ブリタニア帝国記 If編   作:ADONIS+

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その十六(シドゥリ暦2032年)

 秋葉原に建てられた国立国会図書館の分館。それは漫画の他にアニメ映像、更にはセル画、設定資料集などなどが収納された貴重な大衆文化の博物館である。

 

 潔癖性な人物からは、「国立まんが喫茶」と酷く叩かれていたが、ブリタニア帝国の圧力もあり、建築される事となった。

 

 この分館は、原作において地球と特地を繋ぐゲートの再開通のカギとなっており、この世界でも開館記念に行われた同人誌即売会で、ゲートの再開通に成功した。

 

 もっともそのゲート自体はあまり利用価値のないものとなってしまったため、使い道がなかったが…。

 

 そんな騒動も終わって暫くしたこの分館では、ブリタニアから来た観光客が資料を見ていた。

「本当にいろいろあるわね」

 

 所狭しと揃えられた同人誌の数々。かなりの量であり、気に入ったものだけでもかなりの量になる。アズライトは薄い本を読み込んでいく。

 

 ちなみにここには18禁の物まで揃っているが、流石にそれは別のコーナーにあって子供が入れないように区分されていた。

 

 シドゥリと梨紗は18禁のコーナーで読み込んでいたが、見た目が幼い少女のアズライトがエロ系を読みあさると誤解されるので、仕方なく全年齢物に絞って読んでいた。

「久しぶりだな。アズライト」

「あら、伊藤さん久しぶりですね。今日は護衛任務ですか?」

「ははっ、バレバレってわけか」

 

 この分館には私服の警官や自衛官が配備されていた。伊藤がこの護衛に加えられているのは、アズライトと面識があったからだろう。

「お忍びだというのに仰々しいわね」

「仕方ないさ。万が一の事があったら大変だ。政治家たちにとって大津事件の二の舞は御免だからね」

 ちなみに大津事件とは、1891年(明治24年)に来日したロシア皇太子(後のニコライ二世)が日本の警察官に斬り付けられて負傷した暗殺未遂事件のことである。この一件で『ロシアと戦争になるのでは?』と当時日本中が大騒ぎになった。

「……確かにそんな事が起こると拙いわね」

 

 シドゥリは騎士甲冑を展開しているし、聖王の鎧があるから地球人には危害を加えることは出来ない。だから身の安全という意味では取り越し苦労なのだが、ブリタニアはあまり情報を流出させていないので、日本政府はシドゥリや帝国貴族たちの化け物じみた強さを知らないので、それも仕方ないだろう。

 

 最も無害だからといって攻撃されたという事実は大きい。これは政治的に到底無視できる事態ではなく、外交問題に発展しかねない。そういう事を未然に防ぎたい、と日本が神経質になっているのは理解できる。

 

 日本が恐れているのはそれでしょうね。

「まあ、そんなワケで神経を尖らせているんだよ」

「確かに馬鹿が一人でも出てくると困るわね」

 

 今のブリタニアにちょっかいを出してくる国家が存在するとは思えない。

 

 しかし、すべての組織や個人がそうであるかは、その定かではない。鉄砲玉のようなヤツが出てくると厄介な事になるだろう。

「それで、それは陛下にはお伝えしているのかしら?」

「ああ、外交筋でな。噂では渋る帝国側に日本政府が頼み込んだらしい」

 

 外交で、頼み込んだって……。

 日本政府「お願いですから護衛を付けさせて下さい(意訳)」

 ブリタニア政府「陛下はお忍びで来られるのだし。何より護衛が周囲を固めていては堅苦しくて観光できねぇだろ(意訳)」

 日本政府「できるだけ陛下の迷惑にならないように致しますので、何卒お願いします(意訳)」

 ブリタニア政府「ちっ、しゃーねぇな。陛下にお伝えするとしよう(意訳)」

 日本政府「おお、有り難う御座います(意訳)」

 ……。

 う~ん、なんかシュールなイメージ映像が脳裏に浮かんだよ。なるほどね。陛下の周りを壁のように取り囲むのではなく、こうして邪魔にならないように護衛するワケか。

「まあ、陛下の了承を取っているのなら別にいいわ」

「そうか。悪いな」

 

 伊藤がすまなそうな顔をしている。折角の観光を邪魔しているようで気が引けるのだろう。

 

「いえ、事情を理解できるわ。それに伊藤さんは上から命令されているだけでしょう? 軍人は上からの命令に従うのが筋ですから、間違ってはいないわ」

 日本は未だに自衛隊を軍隊と認めていないが、ブリタニアと監察軍は自衛隊を日本軍と対外的に呼んでいる。それは何故かといえば、そもそも自衛隊は階級と規律があって、そして武装して海外に派遣される事もある。これでは、どっからどう見ても軍隊にしか見えない。

 

 むしろ日本政府が自衛隊を軍隊だと認めていない状況の方が異常なのだ。ブリタニアからすれば、「いい加減、軍隊と認めろ」と日本に言いたい所だから<自衛隊=日本の軍隊>というのがブリタニアでの扱いだ。

「私は楽しみますからお仕事頑張って下さい」

「そうか。分かったよ」

 

 そういうと、伊藤は離れていった。遠巻きに護衛するのだろう。

 伊藤を見送ったアズライトは、近くの同人誌を手に取った。アズライトが持っている同人誌は商業作品の二次創作物ではなく、オリジナル作品の同人誌だ。

 

 同人誌所謂薄い本は、ゲーム、アニメ、漫画の二次創作物というイメージが強いが、オリジナルの漫画もそれなりにあって、それを見るのはそれなりに面白い。

 

 収蔵作品は沢山あるから時間いっぱい楽しめるだろう。

シドゥリside

「やっぱり葉月×初美も捨てがたいけど、葉月×リリスもいいね」

 

 18禁コーナーで、シドゥリは手に取った18禁同人誌を見ていた。

 

「シドゥリさん百合系が好きなのね」

 

 お忍びの観光であるから、無礼講で良いと言われたこともあるが、梨紗は割と砕けた態度でシドゥリに接していた。最初は固かったが、やはり彼女の性格からか、こうなるのにさほど時間がかからなかった。

 そんな梨紗が、やおい系同人誌ばかり見ている一方で、シドゥリは『ヤミと帽子と本の旅人』『神無月の巫女』『マリア様がみてる』などの百合系二次創作物を読み込んでいた。

 

 どれも原作が百合要素が強いだけに、それの18禁同人誌となるとそういう作品が多い。ここは品揃えが良いだけに探せば沢山ででくる。まさに豊作だよ。

 

 シドゥリは18禁はノーマルもいいが、百合系は更にいいと思っていた。伊達に百合ではない(笑)。

「あら、美少女同士が愛し合うから美しいのよ」

「そうかな? 男同士の愛が良いと思うけどね」

 

 この辺りは好みの差がはっきりと出ている。男と男が愛し合うなど、キモイんだよね。シドゥリは、梨紗の描いたやおい系同人誌を少し見た時は、正直気色悪いと思ったものだ。

 

 女性に転生して既に二千年がたったが、こういった物を喜ぶ腐女子はいまだに理解できない。やはり男性としての人格がベースになっている所為だろうね。性格や趣向が男性風なんだよ。

「ふっ、百合は美しいんだよ」

「シドゥリさんの奥さん達も美少女だったね」

 

 シドゥリの皇妃、なのはとフェイトは二人とも美少女だ。その為、妻自慢を梨紗にしていた。

「第一、余の肌に触れて良いのは美少女のみよ」

「そういえば、改革党の政治家が握手を求めても拒絶していたね」

「当たり前ね。むさい中年親父が余の手に触れるなど、天が許しても余が許さないわ」

 

 馴れ馴れしく握手を求めた政治家がシドゥリに注意されたのは記憶に新しい。拒絶したのはブリタニアの習慣もあるが、やはりシドゥリが嫌ったからだ。

 

 いうまでもないが、政治家は中年親父か老人、又はおばさんぐらいしかいない。ブリタニアのように美少女を不老長寿にしているわけではないのだから、そうなるのは当たり前で、その辺りはブリタニアを基準に考えるとおかしくなるだろう。

 

 シドゥリからすれば、「自分に握手を求めるのなら美少女アイドルでも用意しろ」といいたい所だ。流石にそれは口には出さなかったが。

 

 ちなみに、これらの会話は遠回りに護衛している者のSAN値をガリガリ削ったのはいうまでもない。

「でもシドゥリさんがこういうのに興味を示すのは正直意外だったね。何か凄いイメージがあったから」

 

 巨大星間国家に君臨する絶対権力者と想像していたのだろう。確かにギャップはあるかもしれない。

「……そうね。でもそれなりに理由があるのよ」

「理由?」

「余は不老長寿で二千年程生きているが、そうなると世の中に飽きてくるわ」

「飽きる?」

「そう、やる気をなくすというか、生きる意欲を失うのね。貴族たちもそれで自ら死を選ぶ者も多いし」

 帝国貴族は覚醒者となったことで不老長寿となったが、百数十年から三百年で多くの者が死を選ぶ。だからシドゥリのように千年以上も生きている者は割と少なかった。

「長生きをするには、それ相応の工夫がいるようになるわ。だから多くの貴族は趣味を持って飽きないようにしているわね」

 

 それでも長い年月には勝てないんだけどね。シドゥリは苦笑する。

 

 それは悪いことだけではない。貴族が長生きしすぎるとポストが空かないから、次の貴族候補生の枠が小さくなってしまう。その為、口には出せないが、ある程度の期間で貴族が死んでくれるのは都合が良かった。

「だから余はいろいろな趣味を持つことにしている。興味があることには貪欲に取り組むのはその為だ」

「そうなんだ。いろいろあるんだね」

 

 だからオタク文化であっても自重せずに取り組むのだ。ブリタニア政府も、シドゥリに文句を付けることなどできないし、万一シドゥリに死なれては天下の一大事になってしまうので、シドゥリのオタク趣味に関しては黙認していた。

 シドゥリは不意に視線をずらして周りを見た。この分館のあちこちには日本が配置した護衛がいた。先程からの会話が彼らに聞こえているだろう。シドゥリはワザとそうしているのだが。

 

 シドゥリにしても、あまりに日本政府から不気味がられたり、恐れられたりするのは本意ではない。だから、ある程度は親しみやすさをアピールしておいた方が好都合だった。

 

 こうして、ブリタニア帝国皇帝であるシドゥリが「日本の漫画、アニメ、ゲームなどは好きですよ」というメッセージを伝えて、親日ぶりを示していれば彼らも少しは安心するだろう。砲艦外交ばかりでは友好など築けない。

「これも外交ね」

 

 自らの趣味すら利用するシドゥリはそう小さく呟いた。

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