このおかしな仲間に祝福を!   作:俊海

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この素晴らしい旅路に祝福を!

「いや待て、逃げるってどういうことだ? 何が何だかさっぱり分からないんだが」

 

 

 それに、今の俺には悪逆非道の限りを尽くした領主に対する制裁を考え、実行の準備をするという使命があるのだ。

 だというのに、理由もなくこの街から逃亡するだなんて意味が……、

 

 

「それがあの領主、『この間のデュラハンを倒したと吹聴していた冒険者は、敵方である魔王軍とつながりがある可能性が高い。故にもしもその顔を見かけたらひっとらえて尋問にかける』とか言い出し始めたのよ!」

 

「あんのクソ領主があああぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 どこまで念入りに俺の事をすりつぶしたいんだ!

 何だよ! 何回も言ってるけど、俺何にも悪いことしてないじゃねえか!

 てことはあれか、あんだけ苦労して倒したベルディアの報酬金は全部パーってか!?

 マジでふざけんなよ。こうなったらガチでテロ行為でも……!

 

 

「受け取った報酬金は、差し押さえられる直前に全部引き出してきている。金貨のままでは不便だろうから、大半は金塊として受け取ってきたが良かっただろうか?」

 

「ダクネスナイス! お前最高だ!」

 

 

 助かった!

 まさかウォーモンガーであるダクネスが、こんなきめ細かなところに気づいてくれるとは!

 ダクネスから金塊の入った袋を受け取り、それを俺の鞄の中へと放り込む。

 明らかに質量保存の法則を無視しているけれど、アクアに教わった隠し芸スキルのおかげで何とか収まる。

 ……本当にどうなってんだろう、これ。

 

 

「それで、ウィズまで連れて行くって言うのは?」

 

「カズマが指名手配されてから、街の中に魔物が潜んでないかって検挙騒動まで起きちゃって……、その、ウィズを見捨てるわけにはいかないじゃない?」

 

 

 その意見には完全に同意する。

 おそらく、アクアと俺とでは多少の認識の齟齬はあるだろうけれども。

 

 アクアとしては、ウィズが酷い目にあわされないかということを気にかけているのだろう。

 だが、俺がアクアの意見に同意したのは、ウィズはリッチーであり、ひいては最強格のモンスターであるという点からくるものだ。

 そんなウィズを捕縛しようとするなら、かなりの被害が出るに違いない。

 いくらウィズがおっとりしていて、優しい雰囲気を醸し出していても、いざ命の危機に陥るなら全力で抵抗するのは想像に難くないのだから。

 

 

「す、すみません、私まで連れて行ってもらえるなんて……」

 

「そんなの気にしない気にしない! 私って装備品にお金を使わなくていいから、ウィズの分くらい私が出してあげるわよ。それに、カズマもお世話になったしね!」

 

 

 ウィズの旅費はどうしようかと考えていたが、アクアが自分の懐から出すらしい。

 ……後々収入があったときは、あれこれ理由をつけてアクアの取り分を多めにしてやるか。

 

 

「と、いう訳で今すぐに逃げるわよ! 幸い乗合馬車の方にはまだ連絡が行ってないみたいだし、それを使って遠くまで行きましょう!」

 

「よし、そういうことなら賛成だ。めぐみん、ゆんゆん、疲れてるだろうけど何とか踏ん張ってくれ」

 

「了解です。まあ、もともと私はそれほど体力は消耗していなかったですし何ら問題はありません」

 

「私も結局魔法を使う機会が少なかったのでへっちゃらです!」

 

 

 二人とも元気そうで何よりだ。

 俺か? はっきり言ってくたびれまくって仕方がない状態ですけど何か?

 普段と違って珍しく魔法を多用していたわけだし、常に『千里眼』を発動してもいた。

 今も、一瞬でも気を抜けばぶっ倒れてしまいそうだけれど、そんな弱音を言っていられる場合じゃない。

 なんせ俺の命が掛かってるんだからな! 畜生!

 

 

「それで、何処に逃げるかとかは決まってるのか? ほとぼりが冷めるまでサバイバル生活とか嫌だぞ、俺」

 

「まぁ……うん、一応決まってはいるわよ」

 

 

 何故か曖昧な表情を浮かべるアクア。

 まさか、よっぽど治安の悪いところでも選んだんじゃ……。

 

 

「安心してくれカズマ。私とウィズも入れた三人で話し合ったところ、潜伏先はアルカンレティアに決定した」

 

「アルカンレティア?」

 

 

 初めて聞く名前だ。

 ダクネスがこれほどまでに自信満々で告げてきたということは、恐らくまともな街ではあるんだろうが、だとしたらどうしてアクアがこんな微妙な表情をしているのか。

 

 

「アルカンレティアは水と温泉の都と称されるほどに、とても立派な街なんですよ。魔物たちの脅威にさらされることも少なく、街並みも綺麗だそうで。私も一度行ってみたかったんですよね」

 

 

 俺の疑問に答えてくれたウィズの説明を聞いて、更に俺は理解できなくなってきた。

 なんで、それほどに評判のいい場所を選んだのに、アクアが難色を示しているのか。

 

 

「……ああ、カズマはご存じないのですね」

 

「何がだ?」

 

「アルカンレティアは、あれです」

 

 

 そこでめぐみんは一旦言葉を区切り、

 

 

「アクシズ教団の総本山ですから」

 

 

 アクシズ教団って、確か……。

 

 

「それって、アクアを崇めている宗教団体じゃないのか? ならアクアからすればテンションの上がるイベントじゃ……」

 

「だ、だって……なんだか恥ずかしいじゃない……。私の信者達をカズマ達に見せるのって、云わば、私の内面まで見られちゃうに等しいんだし……」

 

「お前の信者なんだろうが。ちょっとは信じてやれよ」

 

「そ、その……ウチの子達が良い子なのは分かってるんだけど……でも……やっぱり私って、そういう教育とかが苦手なところもあるし……」

 

 

 アクアは多分この間の魔剣の人の事を思い出しているのだろう。

 確かにあいつは若干暴走気味であったし、俺達にも随分失礼なことをしていたとは思うが、なんだかんだ、あいつも性根は悪い奴ではないそうだし、そこまで気にする必要もないとは思うけれど。

 

 

「安心しろって。今更アクアの内面なんて見せられても俺達は何とも思わねえよ」

 

 

 それどころか、尊さで死んでしまうかもしれない。

 いや冗談ではなく。主にウィズとかが。

 

 

「大丈夫ですよアクアさん! これまで接してきて分かってます! アクアさんの信者たちが悪い人たちじゃないってことが!」

 

「ゆ、ゆんゆん!」

 

 

 珍しく自己主張してきたゆんゆんの胸に飛び込むアクア。

 ……ふむ、これはいいものだ。

 カメラでもあれば一枚撮っておきたいくらいには。

 

 

「……楽しそうにしているところ悪いんだが、そろそろ急がないと馬車が出て行ってしまうぞ」

 

 

 そんなダクネスの正論を聞いた俺達は、一目散に待合所に駆け出して行ったのであった。

 

 

 

―――………

 

 

 

 冒険者である俺達は護衛として雇われる事も出来たのだが、万が一の際にはあまり戦いたくないので、普通に料金を払い、ただの乗客になることにした。

 

 戦いたくない。

 この街の周辺の雑魚モンスター相手なら何ら問題はなく処理できるだろうが、今の俺は三日間のサバイバル生活によって疲弊しきっている。

 めぐみんとゆんゆんは元気そうに振舞ってはいるものの、真っ暗闇の中モンスターに警戒し続けてきたことに違いはない。

 そんな足手まといを三人も抱えたまま戦おうだなんて、自殺志願者と何ら変わりがないというものだ。

 なのでお客さん待遇で馬車を利用する事にした。

 

 

「あの馬車にするか。大きさ的に六人分乗れそうだし、他の連中と顔を合わせなくて済みそうだ」

 

 

 小さめのその馬車は、御者台と半ば一体になった乗客席の後ろに、荷台部分が接続された形と成り、そこには既に沢山の荷物が積まれていた。

 相席することも考えたが、理不尽とはいえ俺は今は追われる身。

 無暗に他人の目に俺の顔を晒す必要もないだろう。

 

 御者席の後ろの、木製の簡単な乗客席。

 そこは六人分の席になるはずなのだが……。

 

 

「……ねえおっちゃん、何で既に一席埋まってるの? これ何? 邪魔なんですけど」

 

 

 六人分の座席のうち、既に一つが埋められていた。

 それは、小さな檻に入れられた一匹のトカゲ。

 赤い瞳を持つ、猫ほどの大きさのそのトカゲは凶暴そうな瞳を輝かせていた。

 えっと。まさかこれって……。

 

 

「お客さん、そりゃドラゴンですよ。レッドドラゴンの赤ちゃんです。飼い主さんは向こうの馬車の方なんですが、そのドラゴンの分、ちゃんと客席分の値段を頂いておりますんで、お客さんはどなたかお一人、座り心地は悪いですが後ろの荷台に移って頂かないと……」

 

 

 俺はなるほどと、御者のおっちゃんの言葉に納得した。

 実は、この馬車は一席だけ安かったのだ。

 俺達を追っているかもしれない連中と相席になるのは嫌だし、このままこの馬車に乗ることにしよう。

 

 

「となると、誰が荷台に行くかだが……」

 

「じゃあ私が行くわ! カズマ達は乗客席でゆっくり休んでて頂戴!」

 

「待てアクア。それならば私が荷台に座るべきだろう。荷台に座り続けるのは相当体力がいるはずだ。ならばこのパーティの中で一番体力のある私が……」

 

「あ、あの……、それでしたら、何かとご厄介になる私が荷台に……」

 

 

 三人による席の取り合いが始まった。

 何故か、貧乏くじを引きたがるという、訳の分からない取り合いであったが。

 

 ……ふむ、荷台の座れるスペースは少し大きめ。

 座る分には不自由だが、寝転がるにはちょうどよさそうだ。

 荷台であるが故、クッションのような柔らかい素材で底が覆われていないのが不快になる原因だとしたら……。

 

 

「いや、お前らは客席に乗ってくれ。俺が荷台に行くから」

 

『えっ』

 

 

 俺の言葉が意外だったのか、全員が驚きの声を上げる。

 

 

「ちょっと待ちなさいよカズマ! 貴方はダンジョンで疲れ切ってるはずでしょ? それなのに何でそんなところに……!」

 

「むしろ俺としては、進んでこっちの方に行きたいんだけど」

 

「……カズマ、貴方疲れてるのよ。ほら、私が座るからカズマは馬車の中に……」

 

 

 アクアが何か言ってくるが、いよいよもって眠気がピークに来た俺は、それを聞き流しながら鞄の中をゴソゴソする。

 確かこの辺りに……、お、あったあった。

 

 

「よし、この隙間にぴったり寝袋が入るな。床の方は……毛布でも敷いとくか」

 

 

 むしろ、寝袋の上から毛布で包まるか。

 今は昼間とは言え肌寒い季節だ。少しでも体を温めるように工夫しよう。

 万が一周りの荷物が倒れてきても良いように、デュラハンの城に潜入していた時に使っていた木箱でバリケードを作る。

 それと……よし、アイマスクもばっちりだ。

 

 

「じゃ、俺荷台の方でゆっくり寝とくから、何かあったら起こしてくれ」

 

「おい、ちょっと待て」

 

「何だよダクネス。もしかしてめぐみんかゆんゆんをこっちで寝かしてやれって言いたいのか?」

 

「そういうことを言いたいんじゃない。何もそんな狭苦しいところで寝る必要もないだろうと言いたいんだ。私がそちらに移るから、中で思う存分……」

 

「バカ言うな。そっちで寝っ転がるには床じゃないとできないだろうが。それともあれか、下のアングルからこっそりお前らのスカートの中身でも拝見しながら極楽気分で眠りについてもいいんだな?」

 

「そ、それは……その……」

 

 

 無論そんな気はない。

 普段であるなら間違いなく覗き見しているが、今の俺は睡眠に飢えた野獣だ。

 布切れ一枚を拝むより、自らの睡眠欲求を満たすために行動したい。

 バトルジャンキーの羞恥による赤ら顔という珍しいものを見ながら、俺はいそいそと準備を進める。

 

 

「そ、それでしたら、客席に座って眠ってくだされば……」

 

「俺の体格だったら間違いなく邪魔じゃねえか。めぐみんやゆんゆんなら小柄だし、誰かが膝枕でもしてやればいいけど、俺が横になったら確実に膝からはみ出るぞ」

 

 

 そもそも俺は、横になって眠りたいのだ。

 客席でその眠りを実現するには、三人分の席を占拠するしかなくなってしまう。

 肩を借りて眠ることも一瞬考えたが、それでは満足な睡眠はとれないだろう。

 大体の問題として、

 

 

「俺に膝枕なり肩を貸すなりしたい奴なんていないだろ。三日間風呂に入ってねえし汗まみれだし、そんな不潔な野郎の身体なんかにゃ女子なら触れたくもないのでは?」

 

 

 少なくとも俺ならお断りだ。

 最低限の洗濯はしているが、自分でも若干自分の体臭が気になっているレベルにまで匂っている。

 なにせアンデッドの蔓延るダンジョンに閉じ込められていたのだ。

 腐臭だの返り血だのが服や体に纏わりついていて手持ちの洗剤では落とすことができなかった。

 そんな野郎の身体に触れようだなんて……ああ、いや、いたわ。

 

 

「そんなの、私は気にしないわよ! ほら、私が膝を貸してあげるから遠慮しないで!」

 

 

 いつの間にか客席に座っていたアクアが、自分の膝をパンパン叩きながら手招きしてくる。

 一度は俺もアクアにしてもらった膝枕。

 あの破壊力をなまじ知っている分、アクアの膝の魅力に抗うことは難しい。

 アクアに膝枕をしてもらえれば、まさしく天国にいるかのような気持ちに包まれるだろう。

 

 俺はそれを見て、ゆっくりと立ち上がり、無言のままアクアのところまで近づき、

 

 

「じゃあ、こいつの事頼むわ」

 

「きゃっ!」

 

 

 いつの間にか眠りについていたゆんゆんをアクアの膝に放り投げた。

 

 

「え、あれ? カズマ?」

 

「俺より年下の女の体を冷やすわけにはいかんだろ。男女平等主義者な俺でも、男女間での体の違いくらいは理解してるつもりだ。ダクネスかウィズも、めぐみんの面倒を見てやってくれ」

 

 

 困惑しているアクアを尻目に、今にも夢の世界に旅立ちそうなめぐみんを指さして二人に頼む。

 それだけを言い残した俺は、もはや周りの人間の言葉も耳に入れずに、のっそりと寝袋の中にへと潜り込んだのであった。

 

 もう眠い、面倒なことは考えたくない。

 多少強引になったかもしれないが、もはや知ったことではない。

 度重なる不幸や、体力の限界なんかがまぜこぜになって、少し今の俺は気が立っているのかもしれん。

 さっさと寝てしまおう。一度休息をとれば元に戻るはず。

 そして俺は徐々に自分の意識を飛ばしていくのであった。

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

 荷台という地面からの振動が伝わりやすい場所にいた俺は、それに気が付き、眠りから目覚めた。

 

 それは商隊が行く街道の横手から、何かがこちらの方へと向かって来ていた。

 はるか遠い距離ながら、見る見るうちに大きくなっていく土煙から、それが相当の速度を持って迫ってきている事が分かる。

 

 

「……なんだアレ」

 

 

 俺は寝ぼけまなこながらも『千里眼』スキルを発動させて、土煙を巻き上げている何かを目視する。

 見れば、鷹のような頭を持ったモンスターの群れが見えてきた。

 俺は何だか嫌な予感がし、馬車の方へと声をかける。

 

 

「すんません、なんかこっちに鷹みたいな顔のモンスターが群れで向かって来てるんですが。それも結構な速度で。……何か分かりません?」

 

 

 その言葉に、御者台でのんびりと手綱を引いていたおっちゃんが。

 

 

「土煙? ここらで結構な速度で土煙を上げて移動する鷹みたいな生き物って言ったら、走り鷹鳶ぐらいでしょうか」

 

 

 なんだその、酔っぱらった親父が考えそうな名前のモンスターは。

 

 

「おっと、お客さん勘違いしないでくださいよ。私が勝手に付けた訳じゃ無いんですから。タカとトンビの異種間交配の末に生まれた強力なモンスターです。鳥の癖に飛べないモンスターでして、代わりにとんでもない脚力を持って高速で走り回り、獲物を見つけるとそのままジャンプしてかっ飛んで来るんですよ」

 

 

 名前の割に、実力はガチとかふざけてるにもほどがある。

 俺のそんな表情を察したのか、おっちゃんが軽く笑い、

 

 

「大丈夫ですよお客さん。今の時期ならそれほど数自体は多くないはずです。繁殖期にでもなれば、激突すると大惨事になりそうな硬そうな獲物にかっ飛んで行き、ギリギリで回避すると言う変わった求愛行動をしますが、この寒い季節なら、奴らの本能を揺さぶるくらいに硬いものでもなければ通り過ぎていきますよ」

 

 

 なるほど。なら安心だ。

 俺はその言葉に納得し、再び惰眠を貪ろうと寝袋の所に戻っていった。

 そして再び、その土煙に視線を向けて……。

 

 ……それは明らかに近付いていた。

 しかも、その土埃はこちらを真っ直ぐに目指している。

 

 

「すいません。なんかこっちに向かって凄い勢いで突っ込んで来てるんですけど。本当に大丈夫なんですよね?」

 

 

 俺の言葉に御者のおっちゃんは手綱を引いて馬の速度を落とし、その土埃の正体を見極めようと……。

 

 

「……おや、確かにあれは走り鷹鳶ですね。でも、こちらに向かって来るとしたらおかしな話ですよ。……もしかすると商隊の中に、アダマンタイトみたいな凄まじい硬度を誇る鉱石でも積んでいるのかもしれません。連中は本能的に硬い物を追いかけますから。他の商隊の連中も気付いたみたいですし、護衛を頼んだ冒険者の方たちが何とかして…………。……? なんか、こっちに来ますね。と言うか、この馬車に……?」

 

 

 と言うか、この馬車の乗客室めがけてきているような。

 まさか……!

 

 

「カズマ! 物凄く速い生き物が、真っ直ぐこちらへ向かって来ている! と言うか……。連中が、私を凝視している気がするぞ! なっ、なんという好戦的な眼差しだ! あれほどの熱視線で誘われては断り切れないではないか! ああ、ゾクゾクしてきた! 私の耐久力と奴らの数の暴力! どちらが上なのか試したくて仕方がない!!」

 

「お前かー!!」

 

 

 俺は思わず頭を抱えそうになった。

 そうだよ、こいつは曲がりなりにも、あのデュラハンの攻撃を受けきったという実績がある。

 そんじょそこらの金属なんかよりもダクネスの方がよっぽど硬いに決まってるじゃねえか!

 

 

「お客さん、馬車の中から絶対に出てこないでくださいね! そうすれば、他の馬車に乗っている冒険者達が、この馬車とお客さんを守ってくれますから!」

 

 

 ……ウチのクルセイダーが硬くてすいません。

 俺は客室内にいるダクネスに耳打ちした。

 

 

「おいダクネス、あのモンスターの狙いはお前だ。あいつらは硬い物を好んで突撃していくんだと。連中の標的はお前の硬い筋肉だ」

 

「ふっ、奴らの鑑識眼もなかなかのもののようだな。私の鍛え上げた筋肉と、アダマンタイトも少量含んだ特注品の鎧、さらに私の防御スキルも合わせれば……ふははははっ! 俄然燃えてきた! やはり私が一度突貫して……!」

 

「燃えんでいいし勝手に突っ込もうとするな!」

 

 

 馬車が止まり、俺とダクネスは馬車から飛び降りる体勢に。

 他の連中も呼び出そうと、客席の中を覗いてみると……。

 

 

「ゆ、ゆんゆん起きて! ほら、なんかモンスターが来てるみたいだし!」

 

「うぅーん……」

 

「め、めぐみんさん。ちょっと起きていただけないかと……」

 

「……くかー……」

 

 

 熟睡している二人によって行動不能になっている女神(めがみ)リッチー(めがみ)の姿が。

 ……よし。

 

 

「アクア達は二人をゆっくり寝かせておいてやってくれ。本来俺達は戦わなくてもいいんだし、今回はダクネスが招いた敵みたいだ。ダクネスの尻拭いは俺が手伝ってやる」

 

 

 馬車内の四人はそっとしておき、弓を取り出し矢を番える。

 ダクネスだけに任せてもいいんだが、この状態のダクネスを放置していると何をしでかすか分からない。

 俺がしっかり監視しておかなければ……!

 

 そこに、事情を知らないおっちゃんが叫んだ。

 

 

「お客さん! お客さんは無理に戦おうとしないでくださいよ! お客さんは金払って馬車に乗ってるんですから、安全な所に隠れてください!」

 

 

 すいません! でもこのモンスターが狙ってくる原因は多分ウチの仲間なんです!

 そんな俺の内心の謝りに気づかずに。

 

 

「冒険者の先生方! お願いします!」

 

 

 馬車の護衛の依頼を受けた冒険者達が、どこかからか聞こえてきた男の声を受け、武器を手に、次々と馬車から飛び出した。

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

 ダクネスは商隊の横手側から突撃してくる走り鷹鳶の群れに対し、そのまま真っ直ぐ走って行く。

 俺はそのダクネスの背後に追従する形だ。

 ダクネスならともかく、俺があんな速度の、あんな大きさのモンスターの一撃を受けたら間違いなく命は無い。

 そして何より、バーサークモードに入ったダクネスの視界に入ること自体が、あまりにも危険すぎる。

 

 

「おいちょっと待てよ、そこのクルセイダー! あんたは護衛を頼まれてないんだから下がってろよ!」

 

 

 それは、とある護衛の戦士風の男の声。

 それを聞いてもダクネスは進撃を止めない。

 当然だ。こいつは護衛とは関係なしに戦いたいからこそ、あの走り鷹鳶の群れに突っ込もうとしているんだから。

 

 

「おい見ろよ! あのクルセイダー目がけて、モンスターの群れが全員真っ直ぐに向かっていくぞ……! あれはきっと『デコイ』だ! クルセイダーは、『デコイ』って言う囮になるスキルを使う! あのクルセイダーは、護衛でも無いのにそれを使って敵の注意を引き付けてるんだ!」

 

 

 それは、とあるアーチャーの声。

 すいません。多分使ってません。あれは恐らくナチュラルです。

 期待を裏切るようですいません。

 

 

「あのクルセイダー、あれだけの敵を前にして、一歩も引かない気よ! なんて……、なんて勇敢なのかしら……! まるで、物語に出てくる勇者のようだわ……!」

 

 

 それは、ある魔法使いの声。

 すいません。勇敢ではあるのかもしれないけど、一般的なアレとは根本的にずれてると思います。すいません。

 

 ダクネスが、目を見開きつつウズウズしながら前に出る中、ある盗賊風の冒険者がロープを手に、モンスターへと視線を向ける。

 

 

「本来は客であるはずの、護衛料も貰っていない奴らにばかり、危険な目に合わせられるか! せめて援護くらいは任せてくれ! くらえ『バインド』ッ!」

 

「なにっ!?」

 

 

 その言葉を聞いたダクネスが、一も二も無く反応した。

 

 ダクネスは剣を振りかぶると、目前まで迫る走り鷹鳶……ではなく、冒険者と走り鷹鳶の間へと飛び込み、その『バインド』に使われたロープを空中で切断した。

 呆然とする盗賊に、ダクネスが興奮する自分を抑えるかのように絞り出した声で、

 

 

「手出しは無用……っ! このモンスターの集団は私に勝負を挑んできたのだ! であれば、私が相手をするのは当然の事。私の獲物に手を出すんじゃない……!!」

 

 

 すいません。本当に、ウチのバトルジャンキーがすいません。

 このクルセイダーは、人様のご厚意を素直に受け取れない、むしろそれを不純物と言って斬り捨ててしまうくらいに残念なんです。

 本人には悪気はないんです。あいつが調子に乗りやすいタイプですいません。

 

 ダクネス――の硬さ――を目がけ、ダクネスの背後から殺到してくるモンスター達。

 盗賊風の男が、そのダクネスを見て悲痛に叫ぶ。

 

 

「まさか、俺がバインドを食らわせる事により、モンスターの群れのターゲットが俺に向かうのを心配して……! すまねえ! 援護のつもりが余計なことをさせちまったようだ!」

 

 

 すいません! ウチの仲間が狂戦士ですいません! 本当に、本当にすいません!

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