アズライトがゲート日本での仕事を終えてから、一年余りがすぎた。監察軍に戻ったアズライトは、科学者として働く毎日を過ごしていたが、またもゲート日本に行く仕事が入った。
ちなみに他のトリッパーたちはゲート日本で観光を満喫していたが、アズライトは空白期間にたまってしまった仕事の消化と、その他諸々で観光はしていない。その為、トレーズは今回観光ついでの任務だといってくれたわけである。
この任務は、秋葉原に例の国立のまんが喫茶(笑)と呼ばれる国立国会図書館の分館が建設されたことを聞いたシドゥリが、今回の観光を企画した為に回って来たらしい。
その結果、シドゥリと共にゲート日本を観光する事になった。
それにしても、シドゥリは相変わらずいろいろと動きますね。普通は皇帝陛下となれば、忙しくて動けないはずなのですが、シドゥリは政務を宰相に一任している。大まかな方針だけを決めて「後は宰相に任せた」をやっているので宰相の権限と仕事は多いが、対称的に皇帝は時間が空いている。
それはともかく、国立漫画喫茶が原作よりも2年も早く完成したのは、やはりブリタニアの圧力が大きかった。その影響で、伊丹たちの帰還が原作よりも二年も速まり、同時に特地とのゲート再開通可能となった。
これにはゲート日本も喜んだが、彼らはすぐに落胆することになる。
確かにゲートは再開通できたが、そのゲートは人間一人が何とか行き来できる程度の小規模な物を極短期間だけ展開できる代物に過ぎなかった。
現状では限られた人員と物資を移動させることしかできず、正直言って生物資源の研究対象程度しか使い道がない。それこそジャンボジェット機だろうが行き来可能な、福岡ゲートとは大違いである。
日本は前回の戦争で、特地に多くの利権を手に入れたが、それも有効活用できる状態ではなかった。つまり宝の持ち腐れ状態である。
とはいえ、これで伊丹を初めとして特地で残留した自衛官たちが帰国できるようになった。その際、あまりにも激変した国際情勢に驚愕して「まるで浦島太郎になった気分だ!」と彼らが言ったのは余談である。
「でも、観光案内人か。誰かいい人いないかな?」
観光先は東京都なのだが、当然ながらアズライトは土地勘がないし、世情もよく分からない。となると案内人を用意しないといけないが、日本政府にそれを頼むのは避けたい。余計な得点稼ぎなんぞされたくないし、情報漏れがあるからね。日本の情報管理はずさんだから信用できない。下手に政府や自衛隊の人間にやらせると情報が出回る恐れがある。
今の地球にブリタニア帝国に喧嘩を売る国家は存在しないだろうが、それでもお忍びなんだから注目を集めるのは嫌だ。だから観光案内人は、政府や自衛隊とは関わりのない民間人が望ましい上に、何か突発的なことがあっても対処できるような機転の効く人間でないといけない。
東京の地理に詳しくて、お金で依頼することができる。観光先を考えるとまんがやアニメとかに詳しい方がいい。これらの条件を満たす人物がゲート日本にいるかな?
ああ、そういえばいたね。伊丹の元奥さんの梨紗が。彼女なら同人誌を描くほどの濃いオタクだし、機転も利く。不安定な生活をしているから金で雇う事も簡単だろう。
美少女といえる外見じゃないし、描いている同人誌のジャンルがやおい系なのが引っかかるけど、このさい贅沢はいってられない。
ちなみにアズライトとシドゥリは、前世は日本人男性だったので、現世でも男性としての人格が基盤となっており、やおい系は嫌っている。
現世において、アズライトはナルシスト+美幼女スキーで、シドゥリは百合を追求している。だから二人ともやおいとは相性が悪い。女性に転生しているが、正直あれを喜ぶ腐女子の考えがいまいち理解できない。
梨紗side
九十九円屋はなんとありがたいのだろうか?
毎度のごとく梨紗は、九十九円屋で食料を購入して食べる。単品百四円(消費税込み)で飢えを凌ぐ。
ああ、我が日本は何と豊かな食生活なのだろうか? 低価格でこんなに食品が手に入る。
金がないから食費を切りつめないといけないが、冬の同人誌即売会まで持てばいいのだ。そう思いながら、毎度のように九十九円屋から帰る途中で、一人の少女に話しかけられた。
「こんにちは、梨紗さんですね?」
「誰、あんたは?」
自分に話しかけてきた少女は知人ではなかった。特徴的な青い髪に金色の瞳、おまけに白人よりも白い肌。容姿は極めて整っており、10歳程度の幼さにも関わらずある種の完成された美を感じる。なんかオタク魂をやたら刺激する容姿だ。
はて、どっかで見たことがあるような?
「申し遅れました。私はアズライト・ジュエルですわ」
「えっ!」
その名前は確か……。というかこの娘は?
「エターナルロリータ!」
そう、一時期日本中の話題を浚いロリコンたちから驚異的な支持を受けた少女。彼女は合法ロリとも呼ばれており、今でも根強いファンがいる。
「エターナルって……。まあいいわ。実は貴女に依頼があるのよ」
「依頼?」
「ええ、金に困っているのでしょう。三日間で百万円稼げる。割の良い仕事があるけど聞きますか?」
「百万円!?」
梨紗の目が変わる。まさにお金に目が眩んだ状態だ。
「内容は私ともう一人を三日間観光案内すること。報酬は必要経費を込みで百万円ね」
「やるっ。やるわ!!」
「じゃ、契約成立ね。はい百万円」
アズライトは百万円を取り出し梨紗に渡す。
「え、いきなり渡すの?」
いきなり現金を渡された事で梨紗は戸惑う。普通はそんなことをしないだろう。
「ええ、即金で払いますわ。確か貴女は暇なのでしょう? だったら明日から三日間東京で観光案内をやって貰うけどいいかしら?」
梨紗は定職に就いていない為、不安定な生活をしているが、逆をいうとそのため時間はある。
「まあ、それは良いんだけどね」
冬の同人誌即売会までまだかなりの日にちがあるから、同人誌を描くのに忙しいというワケでもない。むしろ即売会まで持つための良い資金稼ぎになるだろうから、これは断れない。
「…と思っていたんだけどね」
翌日、自分が観光案内するアズライトともう一人を見て、梨紗は自分がはめられたことを理解した。白いワンピースに白い帽子姿の美少女であるが、彼女の正体を知り表情が強張った。
ヴァーブル朝ブリタニア帝国皇帝シドゥリ・エルデルト・フォン・ヴァーブル。それが少女の名前だった。
梨紗は、これから三日間シドゥリの観光案内をする羽目になった。
確かに契約では『アズライトともう一人の観光案内をする』となっているので、その対象がシドゥリでも拒否できない。
梨紗が、契約内容を良く確認しなかったのが悪いといえばそれまでであるが、アズライトもあえていわなかったのは断られるのを恐れたからだ。となると、いきなり現金を前払いで渡したのも拒否できなくするためだろう。
前金で報酬を受け取って、一部は既に滞納していた水道代などで使ってしまっていた。これでは金を返しようがない。
思いっきり厄介事だった。
以前、特地の皇女(現在では女帝)と関わった事もあるが、シドゥリはそれとは桁が違う。そもそも同じ帝国であっても、日本に比べて千年は文明が遅れているような後進国と、複数の銀河を支配する巨大星間国家とでは格が違う。
せめてもの救いは、地球各国がブリタニア帝国を恐れているので余計なちょっかいを出してくる馬鹿はいないだろうということだ。
こうなった以上は、腹をくくるしかない。
「君が案内人か。三日間よろしく頼むよ」
「はい。頑張ります」
梨紗は、シドゥリに失礼にならないように対処した。とにかく、三日間踏ん張るしかないね。そう、決意した梨紗であった。