このおかしな仲間に祝福を!   作:俊海

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今回のカズマさん、全力でクズマさんと化しています。


この素晴らしい勇者に祝福を!

「……お、おいアクア、怖がるのは分かるけど、もう街中なんだから、そろそろ出てきてくれないか? ボロボロのオリに入った膝抱えた女を運んでる時点で、唯でさえ街の住人の注目集めてるし、しかもその女がアクアだから視線が余計に痛々しくなってきてるし」

 

「……ダメ。このオリの中だけが安全地帯なのよ。皆には悪いけど、外に出る勇気が湧いてこないの」

 

 

 無事にクエストを終えて街に帰って来た俺達は、街の人達の冷たい注目を集めながらギルドへと向かっていた。

 アクアがオリから出ることができないため、何とか全員で慰め続けているせいで、馬にオリを引かせているにも関わらず俺達の歩みは遅い。

 しかもそのオリに入っているのが、プラスの意味で有名なアクアだから、もはや視線が物理的な攻撃力を持っているかのように錯覚する。

 ……今回は約一名にトラウマは出来てしまったし、クエストを選ぶにしても、今後はもうちょっと注意して選ぶことにしよう。

 そうやって、今後の方針について反省をしている最中の事だった。

 

 

「め、女神様っ!? 女神様じゃないですかっ! 何をしているのですか、そんなとこで!」

 

 

 突然そんな事を叫びながらアクアに駆け寄り、オリを掴む男がいた。

 そしてそいつはあろう事か、あの凶暴なモンスターでも壊せなかった頑丈なオリの鉄格子を、ゴムで出来ているかのように簡単に捻じ曲げ、中に座り込んでいるアクアへと手を伸ばす。

 いきなりのことで呆気にとられている俺達を尻目に、その見知らぬ男は、同じく戸惑っているアクアの手を……、

 

 

「おい、私の仲間に馴れ馴れしく触るな。貴様何者だ? 知り合いにしては、アクアがお前に反応していないのだが」

 

 

 アクアの手を取ろうとしたその男に、ダクネスがその男の手をガシッと掴んだ。

 ……頼むから、そのまま頼れるクルセイダーのままで状態を維持してくれよ。バトルジャンキー的な側面は今は出さないでくれ。ここ街中なんだから。

 

 男はそんなダクネスを一瞥すると、心底呆れたかのように首を振る。

 まるで、自分は穏便に済ませたかったのに、向こうから来るのであれば仕方ないといった感じで。

 その男のその態度に、バーサーク状態じゃないときは基本的におっとりしているダクネスが、明らかにイラッとしていた。

 何だかヤバそうな雰囲気になってきたので、俺は何とかこちらの世界に戻ってもらえるように、アクアにそっと耳打ちする。

 

 

「……おい、あれお前の知り合いなんだろ? 女神様とか言ってたし。ちょっと対応してくれよ」

 

 

 そんな俺の囁き掛けに、アクアは、

 

 

「……え、天界関係の人? やだいけない! こんなところで座り込んでる場合じゃないわ! えっと、お菓子とかあったかしら? お世話になってるところの人だったら失礼がないようにしないと……」

 

 

 アクアがようやくオリから出てきた。

 と言うか、今の一連の行動が、完全に唐突に自分の子供が友達を家に連れてきたときの母親そのものだったな。

 大慌てでオリから出てきたアクアは、その男に対して首を傾げた。

 

 

「……え、貴方誰?」

 

 

 ……知り合いじゃないのかよ。

 いや、やはり知り合いの様だ。

 男が、信じられないと言う表情で目を見開いているから。

 多分アクアが忘れているのだろう。

 

 

「何言ってるんですか女神様! 僕です、御剣響夜ですよ! あなたにこの、魔剣グラムを頂いた!!」

 

「…………?」

 

 

 アクアが尚も首を傾げているが、俺はなんとなく感づいた。

 名前がアニメや漫画の主要キャラみたいなヤツだが、その日本人名からして、俺より先にアクアに強力な装備――おそらく、あの魔剣グラムとかいう――を貰ってここに送られた奴なのだろう。

 何だか俺とは対極の位置に属してそうなその男は、良く見れば結構なイケメンだ。

 その身には見ただけで神秘の力が宿っていると分かりそうなほどに豪華な鎧を着け、後ろには槍を持った戦士風の美少女と盗賊風の美少女を引き連れている。

 

 ……ああ、こいつ俺と同じ境遇のやつか。

 

 

「おい、こいつ、多分日本人だぞ。特典らしいものも持ってるし、そっち関係じゃ?」

 

「ミツルギ……ミツルギ…………あ、転生関係の方ね! あー、確かにいたわ、ミツルギキョウヤって子! ごめんね、すっかり天界の関係者の方ばっかり探してたわ。だって私の事を女神だなんて言うの、そっち関係の方が多いし!」

 

 

 俺の説明で、ようやくミツルギの事を思い出したアクア。

 よく覚えてるな、数多くいるであろう転生させた奴の顔なんて。

 若干戸惑いながらも、ミツルギはアクアに笑いかけた。

 

 

「お久しぶりですアクア様。あなたに選ばれた勇者として、魔王を倒し、この世界に平和を取り戻すため日々頑張っております。職業はソードマスター。レベルはあなたから頂いた魔剣のおかげで37にまで上がりました。……ところで、アクア様はなぜ地上に? そもそもなぜそんなオリの中になんて閉じ込められていたんですか?」

 

 

 ミツルギは何だか俺を邪魔ものを見るかのような目で見ながら言ってきた。

 しかし引っかかるな。アクアはあの場では転生する人間に対して、『貴方は選ばれた勇者だ』とか、『魔王を倒してください』とか言っていないはずだが。

 むしろ――

 

 

『とんでもない! 今まで命のやり取りと無縁だった人間に、そんなことを強要するほど私たちも無慈悲じゃないわよ!』

 

『だって魔王って強いし無理はしないでほしいのよ。また死んじゃうなんて嫌でしょ?』

 

 

 ……ないな。絶対にない。

 アクアが、そんな転生者を勇者に仕立て上げるようなことを言うはずがない。

 おそらくだが、このミツルギとかいうやつ、人の話をちゃんと聞かないタイプの人間なのだろう。

 思い込みが激しくて、一度こうだと決まってしまえば訂正できないくらいに頑固者なのかもしれない。

 

 というか、ミツルギは俺がアクアをオリに閉じ込めてた様に映ったのか?

 いや、普通はそう取るか。

 まさか、本人がオリの中から出たがらないんですと言っても、きっとこの人は信じてくれないだろう。

 そりゃ、俺だってミツルギの立場なら絶対に信じないだろうし、こうなった原因は俺にもあるから、完全に否定はできないけれど。

 俺とアクアは、俺と一緒にアクアまでもがこの世界に来る事になった経緯や、今までの出来事などを説明した。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………バカな。君は一体何考えているんだ!? 女神様を特典としてこの世界に引き込んだだけでも失礼に値すると言うのに、こともあろうか今回のクエストではオリに閉じ込めてモンスターが襲いかかってくる湖に浸けただと!?」

 

 

 俺はいきり立ったミツルギに、胸ぐらを掴まれていた。

 それをアクアが慌てて止める。

 

 

「ちょちょ、ちょっと!? その、私のために怒ってくれるのは嬉しいんだけどね!? 私としては結構楽しい毎日送ってるし、そもそも私だって乗り気だったから、ここに一緒に連れてこられた事は最初から気にしてないのよ! ていうか今日のクエストだって私がカズマに無理を言って頼んだからお互い様よ! それにクエストは確かに怖かったけどちゃんと皆で助けてくれてたし、結果的には誰も怪我せず無事完了した訳だし。しかも、クエスト報酬30万よ30万! それを全部くれるって言うの! 皆優しいと思わない!?」

 

 

 そんなアクアの言葉に、ミツルギは憐憫の眼差しでアクアを見る。

 

 

「……アクア様、こんな男にどう騙されたかは知りませんが、今のあなたの扱いはあなた自身の価値と比べれば明らかに釣り合っていませんよ。そんな目にあって、たった30万……? あなたは女神ですよ? それがこんな……。ちなみに、今はどこに寝泊りしているんです?」

 

 

 こんな公衆の往来で女神とか言うなよと言いたかったが、余計なことを言って刺激させたくない。

 そんなことをしたら、今度はどんなことを迂闊に喋るか分からないし。

 と言うか、初対面で随分なヤツだなこの男。

 ロクにアクアの事も知らない癖に。

 

 ミツルギの言葉にアクアが若干表情を硬くしながら答えた。

 

 

「カズマやみんなと一緒に、馬小屋で寝泊りしてるけど……なにか?」

 

「は!?」

 

 

 ミツルギが俺の胸ぐらを掴む手に力が入った。

 ぐっ! 止めろよ痛いじゃねえか。

 その俺を掴むミツルギの腕を、ダクネスが横から掴んだ。

 

 

「おい、いい加減その手を放せ。お前はさっきから何なのだ。カズマとは初対面の様だが、礼儀知らずにも程があるだろう」

 

 

 狂戦士モードでも喜びの感情以外浮かべないダクネスが、今は静かに怒っていた。

 見れば、めぐみんとゆんゆんまでもが杖を構え、今にも魔法の詠唱を……って、それは止めろ!

 ミツルギは手を放すと、興味深そうに三人を観察する。

 

 

「……クルセイダーにアークウィザードが二人? ……それに、随分綺麗な人達だな。君はパーティメンバーには恵まれてるんだね。それなら、尚更だよ。君はアクア様やこんな人達を馬小屋なんかに寝泊りさせて、恥ずかしいとは思わないのか? さっきの話じゃ、就いてる職業も最弱職の冒険者らしいじゃないか。彼女達に無理ばかりさせて自分は楽ができるなんて、君の運の良さは相当凄いんだろうね」

 

 

 改めて自分の立場を再確認できたが、本当に俺は恵まれた境遇にいるな。

 ミツルギがそう言いたくなるのも分からないでもない。

 それでも、俺達が好きで組んでるパーティに口出しするなとは思うけれど。

 俺はアクアに耳打ちする様に囁いた。

 

 

「なあなあ、この世界の冒険者って馬小屋で寝泊りなんて基本だろ? こいつ、なんでこんなに怒ってるんだ?」

 

「えっと……彼には異世界への移住特典で魔剣を与えたから、そのおかげで高難易度のクエストとか初期レベルからクリアできて、今までお金にも困らず、自分が望むように生活出来てたんだと思う。まあ、能力か神器を与えられた人間って、そうなる人もいるから……」

 

 

 アクアの耳打ちを聞いて、俺は何だか無性に腹が立ってきた。

 なんでこいつの中の常識を物差しにして、この世界での常識的な生活をしている俺達が不当に貶められなくちゃいかんのか。

 はっきり言って、こいつの言葉は、この世界の冒険者たちに対しても失礼だ。郷に入っては郷に従えって言葉を知らないのだろうか。

 そんな俺の怒りも知らず、ミツルギが同情でもするかの様に、アクアやダクネス、めぐみんとゆんゆんに対して慈悲の込もった顔で笑いかける。

 

 

「君達、今までこの男のせいで苦労してきたみたいだね。これからは、僕のパーティに来るといい。勿論馬小屋なんかで寝かせないし、高級な装備品も買い揃えてあげよう。というか、パーティ編成的にもバランス取れてていいじゃないか。ソードマスターの僕に、僕の仲間の戦士とクルセイダー。そして、盗賊にアークウィザード二人にアクア様。前衛も後衛も揃っているし、まるであつらえたみたいにピッタリなパーティ編成じゃないか!」

 

 

 当然のごとく俺がその中に入ってない。いや、勿論この男のパーティに入りたいとも欠片も思わないが。

 こいつの中では、今このシーンが、『悪人に騙されて嫌々パーティを組まされている美少女四人を助け出し、自分の仲間に加える、仲間加入イベント』にしか見えてないのだろう。

 勿論、悪人とは俺の事である。

 

 身勝手なミツルギの提案に、俺の連れの四人はヒソヒソと話し出した。

 性格的にはなんかアレな感じのミツルギだが、待遇としては悪く無い提案だ。

 

 中でも、アクアが向こうに付いて行くというのなら俺はそれを引き留める気はない。

 なぜなら、俺よりもミツルギと一緒に冒険した方が魔王を倒せる確率が高いからだ。

 俺が魔王を討伐しようとしているのも、アクアを天界に帰してやりたいからだし、そうすることで目的に近づけるなら、しょうがないと諦めよう。

 さすがに俺が討伐してないからアクアは帰れない。なんて意地の悪い展開にはならないだろうし。

 

 他の奴らにしても、俺みたいな半端物より、この主人公様の仲間になった方がいい気がする。

 間違いなく三人とも優秀なのだし、実際に馬小屋生活から抜け出せるのだから。

 そうなったとしても、俺はそれを裏切ったとは思わないし、恨んだりなんかもしない。

 誰だって、良い目を見たいのは当然の欲求なわけで。むしろ、よくここまで俺に付き合ってくれたとさえ思うくらいだ。

 俺は、アクア達も心が動いたのかと、背後にいる四人の顔を見ると……。

 

 

「……落ち着くのよ私。あの子は善意で私達に仲間の提案してくれてるんだから……。そう、例え、皆で一生懸命稼いだお金を『たった30万』と言ったり、私の上げた特典で稼いだお金なのに『買い揃えてあげよう』なんて上から目線で言ってきたり、挙句の果てには、こっちの話を聞かずにカズマをのけ者にしながら勝手に話を進めているとしても、あの子は心の底から良かれと思ってやってるんだから…………!」

 

 

 ……おや? アクアさん? ウィズと初めて会った時ぐらいに恐ろしい顔になっていますが?

 あの、落ち着いてくれませんか、女神様?

 

 

「ふむ、初めてだな。喜びも楽しみも全く湧かず、ただひたすらに殴りつけたいと感じてしまうのは。奴は強いのだろうが、ちっとも武を競い合いたいとは思わん。単に跪かせてやりたい気分だ」

 

 

 おい、ダクネス。闘志を燃やしてるときのお前はもっと笑顔のはずだろ?

 なんでそんなに無表情なんだよ。笑えよダクネス。むしろ笑ってください。

 

 

「今日ほどクエストの最中に爆裂魔法を撃たずに済んだことに感謝した日はありませんよ。もし使っていたら、今使うことができなかったのですから。あの苦労知らずの、スカしたエリート顔に一発ぶち込みたいのですが。何が馬小屋で寝かせないですか。何が装備を買いそろえてあげようですか!」

 

 

 ……そういえば、めぐみんって、実家が貧乏なんだっけ。めぐみんからすると金持ちの思考は理解できないらしい。

 でも爆裂魔法は使うんじゃないぞ。フリじゃないからな。マジで言ってるんだぞ。

 

 

「なんであの人はカズマさんを悪く言うんですかボッチだった私にここまで良くしてくれてパーティにまで入れてくれて休日にも代価なしに遊んでくれて一緒に魔法の訓練にまで付き合ってくれるカズマさんを……そんな私の友達を馬鹿にするなんて……」

 

 

 違うぞゆんゆん、俺がお前と一緒にしたことはごく普通の事なんだ。いや、それが普通にできなかったからこそだろうけど。

 そこまで俺を大事に思ってくれてるのは嬉しいが、ちょっと雰囲気が怖いぞ? 若干早口だし。

 

 ……大不評の様ですよミツルギさん。いや、むしろそれ以上かも……。

 

 アクアが俺の服の裾を引っ張った。

 

 

「ねえカズマさん。もうギルドに行きましょう? 私があの人に魔剣を与えたという事実はありますが、あの人には関わらない方が私達のためです」

 

 

 正直腹の立つヤツではあるが、ここはアクアの言う通りに立ち去るべきか。

 というか、立ち去らないとミツルギの無事が危ぶまれる。

 だって、アクアが敬語を使ってるんだぞ。

 あの女神様が事務的な対応しかしたくないって主張してるんだぞ。

 これ以上ミツルギと会話をしていたら、何をしでかすか分からない。

 ……なんで俺がムカつく野郎の心配をしてやってるんだか。

 

 

「えーと。俺の連れ達は満場一致であんたの仲間になるのはお断りのようです。それじゃあ俺達はクエストの完了報告があるから、これで……」

 

 

 俺はそう言うと、馬を引いてオリを引きずり、立ち去ろうとした。

 ………………。

 

 

「すんません、どいてくれます?」

 

 

 俺の前に立ち塞がるミツルギに、俺はイライラしながら言った。

 やっぱり、コイツ人の話を聞かない系だ。

 

 

「悪いが、僕に魔剣という選ばれた力を与えてくれたアクア様を、こんな劣悪な環境にいることを放ってはおけない。魔王を倒すのは君じゃなくてこの僕だ。魔王を倒すのが目的なら、アクア様は僕と一緒に来た方が絶対に良い。……君は、この世界に持ってこれるモノとして、アクア様を指定したんだよね?」

 

「……そーだよ」

 

 

 漫画でよくある流れとして、この後の展開が目に見える。

 こいつ、絶対…………、

 

 

「なら、僕と勝負をしないか? アクア様は持ってこれる『者』として指定したんだろう? 僕が勝ったらアクア様を譲ってくれ。君が勝ったら、何でも一つ、言う事を聞こうじゃないか」

 

「よし乗った。じゃあ行くぞ! じゃんけんホイ!」

 

「えっ、あ!?」

 

 

 何という予想通り。

 イライラが既に限界に来ていた俺は、ミツルギの顔も見ずに適当にチョキを出す。

 とっさにミツルギも拳を出してきたが、その形はパー。

 

 

「はい俺の勝ち。さて、どんな命令をしようかな」

 

「な、い、いや待て! こんな勝負認めるものか! だってこれは!」

 

「じゃんけんだって立派な勝負だろ? え、何? まさかお前、俺に決闘とかで勝負するつもりだったわけ? 魔剣持ちの高レベルのソードマスター様が、駆け出しの貧弱装備の冒険者に決闘で? まさか勇者様が、そんなとんでもなく俺にとって不公平すぎる勝負を挑んできたりしないよなぁ!?」

 

「ぐっ……!」

 

 

 向こうはそのつもりだったんだろうが、こう言ってしまえば何も言い返せなくなる。

 強者が弱者に正々堂々を強いてくる方がよっぽど卑怯だ。

 そもそも、勝負の内容を決めていなかった向こうにも責任があるんだから。

 

 

「確かに俺は最弱職の冒険者だが、その弱っちい俺の心のよりどころである唯一の特典を、圧倒的な武力を背景にカツアゲしようだなんて、そんな一昔前のヤンキー漫画に出てくるやられ役Cみたいな真似をするつもりだったなら仕方がない、正々堂々勝負してやろうじゃねえか! それなら最初っから、俺をぼっこぼこにして、再起不能になるまで叩きのめして、そうやってアクアを連れていくのが望みだって言ってくれりゃあいいのによ! 負けたからって勝負の内容を決めてないし無効だって言って恥ずかしくないのかねえ!!」

 

「ち、違う! 僕はそんなことを言うつもりはない!」

 

 

 よっしゃ釣れた釣れた。

 

 

「じゃあ何が不満なんだよ? じゃんけんだったら互いに公平な勝負の仕方だろ? ……まさかお前、自分が圧倒的に有利な立場に立たないと勝負しないとか抜かすんじゃ」

 

「そうは言っていない! だが、これは互いの大切なものを賭けた大事な勝負だろう? それを一度の勝負で決めるのはどうかと言いたいんだ」

 

「……というと?」

 

「勝負はじゃんけんで構わない。だが、三回だ! 三回勝った方が勝者になる。それでどうだ?」

 

 

 ミツルギの苦し紛れの提案に、表では嫌そうな表情を浮かべながらも、心の中でひそかにガッツポーズをとる。

 これでいい。向こうから勝負の内容を口に出させることに意味がある。

 そうしてしまえば、もうミツルギはこの勝負がどうなろうと文句を言うことはできなくなる。

 だって、形はどうあれ、自分から提案した勝負(・・・・・・・・・・)なんだから。

 

 

「はぁ……。しょうがねーなー、そこまで言うならそれでいいよ。さっきの不意打ちでの俺の勝ちもチャラにしてやる。それで文句はないな?」

 

「ああ。男に二言はない! それじゃあ、じゃんけん!」

 

 

 たった今二言を言ったくせに。こいつの心の棚は何段あるんだろうか。

 まあいいか、だってもう俺の勝ちが決まったわけだし。

 何故かって?

 そりゃあ――

 

 

「はい、これで三回連続俺の勝ち」

 

「な、なんでだーーーーー!!!」

 

 

 俺、じゃんけんで負けたことねえから。


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