このおかしな仲間に祝福を!   作:俊海

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このおかしな仲間に祝福を! 1章
この素晴らしい女神に祝福を!


「死後の世界へようこそ佐藤和真さん。私はあなたに新たな道を案内する女神。辛いでしょうが、貴方の人生は終わったのです」

 

 

 ふと気がつくと、目の前に眼を見張るような美女が座っていた。

 周りを見渡すと、あたりは暗く、足元は煙なのか雲なのかよく分からないフワフワしたもので埋め尽くされている。

 あまりにも現実離れした光景を見た俺は、すんなりと美女の言葉ーーここが所謂あの世であると受け入れられ、俺は死んだのだと納得できた。

 なにせ、死んだ瞬間の記憶を持っているのだから。

 

 あれは、新たに発売されたゲームを目当てに外出し、それを手にした後はゲーム三昧だ、と上機嫌で自宅へと寄り道もせずに帰っていたところだ。

 たまたま、信号を渡ろうとしていた女の子に迫る大きな影を見かけ、咄嗟に俺はその子を突き飛ばし、迫りくる衝撃に瞼を閉じた。

 そして――

 

 

 

「すみません。一つだけ聞いても?」

 

「……どうぞ?」

 

「……あの女の子は。…………俺が突き飛ばしたあの女の子は大丈夫ですか? 生きていますか?」

 

 

 これを聞かずにはいられなかった。

 自分の命を投げ出したのだから、それが無駄に終わらないでほしいと願うのは間違っているだろうか。

 だって、これで助かっていないのなら、あまりにも悔しいじゃないか。

 

 

「生きていますよ? 残念ながら、左足を骨折するという大怪我を負いましたが」

 

 

 そうか、良かった……。怪我はさせてしまったが、助けることはできたんだ。

 まぁ、今まで引きこもっていた俺みたいなやつが、最期に善行を積めたというのは、悪い気分じゃない。

 

 と、そう自分の最期にしみじみと思いをはせてる俺に対し、なぜか目の前の美女は、どこかばつが悪そうにしていた。

 はて? 何かおかしなことでもあっただろうか?

 

 

「……この際なので、誤魔化さずにお伝えします。その場にあなたが居なければ、その子は怪我をせずに済んでいました」

 

「…………はい!?」

 

 

 ちょっと待て!? 今なんて言った!?

 

 

「いや、ですから…………本来なら、あのトラクターはその女の子の前で止まったんですよ。なんせ、速度も出していないし、赤信号だったので普通に止まろうとしてましたし……。万が一止まってなくても、あの速度だったら女の子が避けるのも簡単でしたし……」

 

「そんな……あれ? すみません、今なんて? トラクターって言いました? トラックじゃなくて?」

 

「……はい、トラクターです。あの畑を耕す機械の」

 

「え、じゃあなに? 俺はトラクターに引きずられて耕されながら呆気なく死んだの?」

 

「………………いいえ、あなたの死因はショック死です。トラックに引かれて死んだと思い込んでしまい、そのショックで死んでしまいました」

 

「…………嘘……だろ……? そ、そんな情けない死に方で……? そんなのってあんまりだろ……!」

 

「……事実です。一応、その後の顛末もお伝え出来ますけれど、聞きたいでしょうか? ただ、私個人の感想にはなりますが、精神衛生上あまり聞かない方がいい内容になってますけど……」

 

「い、いやいい! 大体分かったから!」

 

 

 こんな情けない死に方をしたんだ。どうせ最初は涙を流していた奴らも、実情を知ったらバカにして嘲笑っているに決まってる。

 そんなことを詳しく聞かされたくない。

 

 

「ええ、その方がいいと思います…………その、あんまりクヨクヨしないでね? こう言ったらなんだけど、もう終わったことなんだし、ね?」

 

「……そうします」

 

 

 あまりに落ち込んでる俺を見かねてか、美少女は俺の頭をなでながら慰めてくれた。

 普段の俺なら、見目麗しい女性に優しくされるというシチュエーションに歓喜していただろうが、状況が状況過ぎて全く喜べない。

 

 

「もういっそ、貴方も俺の死に方を笑ってくれてた方が気が楽になったかもですね……」

 

「私がそんなことするわけないじゃない! 過程や結果はどうあれ、他人のために自分の命も顧みず行動した人間の死を馬鹿にするほど落ちぶれてないわよ! 勘違いであっても、必死になって誰かを救おうとした貴方を、バカになんて絶対にしないからね!」

 

 

 何だこの人、女神か?

 

 

「……すみません、ちょっとヤケになってました」

 

「そんなこと気にしなくてもいいわよ。……こっちこそごめんね。なんだか怒鳴るような言い方になっちゃって。その代わりっていうのもあれだけど、貴方の気が済むまでいくらでも愚痴を聞いてあげるわ。あまりの事に心の整理も、事実を受け入れることもできていないだろうしね」

 

 

 そういうと、慈愛に満ちた笑顔で美少女はこちらに微笑んでくれた。

 引きこもり生活を送り続けていた俺が、久しく味わっていない温かさに、今少しだけ、ほんの少しだけだが、死んでよかったと思ってしまう俺がいる。

 

 

「……よし! もう大丈夫です。ようやく現実を受け入れられました」

 

「それなら改めて──はじめまして、佐藤和真さん。私の名前はアクア。日本において、若くして死んだ若者を導く女神です」

 

 

 この美少女――アクアが女神であるのは事実だろう。

 なにせ、なんとも度し難い死に方をした俺に対し、ここまで慈愛の心を持って接してくれるのだ。

これほどの人物が、女神でなくてなんだと言うのか。

 

 

「貴方には二つの選択肢があります。一つ目は、このまま天国に行くこと。もう一つは、再び地球に赤ちゃんとして生まれ変わるか。どちらにしますか? あ、なにか質問があるなら遠慮なく聞いてね」

 

「……天国って本当にあるんですね」

 

「とはいっても、貴方が想像しているような天国ではないですよ。死んでるから食事もできないし、異性との触れ合いもできません。娯楽も何もないから、出来ることと言ったら、精々日向ぼっこしながら近くの人と世間話をするくらいかしらね」

 

 

 それは地獄の間違いではなかろうか。

 現代社会に慣れ親しんだ俺が、そんなところに行ったところで、一週間もしないうちに気が狂うだけだろう。

 かといって、生まれ変わると言うのも何か違和感が残る。

 生まれ変わってしまえば、俺の今持っている記憶は消えてしまうわけで、それはつまり俺と言う存在の消滅を意味しているように思えてならない。

 そうやってどちらにしたものかと頭を悩ませていると

 

 

「その苦悩、分かります。まだまだ若い身空で生まれ変わるなんて嫌でしょう?」

 

「ええ、なんせ心残りしかないもんですから」

 

「そんな貴方に、実は第三の選択肢があるんだけど、聞きますか?」

 

「それって……どういった内容ですか?」

 

「実は、今ある世界でちょっとマズイ事になってるのよね。って言うのも、俗に言う魔王軍ってのがいて、その連中にまあ、その世界の人類みたいなのが随分数を減らされちゃってピンチなのよ」

 

「……で、俺に代わりにその魔王を倒せと?」

 

 

 俺がそう言うと、女神は慌てた様子で手を振った。

 

 

「とんでもない! 今まで命のやり取りと無縁だった人間に、そんなことを強要するほど私たちも無慈悲じゃないわよ!」

 

 

 決して、俺が引きこもりだから。とは言わない優しさが身にしみる。

 それにしても、さっきから重々しい口調が完全に消えて、地の部分が出てきた喋り方をしているが、なんというかこっちの方が彼女らしい。

 

 

「できれば魔王は倒してほしいわよ。倒したらどんな願いでも一つだけ叶えてあげるって贈り物だってあるし。でも、魔王って強いし無理はしないでほしいのよ。また死んじゃうなんて嫌でしょ?」

 

 

 それはつまり、異世界に飽きたら日本に帰るって願いもありなのか?

 いやいや、それだけじゃ飽き足らず、金持ちになって美少女たちにチヤホヤされるハーレム生活を送ることも?

 ……いや無理じゃね? どんな願いでも叶えるって報酬があるってことは、神様たちも相当切羽詰まっている状態ってことだ。

 なら、だいぶ魔王を倒すのは厄介な代物なんだろうな。

 女神様が言う通り、魔王討伐は諦めておこう。

 

 

「話を戻すわね。で、その星で死んだ人達って、まあほら魔王軍に殺された訳でしょう? なもんで、もう一度あんな死に方するのはヤダって怖がっちゃって、そこで死んだ人達は殆どがその星での生まれ変わりを拒否しちゃうのよ。このままだったらその世界の人口は減る一方。それなら他の星で死んじゃった人達を、そこに送り込んでしまえって事になってね?」

 

 

 つまり、移民政策みたいなもんか。

 

 

「で、どうせなら若い人間を記憶と身体はそのままに転移させようって話なの。それも単に送っただけじゃすぐ死んじゃうかも知れないから、一つだけ特典をつけてね」

 

「特典?」

 

「そう! それは強力な固有スキルだったり、人知を超えた才能だったり、神話に出てくるような武器だったり、とにかくなんでもよ! これなら互いにメリットのある話でしょ? 貴方たちは人生を異世界とはいえやり直せる。向こうの人も、魔王軍と戦える人がやってくる。悪くないでしょ?」

 

 

 そう言って、女神様は俺にカタログらしき本を俺に渡してきた。

 中をパラパラと読んだ感じ、どれもこれもがチート並の力を持っている。

 これらが本当なら、それはとんでもなく魅力的に聞こえる提案だ。

 引きこもりだった俺に、強くてニューゲーム状態でやり直せるチャンスが与えられるなんて。

 

 

「あ! 言語の違いも心配しなくていいわよ。転移の時に現地の言葉が理解できるように脳に直接インストールするから」

 

「へぇ、それは便利ですね」

 

「……ただ、運が悪いと頭がパーになっちゃうけど」

 

「おい。唐突にとんでもない厄ネタぶっ込んで来るなよ」

 

 

 あまりに想定外の事実を伝えられて、ついつい雑な言葉遣いになってしまった。

 だが、女神はそんな俺の無礼な言葉など気にせず続ける。

 

 

「まぁ、そんなこと滅多に起こらないわよ。今まで見てきて、実際に起こった事例なんて、飛行機が墜落するよりかは少ないし」

 

「……それなら、まぁ」

 

「予め伝えられるデメリットは伝えるようにしてるけど、他に気になることってあるかしら? 一番ヤバいやつがこれだけど」

 

「一応聞いておきますが、これの次にヤバいのってどんなことですか?」

 

「う~~ん……転移した時に座標が少しずれたら、第一村人発見の対象がモンスターになるくらいかしら? これも、能力がある人間なら問題ないくらいよ。それこそ赤子の手をひねるってやつ」

 

 

 そうなると、最初に選ぶ特典が一番の悩みどころか。

 しかし、どれを選んだらいいのか。

 武器をもらったとして、それをまともに使えなかったり、最悪の場合奪われたりしたら目も当てられない。

 なら、絶対に手放すことのない能力や才能を選ぶべきだろう。

 

 だとしても、何が良い?

 テンプレだったら、魔力量がSSSだとか、あらゆるスキルが使えるとか、一瞬でその場の最適な行動を選べるとか、そういうものだろう。

 だが、そんな発想は、俺以外の誰でも思いつきそうなもんだ。

 話を聞く限り、今までに転移した人間は相当な人数なのだろうが、それでも魔王を倒せていないという事実がある限り、それらの能力をもってしても、その異世界で生き残ることもできなかったのだろう。

 

 となると、今までの誰もが考えつかないような、突飛な発想をしたものを特典としてもらわなくっちゃいけないってことになる。

 でも、突飛……ねぇ……。いっそのこと、この女神さまから貰える能力は全部貰えるならそれに越したことは……。

 ――うん? 女神?

 

 

「いや、待てよ……これなら……?」

 

「どうしますか? 地球で生まれ変わる? それとも天国行き? もしくは」

 

「ああ、決まりました。俺は、異世界への転生を希望します」

 

「分かったわ。じゃあ持っていくものは決まった? 悩んでるなら別のカタログも――」

 

「いえ、大丈夫です、それも決まってますから」

 

 

 そう言いながら不敵な笑みを浮かべて、俺はゆっくりと人差し指を目の前の女神――アクアに向けた。

 

 

「俺は、貴女(・・)を持っていきたいです」

 

「…………ほえ?」

 

 

 女神様は、完全に呆けた顔をして、まじまじと俺の顔を見つめてきた。

 あんまり直視しないでほしい。

 美少女に長時間見られてると照れてくるから。

 

 

「プーッ! いや、すごい発想するわね貴方! 転生の特典に私を選ぶ人間なんて初めてよ!」

 

「マジですか!? やったぜ女神さまの初めてをもらっちまった!」

 

「……ちょっと言い方はあれだけど、その心意気は気に入ったわ! それに免じて、貴方の旅立ちに私も付いて行きましょう!」

 

 

 すげえ、ダメもとだったのに通っちまったよ。

 女神さまは椅子から勢いよく立ち上がると、ふんすと鼻を鳴らし、何処からか取り出した杖を地面に振り下ろした。

 すると、女神様の前に白い光が輝き、そこから羽を生やした天使のような女神が出現し、そのまま尋ねる。

 

 

「確認したいんだけど、この人の要求って通るのかしら? 特に規定には抵触していないはずだけど」

 

「ええっと……確かに通りますけど、アクア様はそれでいいんですか? 取り消すなら今の内ですよ?」

 

「私は問題ないわ。私を求める声があるのなら、それに応えないと女神の名が廃るってもんよ。有休も溜まってるし、せっかくだから消化しておくわ」

 

 

 神様の間でも有休制度ってあるんだな。

 

 

「何言ってるんですか! これも仕事みたいなものですので、そんな必要はありません! ……本当に行かれるんですね?」

 

「仕事の引継ぎの仕方も教えてあるし、滞ることはないでしょ?」

 

「そういうことじゃなくて……はぁ、もういいです」

 

 

 お相手の女神は呆れたように頭に手をやった。

 なんというか、女神様は仕事人間なんだろうか。

 

 

「佐藤和真さん。貴方の願いは受理されました。これより私と共に新たな世界に向かっていただきます」

 

 

 女神様がそう言った直後、青い魔法陣が俺と女神様の足元に現れた。

 この流れから察するに……異世界に飛ばす用の魔法陣だろうか。

 

 

「……なーんて、固っ苦しいセリフなんて似合わないわよね。これからの苦楽を共にする仲間として、よろしくお願いするわ!」

 

 

 優し気な笑顔を向けられた途端、俺達の体が浮き上がり、上空に光が現れた。

 いよいよ異世界に旅立つ事が出来るらしい。

 

 これからどんな冒険が俺を待っているのだろう。

 まだ見ぬ世界への期待感に胸を躍らせながら、俺もまた仲間に返事をする。

 

 

「――ああ! こっちこそよろしくな!」

 

 

 俺は、女神と共に白い光に包まれた。




アクア→
out すぐに調子に乗って、残念な部分が出てしまう
in  些細なことでも全力を出す

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