「……ほう、ようやく来たか。それとも、死の宣告のタイムリミットまで残りわずかといったところで、なんとか間に合ったと言ったところか?」
城の最上階。デュラハンはそこに鎮座していた。
その部屋に入った俺とダクネスの姿を見て、デュラハンが愉快そうに俺達に掌の上の首を突き出す。
……こいつ、こんなふうにカッコつけてるけど、死の宣告の呪いは解かれてるんだよなぁ。
相手が真面目にやってる分、余計に笑えて来そうになる。
「それでは約束通り、貴様を庇って呪いを受けたそこのクルセイダーの呪いを解いてやろう。……だがその前に聞いておきたいことがある」
「……なんだよ。魔法実験ならやってないし、あの謝罪ならもうしたはずだろ」
「ああ、確かにそれは守られている。そもそも貴様がこの城を攻略している以上、外から攻撃するなどという愚かな真似はしないだろうがな。……いや、聞きたいことはそんなことではない」
じゃあ何だってんだよ。
俺は真面目にこの城の攻略をしてただけで、何かしら咎められるようなことはしてないはずだが。
城の最上階まで来いって言ったのはこいつなわけだし。
腕組みしながら問い返した俺に、デュラハンは肩を震わせながら、
「き、貴様この城に何をした!? 貴様が攻略し始めてからというものの、やたらと神聖な力がこの城を満たしていったのだぞ!? 何だあのとんでもない浄化の力は!? 貴様、そんな貧相な装備のくせして、実はアークプリーストだったのか!? おかげでこちらは毎日毎日力をそがれていったのだぞ!? これも貴様の作戦か! 俺がこの城の最上階で待ち続けると分かっているからと、じわじわと苦しめていく作戦のつもりか!? 俺がこうして我慢強かったからよかったものの、付き合ってられんとこの城から出て行っていたらどうするつもりだったのだ!? 危うく貴様は、そこのクルセイダーを見殺しにするところだったのだと自覚しろ!」
……あー、湧き潰しに使ってたアクアの聖水の事か。
別にこいつを驚かせるためにやってたわけじゃなくて、一回攻略したところでモンスターが出ると鬱陶しいからやってただけなんだが、どうもデュラハンにはデバフでもかかってしまっていたらしい。
本人が直接浄化したわけでもないのにこの効果の効きよう、本当に規格外だなアクアは。
「貴様ら、本当に駆け出しか? 駆け出しが集まる所だろう、この街は? そのせいで城から出ようとするたびに体中に地味に衝撃が走って仕方なかったのだが……、しかも日にちが経つごとにその威力は上がっていったし、どういう力を使ったのだ?」
それは、毎日攻略したフロアで聖水を使ってるからです。
しかし城から出るたびに地味にダメージを食らうって、まるでドアを開けようとするたびに指先に静電気が走ってしまう人みたいだな。
……うっわ、それ地味に嫌じゃね?
「そこは、企業秘密ってことで。それとも俺達がわざわざ敵に自らの手の内を見せるバカだと思ってんのか?」
「……ふっ、確かにな。しかしここまで来られたということは、実力はあるようだ。それに加え、この俺にダメージを負わせるほどの浄化の力……俺を倒すと豪語するだけの事はあるらしい……!」
デュラハンは、傍に立てかけていた大剣を握り、
「クハハハハハハ! 面白い! 面白いぞ! まさかこの駆け出しの街で配下を全滅させられ、この城を攻略されるとは思わなかった! 敬意を表して名乗らせてもらおう! 俺はベルディア。魔王軍幹部が一人、デュラハンのベルディアだ!」
哄笑しながらその大剣をダクネスへと向ける。
すると剣先から黒い光が飛び出し、ダクネスにぶつかった。
「たった今、そこの女騎士の呪いは解いてやった。これで貴様らは全力で戦えるはずだ。さあ、この俺自ら、貴様らの相手をしてやろう!」
こうシリアスな場面でなんなんだが、ダクネスの呪いはアクアに解呪されてるからなぁ。
何にもない状態で、あのデュラハンが放った光を食らってしまうと、悪影響があったりしないだろうか?
なんとも、そっちの方が心配でしょうがない。
……いや、心配事はこっちの方か。
俺はさっきから一言もしゃべっていない、隣の女騎士に目をやる。
「ふーっ! ふーっ!! ……だ、ダメだ、ガマンガマンガマンガマン……ぐっ……! ハァーッ! ハァーッ!」
あ、ダメだこれ。もうバーサーカーモードに入ってるわ。
何とか俺の言いつけ通り堪えているようだが、もうそろそろ限界だ。
……ま、ここまで耐えてきたんだし、全力でその欲望を解放してもらおうか。
「よーしダクネス! もう我慢しなくていいぞ! 全力で斬りかかれ!」
「その言葉が聞きたかった! では行ってくりゅ!」
……興奮しすぎて、噛んでやがる。
ダクネスは、あの時と同様に満面の笑みを浮かべながら、大剣を正眼に構え駆け出した。
「ほう、来るか! 首なし騎士として、相手が聖騎士とは是非もなし。受けて立とう!」
ダクネスが両手で握る大剣を見て、受け止めるのを嫌がったのか、ベルディアは身を低く落とし、回避の構えを見せている。
そのベルディアに、ダクネスは体ごと叩きつけるように大剣を振り下ろした。
「ぐっ……荒々しいが、速い……! この俺の鎧にかすらせるとはな……!」
だが、その渾身の一撃も、回避に専念していたベルディアに容易く避けられてしまう。
叩きつけるべき対象を見失ったダクネスの剣は床に突き刺さり、そのまま小さなクレーターを作り上げる。
この城が古くなっているということを加味しても、ダクネスの攻撃力は常人のそれではないことが窺えた。
「だが、攻撃に意識を割きすぎて防御がおろそかになっているぞ!」
「くぅっ!?」
次の横薙ぎの攻撃を軽くかわしながら、ベルディアは袈裟懸けに、剣を一閃させた。
だが、その攻撃は、金属を引っかく様な鈍い音を立て、ダクネスの鎧の表面を派手に引っ掻いただけに終わる。
スキルは所持している武器や鎧にも効果があるとは聞いていたけれど、仮にも魔王軍幹部の一撃をあの程度の損傷に抑えられるとは。
……ダクネス、お前ってどんだけ硬いんだよ。
「何だ貴様は……? 俺の剣を受けて、なぜ斬れない……? その鎧が相当な業物なのか?」
「ふ、ふふふ……その程度の攻撃ではこの体に傷一つ付けられんぞ……! ……ああ!? せ、折角新調した鎧が!?」
「そんなことを気にしている場合か! 今は目の前の敵に集中しろ! 攻撃ならこっちにも任せとけ! 何とか援護する!」
ダクネスならベルディアの攻撃に耐えられるという事実があれば、戦いようはいくらでもある。
こいつとの勝負のためにわざわざ習得した俺の魔法が火を噴くぜ!
「喰らえ! 『ターンアンデッド』!」
「ぬぐっ!?」
突き出した俺の手の先から、白い光が放たれる。
ダクネスの対応に気を取られていたため、それを避けることもできずそのまま魔法を受けたベルディアの足元に、白い光の魔法陣が現れる。
それは天に突き上げる様な光を放ち、デュラハンごと空へ還そうとでもするかの様に、しばらくの間浄化の光を放ち続けた。
「……ふん、目くらましのつもりか?」
「な……!? 効いてない、だと!?」
だがしかし、浄化魔法を食らったはずのベルディアは何らダメージを負うことなくそこに立っていた。
くそっ、やっぱり俺じゃレベルが足りな過ぎたか!
「残念だったな。俺は魔王様からの特別な加護を受けたこの鎧と、そしてこの俺の力によってそこらの冒険者の『ターンアンデッド』など効かぬのだ!」
そういうメタ対策をボスがするのはどうかと思うんですが。
だが、まだ手はある。そもそもこんな貧弱な冒険者の『ターンアンデッド』が効くとも思ってなかったしな。
ダメージ0ってのは流石に想定外だったけれども。
「だったらダクネスの攻撃のサポートに徹してやる! 『ティンダー』からの『狙撃』!」
矢先に塗った油に着火して、即席の火矢を放つ。
こんなもので倒せるだなんて思ってはいない。
少しでもこっちに注意を割いてくれれば、ダクネスの攻撃も通るはず……!
「ふん、小賢しい!」
だが、その目論見も外れてしまう。
ベルディアが突然自分の首を天井へと放り投げたかと思いきや、俺とダクネスの攻撃を全て躱し、そのまま片手で握っていた大剣を両手で握りなおしてダクネスに叩きつけたのだ。
幸いにも、ダクネスはとっさに大剣でガードしたため直撃は避けられたが、デュラハンの膂力は尋常のものではなく、しっかりと握りなおされたその攻撃は、ダクネスをよろめかせるのに十分な威力を孕んでいた。
「ぐあっ!?」
「大丈夫か、ダクネス!?」
片手の時とは段違いの攻撃に、ダクネスが思わずうめき声を上げる。
もしやクリーンヒットでもしたのかと心配になって声をかけるが、
「ふはははは! すばらしい……すぅばらしいぞぉ……! 未だかつて、これほどまでに手傷を負ったことなどなかったが、想定以上に気力が横溢してくる……! さあデュラハンよ、私にもっとこの快感を味わわせてくれ!」
「さっきから……いや一週間前から思っていたのだが、貴様は本当に女騎士か!? 実は変装魔法でもかけられてる未開地の蛮族だったりしないだろうな!? 何をどう成長したら、女の身でそこまで凶暴かつ野性味の溢れた戦い方ができるのだ!? 長年戦い続けてきた身ではあるが、貴様のような女騎士は見たことなどなかったし、できるならば見たくもなかったわ!!」
「ふん! 私を良い気にさせようと煽てたところで無意味だぞ! 語るのであれば剣を以て語るが良い!」
「褒めとらんわ!」
ダクネスがいつも通りで安心したような、別の意味で不安になるような。
挙句の果てには敵であるベルディアにまで突っ込まれる始末。
あと、なんとなく思ったけれど、二人の戦い方って対照的なんだよな。
ベルディアは、長年にわたって培われた卓越した技術と身のこなしで戦うタイプ。
ダクネスは、リミッターを振り切ったバカ力と持ち前の耐久力で戦うタイプ。
……女騎士とデュラハンだったら、普通戦い方が互いに逆になるのでは?
「カズマ、なんとかできないか? このまま戦い続けるのは私としては一向にかまわないのだが、こちらの攻撃が当たらないのではどうしようもないのではないか?」
「……お前、戦ってる最中でもそんな建設的な意見が出せるんだな」
だが、実際にそこは一番の問題点だ。
ダクネスの攻撃は、当たりさえすればそこそこのダメージは通りそうなものだが、あのデュラハン、見た目と打って変わって身軽に攻撃を躱してくる。
一瞬でも足止めが出来れば……。
「よし! だったらこうだ! 『クリエイト・ウォーター』!」
俺の叫びと共に、ベルディアの頭上にバケツをひっくり返したような勢いで、大量の水がぶちまけられる。
初級魔法でさほど攻撃力はないが、そんなものは必要ない。
ないはずだが、なぜかベルディアは大慌てでぶちまけられる水から飛びのいた。
…………?
なんで、あんなに必死に避けてるんだ、あいつ?
「まあいい! こっちが先だ! 『フリーズ』!」
「!? ほう、足場を凍らせての足止めか! なるほど、俺の強みが回避だけだと思っているな? だが!」
足元を凍らされたベルディアにダクネスが斬りかかるが、剣を使って難なくいなされる。
だが、俺もそれを指をくわえて眺めているだけじゃない。
今ベルディアは、あの得物があるから防御できているわけだ。
だったらそれを取り上げるまで!
「本命はこれだ! 『スティール』!」
「何ぃ!?」
相手の持つものをランダムで取り上げる『スティール』を炸裂させた。
ベルディアの隙を作り、まず避けられない、最高のタイミングで放った俺の『スティール』は…………!
「ば、バカな!? この俺が武器を奪われぬがっ!?」
「あぎゃっ!?」
硬くて冷たい手ごたえと共に、ずしりとした重みが両手に伝わった。
そして、それが重すぎて支えきれずに前のめりに転ぶ。
とっさに防御手段を奪われて、ダクネスの一撃を胸元に受けたベルディアが悲鳴を上げたが、俺もそれに倣ったかのようにうめき声をあげてしまった。
と、とにかくデュラハンの武器を奪うことには成功した。
もう少しレベル差があったなら失敗していたかもしれないが、この城で順調にレベルアップをしていたおかげでギリギリ届いたようだ。
「た、たかが『スティール』で俺の武器が奪われるとは……! だが、この程度で終わりはせんぞ!」
「がはっ!?」
だが、武器を失ったはずのベルディアは拳を構えると、ダクネスの鳩尾に綺麗なストレートをぶち込んだ。
そのまま慣性の法則に従って、俺の方向に吹き飛ばされるダクネス。
ちょ、俺のところに飛んでくるな! 圧殺される!
「……ぐ、すまない! 怪我はないか、カズマ!」
「あ、ああ、幸いな……。あの、ちょっとこれ重すぎて俺には持てないから、お前が持っといてくれない?」
運よくダクネスの身体は、俺にぶつかることなく、脇擦れ擦れに着弾した。
そのダクネスに、俺が持ったままでは何もできなくなるため、ベルディアの大剣をパスすると、ダクネスは難なくそれを片手で持つ。
あんな重量のある武器による連撃に耐えられて、その大剣で二刀流ができるダクネスの筋肉はどうなってるのか気になるが、今は思考を切り替えなくてはいけない。
「ふっ、武器を奪えば勝てると思ったか? 笑わせる! 俺に言わせれば、得物を奪われて戦えぬ騎士など未熟も未熟よ。真の騎士とは、あらゆる武術を修めているものだ。あいにくと、俺は拳での殴り合いも得意な方だぞ? 無論、相手が武器を持っていようと後れを取ることも無し! 先ほどは不覚を取ったが、これより先に同様のミスはないと思ってくれて結構だ」
おい、言われてるぞカツラギさん。
しかし、ベルディアの言葉は事実を述べているだけなのだろう。
実際にダクネスが拳一つで吹き飛ばされたのだから、まともに戦っても勝てない可能性が高い。
「ぐっ……クソッ! やっぱり俺達だけじゃ勝てない! こんなところで勝負を挑んだのが間違いだったんだ!」
「か、カズマ……? お前は一体何を……?」
俺の言葉にダクネスが信じられないと言った表情で俺の顔を覗き込む。
それを見たベルディアは、心の底から愉快そうに哄笑し、
「ふははははは! 今になって後悔しても遅いわ! だが、中々に楽しめたぞ! 元騎士として、貴公らと手合わせできたことに魔王様と邪神に感謝をささげよう! さあ、これで…………!」
「という訳で、ダクネス。逃げるぞ」
「「…………は?」」
二人の騎士が呆気にとられたような声を出す。
いや、なにびっくりしてんだダクネスは。
危なかったら逃げるだろ。普通。
「あいつの剣は持ったな? よし、それは絶対に手放すな。いいか、逃げる時は脇目もふらずにダッシュしろよ」
「お、おい待てカズマ! 私は騎士として敵に背中を向けるわけには……!」
「今度クエスト行くとき、お前に依頼を選ばせてやる。どんなモンスターでも文句は言わないぞ」
「そ、それは本当か!? ……い、いやしかし、魔王軍幹部との勝負と比べると……っ!」
「その権利を三回」
「何をぐずぐずしているカズマ! 早くずらかるぞ!」
……変わり身速いな、こいつ。
軽く頭痛を覚えるが、気にしていられる猶予はない。
ベルディアが呆けている今がチャンスなんだ。
「あばよデュラハン! お前と戦った記念に、お前のこの剣貰ってくぜ!」
「な…………ま、待てえええええええええっーー!」
俺の言葉にベルディアが激昂して追いかけてくるが、気にしてられない。
宣言通りに脇目もふらずに階段を駆け下りる。
「貴様あああああっ! 騎士としての誇りはないのか!? 今まさに雌雄を決するという場面だったではないか! そこに水を差すとは、お約束と言うのも分からんのか!」
「バカ野郎、死んだら元も子もねえだろうが! 誇りやお約束なんぞ知ったことか! 俺は逃げる! そこになんら後ろめたさなんか感じねえ! ……ダクネス、そこはジャンプしろ!」
「何を急に……ぎゃああああああー!! と、トラばさみだと!? こ、こんなもの……げぇっ!? 今度は上から岩がぬぐああああああーー!!」
ふっ、何のために俺が湧き潰しをしてまでこの城のクリアリングをしたと思っている。
経験値稼ぎはもちろんの事、あちこちに俺が用意した罠を設置して、その全てをベルディアにぶつけるためだ。
アンデッドナイトがうろついていたら、そいつらに罠を踏まれちまうかもしれないからな。
そして、この城にアクア、めぐみん、ゆんゆんを連れてこなかったのは、万が一罠に引っかかったらことだからだ。
ダクネス? こいつが罠にかかったところで傷を負うと思うか?
「どうだ? 今までさんざん虚仮にしていた冒険者に、罠にはめられるってどんな気持ちだ!? おい、元は俺達がお前の罠に挑んできたんだ、罠を仕掛けてきたならその知識で、精々俺の罠を回避して見せろよ!」
「き、貴様! 何処からこれだけの罠を設置できるだけの資材を集めたのだ!? しかも心理的な隙をつくようないやらしい配置ばかりしおって……! ぬわあああああーーっ!?」
お、今度はウィズの店で買ってきた爆薬トラップに引っかかったみたいだな。
めぐみんがあまりにも物欲しそうにしていたからいくつか買ってやったが、こんなところで役に立つとは。
最初罠を仕掛ける時、この城を損傷することでの賠償金の心配もしたが、ベルディアが住んでいるってんなら、全部こいつに罪をおっかぶせちまえばいいだけだ。
遠慮なしに全力でトラップを仕掛けさせてもらったぜ。
「……カズマは最初からこのつもりで勝負を挑んでいたのか?」
「ああ、真っ当に勝負して勝てるとは思えなかったからな。俺の持てる力を出し尽くした結果だ」
「…………お前を敵に回すというのは、本当に恐ろしいことなのだな」
ダクネスは何を怯えているのだろうか。
貧弱なこの身で出来ることをやりつくしただけだというのに。
「ぎゃあああああああーーー!! み、水がっ!? 聖水が!? ひああああああああーーー!!」
今度は盥いっぱいの聖水浴びを食らったらしい。
なるほど、さっき水を必死に避けていたのは、水が弱点だからか。
だが事ここに至ってはさほど意味はない。そろそろ二階だし、例の準備をしておくか。
そして俺は、背中の矢筒に手を伸ばして、一発きりの奥の手を弓に番え、さっきベルディアに放った火矢と同様に、『ティンダー』で着火する。
ただし、油にではなく、導火線に。
こいつは俺お手製の爆裂弾だ。
ウィズの爆薬を取り付けて、導火線を接着しただけの急造品だけれど、威力は事前に実験してある。
俺はそれをベルディアの方向に狙いをつけて、
「な、何のこれしきいいいいいいっーーー! 甘いわっ!! こんなもので討ち取れると思うな!!」
罠にかかっているはずのベルディアは体をよじらせて何とか俺の矢を躱した。
そしてそのまま矢は、窓から城の外に出て行き、空中で爆発する。
どんだけ機敏なんだよ、あいつ。
ま、当たってもダメージ通るかどうかは怪しかったし、気にしないでおこう。
「じゃ、今度は聖水で濡らした矢をプレゼントしてやろう」
「こ、この卑怯者があああああああああーーー!!」
罠で思うように動けないアワレなデュラハンに、情け容赦なく聖水に浸した矢を浴びせる。
爆薬より、こっちの方がダメージは大きそうだしな。
なんか、卑怯だどうとか言ってる奴がいるが、俺はこの一週間でされたことやり返しているに過ぎない。
最初に罠を仕掛けたのは向こうだし、自分を追いかけてくるように誘導していたのもあいつが先だ。
どこに卑怯と言われる要素があるというのか。
「か、カズマ! そろそろ出口だが、デュラハンはまだまだ倒せそうもないぞ!?」
「マジかよ。しぶといなー、あいつ」
結構な数の罠に引っかかってた気がするが、倒すまでには至らないようだ。
これも、あの魔王様の加護のある鎧とやらの効果なのだろうか。
予定だったら、罠を全部使えば倒せる計算だったんだが……。
「ふぅー……ふぅー……、す、少し驚いたが、この程度ではまだ俺は倒せんぞ! 城の外に逃げようと、必ず貴様らを追い詰め、確実にその命を絶つ! 特にそこの男っ! 貴様だけは絶対に逃がさん! 貴様を放っておいたら何をしでかすか分からないからなぁ!!」
「随分過大評価されてんな、俺」
「いや、正当な評価だと思うぞ?」
城の外に出たところで、遮蔽物が少ない丘だから、俺達を見つけることなど容易いのだろう。
俺達が逃げに逃げて街に無事に帰れる確率は、ほぼほぼ0%だ。
「ところでデュラハン、俺達が城を出たらもう追わないで、そのまま城の中に戻ってくれないか? 今後二度と俺達はこの城には近づかないからさ」
「ふん、今更命乞いか? その言葉を言うには遅すぎるぞ!」
うん、言うだけ言ってみたけど聞いてくれる様子もなし。
まあ、素直に受け入れてくれるとは到底思ってなかったけども。
そのまま俺達は全力で城の出口に向かう。
その後ろをベルディアが追いかけてきて、城の外に出た俺達の視界には――
「じゃあ、しょうがねえな。ここでお前を倒すわ」
「貴様、何を言って…………!」
――俺の爆裂弾による合図を見て、すでに魔法を撃つ準備を完了させていためぐみんとゆんゆんの姿が飛び込んできた。
「何という絶好のシチュエーション! 感謝します! 深く感謝しますよカズマ! デュラハンよ、我が力、見るがいい――」
「この、二人が勇者みたいだって言ってくれた魔法で、貴方を倒します! これが、めぐみんに並ぶための合体魔法――」
辺りの空気がビリビリと震える。その空気をベルディアも感じ取ったのだろう。
ベルディアは躊躇することなく潔く城の中に逃げようと……、
「『バインド』ッ!!」
「なぁっ!?」
……したところで、俺のバインドが一瞬ベルディアの足を止めた!
「――『エクスプロージョン』ッ!!!」
「――『カースド・ライトニング・セイバー』ッ!!!」
「ぎゃあああああああーーー…………!!」
二人の持つ最大威力の魔法を受けたベルディアの悲鳴は、その魔法の放つ爆音により、途中から聞こえなくなっていた。
……これ、オーバーキルだったのでは?
「やったか!?」
「おいやめろバカ!」
ダクネスがいつものようにフラグめいた言葉を発する。
それを口に出すと、なぜかは知らないが必ず相手が生き延びてしまう言葉を。
思わず制止したが、もう手遅れだったようで。
「ゲホッ! ガホッ! こ、この魔王様の加護を受けた鎧がなければ死んでいたぞ…………!」
「おい、どんだけタフネスあるんだよ。そこは死んどけよ。生物としてじゃなくて物質として」
あの威力で生き延びるって魔王の加護ってどんだけ強いんだよ。
ただ、さすがに耐えきれなかったようで、もうその鎧は砕け散ってしまっている。
こっちも、魔力を使い果たした魔法使いコンビがぶっ倒れているけれども。
「鎧がなくとも、貴様程度の『ターンアンデッド』は通用せんぞ……今度こそ、これで終わりだ!」
そうか、俺の神聖魔法は効かないのか。
それは良かったな。
「おし。アクア、後は頼む」
「任されたわ!」
「えっ」
けれど、その神聖魔法が、この真の女神様であるアクアのものならどうなるかな?
鎧は消え失せ、かなりのダメージが蓄積して、それでも耐えきれるものなら耐えて見ろ。
「『セイクリッド・ターンアンデッド』ー!」
「ちょっ、待っ、ひあああああああああああああーーーーー!!!!!」
流石に今度のターンアンデッドは効いたみたいだ。
ベルディアの身体が白い光に包まれて、やがて薄くなり、消えていく。
あれほどに俺達を苦しめていた魔王軍の幹部は、こんな初心者の街の付近で、誰に知られることもなく打倒されたのだった。
「よし、ちゃんとベルディアの討伐も記録されたな。さっさと帰って、報酬貰おうぜ」
「……カズマ。初めてだよ、私が心の底から絶対に戦いたくない、何があっても敵対したくないと思った人間は……」
ダクネスが、俺を悪魔でも見るかのような目で見てくる。
……解せぬ。
我慢できなかった……。
本当は三週かけて投稿するつもりだったのに、この一週間で全て投稿してしまった……。
というわけで、次からはだいぶ遅くなります。
ストックも切れましたし。