皮肉を言う。

「そりゃ可能だろうが、役人が「うん」というわけねぇだろ」

「確かにそうですね」

 何とも不毛な話だ。しかし、本当に無駄ね。

 

 ブリタニアではこの手の役人はアンドロイドがやっている。アンドロイドたちは人間以上によく働いてくれる。人間と違って予算の無駄遣いなどしないから、実に効率よく予算を使ってくれる。正直言って人間の役人などいらないからね。

 

 アズライトは馬鹿を視界に入れるのも嫌だったので、さっさとその場を後にした。

「それで、ここがブック○フね」

 立ち読み自由である程度の規模の古本屋に行きたいといったらブック○フにつれて来られた。ゲート日本の漫画とか興味があったんだよね。

 

 古本屋で立ち読みというのはいいものです。前世ではよくやりました。

「って、漫画かよ。普通観光といったら名所巡りじゃないのか?」

「確かにそれも考えたけど、こっちの方が魅力的なの。そういえば伊藤さん何故あれほど圧倒的な力を持つブリタニア帝国が、日本国に対して穏便な対応をとっているかわかりますか?」

「いや、さっぱりだ」

 そういえば、いってなかったね。

「その理由がこれです」と漫画本を伊藤に見せる。

「はっ?漫画がか?」

「こんなものがか?」

 伊藤と黒服の男たちが疑問を抱く。

「あら、そんなもの呼ばわりは良くないですよ。漫画だけでなく、アニメやゲームといったサブカルチャーこそが、日本国がブリタニア帝国に勝る所なのですから」

「どういうことだ?」

「ブリタニア帝国では、この手の物が産業として成長していないんですよ」

 ブリタニア帝国では、漫画、アニメ、ゲームなどは子供騙しの物と思われている。それはそれらが子供の教育に与える悪影響が問題視されたからだ。

 

 日本でも子供が漫画に夢中で勉強をあまりやらなくなったり、外で遊ばず家でテレビゲームをやっていたりしている。はっきりいってそんなものがあると、子供の教育上よくないと思われたのだ。こういったことが嫌われて、それらは産業として成立しなかった。

 

 精々『それいけ!アンパンマン』みたいな幼児用のアニメとか、政治宣伝用のつまらないアニメぐらいしか存在しない。

 

 シドゥリもさすがにこれにはお手上げだった。彼女としてもこれには困ったが、まさが自分が娯楽を楽しみたいだけでサブカルチャーを無理やり育てるわけにはいかない。

 

 大体そういったものは強制的にやるのではなく、自主的に成長しないと豊かな文化とはなりえないだろう。

 

 とどめになまじ帝政を敷いている為に、こういった大衆文化の発展に必要な表現の自由は著しく制限されている。下手をすると社会秩序維持局のお世話になるわけだから、皆規制に引っかからないように注意する。

 こうした状況に、監察軍メンバーの多くが不満を覚えた。後ろ盾であるブリタニア帝国の文化では彼らを満足させることができなかったのだ。その為、彼らの好みにあうサブカルチャーを求めて、日本国に目を付けた。これにはシドゥリも賛成したので計画が一気に進み、こうしてブリタニア帝国及び監察軍は日本国に干渉を開始した。

 

 すべては日本を観光地にして、日本のサブカルチャーを満喫せんがために。

「……というわけですよ」

「「「……」」」

 予想の斜め上を突き抜けた真相に声も出ないのか皆絶句している。普通は大いなる陰謀でも張り巡らせているのでは、と思うからね。

 

 事実は小説よりも奇なり。それゆえ彼らは真相にたどり着けなかった。

「正直いってサブカルチャーがつまらない日本なんて価値はありません」

 ブリタニア人の評価基準は基本的に『国力』『軍事力』『文明レベル』の三点を総合的に判断して決定される。そういった意味では日本国は話にならない弱小国家だ。

 

 せめて政府と国民が優秀であればある程度評価も上昇するのだが、あれでは逆に下がるだけだ。当然ながら、そんな国が帝国とまともに交渉などできるわけがない。

 

 そんな日本が特別扱いされる理由、それこそがサブカルチャーだ。

「監察軍では日本の政治家は馬鹿にされているけど、漫画家、アニメ制作会社、ゲームクリエイターなどはそれなりに評価されていますよ。何せ彼らはブリタニアには存在しない文化を作りますからね」

 政治家が無能なのは、日本の標準だしね。どこの下位世界を調べても日本政府は大概無能だ。これは上位世界の日本政府が無能だからだろう。

「そういえば最近、日本の貴重な文化財産である漫画やアニメを保存するために国立国会図書館の分館をつくる動きがあるらしいですね」

「ああ、国立漫画喫茶と叩かれているな」

「それは勿体ないですね。結構面白そうな話なんですが。実はその分館には皇帝陛下もかなり興味を示されていて「完成したら一度行って見たい」と申しておられた程ですよ」とアズライトは爆弾を落とした。

大神side

「まったく悪い冗談だな」

 大神は頭が痛くなった。

 

 ブリタニア帝国の目的が日本のサブカルチャーであるという報告は日本政府に瞬く間に広まった。更に例の国立漫画喫茶と呼ばれているあれに並々ならぬ興味を示しているという情報は国会に衝撃を与えた。

 

 これには分館設立に猛反対していた議員は頭を抱えた。ここで分館計画を潰せば確実にブリタニアの不興を買うだろう。ブリタニアに媚びを売る意味でも分館設立をせざるを得ない。ここで分館設立を主動していた夏目が攻勢に出て一気に押し通すことができた。

 ちなみに大神はこれに反対していたので、今回の一件で政治的に少々ダメージを受けたが、国内では圧倒的なブリタニア帝国相手に一歩も引かずに友好関係を結ぶことに成功した上に、多大なる成果(惑星出雲の領有など)を上げた総理として支持率はかなり高かったので、それほど痛手ではなかった。

 

 最もそれはブリタニア帝国が最初から譲歩するつもりだったから成功したに過ぎなかったので、別に総理の功績でもなんでもない。

「とにかく、そういうことならそれなりに対処しなくては」

 アズライト氏からは後日東京観光にくる者達はサブカルチャーが目的なので、それをふまえて観光案内して欲しいと伝えられていた。その為、人選を決めないといけない。本来は京都や奈良の文化遺産などに詳しい人物を選ぶつもりだったが、こうなるとオタクを選んだ方がいいだろう。

 

 総理大臣である自分がオタクの人選などしなければならないという現状に大神は溜息を零した。

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