このおかしな仲間に祝福を!   作:俊海

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今回はカズマ視点です。
前の話でカズマが何をしていたかという内容になります。


この素晴らしい潜入工作に祝福を!

 カツラギの件の翌日。俺は朝早くから身だしなみを整えていた。

 

 

「剣はしっかり研ぎ終わってるな……矢の本数も買い足したし…………ああ、鎧の脇の部分が少しガバってたな。外から布で巻いて補強しとくか。弓もまだ壊れる様子もないし……アクアに入れてもらった水筒も満タンだ。よし、行くか」

 

「何処に行くんだ?」

 

「のぴゃあああああああああー!?」

 

 

 馬小屋を出た瞬間、横からダクネスに声をかけられた俺は、つい変な叫び声をあげてしまった。

 

 

「なんだよダクネスか……びっくりさせんなよ」

 

「そ、そんなに驚くこともないだろう? それにしてもこんなに朝早くからどこかに用事か? 店もどこも開いてないぞ」

 

 

 現在の時刻、朝の4時。

 確かにダクネスの言う通り、こんな時間では酒場くらいしか開いていない。

 だが、俺が用があるのは店なんかじゃない。というか、そもそもこの街中ですらない。

 

 

「……ダクネスだったら言ってもいいか。ちょっと俺のレベル不足を実感していてな、ここ一週間で経験値稼ぎしてたんだよ」

 

「そんな場所があるのか? 今はあのデュラハンがいるせいで、強力なモンスターしかいないというのに」

 

 

 ダクネスの言う通り、そのせいでまともなクエストが無くなっているのだから、モンスターを倒すことすらままならないのが現状だ。

 だが、俺は気づいたのだ。滅茶苦茶美味しい狩場があるということに。

 

 

「あるんだよ。それなりに数は多くて、経験値が豊富で、デカ物じゃないモンスターが現れる場所が」

 

「そ、それは一体……?」

 

 

 ゴクリ、とダクネスがつばを呑む。

 ……いやそんな大層な場所でもないんだけども。

 

 

「お前も知ってるだろ? デュラハンの城(・・・・・・・)だよ」

 

「…………は?」

 

「という訳でだ」

 

 

 俺は愛用の木箱を用意しながら、あの主人公のようにニヒルに笑って、

 

 

「ちょっと、メダル・ギガ・ソリッドしてくるわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思えば、俺のスキルと言うのは狭い屋内戦のほうが効果を発揮するものが多いのだ。

 盗賊職のスキル、狙撃に初級魔法、どれも威力はないが、隠れる場所が多いほどその真価が出てくる。

 実際、この六日間、どれだけ有用であるのかを実感している俺が言うのだから間違いない。

 

 

「……で、なんでお前までついて来るんだよ」

 

「カズマだけズルいではないか! 私なんかここ一週間、まともに戦うことが出来なくて、この身体を持て余しているというのに! 欲求不満なのだぞ、私は!」

 

「言い方を考えろ。な?」

 

 

 あの後、待っているように言ったのに、ダクネスがぴったり張り付いてきやがった。

 他の三人よりかはマシだけれども、鎧さえなければ戦う時五月蠅くなくていいし。

 そういう訳で、今のダクネスはウィズの時と同じ装いだ。

 ただ、唯一の懸念材料が……

 

 

「頼むから、バーサーカー状態になるなよ? いや、戦う時はまだそれでもいいけど、勝手に上の階に行ったりするんじゃない。いいな?」

 

「…………努力はする!」

 

「やっぱ帰れ」

 

「ああ、嘘、嘘だ! なんとか抑え込んでは見るが、どうしてもダメなときはどうしてくれても構わないから! 頼む!」

 

 

 ……不安だなぁ。

 こいつ、調子に乗ると一人でデュラハンがいるところまで突撃しそうだし。

 最悪の場合、何とか気絶させるしか……あ、無理だわ。こいつ色々耐性持ってるんだった。

 

 

「……じゃあ、言うこと聞かなかったら、罰ゲームな」

 

「罰ゲーム?」

 

「一回やるごとに次のクエストではお前抜きで行く」

 

「よし、何なりと命令してくれ! 必ずカズマの指示に従おう!」

 

 

 こいつ……そこまでして戦いたいのか。

 最初は一回ごとにセクハラにしてやろうかと思ったが、抵抗されたら間違いなく死ぬので言い止めたのは内緒だ。

 

 

「ところで、その木箱は何に使うのだ? 何か運搬でもするためか?」

 

「いや、隠れる場所がないときは、これの中に隠れるんだよ。使わないときはこうやって折りたためる特注品だぞ」

 

 

 潜入と言えば段ボールなのだが、この世界でそんなもので隠れても直ぐにバレる。

 だって、違和感がすごいからな。中世の城の中で段ボールって。

 代わりに、軽くて、コンパクトにまとめられる木箱を用意してある。

 ……いや、これが本当に役に立つんだよ。意外なことに。

 

 

「うん? 確かアンデッドは潜伏スキルは効かないのではなかったか? 彼らは、生者の生命力を目印にやって来る。見た目では見えなくとも、直ぐにバレるのでは?」

 

 

 そう、初日は俺もそれで苦労したものだ。

 命からがら逃げられたのは良かったが、あれほどに効果がないとは思わなかった。

 それもあって、最初はこんなところでレベリングなんかできるか、俺は馬小屋に引きこもる! と決意しそうになったくらいだ。

 だが、突破口は意外なところにあるもので。今の俺は、何の問題もなく、アンデッド相手でも潜伏スキルを使うことができるようになったのだ。

 

 

「それな、要は俺達が生きてるから、どうやってもアンデッドには見つけられるってことだろ?」

 

「ああ、その通りだ…………まさか、死んで潜伏するというつもりではないだろうな?」

 

「ダクネス、正解」

 

「へ?」

 

 

 お、ダクネスの呆気にとられる顔なんて初めて見た気がするぞ。

 

 

「正確には、死んでるって思わせるってのが正解だけどな。この間、『自分の生命力を偽装する』ってスキルを手に入れたんだよ。スキルポイントも低かったし、コスパも悪くなかったからさ」

 

「そんなスキル聞いたことがないぞ……。もしや、あのリッチーから教わったのか? 蛇の道は蛇ともいう。リッチーならばアンデッドの事は熟知しているのだから、そう言ったスキルも……」

 

「いんや。これを教えてくれたのはアクアだぞ」

 

「??? ますます分からん。アークプリーストのスキルなら生命力に満ち溢れそうなものだが……」

 

 

 そりゃ思いつかないよな。俺だって、まさかこんなふざけた名前のスキルに、そんな効果があるとは思わなかったし。

 考え込むダクネスに、そろそろネタばらししてやるか。

 

 

「ほら、宴会芸スキルであっただろ。『死んだふり』ってやつ」

 

「あっ」

 

 

 

『『ヴァーサタイル・エンターテイナー』……? 『砂絵』……『消失マジック』……『動物会話』……『ジャグリング』……『死んだふり』……『パイ投げ』……おい、なんだこれ』

 

 

 まさか、『死んだふり』スキルがアンデッドにも通用するとは。

 もしかすると、宴会芸スキルって使い方次第でとんでもない効果を発揮するスキルなのかもしれない。

 

 

「何回も使ってるからか、もう一人ぐらいなら生命力の隠蔽はできるようになったし、お前も一緒に隠れられる。だから、城の中に入ったら、ずっと俺の手を掴んでろよ、そんで絶対に俺から離れるな」

 

「う、うむ! そう言うことなら仕方がないな!」

 

 

 勝手にどっかに行かれても困るからな!

 美人と手を繋げるはずなのに、なぜか大型犬の首輪に繋がってるリードを握ってるような気分になる。

 ……こいつの本性は、大型犬なんて可愛らしいものではないが。むしろ餓狼とかに近い。

 

 

「し、しかし……実はな……、家族以外の異性と手をつなぐのは……は、初めてなのだ。その、緊張で手汗をかいてしまったら…………ごめんなさい」

 

「おい、唐突にそういうしおらしいことを言うのは止めろよ」

 

 

 この間から何なんだ、ダクネスはギャップ萌えでも狙ってるのか。

 あざとい。あざとすぎるぞ。

 しかし、それに引っかかってしまう俺は、それ以上にチョロいのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『狙撃』……今度はあっちか……『狙撃』…………ダクネス、後ろから来てるから、静かに処理を頼む」

 

「ふんっ! ……これでいいか?」

 

「ああ、いいセンスだ。おっと、そこのアンデッドナイトだが、ちょっと抑えといてくれ」

 

「構わないが、どうする気だ?」

 

「『ドレインタッチ』で魔力と体力を奪い取るんだよ。こうやって、俺はこの一週間通い続けられたんだ」

 

「なるほど……」

 

「あ、そこは気を付けろ。『罠探知』が反応してる。今解除するから待ってろ……っと、これでいいか」

 

「…………本当に恐ろしい手腕だな」

 

 

 考えを改めよう。ダクネスに来てもらってよかった。

 どうしても俺だけだと敵に近づかれたときは逃げるしかなかったのだが、ダクネスがいると、拳で近くの敵を粉砕してくれるので非常に助かる。

 いっそのこと、『CQC』ってスキルでもあればいいのに。

 

 

「そうか? こんなの本家と比べたらまだまだだぞ」

 

「単独で4Fまで攻略しているくせに、よくそこまで謙遜できるものだ。急に習得しているスキルの数が増えていると思ったら、こういうことだったのか」

 

「まあな」

 

 

 攻略したフロアには、アクアに作ってもらった聖水を撒いて、湧き潰しを図っている。

 とは言っても、それぞれの部屋の四隅と中央に聖水をかけているだけだが。

 それでも次の日から湧いてこないのは、流石は女神の聖水だと感服したものだ。

 おかげで、すでにこの城は、4Fまで敵が出てこなくなっている。

 

 

「この分だと、あと二日でデュラハンがいるところまで行けそうだな」

 

「なあカズマ、もしかしてお前はあのデュラハンを倒すつもりなのか?」

 

「ああ。そのつもりだぞ。言ったじゃねえか、俺達は魔王を倒すつもりだって。それが幹部如きでたたらを踏んでられるかよ」

 

 

 この城は、自分のスキルを鍛えるのにちょうどいい。

 罠系のスキルも、探知系も、潜伏も、どれも長時間使わなくてはいけないため、いやでも習熟率が上がっていく。

 『狙撃』に関しては、いっそのこと、剣は諦めて、これ一本で行こうかと思うくらいにまで成長した。

 この間のワニでも、急所に当たる確率が上がっていたし、珍しく攻撃において俺が活躍できた場面でもあった。

 この世界ではRPGのように、弓の性能に比例して狙撃の威力も上がっていく仕様だし、俺の筋力が低くても武器で補えるなら問題なし。

 近接ならダクネスがいるし、俺はレンジャーみたいなスタイルで行こうかな。

 

 

「こうしてスキルの訓練をして、デュラハンも倒せれば、魔王討伐に近づけるだろ? そのために頑張ってるんだよ」

 

「以前から疑問に思っていたのだが、どうしてカズマは魔王を倒そうと思っているのだ?」

 

 

 言われてみればもっともな疑問だ。

 魔王の討伐は、この世界に生きる人間なら誰もが望んでいることではあるのだが、それはあくまで夢物語のように現実では成しえないことのようにとられている。

 そんな大言壮語を、俺のような人間が宣っているのだ。正気の沙汰ではないと思われても無理はない。

 

 

「もちろん私はカズマ達が魔王と戦うというのなら、それに最後まで付き合いたいと思っている。それは私自身の欲求でもあるのだが、なにより騎士として仲間を……いや、一人の人間としてカズマ達を見捨てたくないからだ」

 

 

 これは驚いた。ダクネスがそこまで俺達のパーティを気に入ってくれていたとは。

 ダクネスは普段から口数が少ないから、実は俺達に対して不満を貯めこんでいるのではないかと危惧していたのだが。

 

 

「それに、カズマは元々は魔王討伐など考えることもないような性格ではないか」

 

「……いや、そりゃ俺が無気力で面倒くさがりな性格だってのは自覚してるけどよ」

 

「ああ、いや違う! カズマは戦うこと自体が好きではないだろう? 好奇心はあるみたいだが、自らを危険にさらしてまでは冒険しようとはしないのではないか?」

 

 

 ここまで俺の性格が把握されているとは、俺って分かりやすい性格なのか。

 

 

「確かにそうだな。俺だって最初冒険者になったときは、俺の知識を使って安全な仕事をしつつ、たまには刺激を求めてクエストをこなしてのんびり過ごすつもりだったよ」

 

「ではなぜだ? 私は、強敵と戦い自らの成長を実感することを何よりも望むから冒険者になった。それゆえに魔王と戦うということにも積極的な姿勢でいられる。だが、カズマの言うことが事実なら、何を支えに魔王を倒そうと志せるのだ?」

 

 

 ……そんなの決まってるじゃないか。

 

 

「尻ぬぐいだよ。俺自身のやらかしのな」

 

「……どういうことだ?」

 

「俺の安易な思い付きのせいで、一人の人生を滅茶苦茶にしちまったんだ。その責任をとるために魔王を倒す。ただそれだけだ」

 

「怖くは……ないのか?」

 

「怖いに決まってんだろ、張っ倒すぞ。なんで俺がこんな苦労をしなくちゃいけないのかって毎日毎晩頭の中でリフレインしてるくらいだわ。今だってビクビクしながらスニーキングミッションやってんだからな!」

 

「お、おう……」

 

 

 畜生! かっこよく決めたつもりが、途中から本音が出てきやがった!

 でも仕方ないじゃん。怖いもんは怖いんだ。

 一回死んだから死ぬのは怖くないんじゃないかって? 何言ってんだ、一回死んだからこそ余計に怖いんだよ!

 

 

「しかし、ならばなおさらカズマはすごいと思うぞ。自らの責任を成し遂げるために、恐怖心をも抑え込んで挑もうとしているのだからな。素直に尊敬するよ、カズマ」

 

「や、やめろよそういうの……」

 

 

 ダクネスが、慈愛と尊敬のこもった眼差しで俺を見てくる。

 なんだろう、すごくむず痒い。

 アクアのアレとは違って、年上な雰囲気があるせいだろうか。

 とりあえず話題を変えよう。そうしよう。

 

 

「そういえば、ダクネスは何で俺のところに入ったんだ? 確かにお前は戦闘狂なところはあるけど、能力的には申し分ないだろ? あれだったら俺以外の所でも引く手あまただったと思うんだけど」

 

「……さっき言ったではないか。『私は、強敵と戦い自らの成長を実感することを何よりも望むから冒険者になった』と」

 

 

 確かに言っていた。

 でもそれは、どの冒険者のパーティでもやれないことはないはずだ。

 事実、巨大なカエルですらあれほどの強敵なのだ。ちょっと遠出すれば強いモンスターなんていくらでもいるだろう。

 

 

「そう言うとな、大概の連中に鼻で笑われるのだ。冒険者は仕事であって、趣味の場所じゃない。遊び半分のように見える私の事は疎ましく思えたのだろう。それに、私の戦い方は、自分の命を勘定に入れてないだろう? それに付き合わされる身にもなって見ろ、いつ死ぬかもわからない奴なんか仲間にはしたくないじゃないか」

 

 

 すっごく納得した。

 だって、最初はほがらか抱擁系マゾヒストと称されるあのバーサーカーみたいな性格だけなのかと思いきや、さらにそこに薩摩が生んだ殺人マッシーン成分をぶち込んでミキサーにかけた感じの、お前盛りすぎだろってのがこいつの本性だからな。

 頼りにはなるけど近くに居たら怖くて仕方がない。

 しかもこいつ自身が強敵が出たら何の躊躇もなく突貫するのだから、命が惜しい普通の人間ならそんな自爆スイッチを勝手に押すかのような仲間などお断りだろう。

 

 

「……やっぱり、私のような者は冒険者になるべきではなかったのかもしれんな。リスク管理もできず、自分の思うがままに行動する人間は……」

 

「その言葉は俺にも刺さるからやめろ下さい」

 

 

 あまりに俺の痛いところを突いてくる言葉だったため、変な語尾になっちまった。

 すみません。自分の趣味で冒険者になってしまってすみません。

 いや、でも今は真面目に冒険者として頑張ってるからセーフで良いだろ。

 うんそうだ、そうに違いない。

 

 

「でも、それくらいの方が俺達のパーティに合ってるんじゃねえの? 自分で言うのもなんだが、俺達ってどこかがずれてる奴らばっかりだし」

 

「そうだろうか?」

 

「そりゃそうさ。爆裂狂、ぼっち、女神様にこの俺だぞ? むしろどの辺に安定感があるのかと問いただしたい。切にそう思う」

 

「……フフッ、違いない」

 

 

 ……少し落ち込んでいたようだが、これで持ち直してくれただろうか。

 ほんのりとだが笑ってくれたし、とりあえず良しとしとこう。

 

 

「だから、俺からお前たちを追い出すかどうかなんて考えなくていいぞ。むしろ、お前らこそ好きに出て行ってくれてもいいくらいだ。こんな弱小パーティより良さげなところがあれば、遠慮せずに言ってくれ」

 

 

 ネトゲでも、自分に合わないギルドとかには長居せずに、さっさと見切りをつけた方がいいんだし、現実世界ならなおのことだ。

 だが、その俺の言葉にダクネスはとんでもない剣幕で、

 

 

「何を言うか。これ以上に私を滾らせてくれる環境など、この街のどこを探しても見つかるものか! むしろ居させろ、居させてください!」

 

 

 ……ああ、そうだった。魔王討伐を目指す限り、こいつが俺たち以外の所に行く理由がないんだ。

 本当に、うちってはみ出し者ばかりだな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れダクネス。今日はお前のおかげで助かったよ。いよいよ明日、あのデュラハンに目にものを見せてやろうぜ!」

 

「ああ、言われずとも! こ、これほどに明日が待ち遠しかった日があっただろうか! ……んんっ! あ、明日のことを思うだけで、む、武者震いが……!」

 

 

 頬をほんのり赤く染めて、小さく震えているダクネス。

 ……なんだろう、すっごく色っぽい。

 言ってることが物騒なのに、それすらもどうでもいいくらいに、そそられる。

 

 

「……ん? どうしたカズマ、顔が赤いぞ? 熱でもあるのか?」

 

 

 自分の魅力に無自覚なお姉さまが、その色香にあてられた俺を不審そうに見る。

 なんでこいつ、こんなに無頓着なのだろうか。

 まるで、『戦いに明け暮れているせいで、女としての自覚がない女騎士』みたいな、昔ながらのテンプレかのごとき振る舞いだ。

 ああ、いやでも最近のテンプレは『くっころ』とかいうやつだったっけか?

 ……ダクネスがそれを言う場面が全く想像できない。

 どれだけ追い詰められても、虎視眈々と逆転の目を狙いに行きそうだ。

 

 

「熱は……ないみたいだが」

 

 

 俺の熱を測るために、ダクネスが俺の額に手を当ててきた。

 あ、なんだかヒンヤリして気持ちいい……。

 ……は、いかんいかん!

 

 

「いや本当に大丈夫だから。それより腹減ったし飯食いに行こうぜ。俺はちょっと鎧を修理に出してくるから、先にギルドの酒場に行っといてくれ」

 

「了解した。では後程」

 

 

 そういってダクネスはギルドの方に駆け足で向かって行った。

 俺も、なるべく早く用事は済ませるか。

 明日決着をつけるんだから、装備は万全でないと。

 朝気になっていた鎧の修理を頼むため、いつもの店に足を運んでいると、

 

 

「でも、悪いことかぁ……」

 

 

 何か悩んでいる様子の女神様の姿が。

 その口にしている言葉は全くもって似つかわしくないものだが。

 あれか? 清純系は飽きたから小悪魔系女神に路線変更するつもりか?

 止めとけ、絶望的に似合わねえから。

 それにこいつの悪事って言ったら、

 

 

「夜中にこっそり夜食を食べに行ったり……」

 

「寝る前に食べると太るぞ。いや、女神だから体型が変わらねえのか?」

 

「お店で値段交渉して値切った上におまけの品を貰ったり……」

 

「あのおまけつけてる時の店員さんの顔、完全に孫娘にお小遣いをあげてるじいさんばあさんのそれだったから、逆に喜んでるんじゃねえか?」

 

「回復魔法をかけてあげるだけでお金をとったり……」

 

「むしろ安すぎるんだよなぁ……」

 

 

 この体たらくである。

 どこが悪事なのかと小一時間問いたい。

 アクアは、どうあがいても悪い子にはなれない宿命なのだろう。

 

 

「…………あれ? カズマ、いつの間に?」

 

「……お前、気づいてなかったのかよ」

 

 

 自分の世界に入っていたせいか、全く俺が近づいていたことに気づかなかった様子。

 ……本当にこの女神は、母親っぽいかと思えば、小さい子供みたいに不用心だったりするから困る。

 まあいい。この時間だし、アクアももしかしたら昼はまだかもしれないから、誘うだけ誘ってみるか。

 

 

「そういや、アクアはもう昼飯は食べたのか? まだならダクネスが席をとってくれてるし、一緒に食べようぜ」

 

「うん、行く行く!」

 

 

 このはしゃぎようと言ったらないな。

 アクアみたいな女の子が元の世界に居たら、俺も引きこもったりなんかしなかっただろうに。

 

 ……あれ? もしかして、俺が死んだのって幸運だったのだろうか?

 あのままだと、碌な人生送れないのが確定してたわけだし。

 そう自分の死が必然だったのかと思い悩み始めたところ、

 

 

「えっと、私、お邪魔じゃない? 二人で食べる予定だったんでしょ?」

 

 

 唐突にアクアが遠慮がちになってしまった。

 ……こいつ、俺とダクネスがデートに行ったと勘違いしてるな。

 あいつは街中で遊ぶようなデートより、外でモンスターの討伐をしてるほうが気に入りそうだけども。

 

 

「何をいまさらそんなことを気にしてんだよ。もしかして俺とダクネスがデートでもしてるとでも思ったか?」

 

「違うの?」

 

 

 そうやってコテンと首をかしげるアクア。

 なんでこいつの仕草は、いちいちこんなに可愛らしいのか。

 女神だからか、女神だからなのか。

 

 

「そんな可愛らしいもんじゃねえよ。……そうだ。それにも関係あるんだけど、ちょっと頼みたいことがあるんだ」

 

「うん、任せて!」

 

 

 この即答具合。本当に悪い人に騙されないのか心配だ。

 

 

「いや、まだ内容も喋ってないだろ」

 

「私がカズマのお願いを断る訳ないじゃない。私にできることなら何でも言って!」

 

 

 何でも言って、だなんて、本当にお年頃の少年に言う言葉じゃねえ。

 ……ただ、アクアが言っても下卑た命令をしようという気になれない。

 そういう対象に見ること自体が、なんだかいけないような気分にさせられる。

 ま、俺一個人の感想だが。

 

 

「……そのセリフ、俺だからいいけど、他の野郎には絶対言うなよ」

 

「カズマだから言ってるの! カズマ以外にこんなこと言わないわよ!」

 

 

 本当に男のツボを突くのが上手いな、この女神様は!

 『貴方だけ特別です』だなんて美少女に言われてみろ。もう死んでもいいかなって思えるぞ。

 いや、実際に一回死んでるんだけれども。

 

 

「ま、詳しくは飯を食いながら説明する。ついでにこの一週間何をしてたかってのもな」

 

「ほ、本当に!?」

 

 

 この一週間、アクアには黙ってデュラハンの城に行ってたからな、気になってしょうがなかったんだろう。

 でも、アクアにばらしてるといろいろ不都合があったので絶対に口に出さなかった。

 だって、この慈愛の女神様が聞いたら、100%反対するじゃん。

 『そんな危険なことはしなくて良い。来月来る凄腕の冒険者に任せましょう』とか言って。

 

 だがダメだ。そんなことで魔王軍の幹部を倒せるのなら、とっくの昔に倒せているはずだ。

 真正面から挑んだところで、返り討ちに合うか、良いところで撤退されてしまうだろう。

 というわけで王道で倒せないのなら、邪道であっさり倒してしまおう。

 きっと相手は油断している。この間街に来た時のセリフでそう言ってたし。

 だったら、遠慮なくそこを突かせてもらおう。

 

 そうやって、明日の挑戦に思いを馳せていると、

 

 

「……ねえカズマ。カズマは私のこと、見捨てたりしないよね?」

 

 

 なんかアクアが世迷いごとを言い出した。

 

 

「はぁ? お前が俺を、じゃなくてか?」

 

 

 見捨てられるかどうかなんて俺の方がビクビクしてるってのに、なにトンチキなことを宣っておられるのか。

 また、余計なことを考えて罪悪感に駆られてでもいるのか?

 そうやって呆れていると、アクアは思いつめたような表情になり。

 

 

「そうよ。それで、どうなの?」

 

「アクア、お前って本当にバカだな」

 

 

 俺は、心底呆れたと言った表情でそう返した。

 

 

「ありえねえよ。何だ、どっかの知らない奴に変なことでも吹き込まれたか? 逆ならまだしも、俺から見捨てるとかどうあっても起こりえねえから」

 

「……本当?」

 

「むしろお前を見捨てたら俺が他の冒険者の奴らに後ろから刺されるからな、そんなのお断りだ」

 

 

 こいつ、ギルドでの愛され具合半端ないからな。

 今のところ、俺はアクアのお世話係的ポジションに落ち着いたので、普段はなんとかなにもされずにいられるが、もしも俺がアクアの不興を買ったら、これ幸いと集団でボコられるわ。

 

 

「…………のに」

 

「うん?」

 

「……本当は、カズマは魔剣を使えたのに? グラムの所有者の変更、実はできたのに?」

 

 

 え、マジか。だったら惜しいことをしたか?

 ……でも、もう俺って剣より弓で行くって決めちゃったし、それほど悔しくはないんだよなぁ。

 近接で強くなれるのは魅力的だけれど、俺って剣の使い方はまだまだだし、間違えてダクネスにでも斬りかかったら恐ろしいことになりそうだ。

 なお、この恐ろしいこととは、ダクネスを間違えて傷つけることではなく、その強さに感化されてダクネスが俺に斬りかかって来かねないということを意味する。

 

 うん、いらねえな。金にでもした方がよっぽど有益だ。

 

 

「あ、そうなんだ。……ま、いっか」

 

「軽っ!?」

 

 

 すごくビックリされた。

 もしや、あんなに考え込んでたのは、これが原因か。

 

 

「え!? もっとなにかないの!? ほら、俺を騙してたのか。とか、今からでも所有者変更させろ。とか、どうせならそっちの特典を選んどけばよかった。とか!」

 

 

 ねーよ。口が裂けても言えねえわ、んなこと。

 

 

「いや、アクアが特典として付いてきただけで魔剣以上の価値があるんだけど」

 

「……と、唐突に照れるようなこと言わないでくれない!?」

 

 

 おっと、アクアの顔をにやつかせてしまった。

 ……本当に子供っぽいな、この人、いや女神か。

 

 

「よく考えたら、俺って近接戦苦手なんだよなぁ。魔剣とかもらっても使いこなせる気がしない。というか、『スティール』とかで奪われた瞬間負けそうだから、ない方がマシかも」

 

「……神器をそこまで虚仮にされたの、初めてかもだわ」

 

 

 だって本音だし。

 神器? ああ、そういやそんなのあったね。ってくらいのものにしか思えないしな。

 だって、神器なんかよりもよっぽど価値のある女神様が傍にいるんだから。

 

 

「これ以上は俺には過分ってやつだよ。なんせ、俺には女神様がいるんだからな。……本当、俺の旅路について来てくれてありがとな」

 

「う、うん……!」

 

 

 そう言って、アクアは照れくさそうに俯いた。

 多分、俺もアクアと同じような顔になっているんだろう。

 だって、思わず顔を見られなくて自然とそっぽを向いてしまったんだから。




多分原作に『死んだふり』スキルなんてありません。
この小説だけのオリジナルスキルです。
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