このおかしな仲間に祝福を!   作:俊海

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今回は番外編です。
最悪この話を読まなくとも、次の本筋には繋がるようにします。

今回の番外編は、『入れ替わり』です。
それではどうぞ。


番外編 このおかしな冒険者に祝福を! 前編

「このマントが、並行世界に行ける道具……だって? それが本当だったらすごいな」

 

「そうでしょう!? 私だってやればできるんです!」

 

 

 俺が素直に感心すると、ウィズが嬉しそうな声色で主張する。

 だがしかし、なんとも眉唾な話である。

 こんな、見た感じはただのマントを全身に被るだけで、並行世界へ行けるだなんて。

 そりゃ異世界に来ている俺がどうこう言う権利なんかないのは分かるが、だからこそ、そう易々と別世界に行くこともできないということも何となくだが理解できる。

 

 しかも、話を聞く限りデメリットはなし。

 強いて言うなら、三日たたないと再使用できないところだろうか。

 だが、それでも十分すごい道具だ。

 

 そうやって、マントを眺めていると、ハタと何かに気づいたようなアクアが、その魔道具を手に取り、

 

 

「間違いない。これ、神器よ。こんなところに眠ってたのね」

 

「神器って言うとあれか、あのカツラギが持ってたグラムって魔剣と同じやつか」

 

「……カズマ、あの子の名前はミツルギよ。これは本人でなくても制限付きでなら使える神器だし、ウィズが言ってることは本当ね」

 

 

 アクアがジト目で些細なミスを注意してくるが、俺の意識は目の前の神器に割かれている。

 神器と言うからには、後から変な代償があるということもないだろうし、俺自身、少しばかり並行世界というのにも興味がある。

 似たような世界だけど、どこかがおかしな世界。しかも三日たてば戻ってこられる保証付き。

 

 

「……なぁ、アクア、これって俺でも使えるってことだよな?」

 

 

 ここ一週間予定はないし、すごく並行世界とやらに行ってみたい気持ちが湧いてくる。

 

 

「使えるけど……並行世界とこの世界の差なんて、そんなに大したものじゃないわよ? 精々、誰かの性格が違うとか、人間関係が違ってたりとかで、土台はこの世界と同じだし」

 

「その方がむしろ安心できるぜ。全く世界観が違う世界に飛ばされても困るだけだしさ」

 

「…………三日もカズマと離れるのは不安だけど、どうしてもって言うなら止めないわよ」

 

 

 アクアは俺を子供か何かと思っているのだろうか。

 そりゃ、アクアからすれば俺なんて子供みたいなものだろうけど、元々俺だってアクアを特典に選ばなければ一人旅になってたのだから、そこまで心配しなくてもなぁ。

 問題は、これをウィズが使わせてくれるかどうかなんだが……。

 

 

「あの、カズマさん。よろしければ使ってみませんか? 先日は大量に爆薬を買っていただいたので、そのお礼も兼ねてですが」

 

「え、いいのか? というか、あれは普通に必要だったから買っただけで、お礼されるようなことじゃ……」

 

「いえ! あれが久しぶりのこの店の売り上げだったんですから! もうその日は夢じゃないかと感激したくらいですよ!」

 

 

 ……追い詰められてるんだな、ウィズ。

 少しくらい、この店の宣伝でもしておいてやろうかな。

 それか、目玉商品になる物を、日本の知識を使って俺の手で作り出すか。

 

 

「でも、俺が向こうに行ったら同じ顔の奴と顔を合わせることになるのか……」

 

 

 なんだか、変な感覚だ。

 同じ人間が二人いるって状況がまず何かがおかしい気がする。

 しかも、考え方も行動も全く同じ……すっげえ気持ち悪い。

 

 

「あ、大丈夫よ。それを使うと、向こうの世界のカズマと入れ替わりになるから」

 

「……妙に都合がいいな、それ」

 

「だってこの神器、元々の目的は自分の身代わりや分身を召喚するためのものだし。所有者以外は強制入れ替えの機能しか使えないけどね」

 

 

 そういや、所有者なら無制限に使えるんだったか。

 並行世界の自分と入れ替わる能力を道具として具現化させた感じか。

 ……それって、どこぞのアメリカ大統領の特殊能力では?

 

 

「この神器って壊れたりしないか? 並行世界に行ったっきりで壊れたら戻れないってオチは?」

 

「大丈夫よ。そのマント、防具としての機能もあるから、エンシェントドラゴンの攻撃でも傷一つつかないわ」

 

 

 その防御性能だけで十分なチートな気がする。

 いやでも衝撃全てを吸収できるわけじゃないのか?

 

 まあいい、これで一先ずの不安材料は解消された。

 では、行ってみるか。異世界!

 

 そうやって、少しばかりの旅行に思いを馳せていると、

 

 

「…………カズマ、ちゃんと帰ってきてね? 向こうの世界がいいからって、居座ったりしないでよ?」

 

 

 アクアが俺の服の端をギュッとつかんで、涙目で訴えてきた。

 

 

「心配すんな。俺がお前を見捨てるわけないって、この間も言ったじゃないか。お前こそ、入れ替わった俺の方が良いとか言わないでくれよ?」

 

「それこそ問題ないわ! 私を選んだのは、他の世界のカズマじゃなくて、この世界のカズマなんだから!」

 

「ま、そういうことだよ。じゃあな、アクア、あっちの俺に迷惑をかけるなよ!」

 

「任せときなさい!」

 

 

 そう言ってしばしの間の別れを告げて、俺は並行世界へと移ったのだった

 

 

 …………その世界で、とんでもない後悔をすることになるとは知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひゃめへ! ほおをひっはらないれっ!! なんへ!? あはひ、わるひほとひてないひゃない!!」

 

「やかましい! お前って奴はいつもいつも後先考えずに、事態を悪い方悪い方に持っていきやがって! なんだかよく分からない道具を俺に被せるってどういうことだ!? 幸い何にもなかったからよかったものの、あれでもし俺が死んでたら責任が取れるってのか!? それともあれか? 俺は死んでもリザレクションで復活できるからって俺を実験台にしようって魂胆か!? お前ふざけんなよ! 今日という今日は、絶対にとっちめて……!」

 

「なんほほとひょー!?」

 

 

 この駄女神め、責任から逃れるためにとしらばっくれやがって!

 ウィズが店の奥で見つけた、何だか効果がよく分からない神器である薄汚れたマントを、あろうことか俺に被せてきたのはこいつだってのに、とぼけてくるとはどういうことだ。

 ようやく借金も無くなって、アルカンレティアから帰ってきたばかりだというのに、またこいつは面倒ごとばかり起こしやがる。

 運よく何も起こらなかったけど、もし何かあったらどうするつもりだったんだ。

 

 

「あ、あのカズマさん? どうしてそんなにアクアさんを虐めてるんですか?」

 

「ウィズも見てただろ! こいつが、このよく分からんマントを俺に被せてたところを!」

 

「何を言ってるんですか? カズマさんが自分で被ったんじゃないですか。『これで並行世界に行ける』って」

 

 

 え? 並行世界だと?

 ……もしかして、この汚らしいマントの効果がそれなのか?

 いや待て。この世界がいくら理不尽でろくでもない世界だからって、そんなとんでもない能力の神器があるとは……。

 あー、でも俺自身が似たような能力で来ちまった訳だしな……。

 とりあえず、アクアの頬から手を放してやるか。話も聞きたいし。

 

 

「うぅ……ほっぺがヒリヒリする……」

 

「おい、アクア、ウィズの言ってることは本当か? 俺が、勝手にマントを使ったんだな?」

 

「そ、そうだけど……。あの、私って貴方に何か酷いことしたの? もしそうなら謝るし反省するから、私が何をしたか教えてくれないかしら……?」

 

 

 ほう。アクアが、あの傍若無人で自省という言葉からは遠く離れた世界の住人である駄女神アクアが、自発的に謝罪と反省をすると言ったか。

 ……なるほどな。

 俺は全てに納得し、アクアを抓っていた両手を床につけ、そのまま頭を地面にこすりつける。

 

 

「人違いでした。本当に申し訳ありません」

 

 

 そう、土下座である。

 

 

「ちょ、ちょっと、そんな土下座なんてしないでよ!? 別に私は今の事なんて気にしてないから!」

 

 

 俺に謝られたというのに、調子こいて偉そうな口ぶりにならないだと?

 間違いない。こいつ絶対にアクアじゃねえ。よく似てるだけのそっくりさんだ。

 本物のアクアなら、『はー!? そのくらいでこの女神である私の心と体の傷が癒せるとでも思ってるのかしら!? 本当に反省してるっていうなら、もっと私に贅沢させて。もっと私を甘やかしなさいよ!』と言っているところだし。

 

 

「いや、本当にとんでもないことをしちまった! 謝らせてくれ!」

 

「もう本当に大丈夫よ。ほら、頭を上げて……えっと、貴方もカズマ、でいいのかしら?」

 

「はい、佐藤和真であってます」

 

「カズマ、その、さっきまで私……所謂、貴方の世界の私は貴方に何をしたの? というか、さっきの剣幕を見るに、向こうの私って、普段から貴方に迷惑をかけているみたいだけど」

 

 

 聞くか。それを俺に聞くか。そんなことを、俺への被害ナンバーワンであるアクアと同じ顔の女性が聞くのか!

 だったら言ってやる。思う存分吐き出してやろうじゃないか!

 どうせこの世界からはすぐ帰ることになるんだろうし、もうこうなったら好きなだけ文句を言いまくってやる!

 

 

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

 

 

 この世界に来てから一時間経って、

 

 

「もうね……本当に俺がどんだけ頑張っても楽にならないんですよ……。難しいクエストをこなして報酬を得ようとしても、めぐみんの爆裂魔法のせいで天引きされるし……安全なクエストをやろうとしても、ダクネスが勝手に強いモンスターの所に突っ込んじまうし…………しまいには、冒険者としてじゃなくて、商売やって稼ごうにも、アクアがすぐに散財して、それだけじゃ飽き足らず余計な面倒ごとを呼び込んできたり…………マジで、俺って何かしましたか? こんなにどうしようもない仲間に苦労させられて、避けたい面倒ごとばっかり向こうから来て、こんなに苦しまなきゃいけないくらいに悪いことを俺がしたっていうんですか!?」

 

 

 俺は涙まじりに、普段どれだけ俺が苦労しているか、いかに仲間がポンコツであるか、なんでトラブルに巻き込まれてしまうのかを、この世界のアクアに訴え続けていた。

 だというのに、ひたすらに俺の愚痴を聞いているはずのアクアは、いやな顔一つせずに、それどころか慈愛のこもった態度と表情で、ずっと傾聴し続けてくれている。

 アクアは俺が話しやすいように、時折頷き、時折言葉をはさみ、時折俺への励ましの言葉をかけてくれて。

 アルカンレティアでアクアが懺悔室を任されていたけれど、この世界のアクアは、あんな雑なものではなく、俺の心の傍に寄り添ってくれるように、俺の独白を受け入れてくれる。

 いつのまにか、俺は知らず知らずのうちに、自分の心に溜まり切っていたものを吐き出し切ってしまった。

 

 

「うんうん。カズマは本当に頑張ってると思うわ。それほどまでに迷惑をかけられても、その仲間たちを見捨てずに付き合ってあげるというのは、並の人じゃそうできることじゃないもの。しかも、貴方はなんだかんだ言って魔王軍を倒し、色々な人達を助けてあげているそうじゃない。大丈夫、貴方に災難が降りかかるのはカズマが悪いわけじゃないわ。今はまだ、色々な要素が混ざり合って、結果として不幸になっているだけ。きっといつの日か、それが報われる日が必ず来るに違いないわ。私なんかが保証しても、説得力はないとは思うけど……。それでも、私が貴方の幸せを願ってることだけは嘘じゃないからね!」

 

 

 温かい言葉と笑みとともに、アクアが俺の頭をなでてくれた。

 ……ああ、女神様! 俺の本当の女神様がここにいらっしゃった!

 向こうのあれとは比較にならないくらいに、ここのアクアは女神様だ!

 

 

「ありがとうございます! 俺、貴女に出会えて本当に良かったです!」

 

「そ、そんなに大げさに言わないでよ。私がしたことって、貴方の話を聞いてただけだし、それでそこまで言われたら……その、恥ずかしいわよ……」

 

 

 そう言って照れた様子で俯くアクア。

 え、何この女神様。滅茶苦茶かわいいんだけど。

 嘘だろ? まさか、俺があんなに頑張ってヒロインとして見ようと思っても結局無理だったアクアが、今すごく魅力的に見えてしまっているというのか!?

 

 

「そ、そうだ! 折角だし、こっちの私達の仲間に会わないかしら? そっちのパーティよりも一人多いけど、皆良い子ばっかりなのよ?」

 

 

 良い子ばかり……だと……?

 しかも、一人多いというのに……?

 

 

「だ、騙されないぞ!? そう言って、実は致命的な欠陥を抱えているパターンなんだろ!? アクアがこんな性格ってだけでとんでもなく運がいいっていうのに、それ以上とかこの世界の俺はどんだけ前世で徳を積んだんだ!?」

 

「……軽い人間不信になってるわね。向こうの私って、どれだけ問題児なのよ……。それじゃあウィズ、このカズマは私が連れて行くから。また三日後に来るわね」

 

「はい、アクアさん。それでは道中お気をつけて」

 

「ウィズこそ、ちゃんと健康的な生活をしなさいよ」

 

 

 俺は騙されないからな。

 期待するだけさせておいて、どん底に叩きつけられるのはもう慣れてるんだ。

 こんな嘘なんかに、俺は絶対に負けない!

 

 

 

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言おう。

 勝てなかった。

 

 

「ゆんゆんが……あのゆんゆんが仲間になっている……?」

 

「え、あの、そっちの世界の私ってカズマさんの仲間になってないんですか!?」

 

「……こっちだと、ソロの冒険者として、元気にボッチをやってるぞ」

 

「それ全然元気じゃないですよね!? なんでパーティに入ってないんですか!?」

 

 

 悲痛な叫びで俺に訴えるゆんゆん。

 とは言っても、そうなってしまってるものは仕方ないというか。

 

 

「なんか、ゆんゆんが『めぐみんと同じパーティにいる資格がない』だとか、めぐみんが『ゆんゆんに魔法使いとしての座を奪われる』とか何とかでだったか?」

 

「…………そっちの私は心が狭いのですね。別にいいじゃないですか、魔法使いキャラが二人いても。貴方の所の私は、紅魔族的なノリに全力過ぎるのです」

 

「こっちのめぐみんは、ゆんゆんをあんまり虐めないんだな……。こっちだとからかったり、煙に巻いたりで、ゆんゆんが可哀そうなくらい空回ってるから、普通に仲良さそうにしている二人を見るのは、なんか違和感があるぞ」

 

「ゆんゆんは私の魔法の実験に欠かせないパートナーですからね。むしろ普通の魔法が使えない分、それができる相方と一緒に仲間になった方が効率的だと思うのですが」

 

 

 爆裂魔法しか使えないのは変わってないのに、こっちのめぐみんは何だか冷静だ。

 なんというか、聞き分けがいい。感情じゃなくて、論理で動くタイプの人間になってる。

 

 

「そ、それで……そちらの私は、一体どれほどの武士(もののふ)なのだ? 出来るのであれば、ぜひ手合わせを願いたいところだ! 文字通り、自分自身を超える……ふふっ、それもまた一興か!」

 

「何言ってんの? お前らが鏡合わせになって戦っても、その堅い防御力を活かす前に互いに攻撃が当たらないんだから、何の進展もない決闘になるだけじゃねえか」

 

「……? 何故攻撃が当たらないのだ? 『両手剣』スキルがあれば、それなりに当たるようにはなると思うのだが…………まさか、向こうの私はとってないのか!? 何たることだ! 攻撃を当てなければ前衛の意味がないではないか! 何を考えているのだ、向こうの私は!」

 

「多分ドMなことしか考えてないんだと思う。あ、でも少しは仲間を守るって気持ちもある……はずだ」

 

 

 言われていますよダクネスさん。まさか並行世界の自分自身からダメだしを食らうとはな。

 あとドMと言われてキョトンとしているところを見るに、このダクネスは変態でないのか、または自覚がないのかのどちらかだろう。

 どちらにせよ、うちの変態クルセイダーよりはるかにマシである。

 

 

「どう? 皆良い子ばっかりでしょ?」

 

 

 素晴らしすぎて涙が出てくる。

 何でこの世界の俺は、これほどに良い思いをしているのか。

 俺も、こっちの世界でパーティを組みたかった!

 

 

「いや、まだだ。まだ俺は信じないぞ! こんな優秀そうな奴らが俺の仲間のはずがない! きっと本番になるとポンコツなところばっかり出てくるに違いないんだ!」

 

「…………苦労しすぎて、仲間を信じることが出来なくなってるのね……可哀そうに……」

 

「な、何だか見ていられなくなってきたんですが!? まるで昔の自分を見ているみたいで、心が……!」

 

「こうなったら、実際に見てもらうしかないみたいですね。私達の戦い方というものを」

 

「そう言うことなら任せておけ。安心しろ、別世界のカズマよ。私がお前の不安を全て消し飛ばしてやろうではないか」

 

 

 やだ……ダクネスがかっこいい……。

 俺の所のダクネスも、これほどに頼りがいがあったなら良かったのに……!

 

 

「ちょうどジャイアントトードが繁殖期に入っているみたいだから、そのクエストを請けようではないか。カエルは刃物が通り易く倒し易いし、攻撃法も舌による捕食しかしてこないから、深い傷を負う事もない。倒したカエルも食用として売れるから稼ぎもいい。薄い装備をしていると食われたりするらしいが、今のカズマの装備なら、金属を嫌がって狙われないだろうし、安全だ。他の三人も私が守り通そう」

 

「か、カエルかぁ……」

 

 

 カエルの討伐と聞いて、少し躊躇い気味のアクア。

 もしや、この世界でもカエルはアクアのトラウマになっているのだろうか。

 

 

「この世界のアクアもカエルに食われかけた事があるのか? 頭からパックリいかれて、粘液まみれになったとかで嫌なんだったら別の奴で……」

 

「い、いいえ! これは貴方の不安を解消するための討伐なのよ! だというのに私個人の感情で選り好みなんかしちゃだめだと思うの! ちょ、ちょっとまだ怖いけど、貴方のためだもの、頑張るわ!」

 

 

 恐怖心からか足をプルプルさせているのに、アクアは涙目ながらも健気にこちらを気遣ってくれている。

 ……あれ? アクアって女神だっけ? いや駄女神とかそう言うのではなく。

 いや女神なのは間違いないんだけど、女神じゃないというか……。

 

 うん。ここのアクアは真なる女神ということでいいか。

 

 

「……頭からパックリ……。粘液まみれに……」

 

「ダクネス、お前まさか、ちょっと興奮してるんじゃないだろうな」

 

「これが興奮せずにいられるか! 初体験の巨体さ! 初めて味わう攻撃方法! ああ、戦い方も千差万別ということか! 滾る、大いに滾るぞ! あらゆる敵を打倒してこそのクルセイダー、真の騎士というもの! さあ、我が道の糧となるがいい!!」

 

 

 ダクネスが、こちらの物とは違う意味で興奮していらっしゃる。

 こんな攻撃的なダクネスを俺はついぞ見たことがない。

 いっつも詰られ甚振られハァハァしている変態チックな姿しか見ていないのだから、無理もないけれども。

 

 やばい、このダクネス、すごく主人公してる。

 

 

「そういうことなら、爆裂魔法を使うのは控えておきましょう。下手に刺激して、取り囲まれたりしたら厄介ですからね」

 

「え、めぐみん。爆裂魔法を撃たなくていいのか? お前だったらこの場面、何が何でも爆裂魔法を使ってやるってくらいの気概を見せるところじゃ?」

 

「死んでしまったらどうするのですか。撃ちたい気持ちはありますけど、迷惑になるのなら止めるべきでしょう。それに、冒険者たる者、いつ強いモンスターに襲われるか分からないのですから、不必要に魔力を使うべきではないと思うのです」

 

 

 あれ? 紅魔族特有のかっこよければそれでよしみたいな風潮はどこに行った?

 元からめぐみんは知能は高いけれど、ここまでクレバーなキャラではなかったはずだが。

 こうやってめぐみんが奥の手として自覚してくれてるなら、こっちの世界のクエストでも楽ができるのに。

 

 こっちのめぐみんもこうなら、周りから頭がおかしい奴とは言われなくなるんだけどなぁ。

 

 

「それなら、私がその分頑張るね。カズマさんは私の魔法については向こうの世界でも知っていますか?」

 

「ああ、中級と上級の魔法が使えるんだろ? ゆんゆんはバランスがいいよな。めぐみんには、いっつもせめて中級だけでも習得してくれって頼んでるんだが……」

 

「それと、合体魔法も使えますよ。二種類の魔法を組み合わせるものなんですが、これも、めぐみんとこっちのカズマさんとで特訓して使えるようになったんです!」

 

 

 何それかっこいい。

 合体魔法って響きが既にかっこいいのに、こっちの世界の俺とめぐみんで開発したというのが実にいい。

 まるで少年漫画のバトル系でよくある新しい技の特訓をするシーンみたいだ。

 

 ゆんゆんがボッチを止めて、えらく成長していやがる。

 

 

「それじゃあ行くわよカズマ。カエルだからって、油断しちゃだめだからね」

 

 

 ……アクアに『油断するな』って言われるとはなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺、もうこの世界に住む」

 

「唐突に何を言っているのですか?」

 

 

 めぐみんが変なものを見る目で問うてくるが知ったことか。

 この世界こそが、俺が来るべき世界だったんだ。

 

 アクアがクエストの最中で余計なことをしないし、指示通りに動いてくれる。

 めぐみんは勝手に爆裂魔法を撃って、いつの間にか戦闘不能になったりなんかしない。

 ダクネスの剣が、気持ちのいいくらいモンスターを次々に切り裂いていく。

 ゆんゆんが、あらゆる状況に対応してそれに応じた魔法を使ってくれる。

 

 何と素晴らしいパーティか。

 あんなに元の世界では雑魚敵相手に苦労するどころか、たまに死んでしまうくらいに弱小パーティだったというのに、この世界の仲間たちの戦闘力はとんでもなく安定している。

 こんな仲間ばっかりなら、俺だってもうちょっと積極的に冒険者として頑張ろうって思えるのに!

 

 

「三日後には、この世界のカズマが帰ってくるのですし、その時には貴方も元居た世界に戻ることになるんですよ?」

 

「嫌だ。もう俺はあんな地獄みたいな世界には戻りたくない。もういいじゃん、この世界に俺が二人いたって。一人くらいお目こぼししてくれてもいいと思う」

 

「そうなると、元の世界の貴方の仲間はどうするのですか?」

 

「大丈夫、俺が居なくともあいつら三人で頑張って生きていけるさ。もうお守りは嫌なんです。たまには俺だって楽してクエストがしたいんだよ!」

 

「そこまで大声で主張するとは……とんでもないストレスを抱えているようで……」

 

 

 口ではそう言うが、やはり腐れ縁というか、情が移ったというか、心のどこかであいつらの心配はしてしまっている。

 アクアがまたやらかして借金をこさえていないかとか、めぐみんの爆裂魔法で近隣の住民から苦情が出てないかとか、ダクネスが変態的趣味への欲求を満たそうとして単身でモンスターの巣に突っ込んでないかとか。

 

 ……俺が居なくて、困ってはいないだろうか。とか。

 

 

「ふっ、その表情、なんだかんだいって、貴方も元の仲間は見捨てられないようですね」

 

「ばっ!? べ、別に心配なんかしてねーよ! あいつらが余計なことをするたびに、それを俺がどうにかしなくちゃいけないから、その心配をしてんだよ!」

 

「はいはい。やっぱり、カズマはどこの世界でもカズマなのですね」

 

「おい、やめろよ、そういう『私は分かってるから強がらなくてもいいのよ』的な微笑みを浮かべるの。…………いや、やっぱり訂正する。滅茶苦茶心配してるわ」

 

「唐突ですね? 何をそんなに……」

 

 

 忘れてた。

 たった今、あの三人のトラブルメーカーの面倒を見ている奴がいるということを。

 そこは滅茶苦茶心配だ。だって、『俺』の事だし。

 

 

「こっちの世界の俺、あっちの世界でうまくやって行けてんのか?」

 

「あっ」

 

 

 ……不安だ。




というわけで、『ここのカズマ』と『原作のカズマ』を入れ替えてしまいました。
原作の方は、四巻の内容が終わったあたり(アニメ二期終了時点)を想定しています。
そこまで詳しくは決めてないので、おおざっぱにですけど。

次は、向こうに行ったカズマ視点から始まります。
それではまた。

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