このおかしな仲間に祝福を!   作:俊海

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番外編 このおかしな冒険者に祝福を! 後編

 並行世界に来て二日目の朝。

 馬小屋ではなく、見慣れない天井を見上げながら目が覚めた。

 ……ああ、こっちの俺は拠点を持ってるんだったか。

 いつもは馬小屋のさびれた天井ばかり見ているから一瞬戸惑うな。

 俺も、元の世界に戻ったらこんな屋敷を購入しよう。金ならあるんだし。

 そう決意を新たにしていると、

 

 

「カズマ、起きてください。爆裂散歩に行きましょう」

 

「……こっちのめぐみんも、その習慣があるんだな」

 

 

 爆裂魔法に命を懸けているのは、この世界のめぐみんも一緒らしい。

 いつもよりも一人少ないので、どこか寂しい気もするが、そういうことなら付き合ってやろうじゃないか。

 

 

「分かった。今すぐ準備するから待っててくれ」

 

 

 俺がそう言うと、めぐみんが目を丸くして。

 

 

「……この寒いのに、文句を言わずについて来てくれるのですか?」

 

「ん? そりゃそうだろ。めぐみんって爆裂魔法を撃ったら動けなくなるんだから、誰か付き添ってやらないとだし」

 

「こっちのカズマなら『は? こんな寒い中外出するとか正気かお前? 残念だが、生憎と布団が俺を放してくれないから今日俺はここから出られないんだ。もうそこらへんで良いから一人で行って来いよ。つーかダクネスでも連れてきゃいいだろ。あいつならこのクソ寒い環境でも、その寒さのあまりに興奮して温まりそうだしな』とか言って断られるのですが」

 

 

 ……なんだか、こっちの俺もダメ人間なような気がしてきた。

 そりゃ俺も同じ引き篭もりだったし、何より同じ人間なんだからその気持ちは分かるけれども。

 思えば、異世界に来てからというものの、俺は絶えず外出してきたから、引き篭もる習慣が完全に抜けてしまっているのかもしれない。

 

 

「寒いのは苦手だけど、今日はクエストにはいかないんだろ? だったら、それくらいには付き合うぞ。つーか、お前らから目を離すといつ面倒なことをやらかすのか分からねえし」

 

「おい、誰が面倒なのか聞こうじゃないか」

 

「はいはい、いいから行くぞ。すぐそうやってムキになるなよ」

 

「うぷっ! 何をするのですかカズマ!」

 

 

 何って、帽子の上から頭を抑えつけただけだが。

 こいつ、ロリっ子の癖に筋力結構高いからな。あのまま襲い掛かられたら、面倒だ。

 ……なんというか、俺ってこいつらに子供みたいな扱い方してるな。

 すごく自然にやってしまっていたけれども。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『エクスプロージョン』ッ!」

 

「ふーむ……乾いた空気の中でも確かな重量を肌に感じさせる衝撃。この極寒の気温の中に仄かに爆裂魔法の爆熱が混ざって、ジワリと体を温めてくれるところも高評価だ。今日のは95点ってところかな」

 

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

 

 

 やはり、爆裂魔法は良い。

 破壊力という一点においては他の追随を許さないのがロマンを感じられて素晴らしい。

 ……まあ、こんな感想が出てくるのは、俺のパーティにゆんゆんがいるおかげで、魔法使いの問題点が薄まっているところもあるのだが。

 俺は、爆裂魔法を撃って力尽きためぐみんをリヤカーに乗せて、

 

 

「よいせっと。毛布は被っとけよ。ポットの中にチャイも入れてあるから、飲みたきゃ飲んどけ」

 

「…………おんぶではないのですね」

 

「ん? そっちの俺はずっとそうしてんのか? こっちはゆんゆんとめぐみんが揃ってぶっ倒れるから、いつもリヤカーで運搬してるんだけど」

 

「え、ゆんゆんが倒れるって……一体どうゆうことですか? あの子、まさか爆裂魔法を……!」

 

「違うから。ゆんゆんは二種類の魔法を合体させる、所謂合体魔法の特訓をしてんだよ」

 

「何それカッコ良すぎませんか!?」

 

 

 おや、こっちのめぐみんも合体魔法には興味があるようで。

 やはり、中二病……いや、紅魔族というのは、『合体』という響きには弱いのだろうか。

 俺だってワクワクするし、その真っただ中にいるめぐみんなら無理もないな。

 

 

「そういえば、そちらの私はどんな人間なのですか? 爆裂魔法を愛しているというのは聞きましたけど」

 

「……正直、他の奴らとは違って、性格自体はそんなにお前と変わらないぞ。しいて言うなら、こっちのめぐみんの方が我慢強いってくらいか?」

 

「おい、誰が我慢弱いのか、そこのところはっきりさせようじゃないか」

 

「そういうとこだぞ、めぐみん」

 

 

 でも、実際初日ほどめぐみんに対してはこちらの彼女との違和感は少ない。

 爆裂魔法以外に関しては常識的だし、性格もそんなに解離していないし。

 

 

「ところで、今カズマは『他の奴らとは違って』と言いましたが、それはつまり、アクアやダクネスはそれはもうとんでもない変化を起こしているということですか?」

 

「ああ、マジでびっくりするぞ。というか、実際に俺はびっくりした。ガワだけ同じで、中身は全くの別人ってレベルだ」

 

 

 アクアなんかは本当にすごい。

 一晩経ってようやくギャップを受け入れられたが、それでもあの駄女神がアクアと同じ存在だというのは違和感が残る。

 

 

「こっちのアクアは、ギルドの奴らからそれはもう可愛がられ、崇められって感じだな。金にがめつくないし、献身的だし、慈愛の心が半端じゃない。うっかり邪悪な心の持ち主が近づいたら、そのまま無意識に浄化されそうなくらいだ」

 

「……あの、アクアの話ですよね? 女神エリスの話ではなくてですか?」

 

「アクアの話だぞ」

 

 

 俺の言葉に愕然とするめぐみん。

 まぁ、あのアクアとずっと一緒に居ためぐみんだ。こんな話信じられないだろう。

 

 

「……ところで、ダクネスの方はどうなんですか?」

 

「バトルジャンキー……ってのは違うか。……普段は礼節を弁えてるけど、いざ戦いになると、小型化した暴走状態のドラゴンの如きっていうか……」

 

「暴走状態なのはこっちのダクネスも変わりませんけどね。……攻撃は当たるのですか?」

 

「それはもう、バンバン当てるぞ。というか雑魚敵なら一撃で粉砕していくくらいだ」

 

「…………」

 

 

 そこまで言って、急にめぐみんが顔を俯かせた。

 もしや、このめぐみんもこっちのパーティが羨ましいとでも思ったのだろうか。

 ……いや、なんか違うな。大事にしているものを奪われそうな、そんな焦りの表情を浮かべている。

 

 

「…………カズマは、元の世界に戻りたいと思うのですよね」

 

「俺の事か? だったら当たり前だな。あくまで俺の世界はあっちだから、この世界に長居する気は全くないぞ」

 

「本当にそれだけですか?」

 

「うん? どういうことだ?」

 

 

 何を訳の分からないことを。

 それ以上の理由と言われても、パッとは出てこない。

 思案顔になった俺に対し、めぐみんは、

 

 

「この世界よりも、あちらの世界の方が優秀な仲間がいるからではないのですか?」

 

「おい、喧嘩を売ってるなら買うぞ」

 

 

 あまりにも心外な言葉を投げられ、思った以上に低い声が出た。

 こいつ、俺が仲間の質だけで元居た世界の仲間を裏切ると思ってんのか。

 

 

「俺はあいつらが仲間だから戻りたいだけだ。優秀かどうかなんざ関係ない。もしも仮に、この世界のお前らが、俺の仲間よりも有能だったとしても、この世界に残ろうだなんて思いもしねえよ」

 

「…………貴方はそう言えるでしょうね。でも、もう一人の貴方はどうですか?」

 

「………………」

 

「元の世界よりも安定した戦いができて、元の世界よりも迷惑などを被らず、元の世界よりも環境に恵まれている……そんな世界に行った『こっちのカズマ』はどう思いますか?」

 

 

 そこは、俺も危惧していたところではある。

 同一人物だが、俺は『この世界の俺』ではないし、俺と同じ気持ちになるのかどうかは完璧には計り知れない。

 この世界からあっちの世界に来た『佐藤和真』が、決してこっちの世界に戻りたくないとは思わないと、俺がそう言い切ることは不可能だ。

 

 

「あの面倒くさがりな男のことです。『俺、もうこの世界に住む』とか『もう俺はあんな地獄みたいな世界には戻りたくない。もういいじゃん、この世界に俺が二人いたって』とか言って、あちらの世界から戻ってきたがらない可能性があるのです」

 

 

 えらく具体的だな。

 

 

「確かに貴方の方が、我々の知るカズマより真面な人間です。性格も穏やかですし、戦闘力が高いのも認めましょう。だけれど、私の仲間であるカズマは、貴方ではないのです」

 

 

 こんな俺でそこまで評価されるって、この世界の俺が一体どのように生活していたのが気になってしょうがない。

 

 

「ちゃらんぽらんで、スケベで、こすっからくて、面倒くさがりで、楽する事ばかり考えて…………それでも、どこのパーティにも拾ってもらえなかった私を拾ってくれて、迷惑ばかりかける私達の事を見捨てないで、助けを求められたら、『しょうがねぇなぁ!』と言ってどうにかしてくれる。……私達の仲間のカズマは、そんなどうしようもない人間なのです」

 

「おいおいすごいな、お前の知ってる『カズマ』って野郎は。俺じゃあ絶対に真似できねえわ」

 

「ふふっ、そうでしょう、そうでしょう。我々のリーダーは、貴方のようにスマートではありませんが、弱っちくとも必死に知恵を振り絞って、自分を犠牲にしてでも頑張って戦う『あのカズマ』でなければダメなんですよ」

 

 

 ……ほーう? 俺がここの俺の事を褒めると、途端に上機嫌になりやがったな?

 俺は鈍感ではないから何となく理解できる。

 こやつ、この世界の俺に、わずかではあるが異性としての情を抱いているな?

 それを自覚しているのかそうでないのかは判然としないが、悪い感情では決してなさそうだ。

 

 なるほどなるほど、さっきのあの心配そうな顔は、そう言うことだったのか。

 そりゃそうだよな。自分の意識している相手が、別の女にうつつを抜かして、最悪帰ってこないかもってなったら、それはもう暗くなっちまうよなぁ。

 

 

「……なんですか、そのにやけ面は」

 

「別に何も? いやー、この世界の俺は青春してるなって思っただけだ」

 

「お、おい! 私の言葉から邪推でもしているというのなら、そのあたりについて詳しく話し合おうじゃないか!」

 

 

 めぐみんが必死に威嚇してくるが、顔を真っ赤にしているせいで全然怖くない。

 爆裂魔法も撃ったところだし、こいつが俺に危害を加えることもできないのだし。

 最悪、余計なことでも口走ろうものなら、ドレインタッチで口封じしてくれる。

 

 

「ま、心配するな。お前らの知ってるカズマはこの世界に戻ってくるさ」

 

「……なぜ、そう言い切れるのですか?」

 

「さっき俺も言ったじゃねえか。『もしも仮に、この世界のお前らが、俺の仲間よりも有能だったとしても、この世界に残ろうだなんて思いもしねえよ』って」

 

「でも、それは、貴方が元居たところに満足しているからで……」

 

「はっ! 知能の高い紅魔族でもここまで言わないと理解できないとは、よほど心がかき乱されているみたいだな!」

 

 

 俺は『この世界の俺』ではないが、同一人物だ。完璧に把握することはできずとも、その気持ちを推測するくらいなら簡単である。

 口では文句を言いながらも、これまでこいつらを見捨ててきていないんだろ?

 迷惑をかけられても、借金を背負っても、死にかけていたとしても、それでも仲間として扱っているわけだ。

 それはつまり――

 

 

「この世界の俺は、お前らが仲間で満足してるんだよ。じゃなきゃ、とっくの昔に見捨ててるっての」

 

「……本当ですか?」

 

「ああ、俺が言うんだから信じろ」

 

 

 言い切ることは不可能でも、保証くらいはしてやれる。

 そんな俺の言葉に、めぐみんはほっとしたようにリヤカーに倒れこんだ。

 

 

「……なかなかいい仲間を持ってるじゃねえか、この世界の俺も」

 

 

 ここまで心配してくれる女の子、なかなかいないぞ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、ダクネスの強い要望と、アクアがまたもトラブルを起こして一文無しになったので高難易度のクエストに行くことになった。

 何故こちらのアクアは、そうも簡単に金をなくしてしまえるのか。

 俺の世界のアクアは、あんまりにも運が悪すぎたり、お人好し過ぎて金を稼げなかったりで擁護できるのに、この世界のアクアは、運が悪いところもあるが、八割がたは自業自得からくるものだ。

 

 何で見捨てないんだ。この世界の俺。

 めぐみんがあまりにもいじらしいからか? メインヒロインはあいつなのか?

 ……まあ、そんなことを考えても仕方ないか。

 

 

「……高難易度でも文句は言わないのだな」

 

「ああ、本当は嫌なんだけど、アクアが金で困ってんだろ? 居候させてもらっているうちは文句は言わねえよ」

 

「あ、ありがとうカズマさーーん!!」

 

 

 アクアが涙目になって感謝してくるが、なんというか、安い。

 本人が本気で感謝しているのは分かるのだが、喉元過ぎれば熱さを忘れるという言葉があるように、五分もすれば調子に乗って上から目線でマウントをとってくる気がする。

 ……傍から見てる分には面白いな。当事者からすればあれだけれど。

 

 

「いつもだったら、こんなクエストを選んでも即座に却下されるというのに」

 

「俺だって同じだぞ。マジで心底やりたくないんだからな。一昨日の一撃熊だって、やりたくてやってたわけでもないんだし」

 

 

 あれだって、可能なら逃げたかった。

 足元に雪が積もってて、めぐみんを背負っていたから、逃げても追いつかれるだろうと思ったから戦っただけだ。

 ただ、今回は頼まれたからというだけで、勇敢な冒険者だからではないことを理解していただきたいところである。

 

 

「それでもいつものカズマなら、断固として拒絶するぞ。『こんな危ないクエストやるくらいなら、飢え死にした方がよっぽどマシだ。そこまで行きたいなら一人で行ってこい。おお、我ながらこれは名案だな! 俺達は苦労せずに金が貰えて、お前は自分の欲求を満たせる。互いにwin-winじゃないか! よし、ダクネス行ってこい!』とさえ言ってくるかも……んんっ……!」

 

 

 この世界の俺、もしかしてかなりのダメ人間なのでは?

 そして、そんなことを言われて何故このクルセイダー様は興奮されておられるのか。

 もしかして、ダメ人間に顎で使われる願望でもあるのだろうか。

 業が深いってレベルじゃねえぞ。

 

 

「おいめぐみん、そこまで言っちゃうくらいに鬼畜なのか? 俺って」

 

「……ダクネス相手になら言うかもしれませんね」

 

 

 マジかよ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はー……疲れた……」

 

 

 冬牛夏草とかいう家畜に寄生するモンスターの討伐を請けたのだが、見た目が本当にやばかった。

 頭に、得体の知れない、猿ほどの大きさのエイリアンみたいな凶悪な寄生生物を生やした家畜の集団とか、昔のB級映画に出てきそうだよな。

 ああいうのって、視聴者はツッコミどころとかでゲラゲラ笑えたりするけど、俺達からすれば笑い事じゃねえわ。

 ……いや、一人だけ楽しそうにしていたっけか。

 

 

「ああ……ジェスター様……」

 

「お前さっきのモンスターのこと、ジェスター様とか呼んでたのか。何で寄生されてないのに、ご主人様扱いしてんだ」

 

「……言ってない」

 

「今言ったろ」

 

「…………言ってない」

 

 

 こいつやっぱ駄目だ。

 あの気持ちの悪いモンスターに単身で挑んだのは評価するが、それも自分の欲望のためだというのだから困る。

 こっちのダクネスなら、欲望のためであってもきっちり討伐してくれるからいいが、このダクネス、全く攻撃が当たらない。

 なんとか爆裂魔法で一網打尽にしたが、撃ち漏らした時はどうしようかと考えたものだ。

 

 

「しかし、本当にお前はカズマのようで、カズマとは違う人間なのだな」

 

「そりゃそうだろ。少し環境が変われば人間なんて簡単に別人になるもんだ」

 

 

 そのサンプルを三例ほど間近で見ている俺が言うのだから間違いない。

 

 

「そういうものか。……明日には、この世界のカズマは戻って来るのだったな?」

 

「一応な。……もしかして、戻ってきてほしくないのか? あんな理不尽な命令されたくないとかで」

 

「むしろ望むところだ!」

 

 

 ……そうですか。

 こっちのダクネスも、『一人でクエスト行ってこい』って命令したら喜びそうだけど、ベクトルが違いすぎる。

 

 

「やはり中途半端に甘やかしてくるお前では物足りない。もっとクズ人間でないと私の欲求は満たされないのだ。お前は確か、クエストの直前に飲み物を渡してくれたな」

 

「ああ、脱水症状にでもなられたら困るしな」

 

「そんな気遣いなど不要だ! むしろそこで私の顔面にその飲み物をぶっかけてくれた方がテンションが上がったくらいだ!」

 

 

 ……上がるのか……テンション。

 

 

「い、いや、むしろ目の前で地面に溢されて『這いつくばって飲めよ。もしかして俺からの厚意を受け取れないってのか? そんなわけないよな、高潔なクルセイダー様? いいから四つん這いになれってんだ。ほら、犬みたいにペロペロペロペロ丁寧に飲めよ。なんだったら、そのまま俺の靴でも舐めてくれたって構わないんだぜ?』と、見下す視線も込みで言ってくれれば言うことなしだな!」

 

「黙ってろ変態」

 

「んんっ……!」

 

 

 どうしよう、こいつ、何を言っても悦んじまう。

 見た目がいいだけに、本当に残念過ぎる。

 

 

「…………それに、今まで苦楽を共にしてきたのは、あちらのカズマだからな。お前には申し訳ないが、やはり、我々のリーダーはあの『カズマ』以外にはあり得ないのだ」

 

「それは、お前の性癖抜きでの話か?」

 

「……今は、結構真面目に話しているのだぞ?」

 

 

 こいつ、面倒くさい。

 たった今自分の妄想でハァハァ言ってた奴が何を抜かすか。

 

 

「確かにお前がリーダーであれば、こうして私の望むクエストを請けられるようになるのかもしれないが、それでも私はあの『カズマ』に戻ってきてほしい。あいつは『冒険者』でステータスが貧弱だ。カズマを守ってやれるのは、この硬いだけが取り柄の私くらいなものだ。……全く、頼もしいのか頼りないのかよく分からないリーダーだよ、あいつは」

 

 

 ……案外、真面なことも言うんだな。

 いや、元から生真面目な性格ではあるのか。

 こうして、『誰かではなく、お前を守る騎士として頑張りたい』と言うところは、こちらのダクネスと変わらないのかもな。

 そこまで言って、俺に失礼すぎたと思ったのか、ダクネスは慌てた様子で、

 

 

「い、いや違うのだ! 決して、お前がダメだという訳ではなく、むしろ出来すぎるからダメというか……!」

 

「……それは良い。俺だって、お前らの面倒を見続けるだなんてまっぴらごめんだからな。向こうの俺に面倒を見てもらいたいって言うなら、さっさと丸投げしてやりたいところだ」

 

 

 大切に思われてるじゃないか、この世界の俺。

 最初来たときは、『なんでこいつらの仲間やってんだ』と凄まじく疑問に思ったが、こういうことだったのか。

 やっぱり、仲間の質よりも、仲が良いパーティの方が居心地がいいんだろう。

 

 

「ま、明日戻ってくる『俺』を頑張って守ってやってくれよ。俺って滅茶苦茶臆病だからな」

 

「……ああ、知ってるさ」

 

 

 そう言って、ダクネスは微笑んだ。

 その笑みは、俺の知っているダクネスの物と全く同じものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、元の世界に帰れる時間が差し迫り、

 

 

 

「ねえ、あんたもうこの世界に残りなさいよ。こっちのカズマは向こうに押し付けて」

 

 

 何言ってんだこの駄女神。

 そこは綺麗に終わらせるところだろうが。

 ここまで二人が『やっぱり元のカズマの方が良い』って言ってんだぞ。なんでその流れを断ち切るんだ。

 

 

「ちょ、ちょっとアクア!? 貴女は何を言っているのですか! それではあまりにもカズマが可哀そうすぎますよ!?」

 

「そうだぞアクア! このカズマにも帰るべき世界があるのだ。引き留める場面ではなかろうに」

 

「えー、だってこっちのカズマの方がお得じゃない? レベルも上だし、私にも優しいし、ひどいこともあんまり言わないし、お金だって稼いで来てくれるじゃない」

 

 

 こいつ、自分が楽をするために、この世界の俺を切り捨てやがった!

 

 

「おい、あんまり調子に乗るなよ。俺だって怒るときは怒るんだぞ」

 

「えー、でも怒れるの? 私って、あんたの所のアクアと同じ存在なのよ? 話を聞いている限り、あんたってそっちの私を尊敬しているみたいじゃない。そんな私に本気で怒れるのかしら?」

 

 

 ……確かに、その節はある。

 いかにこいつと俺の所のアクアが違う存在だと理解していても、同じ顔の相手に対して本気で怒れるかは怪しい。

 なんだかんだ、この三日間、俺はこいつを甘やかしてしまっていた気がするし、ほいほい言うことも聞いてしまっていた気もする。

 

 

「というか、どうせこっちのカズマは帰って来やしないわよ。向こうで良い子ぶってる私に簡単に絆されて、『もう帰りたくない。一生怠けて過ごしたい』って言ってるに違いないんだから。だから、こっちが向こうのカズマを見捨ててもいいと思うの」

 

「いや、その理屈はおかしい」

 

 

 こっちのアクアなら『相手が私を見捨てても、私はその人を見捨てる気はないわ。もしかしたら、後になって助けを求めてくるかもしれないし、その時に助けられなかったら悲しいもの』とか言って、健気にも見守ろうとするのが想像できる。

 

 ……うん、全く違う存在だ。

 でも、そう分かっていても、どうにも怒れない。

 クソッ、このままだとこの駄女神を調子づかせることに……!

 

 

「分かったら私をもっと甘やかして! 向こうの私に対する感謝の念も込めて甘やかしてよ! 今までこっちのカズマに敬われなかった分も敬ってよ! 流石ですね女神様って――」

 

 

 そこまで聞いて、俺の意識は一瞬ブラックアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――いって尊敬してよ! カズマぐらいしか私を女神として扱ってくれないんだから、全人類分も込めて褒めて褒めて讃えてよ! こっちのカズマは恩知らずで女神に仇名す背教者だから、私に不当な扱い方をするけど、あんたなら言うこと聞いてくれるでしょ! ほら、ぐずぐずしないで、早くしなさいよ!」

 

「……ほう、こっちの俺は、そんなにアクアに酷いことをしたのか」

 

「そりゃそうよ! アクシズ教の女神である私を豪勢に持て成さない時点で罰当たりだってのに、事あるごとに役立たずって言ってきて! 私がどれだけカズマを生き返らせてあげたかも忘れてバカにばっかりしてくるのよ、あの鬼畜男! おまけに特典でお前を選ぶくらいだったら特殊能力でも貰えばよかったって、ヒドイと思わない!?」

 

 

 そうかそうか、そんなに褒めてほしいのか。

 仕方がないなアクアは。

 

 

「だったらちょっとこっちに来い。頭をなでて褒めてやろう」

 

「はぁ? 高貴な女神たる私の髪に触れようだなんて恥知らずにもほどがあるんじゃないの? まあいいわ、私は寛大だから、その無礼は許してあげる。ほら、さっさとしなさいよ」

 

 

 そう言って、アクアは少ししゃがんで、素直に頭を俺の方に向けてくる。

 その頭の頂点めがけて、俺は自分の思いの限りを全力でぶつけてやった。

 

 

「こんの、駄女神がーーーーっ!」

 

「痛いっ!?」

 

 

 そう、俺の全力の怒りを、拳に込めてこのエセ女神に叩きつけてやったのだ。

 

 

「わあああああああああ、ぶった! カズマが私の頭をぶったーーっ!!」

 

「当たり前だこのクソビッチが! お前、俺がいないからってやりたい放題好き放題やりやがって! どうせあっちの俺にも迷惑をかけまくって、調子に乗って自由気ままにやってたんだろ! お前、一回俺の行った世界に行って、そこの女神様に爪の垢でも貰って来い! そして、あの慈愛の心とか謙虚さを分けてもらえ!」

 

「ヒキニートが別の女神に誑かされた! というかなんで!? なんでこっちのカズマに代わってるの!?」

 

「それは、我々がマントを被せたからですよ」

 

 

 めぐみんとダクネスが、俺の後ろからマントを手に取って現れた。

 どうも、こっちの俺を帰してやろうとしたのか、さっきのアクアの様子からして引き留めていたのが見苦しかったのか、勝手に被せてやったらしい。

 

 

「まずはおかえりなさいですね、カズマ。別世界旅行は楽しかったですか?」

 

「まあな。おかげで大分ストレス解消になったぜ」

 

 

 あの三日間は、至福の時だった。

 もしも俺の冒険の旅が順調に行ってたら、あんな感じだったのだろうと思えたほどに。

 だが、あの仲間は、結局のところ『あの世界の俺』の仲間であって、どうあがいても『この世界の俺』の仲間ではない。

 それを横取りするのは、あの世界の俺に悪すぎる。

 

 

「でも、あんなに上手くいってるとつまらないし、この世界に戻ってくることにしたわ。また、めぐみんに余計なことされたくないしな」

 

「ふふっ、そうだな。めぐみんは頭が切れる。カズマの思いつかないような嫌がらせだって思いつくだろう……で、できれば、私にもやってはくれないだろうか!?」

 

「何一人で勝手に妄想して興奮してんだ、このどうしようもない変態クルセイダー」

 

「ああ、この罵倒! やはり、私を満足させてくれるのはお前だけだ!」

 

「……本当に相変わらずだな、お前」

 

 

 大体、この世界にいるこいつらを心配しながら楽をするというのも精神衛生上よろしくない。

 この問題児たちを俺の目の届く範囲に居させないと、どうにも落ち着かないしすわりが悪い。

 なんせ、どれだけあそこが居心地が良い世界であっても、この俺が帰るべき世界は、このろくでもないが素晴らしい世界だというのは、変わり様がない事実なんだから。

 

 

「と、いうわけで、どうもこのアクア様は、別世界の俺の方がいいみたいだし……」

 

 

 そして俺は、この女神からは程遠い駄女神様に向かって。

 

 

「おい、アクア。お前がそのマントを被れよ。そんであっちの女神と交換してもらって来い」

 

「え、……え!?」

 

 

 ――俺は、驚き戸惑っているアクアにぽつりと言った。

 

 

「チェンジ」

 

「わああああ! 待って! ごめんなさい! 調子に乗ったのは謝るから見捨てないで! ごめんなさい、カズマ! ねえ、カズマ様ーーーっ!!」

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