このおかしな仲間に祝福を!   作:俊海

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今回はかなりオリジナル色が強いです。
というのも、ちょっと今まで目立ってなかったキャラに焦点を当てたかったからです。
そのキャラに対する独自解釈も多めなのでご注意ください。



この素晴らしい観光に祝福を!

 宿泊券に書かれていた宿屋――宿屋と言うには豪華すぎて、ホテルと言う表現の方が近いが――に着くと、そこの従業員たちから手厚い歓待を受けた。

 ……これも、モンスターを討伐したからとかで受けているものだと考えたら、後ろめたさが増幅されていくがなるべく気にしないようにしよう。

 ここまで来たら、俺達にはどうしようもないのだし。

 

 さて、この街には潜伏目的でやってきた俺達だが、幸いなことに、ここにはまだ俺達の情報は出回っていないらしい。

 思えば、逃亡することになった初日でさえ、逃亡手段である乗合馬車の方に情報が行き渡っていないことを考えると、クソ領主としても俺はダンジョンの崩落に巻き込まれて死んだ可能性の方が高いと考えているのかもしれない。

 あの手配書も万が一と言う可能性を潰すためのものだったのだろう。

 ということはつまり、

 

 

「よし、とりあえずしばらくはこの街を満喫しようぜ」

 

 

 アルカンレティアを観光しても問題はないということになる。

 

 

「それは良いのですが、どのように見て回るつもりですか? 六人だとさすがに目立ってしまうと思うのですが」

 

「そうだな……じゃあ、とりあえず今日は二人組で回ってみるってのはどうだ?」

 

「ええ。それくらいなら丁度いいかと」

 

「ふ、二人組っ!?」

 

 

 二人組という言葉に過剰に反応する奴がいた。

 ……うん、その気持ちは分かる。

 ボッチにとって、『はい、それじゃあ二人組を作ってー』は死の呪文並みに恐ろしいフレーズなのだから。

 だが安心しろゆんゆん。六人だから一人余るとかいう残酷なことは起こりえないぞ。

 

 

「じゃあ、じゃんけんで決めるか。グー、チョキ、パーで別れる感じで」

 

「ほう……。カズマ、あなたはどれを出すつもりですか? 私はチョキを出す予定です」

 

 

 お、心理戦か?

 なんか中学の時の修学旅行とかでよくやったな。意味もなくじゃんけんで『俺はこれ出すぜ』みたいなことを言って惑わせる奴。

 そういうことならめぐみんの話に乗ってやろう。ちょっと面白そうだ。

 

 

「そっか、俺はグーを出そうかなって考えてるところだぞ。お前らは?」

 

「私は……いや、こういう駆け引きをするといっつも負けるから何も言わないわよ!」

 

「私もこういうことを考えるのは苦手でな。出たとこ勝負のつもりだ」

 

「え、えっと、私は……うぅ……」

 

「そうですね……カズマさんがグー、なら私もグーで……?」

 

 

 ウィズ以外からは正確な情報が出てこない。

 そんなもんかと思いながらも、じゃんけんを始めようとしたら、

 

 

「カズマ、私がパーを出してダクネスと組むので、代わりにチョキを出してください。ゆんゆんのこと頼みましたよ」

 

 

 めぐみんにそう耳打ちされた。

 どうしてゆんゆんと組むのが決定事項のように言うのかは分からないが、そう言うならそれに従ってみよう。

 俺としても誰と組もうが構わないし。

 そして気を取り直して、じゃーんけーん……。

 

 

「ぽん!」

 

 

 そして出されたのは、チョキ、チョキ、グー、グー、パー、パー……。

 

 

「おや、カズマとゆんゆん、私とダクネス、そしてアクアとウィズでペアが出来ましたね。それではこれで行きましょう。各自で部屋に荷物などを置いて、準備が出来たらそれぞれで出発してください」

 

「お、おう……」

 

 

 すげえ、マジでめぐみんの言った通りになりやがった。

 他の四人が自分の部屋に荷物などを置きに行く中、満足げに頷くめぐみんを手招きしてひそひそと尋ねる。

 

 

「おい、どうやって誘導したんだよ? なんかすっげえ気持ち悪いくらいにお前の言った通りになったんだが」

 

「何、初歩的なことですよ、カズマ」

 

 

 何やら世界一有名な名探偵の名台詞を言いながら、めぐみんが俺に説明し始める。

 

 

「まず、アクアとウィズがグーを出すことは決定事項だったのです。ウィズは宣言した通りに、アクアはカズマがグーを出すと言った瞬間に」

 

 

 そこは分かる。

 ウィズは嘘が付けない性質だし、アクアが俺と同行しようとするのもまあ分かる。

 問題は残り二人だ。

 そっちに関しては完全に未知数のはず。

 

 

「いえ、その状況だからこそ、すぐに分かるのです。ゆんゆんは、一人だけ残されることに苦痛を覚える性格の人間です。であるなら、確実に組めて、なおかつ昔なじみの私と組もうとするのは明白でしょう?」

 

 

 ……言われてみればそうだ。

 宣言通りなら俺達三人がグーで、めぐみんだけチョキと言ってるなら、ゆんゆんがそれを選ぶのは想像に難くない。

 そうなれば残りはダクネスだが……。

 

 

「ダクネスの出す形がパーになったのは簡単です。彼女もゆんゆんが一人だけ余らされることに忌避感を持っていることを知ってますからね。もしもゆんゆんが変な遠慮して私でもカズマ達でもない形、つまりはパーを出してしまったときのために、あえてパーを出したという訳です」

 

 

 確かにそう言われれば納得はできるな。

 ただ、そうなるとすごい疑問点が新たに出てくるわけだが。

 

 

「……じゃあ、なんでめぐみんはわざわざこんな誘導をしたんだ?」

 

「面白そうだったからです」

 

 

 ……やっぱりこいつ、変態だ。

 そんな意思を込めながらめぐみんを見ていると、めぐみんは慌てた様子で、

 

 

「ちょっと待ってください。確かに私の趣味が過分に入っていたことは認めますが、これもゆんゆんを思って、さらにはパーティのためを思っての事なんです!」

 

「……どういうことだよ?」

 

「一つは、ゆんゆんが私とばかり交流するのは問題だと思ったからです。あの子、変に純粋ですから将来碌でもない男に引っかかりそうで……」

 

「分かる。すっげえ分かる」

 

 

 ゆんゆんって、交際相手がヒモとかになってもそのまますんなり受け入れそうだもんな……。

 ぶっちゃけ、『ゆんゆんの事を愛してるんだ』とか言っていれば、それだけで満足しそうですらある。

 まあ、そんな不埒な考えを持っている輩がウチのゆんゆんにすり寄って来た時点で、俺がその接触を未然に阻止するつもりだが。

 

 

「それで、それが何で俺と組むことに繋がるんだよ? なんならお前の魔法教室でも頻繁に交流してるだろ?」

 

「それはそうですが、カズマとゆんゆんの一対一で、と言うのはあんまりないのでは?」

 

「……確かにそうだな」

 

「なので、折角の観光地ですし、異性との経験を積ませることもかねて、カズマがゆんゆんをデートのつもりで連れまわしてあげてください。カズマにならゆんゆんは安心して預けられますし」

 

 

 成程、それで俺とゆんゆんを組ませたのか。

 俺達で、デートに行かせるために。

 ……………………デート?

 

 

「じゃあ、頼みましたよカズマ。ゆんゆんを泣かせたりしたらビンタしますからね」

 

「待て、待ってくれめぐみん、いやめぐみんさん!」

 

「どうしたのですかカズマ?」

 

「俺、女の子とデートとか行ったことがないから、勝手が分からないんですけど!? 何かアドバイスとかくれませんか!?」

 

 

 俺が悲痛な思いでめぐみんに訴えると、めぐみんがぽかんと口を開けて、

 

 

「えーっと、カズマ、それはもしかして冗談か何かのつもりですか? アクアと言いカズマと言い、自分を卑下するギャグが流行っているので?」

 

「冗談とかじゃねえよ! 女子と二人っきりで遊びに行くとか、生まれてこの方一度だってやったことないんだが!? この間ベルディアの城で潜伏目的でダクネスと仕方なしにやるまでは、十年くらい手を繋いだことすらねえんだぞ!?」

 

「いやいや、カズマならモテモテとまではいわずとも、そこそこ仲の良い女友達の一人や二人くらいはいたでしょう? 何を分かりやすい嘘を……」

 

「……………………」

 

「……嘘、ですよね?」

 

「事実だ」

 

 

 俺の言葉に愕然とした。

 

 

「え? その割にはやたらと私達の扱い方が手馴れてませんか? 我々の中に普通に溶け込んでますし、てっきりカズマはそういったことが得意なのだとばかり……」

 

「仕事関係の伝達くらいなら誰だってできるし、軽口くらいは叩けるけれども、女子を喜ばせるような話術とかの心得なんざ何にも知らんぞ」

 

「むしろ、それ無しでよくここまでやってこれましたね」

 

 

 そんなことを言われても、これに関してはマジで俺は普通にやってるだけだ。

 人間関係を構築するうえで最低限の注意は払っているが、意図せずして女たらしのような言葉を口にしたり、イケメンのやるような行動などとった覚えがない。

 アクアに関して言えば割かし気を遣っているけれど、あいつは人間ではないのでノーカンだ。

 何というか、そういう対象として見ることが憚られるし、慈愛の女神であるアクアが俺の事をそのような対象として見ること自体あり得ないことだろうし。

 

 

「まあ、カズマなら大丈夫でしょう。ゆんゆんだって、変に歯の浮くような言葉をかけられても戸惑うでしょうし」

 

「……正直不安なんだが」

 

「カズマはいつものようにやってあげてください。多分、ゆんゆんもその方が気が楽になると思いますから」

 

「へいへい。……なあ、今また一つ疑問に思ったんだが、そういう意図があるなら、最初っから話し合いで決めればよかったんじゃないか? こんな不確定なものに頼らなくても」

 

 

 俺の指摘にめぐみんがやれやれと言った様子で首を振って、

 

 

「それで、ゆんゆんが素直に首を縦に振ると思ってるんですか? あの恥ずかしがり屋の彼女が?」

 

 

 正論でぶった切ってきた。

 ヤバイ、全く否定できない。

 

 

「それに、こちらでちょっと確かめたいことがありますからね。皆の前では言いづらいことなので、この方が都合が良かったのですよ」

 

 

 本当にめぐみんは頭が切れるな。

 なんだか複雑な気分だ。

 それなのにめぐみんが爆裂魔法以外の魔法を捨ててしまったことを勿体ないと思う自分もいるが、爆裂魔法を極めようとする変態だからこそこいつらしいと納得する自分もいる。

 何なんだろうな、この感情は。

 そんな俺の視線を受けためぐみんは、

 

 

「……なんですかその視線は? もしや、カズマは私とデートしたかったとか思ってたのですか?」

 

 

 何か勘違いし始めた。

 そのめぐみんの言葉に俺は、

 

 

「…………フッ」

 

 

 鼻で笑って返してやった。

 

 

「ぶっ殺」

 

 

 その後は、杖を振り上げ殴りかかってきためぐみんの頭を押さえたりと、ゆんゆんとダクネスが迎えに来るまで延々と二人でじゃれ合うことになったのは、別の話である。

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

「そ、そそそそそそれではカズマさん! 今日はよろしくお願いしましゅっ!!」

 

 

 あれほど人生初デートに焦っていた俺だったが、目の前でもはや挙動不審の域に達しているゆんゆんの姿を見て平静を取り戻すことができた。

 割かしゆんゆんと俺はそれほど歳の差はないけれど、やっぱりこの子には異性と言うよりは娘か妹を相手にしている気分になる。

 

 

「まずは落ち着けゆんゆん。俺と出かけたことだって、結構前にあっただろ?」

 

「あ、あああああれは、アクアさんもいましたですしはい!」

 

 

 ……ダメだ。言語中枢がやられてやがる。

 さてどうしてやったもんか。

 このてんぱり具合を見ると、チョロさ云々以前にゆんゆんが将来恋人ができた時がとても心配になる。

 相手からすると、デートに誘ったところでまともに会話が成り立たないのだから、その後彼氏の方が面倒に思って別れ話を……。

 いや、その程度でゆんゆんから離れるような輩との交際は、俺が許してもめぐみんやアクアが許さないだろう。

 

 

「というか、二人っきりだからってなんで俺に対してそこまで慌ててるんだよ。この間ダストに話しかけられた時なんか、何ら問題なく二人で会話してただろ?」

 

 

 あのパーティ入れ替え以来、俺達はダストのパーティとは一緒に酒を飲んだり、情報交換したり、とにかくよく話し合う関係になっていた。

 ダストが借金を背負うことになった原因の一部が俺の仲間にあるということに責任を感じた俺が、ダストの借金返済の手助けを手伝ってやっているというのもあるけれど。

 

 そんな中、そのダストは俺達のパーティの中で一番大人しいであろうゆんゆんに、何かとちょっかいをかけている。

 ……まぁ、ダストがゆんゆんに話を持ち掛ける時は、大体がセクハラか、或いは詐欺の話ばっかりなのが目に余るけれど。

 どうしてあいつは年下であるゆんゆんに金を集ろうとするのか。

 いくら俺でもそこまでは……しない……と思う、多分……あ、やばい自信がなくなってきた……。

 

 それはさておき、ダストに絡まれてる時は、大体俺かめぐみんが助け舟を出して話を終わらせるのがいつもの流れだったんだが。

 ある日、またいつものようにダストに絡まれているゆんゆんを見かけた俺は、懲りないな。と思いながらも二人に声をかけようとしたところ、少し衝撃的な光景を目の当たりにした。

 なんと、あのゆんゆんがダストに反撃していたのだ。

 その時の会話と言うのが――

 

 

『本当にいい加減にしてくださいよダストさん。私から酒代やら飲食代やらを巻き上げようとするとか人間として恥ずかしくないんですか? そもそも、よく借金を背負っている状況でお酒を飲もうとか考えられますね。カズマさんに申し訳ないとか思わないんですか?』

 

『はぁ? 珍しく反論してきたかと思ったら、ヤケに良い子ちゃんな台詞ばっかり喋るじゃねえか。ていうか良いだろ? そっちなんかベルディアだかいう魔王軍幹部の報酬で金は有り余ってんだから、恵まれないこの俺にも分け前をくれたってさぁ』

 

『ダストさんが恵まれてないのは自業自得な部分が大半じゃないですか。確かに私はお金の使い道は決まってないですが、少なくともダストさんを養うことには絶対に使いません。というか面の皮が厚すぎません? あれほどカズマさんの事をバカにしてたくせに、その仲間の私にお金の無心をするとか……』

 

『だからあれは反省してるって言っただろ。もう過去の事なんだし水に流そうぜ。いつまでも昔の事に囚われるような暗い奴に友達なんかできねえぞ』

 

『それは加害者が言うべき言葉じゃないです! ダストさんは、そんなことを言ってていいんですか? この間リーンさんがダストさんの迷惑料をカズマさんに渡してるのを見たんですよ? その時カズマさんがなんて言ったと思います? 『俺はいいから、ダストの借金にでも当ててやれ』って言ってたんですからね!』

 

『……え? マジで?』

 

『それでリーンさん、何度もカズマさんに頭を下げてて……ダストさんこそ、過去の男扱いされてリーンさんに見捨てられても知らないですよ!!』

 

 

 ――その後、完全に項垂れるダストの姿があったのは言うまでもないことだろう。

 ちなみに、俺がリーンから金銭を受け取るのを拒否したのは、ダストに対して憐れみを覚えたからではなく、普段からこうやってダストに迷惑をかけられているリーンに同情したからである。

 万が一、いや億が一、ダストが殊勝にも迷惑料を払ってきたなら即座に受け取っていたことだろう。

 

 ともかく、案外ゆんゆんは言いたいことはズバズバ言うタイプだと知ったのはあの時だ。

 最初から悪い人間だと分かっている相手には、ゆんゆんも大丈夫だと安心できたのは収穫だったな。

 本当に危ないのは、自分は無害ですよとアピールして近寄ってくるタイプだからそのあたりは追々と言ったところか。

 

 

「あのノリが出来るんだったら、俺相手にもそうしてくれ。その方が俺も気楽でいい」

 

「え……で、でもあれは、友達と言うか知り合いにすらなりたくない相手だからこそ言えるという面がありまして……」

 

「……ゆんゆん、お前本当にダストには容赦ないな」

 

 

 ボッチであったゆんゆんに、知り合いにすらなりたくないと言われるレベルか。

 ダストとは話自体は合ってしまう俺って、実はゆんゆんに嫌われているのでは?

 ……そうなったら軽く死にたくなるんだが。

 

 

「えっと、カズマさん? どうかしましたか?」

 

「いや、なんでもない……。それよりゆんゆん、何処か行きたいところってあるか?」

 

「わ、私ですか!? そんなカズマさんに私の意見を言うだなんて恐れ多いです! 是非是非カズマさんが行きたいところを選んでくれればそれでもう! 私はその三歩後ろ辺りに付いて行きますから!」

 

 

 ゆんゆんは、俺の事を王様か何かと勘違いしてるのでは?

 いい加減俺とゆんゆんもそれなりに長い付き合いになるんだから、もう少し遠慮なんかせずにぶつかってきてくれてもいいのに。

 それができないから、今までボッチだったんだろうけど。

 

 

「とは言っても、俺も特に行きたいところなんかないしな……。そうだ、ゆんゆんって、クエストに行かない日ってどうやって過ごしてるんだ? めぐみんとなんかやってんの?」

 

「そ、そうですね……めぐみんとはよくボードゲームなんかをやったりしますよ。チェスとかリバーシとか……」

 

 

 イメージ通りインドアな趣味持ちか。

 この世界に来るまでは極限にまでインドア趣味だったからその気持ちは分かる。

 余計なノイズもなしに、自分の世界に没頭できるのは、インドアならではの楽しみ方である。

 

 ……だったら、これなんか丁度いいか。

 ガイドブックに書いてあった、ゆんゆんの趣向に添えような施設を見つけ、

 

 

「んじゃ、ここに行こうぜ。結構並ぶだろうし急ぐぞ」

 

「え、ちょ、あのカズマさん!? そ、その、手、手が!?」

 

 

 ゆんゆんが抗議してくるが聞こえないフリ。

 めぐみんに指示された通り、ゆんゆんの手を握って目的の場所へと向かうことにした。

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

『脱出おめでとうございます! お二人は無事、魔王の城から脱出することが出来ました! しかもなんと新記録も達成です! 輝かしい経歴を残したお二方に皆さん拍手をよろしくお願いします!』

 

 

 司会のお姉さんの声が響き渡り、それに伴い俺達を称賛する拍手が会場を埋め尽くした。

 

 俺達は今、期間限定で開催されていた『脱出ゲーム』に挑戦し、見事クリアしたところだ。

 ボードゲームをやっていると言うから、こういった頭の使う遊びなんかも好きだろうと思ったら、これが意外や意外、あっという間に脱出できてしまったのだ。

 思えば、ゆんゆんはあのめぐみんが対等と認めた魔法使いである以上、頭の良さもそれに比肩するということ。

 記憶力や暗号の法則性の発見など、あらゆるところで大活躍だった。

 俺? 俺は、発想が必要なところとかではそれなりに……。

 

 

『それでは魔王城から生還した勇者のお二人に一言お伺いしたいと思います! 今のお気持ちはどうでしょうか?』

 

「あ、ああああのそのわ、私なんかがこんな褒めてもらうようなことは」

 

「いやー、やっぱりこれも俺の実力って奴ですかね? イヤー優秀過ぎてすみません!」

 

 

 俺の調子のいいコメントに、周りの観客からヤジが飛んでくる。

 

 

「おい、調子に乗んなよ色男! そんな可愛いアークウィザードの女の子を連れてるとかズルすぎんだろ! 色んな意味で!」

 

「そうだー! お前はもっとその女の子に感謝するべきだー! むしろ五体投地でも生温いぞー!!」

 

 

 はっはっはっ! 負け犬の遠吠えが心地良いわ!

 だが、あえてその挑発に乗ってやろう!

 

 

「おう、当たり前よ! この子にゃ感謝の言葉しか出てこないからな! というわけでゆんゆん、ありがとうございました!」

 

 

 ゆんゆんに向かって90°の角度まで頭を下げる俺。

 それを見て慌て始めたゆんゆんは、

 

 

「い、いえいえ! こちらこそ本当にありがとうございました! 私もカズマさんが居なければクリアできなかったかもですし!」

 

 

 お辞儀をしている俺に何度も頭を下げ始める。

 そんな俺達をおかしいと思ったのか、周りの連中が笑い出した。

 

 

『はい! という訳で皆さん、二人の偉大な勇者、カズマさんとゆんゆんさんに皆さん、もう一度盛大な拍手をお願いします!』

 

 

 そして、またも拍手に包まれたゆんゆんは、顔を赤くしながらも、どこか嬉しそうな表情を浮かべていた。

 

 

 

 あぁ、苦し紛れに脱出ゲームなんかに参加したけど、喜んでくれてよかった……。

 後になって、まるっきりデートのセオリーを無視していると気づいた時には冷や汗をかいたが、何とかなったか。

 デートの初っ端から脱出ゲームをチョイスする男なんて普通居ないだろうに。

 むしろ何であの時の俺は行けると思ったんだ。いや行けたんだけれども。

 

 

「カズマさん! あのゲームとっても面白かったですね! また行きたいくらいです!」

 

「一度やったら、攻略法を覚えちまうし、同じのをやっても微妙じゃねえか?」

 

「あ、そうでした……」

 

 

 そう言うと、ゆんゆんが分かりやすく肩を落とす。

 ……しょうがねえな。

 

 

「なんか似たようなのがあったらまた連れて行ってやるよ。アクセルに戻ってからでも、何ならまた別の街に行った時とかにでも調べておくからさ」

 

「い、いいんですか!?」

 

 

 どうやらゆんゆんは、この手のゲームにドはまりした様子だ。

 これなら、めぐみんなんかも気に入りそうだな。あいつもこういう遊びは好きそうだし。

 

 

「ああ。今度はめぐみんも一緒に連れて行こうか。それで、どっちが先にクリアできるのか勝負って感じで」

 

「た、確かにそれも面白そうです! じゃあ、約束ですよカズマさん!」

 

「了解了解。じゃ、約束な」

 

 

 そうやってゆんゆんと指切りをしながら俺は思う。

 

 …………今すぐ俺にデートの仕方を教えてくれる先生とか居ねえかな。

 もう、次のプランが全く思い浮かばないんだが。




Q,実際にゆんゆんって脱出ゲームとか好きなの?

A,分からないですが、この小説ではそういう設定だと思ってください。
一人遊びでチェスをしてたり、頭がいいという点から、そこそこ気に入るのではと判断しました。
なんならめぐみんと勝負もできますし。

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