このおかしな仲間に祝福を!   作:俊海

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番外編 このおかしな冒険者に祝福を! 中編

 なんだこれ。

 もう一度言おう。

 なんだこれ。

 

 

「で、あんたが別世界のカズマってこと?」

 

「……まぁ、そうなるな」

 

「はぁー、そんなに便利な神器だったら私が使っとけばよかったわ! なんであんなヒキニートが、並行世界なんて面白そうなところに行けたのかしら。私が居なきゃ何にもできないカズマのくせに生意気よ! 帰ってきたら晩ご飯のおかずを向こう一週間は私に献上させないといけないわね!」

 

 

 なんだこいつ。

 誠に遺憾ながら、見た目はうちのアクアとそっくりではあるが、誰だかさっぱり見当がつかない。

 俺の仲間に、率先して自分だけが得したいと考えて、人をヒキニート呼ばわりし、この場に居ない人の悪口を言い、一方的に不平等条約を結ぼうとするような女神様など存在しないはずだが。

 態度もヤ〇ザというかチンピラみたいだし、目の前の女の雰囲気から、女神らしさを全くこれっぽっちも感じられない。

 繰り返し言おう。

 なんだこいつ。

 

 

「ほう、並行世界からの来訪者とは、これまた紅魔族的にもポイントが高いですよ! それが、カズマというのは少しスケールダウンしますが、そこはそれです!」

 

「おい、ゆんゆんはどうした? お前らいつも一緒に居るだろ?」

 

「は? なんで私がゆんゆんと仲良くしないといけないのですか? それとも、私を解雇してゆんゆんを仲間に入れるつもりですか!? そうはいきませんよ! そんなに私よりもゆんゆんがいいというのなら、私の魅力をその骨の髄までたっぷりと味合わせてあげようじゃあないですか! 具体的にはこの必殺の爆裂魔法を叩きこんで差し上げましょう!!」

 

 

 なんだこいつ。

 残念ながら、見た目はうちのめぐみんと似ているが、ちょっと誰だかわからない。

 ゆんゆんと仲が良くないのはまだ分かる。そこは並行世界ということで、少し仲のよろしくない世界線だってあるとは思う。

 だが、こんなに常にテンションが高く、感情を爆発させているような魔法使いはちょっと心当たりがない。

 後たかが質問しただけで、爆裂魔法を撃ち込もうとするのは止めろ。うちのめぐみんでも喧嘩でそれを持ち出したことはないんだぞ。

 またまた言わせてもらおう。

 なんだこいつ。

 

 

「おい、お前達、あんまりカズマを困らせるな。似ているとは言っても、我々とこのカズマは初対面なのだぞ?」

 

「やっと、真面な仲間が」

 

「と、ところで別世界のカズマ。お前はいったいどのような鬼畜染みたプレイをしてくれるのだ!? 元のカズマもとんでもない仕打ちをしてくれたのだ、さあ、お前は私をどう辱めてくれるというのだ!?」

 

 

 なんだこいつ。

 悲しいことに、見た目はうちのダクネスと瓜二つだが、全然誰だかわからない。

 最初のセリフこそ常識的なものではあったが、そこで油断した俺の落ち度だろう。

 目の前の女騎士の口から次から次へと出てくる、下品な言葉の数々。

 俺は良くめぐみんの事を変態と言っているが、そんなちゃちなレベルのものではないというか、ベクトルが違いすぎるというか、度し難い変態とはこいつのことを言うのだろう。

 だが、こんな変態、俺の知り合いには絶対に居ないはずだ。

 最後にもう一度だけ言わせてくれ。

 なんだこいつ。

 

 

「……この世界の俺、苦労してるんだろうなぁ」

 

 

 第一印象で分かる。こいつらダメな系だ。

 辛うじてめぐみんが近しい性格をしているのが救いだが、ゆんゆんが居ないのが致命的すぎる。

 一発こっきりの魔法使いしかいないって、どんな縛りプレイだよ。

 

 俺に向かってまだピーチクパーチク言ってる三人娘の姿を見て、俺は大きくため息をつき、

 

 

「はぁ……、あのな、初対面かつお前らの事なんか何にも知らない奴からこんなことを言われるのは業腹かもしれないけど、言わせてくれ。……お前らには常識というものがないのか?」

 

「「「え?」」」

 

「『え?』じゃねえよ。俺真っ先に説明したじゃん。『俺は確かにお前らの知ってる『カズマ』には似てるだろうけれども別人だぞ』って。初対面の人間相手に、どうしてそこまで遠慮なしに攻撃的というか猛獣的に話しかけられるんだ? もう子供じゃないんだろ、お前ら?」

 

「「「うっ……!」」」

 

「そりゃあ、俺が勝手に来たようなもんだから、お前らの知ったこっちゃないのかもしれないけど、それでも事情の分からない俺に一方的にまくしたてるのは、大人としても女性としてもどうかと思うんだが」

 

 

 そこまで言うと、さっきまでの騒音はどこへやら、一堂に会して沈黙した。

 別にこいつらに対して怒りが湧いているわけではない。

 こいつらに、自分達のその行動が一社会人としてどうなんだと問いたいだけだ。

 

 

「え、なにこのカズマ。なんだか大声で怒鳴られてないのに、逆らえない雰囲気があるんですけど。なんというか、学校の先生に叱られてるような気分なんですけど」

 

「私も似たような印象を受けました。どうしましょう、普段のカズマならノリ的に言い返しやすいのですが、こちらのペースを乱されてしまうというか……」

 

「こ、この責めは、私が望むタイプのものではない……っ! 良心や倫理観に直接ダメージを与えてくるこの言葉責めは……!」

 

 

 しまった。説教臭くなった。

 ここまで閉口されてしまうと、こっちこそ何様だという話になってくる。

 まずは一旦、こちらから引き下がるべきだろう。

 

 

「……まあ、俺が言いたいのは、とりあえず落ち着いて俺の話を聞いてくれってことだよ。互いに情報交換をまともにしないと会話も成り立たないだろ? こっちも頑張ってそっちの話は聞くようにするし、こっちがそっちに失礼なことを言ったら、その時は遠慮なしに言ってくれて構わないからさ」

 

「……そうですね。我々も興奮していて、少し見苦しい所見せてしまいました。そこは謝罪させてください」

 

 

 落ち着いた様子でめぐみんが頭を下げてくるが、俺の頭の中にはもう別の事で頭がいっぱいだった。

 これで『少し』って言ったか、このロリっ子は。

 俺からすると『かなり』見苦しかったんだが。あれがこいつらの中では許容できる範囲の醜態だったというのか。

 ……やべえ、マジ震えてきやがった、怖いです。

 

 だが、そんなことを口には出さない。

 余計なことを言って逆襲されたらたまったもんじゃないからな。

 

 

「三人の名前は、それぞれアクア、めぐみん、ダクネスであってるよな?」

 

「はい。……私達の名前を知っているということは、そちらの世界にも我々はいるのですか?」

 

 

 うん。見た目だけそっくりで中身が全く違う奴らだけど。

 少し世界が違うだけで、こうも性格が別物になるってのも恐ろしい話だ。

 

 

「ああ、そこにゆんゆんも仲間になってるって違いはあるけど、それ以外はほとんど同じだな」

 

「なるほど、それで先ほど私にゆんゆんの話を聞いてきたのですね。あの子、『めぐみんの仲間になるにはまだまだ未熟だ』とか言ってたものですから、つい驚いてしまって」

 

 

 なんだ、仲が悪いって訳じゃないのか。

 それを聞いて安心した。

 こっちの世界では仲のいい奴らが、仲違いしているところなんか見たくないし。

 

 

「お前らは、アクアが女神だって知ってるのか?」

 

「はい。そういう夢を見ている可哀そうな人ですよね」

 

「ちょっと! もうそろそろ私が女神だって信じてくれてもいいじゃない! ていうか信じてよー!!」

 

 

 涙目でめぐみんに縋るアクアの姿が、そこにあった。

 そりゃ信じてもらえないわな。

 俺の世界のアクアが女神だからこいつの正体もまた女神だと信じられるが、初見なら絶対に俺も信じられん。

 

 

「そもそも! この気高くも美しい水の女神であるアクア様を、転生の特典に選んだカズマにも問題があると思うのよ! ちょっと私がカズマのあの恥ずかしい死に方とその後の顛末をバラして笑ってストレス解消しただけだってのに、その腹いせに私を持っていく『者』に指定するって、心が狭いと思わない!?」

 

「残当だろ。バカじゃねえのお前」

 

「わああああああーっ! カズマが言っちゃいけないこと言った! 謝って! ねえ謝ってよ! 清く正しくも麗しい私のことをバカって言ったことを謝りなさいよ!」

 

 

 アクアが掴みかかってくるが、謝る気は一切ない。

 俺だって同じことをされたら、全く同じことをこいつにやりそうだからだ。

 ただ、そんな一時の感情を理由に、こんな女神からは程遠い駄女神を特典に選んでしまった『この世界の俺』に同情するばかりである。

 

 

「というか、そっちのあんたのパーティにも私がいるんでしょ!? それって、あんたもそっちの私を連れていくとか言う反則行為をしたってことじゃない! どの世界でも神聖な存在である私をもの扱いするだなんて、カズマってなんて罰当たりな人間なのかしら! ほら、そっちの私に対する謝罪も込めて謝ってちょうだい!」

 

「いや、意味が分からん。確かに俺は、向こうのアクアには申し訳ない気持ちでいっぱいだけど、お前に対して謝る理由がないだろうが。謝らせるなら、この世界の俺に言えよ。あと、一応だけど言っとくが、こっちのアクアは割とノリノリでついて来てくれたからな?」

 

「……嘘?」

 

「本当だぞ。確かに俺はアクアを特典に選んだけど、『私を求める声があるのなら、それに応えないと女神の名が廃るってもんよ』って言ってくれて、その後の冒険でも、いろんな場面で毎度毎度世話になってるんだ。だから、そっちのアクアに対してなら感謝と謝罪くらい、いくらでもやれるぞ俺は」

 

 

 俺の言葉に、茫然とするアクア。

 いや、アクアだけではなく、その後ろの二人までもが呆気に取られているようだ。

 

 

「カズマが、アクアに世話になっている……ですと!?」

 

「バカな、ありえん! あのアクアがカズマに感謝されるなど……っ!?」

 

「え、なに? あんたの所の私って、借金とか作ってないの?」

 

「借金? なんだそりゃ?」

 

「まさか、借金もないの!? 冬将軍に首ちょんぱされたことは!? 国家反逆罪で裁判にかけられたことは!? サキュバスに襲われそうになったことは!?」

 

「待て! 一度に大量の情報を渡されても処理できねえぞ! というかなんだそれ!? 首ちょんぱ!? 裁判!? サキュバスってどういうことだ!? そこらへん詳しく聞かせろ!!」

 

 

 特に一番最後については綿密に!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………俺って恵まれてたんだな。本当に」

 

 

 この世界の俺よ。お前何でそんなに頑張れんの?

 そう言いたくなるくらいに、この世界の『佐藤和真』は苦労しているようだ。

 少し時間軸がずれているみたいだけれど、なんとも言い難いぐらいに苦難ばかり押し寄せてやがる。

 

 まずベルディア討伐からして違いすぎる。

 あれで俺達は報酬として無事に3億エリスを手に入れられたが、この世界ではアクアがやらかしたせいで借金を背負うことになったらしい。

 その後も、様々な困難を打ち破り、時には良い思いもしたようだけど、最終的にはどれもこれも悪い方にしか返ってこない。

 歩行要塞を破壊したのに、国家反逆罪で裁判にかけられる。

 アクシズ教の総本山で、産業を破壊したとして恨まれる。

 他にも色々災難が。

 ……本当にろくでもないな、この世界。

 

 

「で、なんでお前らは俺についてくるんだ?」

 

「え、クエストに行くんでしょ? だったら私達も付いて行くわよ」

 

 

 ……嫌な予感しかしない。

 モンスター討伐をするつもりなのは間違いない。

 別世界のモンスターの様子も見てみたいし、何より買ったばかりの弓の性能を確かめたいし。

 

 それは良いんだが、さも当然かのように三人娘が俺の後ろについて来ていることが問題だ。

 普通なら、別世界と言えど、同じ仲間として見捨てられないとか、そういう意味があるのではと思うところだ。

 けれど、こいつらの場合、『俺』がいないとまともにクエストができないのではなかろうか。そう勘ぐってしまう。

 

 

「三日は帰れないんでしょ? その間はどこに宿泊するつもりなの?」

 

「どこって、宿屋にでも……」

 

「もうどこも埋まってますよ。冬ですし、冒険者たちが皆泊まり込んでるので」

 

「……じゃあ、馬小屋で」

 

「この寒空の中では、さすがに風邪をひくのではないか? わ、私としては、それもありではあるがっ!」

 

 

 あれ? もしかして詰んでる?

 どうやっても、こいつらと行動しなくちゃいけない奴?

 RPGでよくある、『いいえ』を選んでも話が進まず、結局『はい』を選択せざるを得なくなるあれか?

 

 

「ほら、あんたもカズマなんだから、私達の屋敷に泊めてあげるわよ。その代わり、クエストとかいろいろ手伝ってちょうだい」

 

「…………しょうがねえな」

 

 

 アクアのこの言葉。打算は入っているんだろうが、どことなくこちらを気遣う雰囲気も感じられる。

 そこは腐っても女神というか、少しだけでもアクアらしいところが見られて安心できた。

 ……三日だけだし、こいつらに付き合ってやるか。

 

 

「じゃあ、冒険者カードを見せ合うか。互いに何ができるのか確認したいし」

 

「「「…………」」」

 

「おい、どうして一斉に目をそらした」

 

「「「…………」」」

 

「無言で渡すなよ。怖いじゃねえか。どれどれ……」

 

「「「…………」」」

 

「…………アクアは知力が低くて……めぐみんは知っての通り……ダクネスは、『両手剣』スキルがない、だと……?」

 

「「「…………」」」

 

「…………」

 

「「「…………」」」

 

「…………やっぱり俺、馬小屋で寝るわ。布団を着込めば三日くらいは大丈夫だろうし」

 

「ああ、待って! お願い話を聞いて、お願いしますカズマさーん!!」

 

 

 ……不安だ。

 

 

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

 

 

 

「『狙撃』! ……ふう、これで終わりか?」

 

 

 山道に住み着いたゴブリンの討伐クエスト。

 報酬も多いし、さすがにいくらこの三人がいるといえど、これでやられるということはないはずだと選んだのだが、まあ、順調……ではないが、なんとか達成した。

 ……まさか、俺がメインアタッカーになろうとはな。

 

 

「……なんだ、もう終わりか」

 

「何残念そうな面してんだよダクネス。お前の姿が見えなくなるくらいに群がられてたじゃねえか。あれで物足りないってどれだけ変態なんだ」

 

「んん……っ! ……変態ではない」

 

「おい、今興奮しただろ」

 

「してない」

 

 

 こいつの攻撃、全くゴブリンにかすりもしない。

 むしろ隙間なく密集していたのだから、外す方が難しいくらいだったというのにだ。

 しかも、俺の罵倒に顔を赤らめてるし……なんなんだこいつ。

 うちのダクネスなら、あいつ一人だけで終わってただろうに。

 

 

「あと、魔力切れでぶっ倒れて、俺に背負われているめぐみん。お前頭いいんだろ? なんで爆裂魔法を撃ったんだ?」

 

「……あれだけの数を一度に吹き飛ばせるとなると、我慢できなくなってしまい、つい」

 

「ついじゃねーよ。俺が合図するまで撃つなって言ったじゃねえか。おかげで冬眠してた一撃熊まで出てきやがったんだぞ! お前がそれでひき潰されてたらどうするんだ!」

 

 

 このめぐみん、こらえ性というものがない。

 確かにあのタイミングで爆裂魔法をぶち込めば一網打尽にできるのは分かる。

 けれど、このクエストを請ける時、受付の人に『近くで一撃熊が冬眠しているので刺激しないように』って言われたはずなのに、なぜ我慢が出来ないのか。

 撃ったら撃ったで戦闘不能になって、俺が背負わなくちゃいけなくなったし。

 

 

「なによりアクア。俺言っただろ。指示するまで余計なことはするなって」

 

「だ、だって……私も何かしなくちゃって思って……」

 

「だからって回復役が前に出てきちゃ意味ないだろ。プリーストがデカい敵に殴り掛かるな! 案の定カウンターで熊に弾き飛ばされてたし! 幸い俺がバインドで吹っ飛ばされたお前をキャッチしたからよかったものを、あのままどっかに行って、遭難してたら全滅してたんだからな?」

 

 

 頼むから後方支援役は前に出ないでくれ。

 ダクネスがなんとか盾役として頑張ってたんだから、それのフォローだけしてれば何とかなるというのに。

 以前こっちのアクアが『思い付きで何かやると悪い方向に行きやすい』と言っていたが、ここのアクアはそれを自覚していないのが不味すぎる。

 なんでこの世界の俺は、こいつらを纏められるんだ?

 

 

「ああ、新しく高性能の弓を買っといてよかった……前の奴じゃ攻撃力が足りなくて倒せなかっただろうし……」

 

 

 本当に、自分の命を守るためには装備品に金をかけるべきだと思い知った。

 この弓、以前の弓よりも貫通力が高く、装填する時間も短く済む。何より軽い。

 高い装備品には、高いだけの理由があるということだ。自力で足りないところを補ってくれている。

 うん? 実力じゃない? 成金っぽい? 知るかそんなの、死ぬよりましだ。

 

 

「……というか、カズマ、なんだか戦い慣れてませんか? うちのカズマじゃ、ああも敵の攻撃を躱しながらも急所ばかり射抜くだなんて芸当できませんよ?」

 

「そういえば、罠の設置などもしていたな。一瞬だが、一撃熊の足を止めることに成功していたではないか。どこに隠し持っていたのだ?」

 

「そもそもなんで逃げなかったの? 普通あんなに強いのがいきなり出てきたら、まず逃げるでしょ? こっちのカズマなら、まず間違いなくそうするわよ?」

 

「いっぺんに質問するな。まずは落ち着け。ほら、コーヒーだ。体も冷えてるだろうし、それを飲んでひと心地つけとけよ」

 

 

 温めておいたマグカップを三人に手渡す。

 砂糖もミルクもたっぷり入れてある。

 疲れ切った体には、抜群だろう。

 

 

「…………いつの間に?」

 

「一撃熊を倒した時からだ。冬の山なんて体力持ってかれるだろうし、準備しておいたんだよ。ああ、あと湯たんぽもあるぞ。動いた後は温まってるだろうけど、直ぐに冷えてくるから服の中に入れておけ」

 

「す、すまない。ここまで用意してもらっていたとは……」

 

「あとアクア、敵避けの魔法もあるんだろ? また乱入者が出てきたら困るし、それ使っといてくれよ」

 

「う、うん……」

 

 

 とりあえず落ち着いたが、さて、何処から話したものか。

 そうやってうんうん唸っていると。

 

 

「あの、なんだかこのカズマ、頼りがいがあるんだけど。根本は変わってないはずなのに、なんだか包容力があるような……」

 

「それとやたらと私達の事を気遣ってくれますよね。いえ、いつものカズマもそうなのですが、何というか、方向が違うというか……」

 

「…………まるで、手のかかる子供の面倒を見る父親のような雰囲気だな」

 

「「それだ!!」」

 

 

 ……こっちの俺は一体どんな奴なのかが気になってくる。

 さほど違いはないというのだから、そんなに変な性格ではないとは思うのだが。

 

 

「で、まあさっきの質問に答えるとするなら、似たようなことをこの間までしてたからだな」

 

「似たようなこと……ですか?」

 

「ああ、ベルディアの城を攻略しててな。あんな常に気を張り詰めなくちゃいけない環境にずっといると、デカ物一匹くらいなら何とかできるようになるんだよ」

 

 

 あちこちに罠が仕掛けられている中で、城中を埋め尽くすアンデッドナイト達を、相手に気づかれることなく殲滅する。

 これを毎日やってみろ。無駄に度胸だけはつくぞ。それと狙撃の精密性も。

 

 

「逃げて後ろから襲われるより、倒した方が安全だから倒す方を選んだんだ。ダクネスなら、耐えられると思ったし、アクアもいるから大事にはならんだろうってな」

 

 

 それよりも、全員で逃げた場合、ステータスが低く、めぐみんを背負っている俺が真っ先に狙われるからという本音は隠しておく。

 カッコつけたいんだよ。男だもの。

 

 

「罠とかもその時に習得したし、そんだけ倒してたらレベルも上がっちまうしな。ほら、これが俺のレベルだ」

 

 

 今の俺のレベルは28。

 冒険者だから他の職業よりはレベルアップがしやすいそうだが、それでも大分上げた方だろう。

 俺の見せびらかした冒険者カードを、三人がまじまじと見つめて、

 

 

「このカズマさん、デュラハンを倒したばかりなのに、すっごいレベルが高いんですけど!? どういうことなの? あの怠け癖が服を着て歩いているような人間と同じ存在だって信じられないんですけど?」

 

「ええ、こたつとやらに入って抜け出してこない男よりも、この時点でレベルが上って、どういう戦いをしてきたというのでしょうか」

 

「わ、私よりも……レベルが上とは……、この屈辱感…………これはこれで……っ!」

 

 

 口々に俺のレベルに驚愕していた。

 

 …………ただ、なんとなくだけど、この世界の俺のレベルが低い理由には察しがついている。

 原因はこいつらだ。

 いや正確には、原因が無くなったせいとも言うべきか。

 

 俺がレベルを上げているのは魔王を倒すためであって、ひいてはアクアを天界に帰すためである。

 逆を言えば、その理由がないのなら、俺だってここまで頑張ってレベルを上げようだなんて思わなかっただろう。

 

 で、だ。

 果たして、この世界の俺が一生懸命頑張って魔王軍を倒すという志が持てるのだろうか?

 

 アクアは慈悲深い女神ではなく、お調子者の駄女神で。

 めぐみんは魔法の教授ではなく、一発ギャグの芸人で。

 ダクネスは戦闘狂の女騎士ではなく、攻撃できないド変態で。

 

 ……どこに魔王を倒そうという気概が湧いてくる要素があるというのか。

 三人は、この世界の俺のレベルが低い。とは言うものの、そのモチベーションがなければ当然なだけであって、もしも俺がこの世界に最初に来ていたなら、同じようなレベルになっていたに違いない。

 

 今だって、元のパーティなら、俺がここまで苦労しなくても済んだだろうとさえ思う訳だし。

 本当に、この世界の俺は、どうやってこのメンバーで魔王軍を討伐できたのか、不思議でしょうがない。

 こうやって、俺が三人を気遣えるのもまだ俺の心にゆとりが持てているからできるのであって、これから先ずっと仲間として組むのであれば、その心労に耐えながらこの三人に今と同じように振る舞い続けられる自信は全くないのだし。

 

 一番気がかりなのは、こいつらの本来の仲間である『俺』のことだ。

 だって、この世界の『俺』は、俺がいた世界を味わってから帰ってくるわけで……。

 

 

「……こっちの世界の俺、三日後にこの世界に戻ってきて、その後の生活に耐えられるのか?」

 

 

 ……不安だ。


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