このおかしな仲間に祝福を!   作:俊海

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この素晴らしい大剣に祝福を!

 今目の前で起きている光景を見て、俺はとある騎士が残した名言を思い出した。

 

 『ダークパワーっぽいのは、ナイトが持つと光と闇が両方備わり最強に見える』

 

 どうして俺がそのような頓珍漢な言葉を思い起こしたのかは、この現状を理解してもらえれば納得がいくはずだ。

 

 この逃亡劇の原因になったとも言えるベルディアの討伐。

 それを成した時、俺達は色々なものを手にすることができた。

 名声だったり、報酬金だったり、仲間との絆だったり、そう言った益をもたらすものだって得ることができたのだ。

 

 そして、その中には、ベルディアが使っていた大剣も含まれている。

 とはいっても、これは俺が『スティール』をした結果、強奪したに等しいものではあるが。

 それはさておき、事実としてあの魔王軍幹部が使用していた武器をゲットしたのは間違いない。

 最初はベルディアを浄化してしまったら、共に消えてしまうのではと危惧したが、奪い取ったのでノーカンだと判断されたのか、その後も何の変化もなく普通に現世にその形を留めている。

 そんなレアアイテムを手にしたはいいが、ベルディアの剣はとにかくバカでかく、真面に取り扱える人間はいないという癖のありすぎる武器だったのだ。

 

 唯一、我らが誇るバーサーカーのダクネス以外には。

 

 こいつの鍛え上げた筋力はとんでもないもので、誰一人として両手持ちでも存分に振るうことができなかった、ある意味で呪われた装備であるそれを、なんとダクネスは片手で縦横無尽に振り回すことが可能だったのだ。

 その事実が判明してからというもの、ベルディアの剣はどこかに売り払うことも無く、ダクネスが所有する装備品の一つに数えられることになったわけで。

 聖騎士であるはずのクルセイダーが、魔王軍が使っていた魔剣とも言える剣を使うのはどうかとも思ったが、ダクネス自身が割かし気に入っているのを見て、あんまり気にしないことにした。

 周りを巻き込みかねないという点からも、余程の事がない限りは普段は元から持っていた剣を使い、魔剣の使用を差し控えていたのだが。

 

 ……さて話を現在に戻そうか。

 今俺達の目の前には――正確に言うならダクネスの正面にはだが――季節外れの走り鷹鳶の群れ。

 そいつらが一目散にこちらに突撃してきている。

 硬いものを追いかけるという習性から、ダクネスに向かって脇目もふらずに。

 更には、走り鷹鳶というふざけた名前のモンスターは、硬い物にぶつかる直前にぶつからないように回避する、というますます以て意味の分からない行動をとるらしい。

 何もせずに放置していれば、ダクネスの巻き添えで商隊が壊滅することは免れないだろう。

 

 しかし、『走り鷹鳶は獲物にぶつかる直前に回避する』というのは、裏を返せば『ギリギリまでは直進以外の行動をとれない』とも言いかえることができる。

 つまり、恐怖を覚えて逃げるとか、撹乱するような動きをするといった行動を起こす確率が低いとも言える訳で……。

 

 では問題です。

 俺の目の前には、バーサークモードに入ってしまわれて、興奮からか頬を上気させ目を爛々と輝かせながらも、その普段はお披露目する機会の少ないベルディアの魔剣を構えているダクネスがいます。

 さらにその彼女の眼前には、馬鹿正直に突っ込んでくる走り鷹鳶の群れが。

 以上の事から導き出される、五秒後の光景を答えなさい。

 

 ……正解は。

 

 

「フハハハハハハハ!! 足りぬ、まるで全然足りぬわッ!! 貴様らの熱意は、殺意は、闘争心は、本能はその程度のものか!! それでよくも私に戦いを挑もうとしたものだ! 私に手傷を負わせようという気概のあるやつはいないのか! 私は決して逃げはせず、貴様らの挑戦を受け続けるぞ!! さあ、もっと私を追い込んでみろ!!」

 

『ピィーーーー!!?』

 

 

 ダクネスによるホームランダービーの開幕である。

 

 

「あ、あのクルセイダー……あれだけの数の走り鷹鳶を一撃で吹っ飛ばしてやがる……」

 

 

 戦士風の男がそう呟いたように、ダクネスが横に一閃する毎に、走り鷹鳶が数匹まとめてバカでかいベルディアの魔剣によって薙ぎ払われる。

 しかも、それだけにとどまらず、常識はずれなダクネスの膂力によって、その後続の走り鷹鳶も巻き込むというありさまだ。

 一匹一匹相手して取り逃がしたりなんかしたらこちらに被害が行くことを考えると、ダクネスのやっていることはとても合理的とも評価できるだろう。

 できるだろうが、そんなことができるのは、俺の知っている限りではダクネスしかいないのだが。

 

 普段は使えない強力な武器を、多くの冒険者や商人が見ている中で、思う存分振るえるほどの数の敵。

 これだけの条件が揃えば、ダクネスのテンションもおかしなことになるのは予想できたことだったが……。

 

 

「まさかここまでとはなぁ……」

 

 

 走り鷹鳶がボールのようにすっ飛んでいく。

 ホームランされたモンスターが、後続のモンスター達にとっては文字通りの死の球(デッドボール)になるのは、見ていて爽快でもある。

 

 そんなダクネスが無双している中で、俺が何をしているかというと。

 

 

「……っ! 『狙撃』! おい、そこのあんた! 危ないから下がってろ!」

 

 

 ダクネスだけでは処理できなかった走り鷹鳶を、『狙撃』で処理しているところだ。

 

 

「あ、危ないってどっちの事だ!? 走り鷹鳶か? それともあのクルセイダーか!?」

 

「見りゃ分かるだろ! 両方だ両方! あえて言うなら狂戦士の方が危険度的には高いがな! ああなると俺の言うことも聞いちゃくれねえし!!」

 

「了解だ! ……その、あんたも苦労してるんだな」

 

 

 何故かねぎらいの言葉をかけられてしまった。

 大丈夫だ苦労はしていない。

 あんな風に暴走するにしてもフォローをしてやればいいだけだし、そうなる前にもある程度は制御ができるようにはなったから。

 それに、破壊力という点だけで言えば、めぐみんやゆんゆんの方が遥かに上だし。

 ……あれ、なんで俺達はこんなにも物騒なパーティになってるんだろう?

 

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

 

 すっかり辺りが暗くなったころ。

 今日はこれ以上進むことはできないと判断した商隊の人達が、野営の準備を始めだした。

 冬ということもあって、もはや『千里眼』でもないと見通せないくらいに暗闇が深くなっている。

 確かにこれではモンスターの襲撃なども考えるに無暗に先に進むのは遠慮したくなるというものだ。

 俺達はしっかりと金を払っている客なのでその準備を手伝う必要はないため、ゆっくりしていると、

 

 

「さあ、どうぞどうぞ! 良い所が焼けたので召し上がってください!」

 

 

 そんなことを言われ、唐突によく焼けた肉をおじさんに差し出された。

 確か、この商隊のリーダーをやっている人だったか。

 それにしても、いくら俺達が客だとは言え、どうしてトップがわざわざこんなところに?

 ……まさか。

 

 

「しかし、お見事でした! まさか、あの走り鷹鳶の群れを相手に一歩も引かず、それらをなぎ倒すほどに勇猛なクルセイダーがおられたとは……! そして、見事な狙撃で我々への被害を最小限に食い止めてくださったあなた様のその腕! さらには一時とはいえ不覚をとり重傷を負われたクルセイダー様や、その他の僅かな負傷者たちをも一瞬で治癒してしまったアークプリースト様の慈悲深さ! 聞けばそのお嬢様方もアークウィザードというではないですか! いや、なんとも素晴らしい冒険者様でいらっしゃいますね!」

 

 

 マジ勘弁してください。

 あのモンスターはダクネスに引き寄せられただけだし、戦いに挑んだのもこいつの性癖のせいなんです。

 俺達がいなければこんな事態にそもそもなっていないんです。

 それと、ダクネスがぶっ飛ばされたのは、不覚をとったというか、調子に乗りすぎてしまい視野狭窄になり、横から来る奴を見落としてただけなんです。

 本当にそんなんじゃないんです、俺達の所為なんです。

 

 

「それで何ですが、護衛の報酬を払わせていただきたいのですが……」

 

「いやいや、そんなのいいですよ。本当にたまたまですから」

 

「何を言われるんですか、殆どの走り鷹鳶を倒したのはあなた方ではないですか!」

 

 

 なんか護衛の報酬を払うとか言われてたんだが、そんなものを受け取るわけにはいかない。

 マッチポンプにもほどがある。

 

 

「いやいやいや、本当に! 本当に結構ですから! 冒険者なら、あの場にいたなら戦いに参加するのは当たり前ですよ! 結構ですから! 結構ですから!!」

 

「……なんという方々だ! 私は感銘を受けましたよ、この世知辛い世にまだあなた達の様な本物の冒険者がいたとは!」

 

 

 そんな事を言いだした。

 何というか、本当に申し訳ない気分になってくる。

 

 

「今回は本当にありがとうございました! クルセイダー様も、今日はしっかりと療養なさってください!」

 

「う、うむ……お気遣い感謝する……」

 

 

 俺の背後でモジモジするダクネス。

 流石のこいつも、居心地の悪さというものを覚えたのだろうか。

 ただ後ろに張り付くのは止めてほしい。

 なんか、こう、何とは言えないが、当たるから。

 

 そんなこんなでリーダーの人を見送った後、

 

 

「……おいダクネス、俺を盾にするのは止めろよ。お前クルセイダーなんだろ? なんで俺の後ろに隠れるんだ」

 

「し、仕方ないではないか! あんな醜態をさらしたというのに、感心しきったように称賛されればこうもなろうというものだ!」

 

 

 ……お前、一応ではあるけれど、暴走した自分のあの姿を醜態だと認識出来てたんだな。

 そこまで客観視できていて、どうして暴走を抑えきれないのかが疑問でしょうがない。

 

 

「……カズマさん、私達すっかり眠っちゃってて、ごめんなさい」

 

「今回はお役に立てずすみませんでした。カズマも疲れているでしょうに、ダクネスのお守りという大役を……」

 

「お、お守り!?」

 

 

 ダクネスが何かに驚愕したかのような表情を浮かべるが、あえて無視しつつ声の方へと顔を向ける。

 今回の戦闘ではぐっすりと眠りこけていたことに罪悪感を覚えているのか、めぐみんとゆんゆん心底申し訳なさそうにしょんぼりしていた。

 

 実は、普段のクエストにおいて、ダクネスの暴走具合に一番気にかけているのはめぐみんだったりするのだ。

 爆裂魔法という強力な分使い勝手の悪い魔法しか使えないめぐみんには、有事の時以外は戦闘時の状況などを客観視し、何か問題が起これば俺に報告するという観測役に近い役割をこなしてもらっている。

 爆裂魔法を撃つ絶好の機会を逃さないためか、はたまたアークウィザードの高い知力によるものなのかは分からないが、そう言った面でもめぐみんは非常に優秀だ。

 おかげでなんぼか俺の負担も減っているのだから、めぐみんにはなかなか頭が上がらないのは内緒だ。

 

 

「気にすんな。お前らも疲れてたんだろうししょうがねえよ。今回のだって事故みたいなもんだしさ」

 

 

 ダクネスが硬すぎるから、なんてのが原因でこんな事態になると予測できる方がおかしい。

 俺だって寝てたんだし、めぐみんやゆんゆんは成長期なのだから無理もない。

 特に、めぐみんにとっては死活問題ではなかろうか?

 

 

「……今何やら邪な気配を感じたのですが?」

 

「気のせいだ」

 

 

 こいつ、何故か自分の体格関連の話題になると妙に勘が鋭くなるんだが、一体どういう原理なのだろうか。

 それはそうと、俺には今やらなければいけない仕事がある。

 面倒なことはさっさと済ませておくに限るしな。

 というわけで。

 

 

「おいダクネス」

 

「……なんだ。この年下に面倒を見てもらわなければいけないダメダメクルセイダーに何か用か?」

 

 

 面倒くせぇ……。

 いい歳した奴が、めぐみんの軽口ぐらいで拗ねんじゃねえよ。

 この程度のめぐみんの言葉で拗ねてたら、毎日口げんかしている俺なんか、引き篭もらなくちゃいけなくなるぞ。

 ……まあ、元引き篭もりだったんですけどね。

 

 そんなことはどうでもいい。

 ダクネスに構わず、俺は言葉を続け、

 

 

「とりあえず、その鎧を脱げ」

 

「…………………………へ?」

 

 

 恨みがましくこちらを睨んでいたダクネスの顔が呆気にとられたようなものになった。

 そしてそのままみるみるうちに真っ赤に染まっていき。

 

 

「な、何を馬鹿な事をいうのだカズマ!? こ、こここここのようなところで脱げだと!? 待て、待ってくれカズマ! その、今までも私がお前に迷惑をかけてきたのが事実とはいえ、周りの目がある中でそう言ったことに及ぶのは、流石に許容できないぞ!? だ、大体いくらお前でもそのようなことをするのは……その……。い、いきなりそういうのは良くないと思うし、せ、せめて向こうの宿についてからでも……!」

 

 

 何言ってんだコイツ。

 

 

「そうじゃねえよ。走り鷹鳶にぶっ飛ばされたせいで鎧がボコボコになってんだろ? 直してやるから貸せって言ってんだよ」

 

「……………………へ?」

 

 

 先ほどと同じような呆け方をするダクネス。

 本人自体は軽傷で、それも既にアクアの治療を終えてはいるが、肝心の鎧があちこちひん曲がっている。

 何かと鎧を壊しがちなダクネスのためにこの間わざわざ鍛冶スキルを取得したから、それのお披露目のつもりで言ったのだが、ダクネスは何やら恥ずかしい勘違いをしてしまっていたようだ。

 難聴スキルは取得していないので、ダクネスのセリフは一言一句聞き逃してはいない。

 ……なんか、押せば行けそうな気がするが、死にたくないのでスルーしておこう。

 

 

「あ、ああ、そうか、そうだな! そんなことな訳がないな! 直してもらえるなら、いくらでも脱ごうじゃないか! ほら、これで満足か!」

 

 

 そしてまた真っ赤になったダクネスから鎧を受け取る。

 うおっ!? やっぱり結構重たいなこれ。

 

 

「……めぐみん、『そんなこと』ってどういうこと?」

 

「あー、ゆんゆん? あまりダクネスを追い詰める様な事は喋らない方がよろしいかと……」

 

 

 純粋なゆんゆんのセリフに、更に赤くなるダクネス。

 本当にやめてやれゆんゆん。

 ダクネスが可哀そうだ。

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

「ほらよ、完全に元通りって訳にはいかないけどそれなりには仕上がってるだろ?」

 

「おおっ!!」

 

 

 初めての鎧修理だったが、一見すると新品のように見えるほどには修復できた。

 部分部分でやすりをかけてることもあって多少は厚みが減ってるかもしれないがそこはそれ。

 こうしてダクネスが喜んでくれている以上、そういうことを言うのは無粋ってもんだ。

 

 

「器用に修理しますね。カズマの腕なら鍛冶で食べていく事も出来るのでは?」

 

「カズマさん、本当に何でもできますよね。むしろカズマさんって、何ができないんだろう……」

 

 

 めぐみんは感心しきった顔で、ゆんゆんは目をキラキラさせながらこちらを見てきた。

 鍛冶で食べていくのなぁ……。

 魔王を倒してアクアを天界に帰せた後の選択肢に入れてもいいかもしれん。

 そのうち、日本刀なんかも作ったりとか……うん、アリだ。

 

 

「何でもはできねえよ。俺はお前らみたいに強力な魔法は使えないし、ダクネスみたいに切った張ったが得意なわけでもない。適材適所って奴だ」

 

「それを差し引いても、カズマの便利具合は半端ないと思いますが」

 

「……ん。そのうちどこかの貴族の目にでもかかれば小間使いくらいは任されそうだ」

 

 

 なんでダクネスがそんなことまで分かるかは疑問だが、そんなレベルなのか、これ。

 スキルって奴はすごいな。この世界の一般人も冒険者をやればいいのに。

 ……命がけで習得することになるからダメか。

 

 そんなことを考えていると、アクアが混ざり込んでいた焚き火が突然どよめいた。

 何事かとそちらを見ると、何かとって置きの芸でも披露したのだろう。

 アクアがやんやと持て囃され、

 

 

「もう一度! アクア様、今の芸をもう一度お願い致します!」

 

「金なら払う! なので、是非もう一回お願いしたい!」

 

 

 商隊の人達が、口々にそんな事を言っていた。

 ……アクアもこっちの道で食っていけそうだな。

 

 

「悪いんだけど、同じ芸は二度はしないようにしてるの。何回も同じことをやってたら飽きられちゃうしね。それに、私の芸はまだまだたくさんあるから繰り返しやってる余裕もないわ! 次の芸も皆を驚かせること間違いなしよ! あ、あとお金は本当に気持ちだけで良いからね? ……それじゃあウィズ、ちょっとそこの椅子に座ってくれない?」

 

「はい! かしこまりました!」

 

 

 ウィズも巻き込んでの芸をやっているようだ。

 二人とも楽しそうに宴会芸をし、周りがそれを見て笑顔になる。

 ……女神だなぁ。

 どちらかではなく、どちらもが。

 

 

「……そろそろ眠くなってきたから寝るわ」

 

「あ、お疲れ様ですカズマ。今夜こそちゃんとしっかり眠ってくださいね」

 

「おやすみなさいカズマさん。いい夢見てくださいね」

 

「まあ、流石に何度もモンスターに襲撃されるようなことはないだろうがな」

 

 

 おい、止めろよダクネス、そういうフラグめいたことを言うのは。

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

 商隊の人達が殆ど寝静まった頃。

 俺は何かの物音で目が覚めた。

 ベルディアの城での経験、更にはダンジョン内でのサバイバルの経験から、俺はやたらと気配などに敏感になったらしい。

 見張りの人間はいるものの、それらの人はその物音に気付いている様子が無い。

 

 

「……畜生、やっぱりダクネスのセリフがフラグになってたんじゃねえか」

 

「何でもかんでも私のせいにするのは感心せんぞ」

 

「うわおうっ!」

 

 

 突然背後から声を掛けられ飛び跳ねる。

 し、心臓に悪い!

 

 

「おい、ダクネス驚かすな。お前だって気付かなかったら、とんでもないことしてたぞ」

 

「……何をする気だったんだ。いや、そんな事より……」

 

 

 ダクネスが声を潜め、辺りを警戒している。

 敵感知スキルに反応あり。

 とっさに俺は剣を構える。

 

 

「おい、何か居るぞ! 全員起きろ!」

 

 

 見張りの声に次々と冒険者や商隊の人間が飛び起きる。

 千里眼スキルを発動させて周囲の闇を見渡すと、暗闇の中には蠢く多数の人影が。

 ……それにしてはなんだか動きが鈍いな。

 なんかどこかで見たような……。

 

 

「おい、結構な数がいる! 姿は人型で動きは鈍い!」

 

 

 見張りの声を聞いた連中が焚き火の火を長めの木の棒へと移し、それでバリケード状に並べられた馬車の外側を照らし出した。

 灯かりに照らされ蠢くのは……、

 

 死体から、所々腐った肉が崩れ落ちた、見るもおぞましいその姿。

 ……そう、メジャーアンデッドモンスターのゾンビさんだ。

 

 

『おわあああああーっ!?』

 

 

 暗闇の中、灯かりに照らされたインパクトあるその姿を見た人々は、皆一様に悲鳴を上げた。

 もちろん俺は。

 

 

「『ターンアンデッド』! チッ、そっち側のを撃ち漏らしたか! もういっちょ『ターンアンデッド』!」

 

 

 すかさず浄化魔法を撃ちこんだのであった。

 ダンジョンの中でどんだけ顔を見合わせてきたと思ってる。

 この程度のゾンビ如きに恐れをなすような俺ではない。

 ましてや、今の俺は睡眠不足……!

 

 

「てめえらが安らかな眠りにつけないからって、こっちの安眠を妨害してんじゃねえぞ! つーかマジで眠らせてくれよ! 頼むからさぁ!! こっちは寝不足なんだよ!!」

 

 

 俺の悲痛な叫びを聞いて、周りの冒険者たちが憐れむような視線を向けてきた。

 

 こうなったら仕方ない。

 この場は一旦ダクネスに預けて、アクアを呼びに行こう。

 あいつならこんなアンデッドの大群なんてカモのようなものだろう。

 

 

「この場は頼む! 俺はアクアを呼んでくる、こんな時ならあいつの独壇場だろうから!」

 

「任せておけ!」

 

 

 ついでに、ここで昼間に余計な被害を負わせてしまった借りも返しておこう。

 被害は何とか最小限に抑え、怪我人も全員治癒してはいるが心にしこりが残っているのは間違いない。

 八つ当たりに近いが、ここいらですっきりさせておきたい。

 

 俺はアクアの姿を探そうと、『千里眼』で辺りに視線を巡らせて……!

 

 

「わあああああーっ! 何事!? なんで目の前にアンデッドがいるの!? カズマー、カズマー!」

 

 

 その声に視線を向ければ、馬車を背に寝ていたらしいアクアが、ゾンビ達にワラワラとたかられていた。

 あの野郎、アクアにたかるとは不届きな……!

 

 …………あれっ。

 そういえば、キールは神聖な者が近づいてきたから目覚めたとか言ってなかったか?

 おい待て、これってもしかして……。

 

 

「いくら浄化してほしいからって言っても、時間と場所を弁えなさいよーっ! もう仕方ないわね! 迷える魂達よ、眠りなさい! 『ターンアンデッド』ー!」

 

 

 アクアが叫び、広範囲に暖かな白い光が広がった。

 それを見た周囲の人が、おおっとどよめく。

 アクアの浄化の光に触れたゾンビの群れは次々と浄化され、崩れ落ち……。

 それを見た人々は、どよめきを歓声へと変える。

 

 その歓声を聞いて、ようやく今どういう状況なのかを把握したアクアが、アワアワと口を震えさせながら俺に縋るような目を向ける。

 おそらく、俺とアクアは同じような感情に心を埋め尽くされているのだろう。

 

 すいません。

 

 

「……アクア、どうやらここにはお前の手による救済を待ち望んでいる輩が多いらしい。さあ、俺も手伝うから片っ端から浄化してやろうぜ!」

 

「そ、そうね……、私に引き寄せられたのかもしれない迷える子羊がいるものね! よーし、私張り切っちゃうわよ!」

 

 

 差し出された俺の手を握り、堂々と胸を張り、焚き火に照らされて立つアクアのその姿は、まさしく迷える者を天へと還す女神と言えた。

 茶番じみた掛け合いをしながら、俺達は良心の呵責に耐えきれず、ぼそりと小さく呟く。

 

 

「「……す、すいません……」」

 

 

 次々とゾンビを浄化していく俺達に対し、既にお気楽な勝利ムードと化していた人々は、皆口々に褒め称える。

 

 

「なんて美しいプリースト様……! まるで女神の様じゃないか! その傍で補佐もしている彼も相当な人物に違いない……!」

 

「ああ、次々とゾンビ達を浄化され……! 昼間我々を守る為に立ち塞がったクルセイダー様の連れの人だよ、あの方達は……!」

 

 

 すいません。

 すいません。

 次から次へと迷惑かけてすいません。

 

 

「ゾンビの襲撃を受けるなんて珍しい事もあるもんだが、丁度あのプリースト様達が居合わせてくれて良かったな!」

 

 

 すいません、俺達がこの場に居なかったなら、多分このゾンビ達はワザワザ寄ってきませんでした。

 

 

「…………カズマ、謝らせて欲しいんですけど。私のせいで巻き込んじゃったここにいる人達や、せっかくの睡眠時間を妨害しちゃったカズマにも……。その、本当にごめんなさい……私が女神でごめんなさい……」

 

「俺は良いんだ。もう、そういうのは吹っ飛んだ」

 

 

 アンデッドを呼び寄せてしまったのはアクアの体質なのだから仕方が無い。

 俺だって、もしもアンデッドになったらアクアに浄化してほしいと思うだろうし。

 だけど、いくら何でもこれはへこむわ……。

 

 あらかたゾンビの浄化が終わった頃。

 先ほどの、商隊のリーダーの人が、アクアと共にどうしようかと考えている俺の元へと寄ってきた。

 

 

「いや、また助けられてしまいました! 今度こそは礼金を受け取って貰いますから!」

 

「「すいません、絶対に頂けません!!」」

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