「それにしても皮肉なものだね。あの時敗北した私が今こうしていて、勝利した彼女たちがテロリストになるとは…」
ジェイル・スカリエッティ。かつてはJS事件を引き起こして、事件後に軌道拘置所で拘束されていた彼は、現在ではフリーの科学者として旧管理世界で活動していた。
「それにしてもドクター。やはり鍵を使い潰したのは惜しかったのでは?」
「いやウーノあれはあくまでゆりかごを動かす為の道具に過ぎない。ゆりかごが破壊されれば用済みなのは確かだよ」
帝国側は、予め鍵に肉の芽を埋め込んでいた。それはゆりかごが破壊されるという条件付きで、一気に脳を食い破るように仕掛けていたから高町なのはが鍵を助けた後で、管理局の艦隊が聖王のゆりかごを破壊した直後に鍵は死んだ。
完成度の高かった人造魔導師を実質使い捨てにしたようなものであるから、勿体ないといえばそうだが、ゆりかごが破壊されれば使い道がないのも確かだ。
結局、帝国にとって私の計画が成功しようが失敗しようがどうでも良かったのだ。要はAMFを搭載した機械兵器と戦闘機人の実戦データを得ることが目的なのだ。
大戦の終了後、すぐに私と娘達は帝国によって解放された。そして私達の罪状も消えた。
先日、帝国が送り込んだ覚醒者と彼女たちが交戦したらしい。とうとう彼女たちも年貢の納め時だろう。まぁ今の私にはもうどうでもいいことであるが。
機動六課side
ヴィータ、シグナム、ザフィーラが死んだ。三人とも夜天の書の守護騎士だから、本来ならば倒されても復活する事が可能だったが、闇の書事件でその能力を失い、年々弱体化していた。あれでは助からないだろう。
この二年間彼女たちはレジスタンスとして管理局復活を目指して活動していたが、民衆にはそっぽを向かれ、相手にされない。自分たちは正しいはずなのに、みんな分かってくれない。
それでも間違った道を進もうとしている世界を正すために、自分たちがやらねばならない。理想に燃える彼女達は、同じ魔法至上主義者達の支援を受けていた。
旧管理世界の中でも、旧管理世界の変化を快く思わない者は多い。最早、形骸化した魔法至上主義者だ。マジックキャンセラーによって魔法の価値が大暴落している現状は、彼等には非常に不満だったのだ。
そんな者達の助けを受けて、彼女たちは管理局の理想を目指していたが、そうこうしている内に覚醒者が介入してきた。
彼女たちにとっても覚醒者は厄介極まりない。魔法の才能だけならば対抗できるかもしれないが、総合的な能力に差がありすぎるのだ。
特に魔法皇帝は次元違いの能力だ。先日の戦闘では逃げるしかなかった。そうしなければ、あの時全滅していただろう。
「あかん、どないしたらええんや」
「はやてちゃん気をしっかり持って!」
「そうだよ、はやて」
しかし状況は絶望的だ。帝国の介入が早すぎる。本来ならばかつての旧管理世界で管理局を再編してから帝国に対抗する予定が全くうまくいかず、レジスタンス規模で帝国からの攻撃を受けることになった。
彼女たちは帝国を敵視していたが、現状で帝国に勝てるとは思っていない。次元世界を管理していた管理局でさえ、あっさりと壊滅させられたのだ。尋常な相手ではないのは分かり切っている。
そもそも帝国に攻撃したくてもできない。旧管理世界に駐中しているのは地球各国軍で帝国ではない。更に地球にも帝国軍は存在しない。僅かに大使館がある程度にすぎず、そんなものを潰した所で意味がない。
それ以前に地球にいくこと自体が危険だ。地球では魔法反応が厳重にチェックされており、登録していない魔導師が魔法を使うと一発でバレる。以前は、それで軍隊に攻撃されたのだ。
現在の地球は、魔法に対して規制が厳しい。彼等からすれば質量兵器を用いなくても大規模なテロを実行可能な魔導師は、あまりに異質で厄介極まりなく、その入国自体を嫌がるのは当然だ。
「帝国が動いたとなると、ここがバレるのも時間の問題やろ」
廃棄都市、新暦になってもミッドチルダには廃棄された都市が存在していた。彼女たちはそこの建物を改装して隠れ家にしている。ここならば一般市民の目に留まらない。テロリストとして指名手配されている彼女たちは人目を避けていた。
はやては拠点を移そうと考えていたが、それは遅かった。既に彼女たちは帝国に捕捉されていたのだ。
「「「!!!」」」
いきなり十数人もの転送。しかも全員がS+ランク以上の魔力値だ。続いて相手を閉じこめる結界が展開される。
「そんな!もうバレたの!」
状況は絶望的だ。この反応、恐らく全員が覚醒者だろう。相手の方が量と質が上、結界もあるから転移で逃げ出すことも無理だろう。ならばやるしかない。
彼女たちは最後の戦いに赴いた。
なのはside
私はヴィヴィオを助けられなかった。ゆりかごが次元航行艦隊に破壊された直後にヴィヴィオは死んでしまったのだ。
その悲しみが癒えぬ最中に起こった戦争と管理局の崩壊。私はスバルとティアナそしてその他の機動六課の隊員に降伏するように伝えてクラナガンを出た。
フェイトちゃんもエリオとキャロに降伏するように話していたようだ。フェイトちゃんは帝国の攻撃でリンディさんとクロノくんを殺されているから、その復讐もあるのだろう。
地球では私とはやてちゃんは裏切り者扱いされていた。私の家族とアリサちゃんとすずかちゃんは日本政府に監禁されている。今の私たちでは助け出すこともできない。
私はわからない。何でみんな私のお話を聞いてくれないだろう。私はずっと正しいことをしてきた。私は間違っていないのに…。
私は覚醒者の集団と戦っている。結界が張ってあって逃げることができない。スラーライトブラスター+であれば結界破りも可能かもしれないが、あれはチャージに掛かる時間が長すぎる。覚醒者達がそれを許すわけがない。
おまけに今の私ではスターライトブレイカーが打てるかどうか自信が無い。身体やリンカーコアにガタが来ているのだ。
私は誘導射撃弾と砲撃を撃つが覚醒者には通用しない。強い。今まで戦ってきた者達とは比べ物にならない。
「がはっ!!」
薙刀型のアームドデバイスが私の胴体を切り裂いた。これは致命傷かなと、なのはは薄れゆく意識でそう思った。
カリムside
聖王教会。かつては管理局と友好関係と協力体制を築いていた宗教組織は、現在では動きがとれない状態だった。
管理局が早々に壊滅してしまい、ミッド北部のベルカ自治領も国連の攻勢を受けたのだ。これは聖王教会が騎士団という戦力を抱えている事が原因だった。この時期は騎士団もマジックキャンセラーで無力化しており、ただの鈍器を持った一般人程度の戦力だった。当然ながら、これでは国連軍に対抗できないので、聖王教会は国連軍に降伏した。
元々、管理局が勝手に始めた戦争で、犬死にするなど嫌だったのだ。無駄な抵抗をせずに降伏したことで、ベルカ自治領は余計な被害を受けることはなかったし、侵攻していた軍がそれなりに人道的であったのも幸運だった。
ブリタニア帝国は聖王教会でも議論の対象だった。
聖王家最後の生き残りである聖王女シドゥリ様が皇帝になっていて、魔法形式は正統なる古代ベルカ式魔法が主流であり、ベルカの技術を継承して更に発展させた高度な文明。何れもベルカの遺産を継ぐ者としてはブリタニアが圧倒している。
最もブリタニアは皇帝からして、ベルカは過去の存在と考えており、教会の様にむやみに懐かしんだりはしていない。彼らは自らの帝国を発展させて、繁栄することを重視しているのだ。
先日、カリムははやて達が死んだという報告を受けた。旧知の仲であるはやて達が死んだのは悲しかったが仕方がないことだった。元々はやてとなのはは、管理世界とは無縁の存在。だから管理局崩壊後は、大人しく普通の生活を送ってくれると思っていたのだが、テロリストになってしまう。
カリムにとって誤算だったのが、彼女たちがあまりにも管理局に染まりきってしまっていた事だ。こうなってはカリムも庇い立てはできないので見捨てるしかなかった。
はやて達と共に、シドゥリ様が率いるブリタニア帝国と戦うなど、聖王教の信者としてできないし、それ以前に帝国に勝てるわけがないのだ。
教会内部には、はやて達が死んだことに安堵する者も多い。はやてが聖王教会とは繋がりが深かったことは広く知られており、先の敵前逃亡から始まった一連の行動は非難の的になっていたのだ。臭い物には蓋を閉めるというが、今となってははやては邪魔でしかなかった。
「それでも生きて欲しかったのですが…」
妹分だったはやての死は、カリムにとって辛い物だった。
シドゥリside
「陛下、例のテロリストの殲滅が完了したとのことです」
「そう、これで次元世界も少しは落ち着くでしょうね」
「はい、そうですね」
皮肉なことにかつての管理局のエース達こそが、現在の治安悪化の一因になっていたのだ。
帝国としては旧管理世界がどうなろうと構わないのだが、駐留している地球軍が治安の悪化を嫌っていたので、テロ集団は排除した方がいいだろう。帝国打倒を主張していたので、むかついたという理由もあったが…。
「ねえ貴女は、夢想家という言葉を知っているかしら?」
「確か、実現できそうもないことばかり考える人という意味だと思いますが」
「そうよ。彼女たちはまさにそうだと思わない?」
「そうですね」
機動六課は管理局の再興と帝国打倒を主張していたが、何れも無理な話だ。管理局再興など民衆は望んでいないし、地球も帝国もそれを認めない。実現などできない理想に過ぎない。
理想を持った彼女たちは、いつしか夢想家となった。そして、その夢想家の夢が現実の前に散った。夢想に溺れて溺死したのだ。
「愚かね。魔法を捨てて普通の女としての生き方もできたでしょうに…」
普通の女としての幸せと少女時代の青春を捨てて、管理局で仕事と戦いに明け暮れた彼女たちは、儚くもその命を失った。シドゥリにはそれが虚しく感じられた。