このおかしな仲間に祝福を!   作:俊海

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この素晴らしいリーダーに祝福を!

 初心者殺しが引き返してくる気配も無く、俺達が山道を登っていると、テイラーの持つ地図の通り、山道が下り坂になる地点に出た。

 ゴブリンが目撃されたのはこの辺りらしい。

 テイラーが俺を見る。

 

 

「……カズマ、どうだ? 敵感知には反応あるか?」

 

「この山道を下っていった先の角を曲がると、いっぱいいるな。初心者殺しが戻ってくる気配は今の所無いぞ」

 

 

 しかし多いな。

 十やそこらじゃない数が居る。

 うん、多すぎてちょっと数えられない。

 

 

「いっぱいいるってならゴブリンだな。少なくとも強いモンスターじゃねえ」

 

「いや、俺ゴブリンと戦ったことが一回だけあるけど、ちょっとこの数は異常だぞ? 探知できてる数だけでも把握しきれないくらいに多いんだが」

 

 

 少しばかり警戒心を強めながら、キースに伺いを立てる。

 こういう時の俺の悪い予感は大体当たる。いったん様子を見た方がいいだろう。

 そんな俺の様子に、リーンも不安になったのか、

 

 

「ね、ねえ。そんなに居るの? ほ、ほら、カズマがこう言ってるんだし、ちょっとゴブリンの数を軽くでも確認してからの方が…………」

 

 

 リーンがそこまで言いかけた時だった。

 

 

「大丈夫だって! それに、カズマに俺達の良いところを見せてやらないとな! よし、行くぜ!」

 

 

 叫ぶと同時、ゴブリンが居るであろう下り坂の角から飛び出すキース。

 いや待て、なんでアーチャーが前に出るんだ。

 アーチャーが近接戦をしようとするんじゃない! 弓を構えて遠くから攻撃しろよ!

 それを見過ごせなかったのか、続いてテイラーも飛び出して、二人同時に叫んでいた。

 

 

「「ちょっ! 多っ!!」」

 

 

 叫ぶ二人に続き、俺とリーンも角を曲がる。

 

 そこには、三十やそこらはくだらないゴブリンの群れが居た。

 身長は子供程度しかないゴブリンだが、その殆どが武器を持ち、それらの多くのゴブリン達がまっすぐこちらを向いている。

 この間のゴブリンとは比べ物にならない数。これはちょっとまずいかもしれない。

 

 

「言ったじゃん! あたし、カズマがこう言ってるんだし、こっそり数を数えた方がいいって言ったじゃん!!」

 

 

 泣き声を上げるリーンとアーチャーのキースを後ろに庇う形で盾を構えたテイラーが前に出た。

 

 

「ゴブリンなんて普通は多くても十匹ぐらいだろ! ああ、このまま逃げたって初心者殺しと出くわす可能性が高い! やるぞ!」

 

 

 テイラーが叫び、リーンとキースが決死の覚悟を決めたような顔で攻撃の準備を始めた。

 そんなもの待ってられるかとばかりに、ゴブリン達が武器を振りかぶりながら、こちらに向かって山道を駆け上がってくる。

 

 

「痛えっ! 畜生、矢を食らった! おいっ! 弓構えてるゴブリンがいるぞ! リーン、風の防御魔法を!」

 

「リーンが詠唱してるが間に合わねえよおっ! 全員、何とかかわせえっ!」

 

 

 テイラーとキースが叫ぶ中

 

 

「『狙撃』ッ! からの、『ウィンドブレス』!」

 

 

 俺が、今まさに矢を放たんとするゴブリンを纏めて射抜いた。

 それでも仕留めきれなかった分の矢は、初級魔法でまとめて吹き飛ばす。

 めぐみん先生、あなたから教わった魔法、滅茶苦茶役にたってますよ!

 

 

「カ、カズマっ! でかしたっ!」

 

 

 テイラーが盾を構えて俺の前で叫ぶ中、リーンの魔法が完成したらしい。

 

 

「『ウインドカーテン』!」

 

 

 俺達の周りに渦巻く風が現れた。

 きっと、矢を逸らすとかなんかしてくれる魔法なんだろう。

 俺も負けてはいられない。初級魔法でもやれるってところを見せてやろう。

 

 

「『クリエイト・ウォーター』!」

 

 

 俺達とゴブリンの間に、大量の水をぶちまける。

 このコンボ、あの魔王軍幹部にも通用したんだ。ゴブリンにだって効果はあるはず!

 

 

「カズマ!? 一体何やって……」

 

「『フリーズ』ッ!」

 

「「「おおっ!!」」」

 

 

 俺以外の三人が叫ぶ中、ゴブリンの足元が一面の氷で覆われた。

 ここは結構な坂だ。足元が凍ってる状態だったら、そう簡単にこちらまで登り切れないはず。

 最近はあまり使っていない短剣を引き抜くと、テイラーの横に立ち。

 

 

「テイラー! この足場の悪い状況なら、いくらゴブリンでも上から叩くだけで倒せるぞ! 前は俺達二人で何とかしよう! 上って来ないゴブリンは、遠距離担当の二人に任せた!」

 

「でっ、でかした! おい、お前らやっちまえ! これならこっちがやりたい放題にできる! 俺達を驚かせてくれたツケを払ってもらおうか!」

 

「うひゃひゃひゃ! なんだこれ、目を瞑って撃っても当たるじゃねえか! てめえら前衛的なオブジェにしてやんよ!」

 

「よーし、いくよ! 普段は溜めが長くて使えない強力な魔法、ど真ん中に撃ち込むよおおお!」

 

 

 なぜかやたらと高いテンションで、俺達はゴブリンの群れを迎え撃った。

 

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

 ゴブリンの群れを討伐した帰り道。

 

 

「……くっくっ、あ、あんな魔法の使い方、聞いた事もねえよ! 何で初級魔法が一番活躍してるんだよ!」

 

「ほんとだよー! 私、魔法学院で初級魔法なんて、取るだけスキルポイントの無駄だって教わったのに! ふふっ、ふふふっ、そ、それが何あれ! タイムラグなしで発動できるのって便利すぎじゃない!?」

 

「うひゃひゃひゃ、や、ヤバい、こんな楽なゴブリン退治初めてだぜ! つーかなんだよあの狙撃の精度! お前実は冒険者じゃなくてアーチャーだったりしねえか!?」

 

 

 俺達は山道を街へ向かって帰りながら、先ほどの戦闘を振り返っていた。

 口々に先ほどの戦闘の話題で盛り上がる……あ、そうだ。まだ俺の役割があるんだったな。

 

 

「おい、戦闘終わったんだから荷物よこせよ。最弱職の冒険者は荷物持ちが基本だろ?」

 

 

 口元をにやけさせた俺の軽い皮肉に。

 

 

「ちょっ、悪かった、いやほんとに悪かったよカズマ、謝るよ! これからは冒険者だからってバカにしねえ! そりゃ魔王軍を倒すパーティにいるわけだわ!」

 

「ご、ごめんねカズマ! てか、何で冒険者が一番活躍してるのさ! おかしいよ!」

 

「おいカズマ、荷物よこせ! MVPなんだから、お前の荷物も持ってやるよ! てゆうか持たせてくださいカズマ様!」

 

 

 途端に慌てた三人に、俺は思わず吹き出した。

 吹き出した俺を見て、冗談だと気付いた三人も笑い出す。

 ああ、いい奴らだなぁ。なんでこんな素晴らしいパーティなのに、ダストは俺を妬んだんだろうか。

 少し贅沢過ぎないか?

 

 

「つっ……。いてて……」

 

 

 先ほどの戦闘で矢を受けたテイラーが、刺さったままだった矢を引き抜いた。

 俺はとっさにテイラーに駆け寄ると、

 

 

「おい、大丈夫か? ……ちょっと沁みるけど我慢しろよ。『クリエイト・ウォーター』!」

 

「ぐっ……!?」

 

「あのまま放置してたら化膿するかもしれないからな、応急処置だけど水で洗い流しといた。えーっと……お、あったあった。テイラー、消毒するからもっかい我慢な。1、2の3!」

 

 

 何か持って行った方がいいかと思ってかばんに入れておいた消毒液を、洗い流したテイラーの傷口に垂れ流す。

 二度の刺激に、テイラーが顔を少し歪ませるが、これをやるのとやらないのでは感染症のリスクが大きく違うはずだ。

 そんでもって……。

 

 

「『ヒール』!」

 

「「「なっ!?」」」

 

 

 仕上げに使った俺の魔法に、三人が驚く。

 

 

「消毒はしてるから大丈夫と思うけど、帰ったら医者かアクアに診てもらえよ。今の回復魔法も、完全に治したら中で膿むかもしれないから、出血を軽く抑える程度まで弱めて使ったし。それと、念のため包帯もまいとくぞ」

 

 

 確か、患部をしっかり消毒しないで傷口を完全に塞ぐと、感染しやすくなるとか聞いたことがある。

 かといって出血しっぱなしだとそれはそれで問題なので、アクアに教えてもらった『ヒール』をわざと弱く使った。

 傷口が裂けてまた出血しないように包帯を巻いていると、リーンとキースがゴクリと喉を鳴らした。

 

 

「カズマ、か、回復魔法まで使えるの……?」

 

「回復魔法……。つ、ついに俺達のパーティにも回復魔法が使えるメンバーが……」

 

 

 何か言いかけた二人の言葉を、テイラーが遮った。

 

 

「おい止めろ。カズマには、ちゃんとこいつに相応しい場所があるんだぞ。優秀な連中ばかりのパーティが。……ったく、どうして冒険者のカズマが上級職ばかりのパーティでリーダーなんてやってるのかが、身に染みて理解できたよ」

 

 

 そして、俺に笑いかけた。

 ……うん、なんかいいな。こうやって誰かに認めてもらえるというのは。

 

 俺達は山から降り、街へと広がる草原地帯に足を踏み入れる。

 この時、俺達の頭からは完全にあの脅威の存在を忘れてしまっていた。

 そう、ゴブリンなんかよりも、もっと注意を払わなければいけない存在がいた事を。

 

 

「あれ? 何か、凄い勢いでこっちに何か向かってきてないか?」

 

 

 アーチャーだからか視力がとびぬけていいのだろう。

 キースが何かが接近してくることに気が付いた。

 続いて俺も、敵感知により把握する。

 俺達の帰る方角からこちらに近づいてくる、死というイメージそのものの存在に。

 

 

「初心者殺し!」

 

 

 俺の叫びを合図に、四人で一斉に街に向かって駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

 

「はあっ……、はあっ……! くそっ、最後の最後でこれかよ! せっかくいい気分で帰ってたってのに!」

 

「はあっ、はあっ……。やばいよー、このままじゃ追いつかれちゃうよー!」

 

 

 後衛職である二人が絶望した声を出す。

 しかしどうする?

 俺達のすぐ後ろにいる初心者殺しを振り切るには、街までの距離が遠すぎる。

 これは俺がなんとかして初心者殺しの注意をよそに向けるなりするべきかと思案していた時、先頭を走っていたテイラーがクルリと振り向き、盾を構えて言い放つ。

 

 

「リーン! このままじゃ全員奴らの餌食になる! 俺とキースで何とかこいつを食い止めるから、お前はカズマと一緒に助けを呼んできてくれ! ギルドに報告すればどうにかしてくれるはずだ!」

 

「……っ! ああ、そうだな! 任せとけや、カズマ! カズマは他所のパーティの人間なのに、一番俺達に貢献してくれたんだ! せめてお前の身代わりくらいにはなってやるさ!」

 

 

 ヤバイ、ぐっと来た。

 類は友を呼ぶって言葉があるけど、あれ絶対嘘だ。

 嘘じゃなかったら、あの酔っ払いの仲間であるこいつらがこんなにかっこいいわけがない。

 

 

「わ、分かった! 行くよ、カズマ!」

 

 

 リーンが俺に声をかけ手を掴んでくるが、それに従うことはできない。

 こんなかっこいい奴らを見捨てられるものかよ。一日だけとはいえ、こいつらは俺のパーティメンバーなんだ。

 

 

「ちょ、ちょっとカズマ!? 逃げないの!?」

 

 

 俺はリーンの手を振り払い、初心者殺しに注意をひかないように魔法を発動する準備をする。

 標的はまだ立ち塞がるテイラーに向いて、俺には気づいていない。

 さて、ゆんゆんほどではないけれど、俺なりの合体魔法をお見せしようじゃないか。

 

 

「『クリエイト・アース』」

 

 

 俺の手の平に生成される、少量のサラサラの土。

 

 

「おっ、おいカズマ! 危ないぞ、早く逃げろ!」

 

 

 慌てたキースの声を聞きながら、それを握り締め、そっとテイラーの右後ろに立つ。

 ……そう言えば、これのことを俺がめぐみんに訊ねたから、ゆんゆんが合体魔法を使うようになったんだっけ。

 ある意味、この攻撃は合体魔法の元祖とも言えるものなのかもな。

 

 

「うらあああああっ! かかって来いよ、この毛玉があっ!」

 

 

 叫ぶテイラーに襲い掛かる初心者殺し。

 だが、お前の相手はそいつじゃない。この俺だ!

 

 

「『ウインドブレス』ッ!」

 

 

 俺は、手の平の土を初心者殺しに向けながら、俺の存在を誇示するように、大声で叫んでいた。

 

 

「ギャンッ!」

 

 

 テイラーに飛びかかろうとしていた初心者殺しは、突然横合いから眼球に砂粒の直撃を受け蹲った。

 そして、目が見えないながらもこちらに向かって大きな口を開けて威嚇し、

 

 

「フシャーッッ!」

 

「『ティンダー』!」

 

 

 俺は、『ティンダー』で爆裂弾の導火線に着火し、わざわざ開いてくれた、そのバカでかい口へと矢の狙いを定める。

 大丈夫だ。俺の運の良さを信じろ。間違いなく命中する。

 相手は歴戦のデュラハンじゃなく、野生の獣なんだから……!

 

 

「ほら、いいもんやるぜ! 『狙撃』!」

 

「ガッ……っ!?」

 

 

 見事にその口に吸い込まれた矢は、初心者殺しの身体を内側から粉砕したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

 

 初心者殺しを何とか仕留めた帰り道。

 街までもう少しというところまで、誰もが口を開かなかった。

 俺は、それを初心者殺しへの恐怖によるものだと思っていたら、

 

 

「……ふっ……。ふふっ……。ふへへへっ……」

 

 

 唐突にキースが変な笑い声をあげ始めた。

 

 大丈夫か? 恐怖でおかしくなったのか?

 だが、キースの笑いにつられた様に。

 

 

「くっ……くっ、くっくっくっ……!」

 

「あはっ……。あはははっ……。あははははははっ!」

 

 

 あの化け物を倒したことに、いつの間にか俺を含めて皆が笑っていた。

 

 

「ちょ、何だよさっきのアレ! カズマ、何しやがったんだよっ! ぶははははっ!」

 

 

 テイラーが背中をバシバシ叩いてくるが、その乱暴な痛みが心地いい。

 

 

「爆薬だ爆薬! 俺は冒険者だぞ、道具に頼らねえとまともに攻撃できねえんだ! これで今回のゴブリンの儲けはパーだぜ! 初心者殺しのおかげでトントンだけどな! わははははっ!!」

 

「こ、こんな冒険者が居てたまるかよっ! うひゃひゃひゃっ! は、腹いてえっ! 生きてるよ、俺達初心者殺しに出会って生きてるよ、おいっ! しかも逃げ帰ったんじゃなくて、きっちりぶっ倒してだぞ!」

 

「有り得ないよー! この人有り得ないよ、色々とー! 一体どんな知力してんのさ! ねえカズマ、冒険者カードちょっと見せてよ!」

 

 

 俺は言われるままにリーンにカードを差し出した。

 

 

「あ……、あれっ? 知力は普通だね。他のステータスも……、って、高っ!? この人幸運、超高いっ!!」

 

 

 リーンの言葉に、二人もどれどれとカードを覗く。

 

 

「うおっ、なんじゃこりゃ!」

 

「お、おい、今回こんなに都合良くクエストが上手くいったのは、カズマの幸運のおかげじゃねえか? おい、お前ら拝んどけ拝んどけ! ご利益があるかもしれねーぞ?」

 

「そ、そうだね! エリス様アクア様カズマ様ー! どうか、この先の冒険者生活が順調なものになりますように!」

 

「負けてたまるか! できるならダストが問題行動を起こさなくなってくれますように!」

 

「俺も俺も! 一気に大金持ちになれますように! 可能なら冒険者やらなくていいくらいに!」

 

 

 受付のお姉さんも、冒険者には幸運なんてあまり必要無いって言ってたけど。こうしてみると、すごく役に立っているような気がする。

 あれだけの仲間が集まってきたわけだし、俺の冒険者生活も順調なわけだし。

 テイラーの言葉に、俺に手を合わせて拝み出した三人に向かって、俺は声を低くして。

 

 

「……その願いは私の力を超えている」

 

「「「そこをなんとかカズマ様ーーっ!!」」」

 

 

 願いは叶えられないが、とびっきりうまいコーヒーを入れてやろうと、俺は未だに拝み倒してくる三人に苦笑しながらマグカップを取り出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、意気投合した俺達は、俺の振る舞ったコーヒーを飲みながらすっかり話し込んでしまい、クエストの達成をするべくギルド前にやって来るころには、すでに夜半を回っていた。

 初心者殺しは倒したし、あまり急ぐ必要もないのもあったけれど。

 やっぱりこのままパーティに残ってくれだの、それが無理ならまた助っ人で組んでくれだの言われてしまい、『臨時で組むなら構わない』と伝えると、三人ともが結構喜んでくれたり。

 まあ、社交辞令かもだけど、こうして評価してくれることが嬉しいのは事実だし、俺も気分良く四人で談笑しながら帰り路についていた。

 

 

「つ、着いたあああああっ! 今日は、なんか大冒険した気分だよ!」

 

 

 リーンの声を聞きながら、俺達は笑いながらギルドのドアを開け…………

 

 

「すみません……あの、もう本当にお金がないので、勘弁してくれませんか?」

 

「そ、そう言われましても……依頼者から苦情が出ておりますし……」

 

 

 受付のお姉さんに土下座している酔っ払いを見て、俺はそっとドアを閉めた。

 

 

「おい! ドアを閉めないで、助けてくれっ!」

 

 

 ドアを開け、半泣きで食って掛かってきたのは今朝俺に絡んできたあの男。

 名をダストとか言った、アクア達のパーティの臨時のリーダーだ。

 

 めぐみんは『いわんこっちゃない』という表情のまま、なにやら疲れ切った様子のゆんゆんにおんぶされ、アクアは、白目をむいて気絶したダクネスを背負ってオロオロしている。

 よく見ればアクアは頭に大きな歯型を残し、涎か何かは知らないが、何となく湿っぽい。

 

 

「……えっと、なにこれ。マジで意味が分からないんだけど」

 

「聞いてくれよ! 聞いてくれよっ!! ちょっと遠くの所でコボルトが出たから、それのクエストを請けたんだよ! そしたら、クルセイダーが俺が指示を出す前に勝手に突撃しやがったんだ! 最初は勝手に倒してくれるし楽だなって思ったんだけど、なんでかコボルトの数が減らなくてよ。何でかって思ったら、初心者殺しが二匹も出やがったんだ! あいつらが二つのコボルトの群れを移動させてる途中だったみたいで、それがたまたま鉢会っちまったらしくて……」

 

 

 泣きながら俺に訴えてくるダストの言葉を、俺はうんざりした表情を浮かべながら聞いてやる。

 

 

「おい、聞いてくれって! そしたら、調子に乗ってコボルトを倒してたクルセイダーに、初心者殺しが二匹がかりで襲い掛かって、そのダメージで気絶しちまってさぁ! 魔法使いたちに攻撃するよう頼んでも、片方は戦ってくれたけど、この小さい方が頑として魔法を使わねえんだよ! 理由を聞いたら、攻撃範囲と威力がデカすぎて、俺達を巻き添えにするどころか、地形まで変わっちまうからって言うから納得はしたんだよ! でも、その後に……」

 

 

 そろそろ聞くことが億劫になってきて、思わずあくびが出てしまった。

 

 

「頼むから聞いてくれ! でさぁ! アクアに何とかしてくれって頼んだら、『だったらあなたが指示して』って言われたんだよ! どうしたらいいのか分からないから、とりあえず『自分の判断で動いてくれ!』って言ったら、何を考えたのか、いきなり初心者殺しに殴りかかり始めて、運悪く戦ってるほうの魔法使いの子に拳が当たっちまったんだよ! そんで、気絶した二人はアクアが連れて戻ってきたんだけど、もう打つ手がなくて……」

 

 

 話のオチは読めた。俺は、ダストの話を半分聞き流しながら、アクアの頭についている涎をタオルで拭きはじめた。

 

 

「お願いします聞いてください! もう、被害とか考えずに、この子の爆裂魔法を使うしかないってなって。責任はとるから使ってくれって頼んだんだよ! そしたら、片方の初心者殺しには直撃して、もう片方はどこかに逃げちまったから何とかなったって思って帰ったら、実は爆裂魔法を使った振動で、近くの鉱山で落盤が起きやがってたらしくてさぁ! 幸い怪我人はいなかったけど、賠償金を払えって言われて、その額が……」 

 

「おい皆、互いにクエストは無事に終わったみたいだし、まずはのんびり飯でも食おうぜ。二つのパーティの親交が深まったことに乾杯しよう!」

 

「「「おおおおおっ!!」」」

 

 

 俺の言葉に、テイラーとキース、リーンの三人が喜びの声を上げてくれた。

 

 

「待ってくれ! 謝るから! 土下座でも何でもするから、俺を助けてくれ! な、金なら持ってるんだろ? もうあんな舐めたこと言わないからさ!」

 

 

 本気で泣くダストに、俺は心底同情すると。

 

 

「頑張って借金返済しろよ。良い女におんぶにだっこで甘い汁をすすらせてもらって、ハーレム気分で苦労もせずに金稼ぎができるはずの上級職パーティのリーダーさん」

 

「俺が悪かったからっ!! 今朝の事は謝るから助けてくださいっ!!」




Q,原作よりはダストでも扱いやすいパーティになってるのに、なぜ被害が増えているのか。

A,三人娘の要素をどれだけ入れ替えても、『カズマがリーダーじゃないとまともに戦えない』という欠点は三人とも共通して持ってるので、入れ替えようがないから。
また、ゆんゆんがいるせいで、原作よりもはるかに運が悪くなっているから。

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