次から、色々とイベントが前後してくるのでご了承ください。
「しかし、あれだけの罠を仕掛けて、アクアたちまで待機させていたのなら、どうして私にそれを教えてくれなかったのだ?」
「言ってたら絶対に嫌な顔するだろお前。だってダクネスが負けること前提の作戦なんだぞ?」
「……確かに」
「それに、ベルディアにはなるべく隠しておきたかったからな。お前の表情から読み取られてたら全部パーになるんだし。実際そのおかげでお前は全力で戦って、ベルディアもその気になってただろ? よく言うじゃん、敵を欺くにはまず味方からって」
「…………本当に恐ろしい男だな。カズマは」
ベルディアを倒す前日の昼、ダクネスを除く三人にはあらかじめ城の入り口で待機するように指示を出しておいたのだ。
この作戦を成功させるのに、ベルディアをその気にさせて俺達を追いかけさせなくてはいけなかった。
だから、ダクネスにはそういったことを気にせず全力を出してもらうために、あえて作戦の全貌は伝えてなかったって訳。
「それよりも報酬だ報酬! 魔王軍幹部を倒したんだから、それはもうとんでもない金額がもらえるんじゃないか!?」
この一週間の苦労も、討伐報酬の事を考えたらどこかに吹っ飛んでしまった。
だって、あれだけ多くの人を苦しめてきた魔王軍に一矢報いることができたのだ、さぞや大金がかかっているに違いない。
一人当たり、1000万エリスくらいは貰えたって罰は当たらないだろう。
―――………
その金額は、想っていた以上だった。
「えー。サトウカズマさんのパーティには、魔王軍幹部ベルディアを見事討ち取った功績を称えて……。ここに金3億エリスを与えます」
『さっ!?』
俺達は思わず絶句した。
それを聞いた冒険者たちも、シンと静まり返る。
そして……。
「おいおい、3億ってなんだ、奢れよカズマー!」
「うひょー! カズマ様、奢って奢ってー!」
ギルド内から木霊する、奢れコール。
奢ってやろう奢ってやろう!
俺の立場を良いものにするためにも奢ってやろうではないか!
あっ、そうだ!
「おーい、そこのお前!」
「お、俺か?」
「そうだよ! お前って確か俺に片手剣スキル教えてくれたよな? これは少ないけどお礼だ!」
「え、お前マジでくれんの!? あんなちょっとしたことで!?」
「いいからいいから。お前が教えてくれたスキル、最高だったぜ!」
そう言って、そいつの懐に10万エリスねじこんだ。
同じように、俺にスキルを教えてくれた連中にそれぞれ10万エリス手渡して行き、
「最弱の職業である『冒険者』の俺を助けてくれてありがとな! お前らのおかげで、俺達はあのデュラハンが倒せたんだ! だから、ほんの気持ち程度だが受け取ってくれ!」
『ヒューーッ!! カズマさん、最高ーーーっ!!』
『チクショー! 俺達も教えとけばよかったーー!!』
受けた恩は返しておくに限る。
こうやって義理堅い風を装えば、自然と俺への風当たりも優しくなるはずだ。
小市民的と言うな。こうでもしないと上級職の多いパーティに入ってることに対するやっかみがすごいんだから。
「よーしお前ら! とりあえずこの場にいる奴らの今日の飲食代は俺が払う! 俺達からの奢りだ、精々感謝して美酒の味をかみしめろ!」
『イヨッシャーーーーッ!! やってくれるぜカズマさーん!』
その俺の言葉を皮切りに、あちこちで乾杯の音頭が響き渡る。
……そうだよ。こういうのがしたかったんだよ俺は!
冒険者になって、強敵を倒して、最後は酒場でどんちゃん騒ぎをする。
これこそ俺が求めていた異世界生活なんだ!
その空気に混ざるため、俺もシュワシュワを注文して近くのテーブルに座り。
「カズマ、まずはお疲れ様! あの魔王軍の幹部を倒すだなんて、カズマって本当にすごい人だったのね!」
「カズマカズマ! これ以上なく最高の作戦でしたよ! 我が爆裂魔法があのデュラハンに炸裂した時の快感と言ったらもう……!」
「カズマさん! 私を仲間に入れてくれてありがとうございました! 私、このパーティには入れて、本当に良かったです!」
「うむ、最後こそ締まらなかったが、ベルディアと斬り合っているときは何物にも代えがたい至高の時間だった。その機会を与えてくれて感謝する」
そこに取り囲むように、俺の仲間たちが席に着く。
……思えば、この素晴らしい仲間と出会えなかったら、俺はこんな冒険はできなかったはずだ。
ああ、何とも俺は幸せ者だ。ありがとう異世界! ありがとう女神様!
「いや、こっちこそ感謝したいくらいだ。四人とも、俺の仲間になってくれてありがとな!」
俺の言葉に、四人とも黙って笑顔を浮かべる。
さぁ、今日はとにかく楽しもう。
俺はシュワシュワの入ったジョッキを高く掲げて、
「それじゃあ、魔王討伐への第一歩を踏み出したことを祝して――乾杯!!」
『乾杯!!』
―――………
宴会は、もう大荒れだった。
「かじゅまー! 私はね! もう一目見た時からあにゃたはやればできる子だって分かってたんだかりゃねー!?」
「お、おう、そうか……あの、そろそろ放してくれませんかね、アクアさん?」
「ダメー! かじゅまはデュラハンを倒して疲れてりゅんだから、ゆっくり休まにゃいとダメなのー! これ、女神命令だかりゃ! 逆らっちゃメーなのー! はいけってーい!!」
酒に酔ったせいで当社比300%増しで母性と幼心全開のアクアに、膝枕に頭を乗せることを強制されてしまっている。
呂律も回ってないし、これはだいぶ出来上がってしまわれているご様子だ。
普段はここまで飲むような奴ではないのだが、魔王軍幹部を倒したということで羽目を外しているのだろう。
それはともかく、膝枕である。あの、男の夢の膝枕なのである。
俺としてはすぐにでも起き上がりたいけれども、俺の頭をなでてくるアクアの手が思ったよりも力強く、それに加えて膝枕自体があまりにも心地よくて、物理的にも精神的にもこの膝枕から抜け出すことが困難なものになっている。
抗えない、この膝枕に。
「カズマ…………私は本当に役に立てているのでしょうか? 爆裂魔法しか能のない私が、こんな幸せな思いをしても良いのでしょうか? 今回だって、美味しいところを持って行っただけで、ほとんどはカズマの作戦で」
「よし、めぐみん! まずはそういう要らないことは考えないようにしようか!!」
「止めてください! 思えば、最初カズマのパーティに入ったときも脅迫まがいの事を……!」
めぐみんはめぐみんで、やたらとネガティブになってるし。
おい、普段の傲岸不遜なお前はどこに行ったんだ。実はそう言う本性を隠すために態と強気な態度をとってたりしたわけ?
……そういえば、最初に仲間に入れる直前でも、こいつは自分が捨てられると勘違いしていたわけで、なんだかんだで自分に自信がない部分があるのだろう。
こうやって、自分の弱い部分を見せてくれるのは嬉しいが、俺としては一刻も早く普段の勝気なめぐみんに戻って欲しいところだ。
非常に面倒くさいし、何より、俺はいつもめぐみんとは口喧嘩をしているが、あれはあれで楽しく思っている。だから、本当にめぐみんが気にすることなんか何一つとしてないのだ。
「カズマさん、大丈夫ですか? めぐみんが、まさかこんなに酒癖が悪いなんて……。もう、めぐみん! こんなところにめぐみんの盾を置かないでよ!」
「誰だよこのロリっ子に酒を飲ませたのは。というか、ゆんゆんも飲んでるだろ。そうじゃないなら、その手に持ってるものを下ろせ。そもそも、めぐみんは盾なんか持ってないし、それは盾じゃなくてテーブルだ」
「何言ってるんですかカズマさん。これはれっきとしためぐみんの装備品ですよ。ほら、カズマさんも敵を捕まえる魔道具を落としてますよ。ちゃんと保管しておいてください」
そう言ってゆんゆんは、俺の頬にぐいぐいと空になった瓶を押し付けてくる。
なんか訳の分からない電波を受信していらっしゃるようで、ゆんゆんの目には俺達には見えない光景が映っているらしい。
まずテーブルが盾ってところからおかしい。カンフー映画か何かか? まさか本当に机が盾になるわけでもあるまいし。
大体、盾を持つとすれば、その役割はタンク役のダクネスであって、魔法使いのめぐみんではないはずだ。
それに俺はそんなガラス瓶で敵を閉じ込めた覚えもない。そもそもどうやったらそんな小さい瓶に敵が入るんだよ。相手を小さくでもするのだろうか。そんな特殊能力を持ってたら普段使いできるのに。
「えっと……カズマ、無事か? ……いや、見るからに無事ではなさそうだな。そもそもそれはどういう状況なのだ?」
「…………俺が聞きてえよ」
「アクアに膝枕されて、めぐみんに泣きつかれ、ゆんゆんは意味不明な行動を……その、なんだ……何だそれ?」
ようやく真面な状態の仲間が見つかった。
ダクネスの疑問はもっともだが、それを知りたいのは俺の方だ。
少しダクネスが席を外しているうちに、いつの間にかこうなってたんだから。
それにしても、戦闘時には一番頭のリミッターが外れているダクネスが一番落ち着いているとは、酒というのは本当に恐ろしいものなんだな……。
「ダクネス、悪いけどちょっとアクアを引きはがしてくれねえか? 三人とも出来上がってるし、そろそろ連れて帰ろうぜ」
「うむ、これ以上ここに居させるより、布団で横にさせた方がマシだろう。……ほら、アクア、帰るぞ。そろそろカズマを解放してやれ」
「やだー! もっとカジュマを褒めてあげるの。もっとカズマを甘やかしてあげるのー! そうだ! ほら、ダクネスも撫でてあげるわ!」
「え、いや私は……」
「遠慮しにゃいのー! ほーら、ダクネスもデュラハン相手によく頑張ったわね。うんうん、貴女はよくこれまで頑張ってきたわ。きっとその頑張りを、エリスもちゃんと見守ってくれていたのよ! 本当にダクネスは偉い子ねー!」
「あ…………こ、これは……まるで母親の……う、うう、屈するもにょか……!」
あのダクネスまでもが、アクアのナデナデに屈しそうになっている。
身をもってあれの破壊力を知っている俺には、そんなダクネスを笑う資格はない。
あれは『ナデてポッ』みたいなチャチなもんじゃない。なんというか、精神を溶かされる代物だ。
むしろこれは、辛うじてではあるが、あの誘惑に抵抗出来ているダクネスを褒めるべきだろう。
とりあえず、ダクネスがアクアのタゲをとっているうちに、この魔女っ娘二人組をリヤカーにぶち込もう。
「ほら、めぐみん、ゆんゆん、帰るぞ。もう酒は大人になってからにしとけ」
「うぅ……大人でなくてすみません。でっかくなくてすみません……」
「カズマさん、運ぶならお姫様だっこが良いです。ああ、私の王子様!」
そんなことを俺に謝られても、それに対して俺はどう反応すればいいんだ。
というか、まだめぐみんは13歳なわけで、年相応の成長を遂げているのだからそこまで気にすることもない……ああ、同期にとんでもないのがいるからか。
その同期は何かロマンティックなことを宣っているが、俺はそんな煌びやかな存在ではないし、その声で王子様とか言われるとなぜかは知らないがゾッとする。
具体的には、人類の悪感情を具現化させたモンスターが出てきそうな感じの。
「いいから乗ってろ。気持ち悪くなったら、そこにバケツがあるからその中で出せよ。毛布も中に入れてあるしそれに包まっとけ。水分補給もしとくんだぞ、水筒の中に入ってるから」
「「……はーい」」
「……あー! アクア! クリスも巻き込むんじゃない! ほら、とっとと引き上げるぞ! ダクネス、アクアを抑えてくれ! この、手間をかけさせやがって……! あ、俺達は帰るけど、お前らは引き続き楽しんどいてくれ! ちょっとそこのお姉さん、会計お願いしまーす。……飲食代しめて153万エリスか、じゃあ迷惑料も上乗せして……163万エリスで……よし、野郎共! もう金は払っちまったから気兼ねなく飲んで帰れ! じゃあな!!」
『おう、じゃあな! お父さん!!』
「誰がお父さんだ、誰が! お前らにうちの娘はやらんぞ!」
俺の言葉に酔っ払いの連中は爆笑し、その喧騒に少し背を引かれつつも、俺達は酒場を後にした。
……しかし、『お父さん』ねえ。
そりゃ、寄生虫だの、タカリだの、腰巾着だの言われるよりは全然いい。
けれど、なんで皆に頼ってばかりの俺が、父親呼ばわりされるのか不思議でしょうがない。
ガタゴトと酔っ払い三人を乗せたリヤカーを引きながら首をかしげる。
「なあダクネス、俺ってそんなにおっさん臭いか?」
「……ん。お父さんと呼ばれたことが気になったのか?」
思い出せば、ウィズも俺の事をそんな風に言い表していたような気がする。
そりゃあ、俺は日曜日のお父さん並みに家ではゴロゴロしていたいって性格ではあるけれど、この世界に来てからはそんな風に怠けたこともほとんどないんだが。
そうやって考え込んでいる俺を見て、ダクネスが愉快そうに笑い声を漏らした。
「何笑ってんだよ。こっちは気にしてんだぞ」
「いや、カズマでもそう言うことを気にするのかとおかしく思っただけだ。ああ、安心してくれ、あの『お父さん』という呼称は悪いイメージからくるものじゃない。普段から我々の姿を見ていれば、周りは自然とそう思うだろうからな」
はて? 何かそれっぽいことをしただろうか?
別に『また俺何かやっちゃいました?』みたいなアレではない。
あんな風に、周りとはやっているレベルが違う事が客観的に見て明白だというのに、さも『皆出来て当然だろ、なんで不思議がってるんだ?』みたいな態度をとるのは俺には無理だ。
むしろ俺だったら、『プークスクス! こいつら雑魚だと思ってた奴が滅茶苦茶強かったもんだから茫然としてるんですけど! しかも、この魔法も俺の使える中じゃ弱い方なんですけど! ねえどんな気持ち? ねえねえ今どんな気持ち?』と煽り倒してしまうだろう。
……話がそれたな。
「一番しっかりしていて、誰かがミスしたらすぐにフォローしてくれるだろう? パーティの財産管理もしてくれているし、今だって酔いつぶれた娘を送り届けている。ほら、父親の行動そのものじゃないか」
「……まぁ、言われてみればそうか?」
そんなものリーダーとして当然だとは思うが。
というか、それくらいはしないと本当にこのパーティでお荷物になってしまうからなぁ。
やらざるを得ないというか、しょうがないというか。
どこかすっきりしないものを抱えながら、俺達は馬小屋へと戻っていったのだった。
…………そろそろ冬になるし、本格的に拠点を探さないとな。
―――………
ベルディアを倒した特別報酬については、一先ず2億5000万エリスはパーティの共有財産扱いにして、残りを均等に五等分することになった。
これで最初に想定していた一人当たりの報酬を1000万エリスにする。
皆はもっと少なくてもいいと言っていたが、これでもだいぶ削った方だ。
俺なんか、『狙撃』の質を高めたくて、本格的に性能のいい弓を買おうと画策しているのだが、最高級品になるとこれでも全然足りないくらいだ。
ああいうのは、もっと稼ぎまくって、それこそ魔王を倒す直前辺りに手に入れるべきものなのだろう。
「うん、これくらいの弓でいいか。おっちゃん、これとその鎧買うわ」
そうして買った新たな装備品たち、占めて500万エリス。
これは無駄遣いなんかではない。死んでしまえば金は使えないのだから、それを守るためにはこれくらいの出費は必然というもの。
決して、強い装備品というものに憧れる男の子テイストのあれではないのだ。
ごめん嘘。かなり自分の趣味が入ってる。
だってしょうがねーじゃん。RPGでよくある、新たに強い装備品を手に入れた時のワクワク感をリアルで味わえるんだぞ。
男だったらその欲望に抗えるだろうか。そんなの無理に決まってる。
「私は買う必要ないのよねー。この羽衣が最終装備なわけだし」
「出費を抑えられていいじゃん。そこはちょっと羨ましいぞ」
これ以上の装備品がこの世にないアクアは、新たに装備品に出費する必要がない。
つまり、あの1000万エリスを自由に使えるということだ。
うん、それはそれで羨ましい。
「というか、私ってそんなにお金は使わないから、私の分もカズマが持ってって良かったのに」
「女の分の金を巻き上げるなんて、いくらなんでも外聞が悪すぎるっての」
「でも、私って云わばカズマの所有物よ? カズマのものはカズマのもの、私のものはカズマのものってことじゃ?」
なんだ、その逆ジャイ●ンみたいな発想は。
そりゃあ特典として選んだから、アクアは俺の所有物みたいなものだが、
「アクアを物扱いするなんて無茶言うな。お前の金は、自分が使いたいようにちゃんと使いなさい」
「はーい」
全く、隙があれば直ぐに俺をダメ人間にしようとするんだからこの女神は。
それに溺れてしまうと、魔王討伐が遠のいてしまう。
そうならないためにも、そう言った誘惑は振り切らねえとな。
少なくとも、魔王討伐までは努力しよう。
「……そういえば、ウィズが面白い道具を見つけたとか言ってたな。今日は暇だし、一緒に見に行くか?」
「そうなんだ。一体、どんなものなのかしらね?」
あの件以来、何かと俺達はウィズの店に立ち寄ることが多くなった。
前のベルディア戦でも爆薬を購入したこともあり、結構な頻度でお世話になっている。
……ただ、あの店に仕入れてくる品が、よく分からないガラクタだったり、致命的な欠陥を抱えている魔道具だったりと、ウィズの物を見る目は余り宜しくはないようだが。
今日は幹部が討伐されて間もないということでクエストの依頼もないし、ウィズの顔を見ることにしますか。
というわけで、次回は番外編です。
どんな内容かは、感想欄を見ている人なら分かるんじゃないかな。
本当にこういう時ウィズの店って便利だと実感します。