強くてニューゲーム   作:トモちゃん

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次回はいよいよ最終回。


25話

―エ・ランテル近郊の森―

 

何故、こんなことになった?

レメディオスの手には、血塗られた短剣が握られていた。

 

 

 

アベリオン丘陵での戦いの前、グスターボがちらりと言っていた。

魔導王の側近、デミウルゴスは魔導王の魂を望んでいると。

自分だけでは、あの魔導王には勝てないだろう。

それでも、魔導王に匹敵する強者が居るならば、それをぶつければ良いのだ。

そう考えて、人目を避けて、何とかここまで辿り着いた。

 

もう、明日にでもエ・ランテルに到着だというところで、ふと気が付いた。

自分の格好は、聖王国を出たときのままだ。

このままエ・ランテルに到着した場合、見つかってしまうかもしれない。

ふと、声が聞こえた気がした。

 

「そのままの格好で城門を潜るつもりかい? 」

 

涼しげで優しい、囁くような声は、頭の中に溶けるかのように染み渡っていく。

やがて、目の前を、行商人一行と思しき連中が通るのが見える。

また、耳元で声が聞こえた。

 

「彼らから服を借りよう。同じ人間同士だ。話せば分かってくれる筈だ」

 

声に従い、フラフラと行商人たちを呼び止める。

不思議と、冒険者などの護衛を雇っていないように見える。

 

「おや? どうされました?」

 

行商人らしき男が尋ねてきた。

 

「ああ、実は、着るものを貸してもらえないだろうか? 荷物を取られてしまってな」

「それは難儀なことですな。いやあ、実は、私共も突然馬が暴れだしましてな。いつもは大人しいのに。全く、街道を随分外れてしまいましたわい」

「そうか、ところで、護衛の姿が見えないが、大丈夫なのか? 」

「ああ、魔導王陛下のお陰で、街道ではアンデッドの警備兵が巡回しておりますでな。軍隊が来ても追い返せますわ。お陰で護衛の料金が浮いて、魔導国様様ですわい」

 

気の良さそうな男だが、魔導王を褒めるのは気に入らない。

 

「ところで、貴方は冒険者ですかな? おや? そのマント、あれ? 」

 

と、レメディオスの顔を見た男の顔が一変する。その目は、恐怖に濁っている。

頬は痩せこけ、目は落ち窪んで隈が出来ているが、手配書で見た顔に間違いない。

後ろの荷馬車に向かい叫ぶ。

 

「に、逃げろ! 聖王女殺しの聖騎士だ! エ・ランテルに走れ! 」

 

既に自分の手配書でも回っていたのだろうか? そう考える前に、また声が聞こえた。

 

「逃げられたら終わりだよ? 魔導国軍が動き出したら、エ・ランテルに辿り着くことなど出来ないだろうね? 彼らの口を封じなくては」

 

馬鹿なことを。自分は正義の騎士なのだ。唯の民間人を殺すことなど出来る筈がない。

 

「彼らはアンデッドの支配を受け入れたのだよ? それは悪ではないのかな? 魔導王の統治を喜ぶような奴らは悪だろう? 正義を為さなくては、君は聖騎士なのだから」

 

優しく囁く声に操られるように、レメディオスの体は動き出す。

そうだ、奴らは敵だ。

アンデッドの支配を受け入れるような奴らが居るから、カルカは死んだのだ。

一瞬、目の前が暗くなったような、殺意で自分が塗り潰されるような気がした。

気付いた時、目の前の人間は、全員死んでいた。

 

「良くやった。これは正義の行いだよ。君は何も間違っていない」

 

もう考えるのも億劫だ。

だが、自分を肯定してくれるこの声は心地好い。

 

「さあ、必要なものを貰っていこう。大丈夫、悪を討てば、君はまた正義の騎士に戻れるさ」

 

そうだ、悪を討つのだ。

 

「魔導国の首都、エ・ランテルで魔皇に会おう。奴を焚き付けて、魔導王にぶつけるんだ」

 

そうだ、その為に態々ここまで来たのだ。

あの屈辱を晴らし、カルカの仇を取り、カルカの望んだ国を守るのだ。

 

遠くで誰かが笑った。その声がレメディオスの耳に入ることは無かった。

 

 

 

 

―エ・ランテル中心部大通り―

 

ケラルトが言っていた通り、本当に栄えている。

人通りも多いが、道幅が広い為、不便はない。

亜人もアンデッドも、普通に街の中を歩いている。

こんな国はあってはならない。

そうだ、この国は亡ぼさなくてはならない。

この国に生きる人間も、亜人も、全員殺さなくては。

ブツブツと呟きながら大通りを歩くレメディオスに、ふと声がかけられる。

 

「もし、そこの方。そのマントの汚れ、血痕ではありませんか? 少し、調べさせて貰っても宜しいですか? 」

 

衛兵らしき男だ。

随分と丁寧に聞いてくるところを見ると、こちらを冒険者か何かだと思っているのかもしれない。

 

「いやあ、すみませんね。つい先日、この近くで強盗が出たって話でしてね。行商人一行が襲われて金品を奪われたんですわ。まあ、魔導王陛下の治めるこの土地でそんな狼藉を働く奴なんぞ、すぐに捕まってコレですがね」

 

衛兵らしき男は、手で首を斬るような動作をする。

 

「いやあ、魔法ってもんは便利ですね。被害者の血かどうか、簡単に見分けることが出来るらしいんですよ」

 

そういってスクロールを使用する。

 

「え? あ、」

 

反応を確認する前に、男は斃れた。

レメディオスの短剣が、男の首を切り裂いていた。

一瞬の静寂の後、大きな叫び声が木霊する。

 

「糞! ここまで来て」

 

悔しそうにレメディオスが吐き捨てる。

叫び声を上げる少女が目に入る。

 

「その娘を人質に取りなさい」

 

また耳元で声が聞こえる。

抗うことも出来ず、そのまま子供を捕らえ、のど元に短剣を突き付ける。

 

「魔導王を呼べ! 」

 

考える前に口が動いていた。

ざわざわと騒ぎ出す周りに対し、もう一度繰り返す。

 

「魔導王を呼べ! この子供を殺すぞ! 」

 

 

 

 

―エ・ランテル、アインズの執務室―

 

「ようやく来たか」

 

アインズは、大きな溜息を一つ吐いた。

エ・ランテルに辿り着くだけのことで、此処まで苦労させられるとは。

彼女の面倒を見ていたケラルトなどは苦労していたことだろう。

 

「それにしてもご苦労だったな、デミウルゴス」

 

レメディオスが馬鹿な行動をしないよう、本当に一々、支配の呪言を魔法で耳元に届け、行動を誘導してきたのだ。

 

「ふふふ、とんでもありません。アインズ様と共同で作業が出来るなど、至福の至り。これだけはこの女に感謝しております」

 

本当に嬉しそうな、邪気の無い笑顔でデミウルゴスが答える。

 

「それではクライマックスだな」

 

アルベド、デミウルゴスを連れ、転移門(ゲート)を開く。

さて、愚かな聖騎士の最期だ。

 

 

 

 

―エ・ランテル中心部大通り―

 

「早く魔導王を呼んでこい! 」

 

聖王女殺しの聖騎士、レメディオス・カストディオは、質の悪い悪夢の中にいるような気分だった。

周りは人間の衛兵と、アンデッドの衛兵が取り囲んでいる。

手の中にいる子供の母親らしき女が泣いている。

どれだけ時が立ったのか、或いは、数分にも満たないのか。

やがて、空中に黒い穴が開く。

アベリオン丘陵で見た転移の魔法だ。

 

「魔導王! 」

 

レメディオスがアインズを見るその目は、憎悪で濁っている。

 

「ふむ、聖王女を殺し、今度は私を殺すつもりか? 成程、世界に騒乱の種を蒔けば、腕に覚えがある自分も国を持てるとでも思ったか? 」

「ふざけるな! 貴様のせいでカルカが死んだ! 聖騎士達も皆死んだ! 全部お前のせいだ! 」

 

いや、今回は本当に何もしてないだろ、と思ったが、流石に口には出せない。

それにしても、この女は魔法で操ってるわけでもないのに、逆恨みが過ぎないだろうか?

 

「同盟を破って、我が国を侵略したのは君だろう? 聖王女を手にかけたのも君自身だ」

「お前が同盟など持ち掛けなければこんなことにはならなかった! 」

「それもおかしな話だ。私は、聖王国と友好的な関係を築こうとしていただけだ。それに、同盟の話もそちらのケラルト殿から持ち掛けられたものだ」

「くっ卑怯だぞ! 」

「いや、何でだよ」

 

いかん、思わず素が出てしまった。

 

「お前が魔皇ヤルダバオトか! 私に力を貸せ! こいつを斃すんだ! お前はこいつの魂を手に入れる為に仕えているんだろう? 」

 

デミウルゴスが呆れ顔で答える。

 

「ふふ、貴方のような欲望に満ちた人間は嫌いではありませんよ。ですが、貴方はアインズ様に対するには弱すぎる」

「私が弱いだと? いや、魔導王に勝てなかったのは事実だ。だが、私が欲深いみたいな言い方は何だ! 」

 

デミウルゴスが嘲笑と共に答える。

 

「貴方は己の欲望の為に魔導国を侵略したでしょう? 同じように、親友であった筈の聖王女も殺害したではありませんか。自分の意にそぐわない行動を取ったからといって」

「違う! 」

「違いませんよ。貴方は自分の欲望の為なら何でも犠牲に出来る。エ・ランテルに入る為だけに、善良な一般人を殺害した貴方ならね」

「黙れ! 」

「自分より強いものが掃いて捨てるほどいることを聞いてどう思いました? もう、自分の価値が無くなったのではないかと不安になりませんでしたか? 今まで優しかった聖王女と妹が自分を必要としないのではないか、と思いませんでしたか? ケラルト殿の護衛の戦士からも話を聞いたのでしょう? 」

 

デミウルゴスは良く通る声で、公衆の面前で、彼女の心を抉る。

 

「うるさい! 黙れと言っている! 」

「貴方は、自分の欲望の為だけに聖騎士団を利用し、罪もない亜人たちを虐殺した。自分の思い通りにならない聖王女を殺害した。実に欲深い。貴方こそが正に人間の欲望の権化! そう思いませんか? 」

「だまれええええ!! 」

 

このあたりで良いだろう。もう十分だ。

 

「さて、レメディオス・カストディオ、大人しく縛につけ。そして、法の裁きを受けるがよい。時間停止(タイム・ストップ)

 

時間を止め、子供を救出する。

時間停止解除と同時に、不死者の接触(タッチ・オブ・アンデス)で麻痺させよう。

時が動き出すと同時に、レメディオスの体に触れる。

レメディオスの体から力が抜け、崩れ落ちる。

 

―はずだった。

 

 

「は? 」

 

アインズの左手がレメディオスの体に触れた瞬間、彼女の体に変化が訪れる。

 

「嘘だろ? まさか、こいつは……」

 

 

 

巨大な蛇の体。無数に蠢く触手。

世界を崩壊せしめるほどの、強大な力を感じさせるそれ。

アインズは良く知っている。

ユグドラシルでも何度も戦った。

 

 

 

それ―世界を喰らう怪物―ワールドエネミー、世界喰い<ワールドイーター>。

一瞬の後、ゆらりと陽炎のように揺らめき、それは消えた。

 




みなさん、いよいよお別れです!
世界を守る守護者達は大ピンチ! しかも! レメディオスの体を依り代としたワールドイーターが、アインズ様に襲い掛かるではありませんか!
果たして!全宇宙の運命やいかに!
強くてニューゲーム 最終回「アインズ・ウール・ゴウン大勝利! 至高の未来へレディ・ゴーッ!!」

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