このおかしな仲間に祝福を!   作:俊海

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この素晴らしい待ち人に祝福を!

「忌々しい教団もこれで終わりだ。一つ一つの温泉に毒をバラまくより、こうやって直接源泉を汚染すれば手っ取り早く破壊工作を終わらせられる」

 

 

 アルカンレティアの温泉を汚染していたデッドリーポイズンスライム――ハンスは、口角をゆがませて一歩、また一歩と雪が降り積もりつつある山を進んでいく。

 彼の目的は、魔王軍にとって目障りなこのアクシズ教の総本山、アルカンレティアを再起不能にすること。

 そこでハンスは、この街の収入源の一つである温泉を汚染することで、この街の評判を低下させる計画を立てたのだ。

 

 

「それにしてもウォルバクのやつ、湯治に来たいんだったら来ればいいのに、『魔王軍のためって言うのは分かるけれど、あなたがアクアの温泉を汚染してるのを近くで見てたら、破壊工作を邪魔したくなるから止めとく』とか言いやがって。なんで魔王軍の奴が女神の味方になってんだよ」

 

 

 目的としては一緒のウォルバクも誘ったというのに、彼女はハンスとは同行したがらなかった。

 そう言えばウォルバクは元女神だとか言ってたな、とハンスは思い返すが、それに連想されるかのように、この街で最も崇拝されているであろう女神の顔が彼の脳内に浮かび上がってくる。

 

 水の女神、アクア。

 天界では水を司るというよりは、慈愛や母性を担当しているのではと噂されているらしいドジっ子女神。

 周りの神からは、『何だかこいつは見守っておかないと危なっかしい』とか、『どんなことでも一生懸命なのがいじらしくて癒される』とかと評判だそうな。

 これらの情報は、ハンス自身が直接見たわけではなく、ウォルバクや悪魔たちから口づてに知識として得ているだけなため、そう言ったことには疎い。疎かった。

 

 ただ、この街にやってきてからというものの、ハンスはそれらの証言は事実に近しい物であると確信していた。

 計画の下準備のため街を調査しているとき、この街の住人達が頼んでもいないのにやたらと世話を焼こうとしてくる。

 最初は観光客に金を落としてもらうためのサービスのようなものと思っていたが、それが彼らにとって当たり前と言えるほどに習慣づいているものだと判明したときは、中々にハンスも驚かされたものだ。

 だというのに、アルカンレティアは常に活気づいており、これは魔王軍にとって非常に目障りな集団だと、ハンスは再認識せざるを得なかった。

 そんな裏で、魔王軍に好意的に接してくるアクシズ教団の信者に対し、嘲笑染みた感情をも持っていたのだけれど。

 

 信者たちがそうならば、その大本であるアクアもそれに近しい人格を持っているのだろう。

 分け隔てなく情けを掛け、いつでも明るく楽しそうに振る舞い、周りからの注目を自然と集めてしまうような、そんな女神なのだろう。

 ああ、全く――

 

 

「――虫唾が走る」

 

 

 ここに来たのがもしもベルディアだったなら、この街の人々に絆されて、最悪の場合何もせずに撤退していたかもしれない。

 性格の面では少々問題があるデュラハンだが、その本質は騎士道精神にある。

 奴ならば、自らに好意的な存在に対し、敵意を向けることなどできはしなかっただろうと、ハンスは推察した。

 

 なんとも情けない。

 魔王軍に属するものならば、情け容赦など一切かけずに、人間どもを蹂躙するのが正しい姿だろう。

 どいつもこいつも、本当に世界を恐怖の底に沈める気はあるのかと問いたいほどだ。

 

 しかしハンスは違う。

 魔王軍のためなら、相手の気持ちを慮ることなどする気がない。

 どれだけ友好的な相手だろうと、良心の呵責など一切なし。

 だからこそ、こうして源泉に毒を撒こうと登攀しているのだから。

 

 

「さて、あともう少し……!?」

 

 

 ハンスが気合を入れなおそうとしたその瞬間、背後から凄まじい衝撃が走った。

 

 ――おかしい。

 このスライムの身体は、物理攻撃など通すはずがないのに。

 そもそも、人間に擬態しているはずの俺に、どうしていきなり攻撃を――!?

 

 そんなことを考えながら、ハンスが振り向くと、

 

 

「おおっ……! 我が一撃を無防備に受けても原形を留めているとは、話に聞く通りスライムというものは耐久力が高いのだな。むしろ、この魔剣のおかげで、僅かではあれど傷を負わせることのできたとも言えるのだろうか……!」

 

 

 ベルディアの剣を握りながら、頬を上気させて興奮した様子の女騎士の姿がそこにあった。

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

「な、何ですかあなたは。いきなり攻撃したかと思えば、人をスライム呼ばわりするなんて。そもそもここは立ち入り禁止のはずなのにどうして……」

 

 

 ダクネスの攻撃を食らったくせに、尚もスライムはしらばっくれようとする。

 が。

 

 

「さあさあ貴様はどのような攻撃をしてくるのだ? その軟体を活かして私の身体を拘束するのか? それとも毒液をまき散らせてくるのか? よもや、それ以外の何か予想もつかない攻撃を……? ……っくぅ! たまらない! 未知なる体験に対する期待が高まって、武者震いが止まらない! どれほどに苛烈な攻めを見せるのか、どれほど剣を叩きつければ打倒できるのか。ああ、なんとも楽しくて、なんとも楽しみで仕方がない!」

 

「……え、何これ」

 

 

 残念ながら、バーサーカーに言葉は通じない。

 そんなダクネスを見て、茫然とする魔王軍幹部の男。

 ……なんだろう、ついこの間も似たような光景を見たような気がするんだが。

 

 それにしてもダクネスはすごいな。

 触れた瞬間即死するらしいポイズンスライム相手に、あそこまで接敵できるなんて。

 状態異常耐性のスキルとやらを持っているのもあるかもしれないが、それでも俺ならビビると思う。

 

 

「めぐみん、あいつが魔王軍で間違いないな?」

 

「ええ。スライムとよく似た魔力を持っていますし、なにより汚物以下の淀んだ魔力を体中から放ってますからね。この事件の犯人はやつでしょう」

 

 

 めぐみんの魔力感知能力で、奴がスライムであることはお見通しだ。

 だからこそダクネスには、『相手の言い分は無視して、めぐみんが指摘した奴に勝負を挑め』って言ったんだからな。

 万が一人違いだった場合を考慮して、今一度めぐみんに確認をとったが、あの筋肉質で背の高い男がデッドリーポイズンスライム他ならない。

 そして、

 

 

「おいダクネス! 無理して倒そうとしなくて良い! どうにかしてそいつを源泉の方にまで誘導してくれ! そこまで追い込めたら勝ったも同然だからな!」

 

「うむ分かっている。だが別に倒してしまっても構わんのだろう?」

 

「分かりやすいフラグを立ててんじゃねぇ!」

 

 

 ダクネスたちが戦っている山道から少し逸れた森の中から、大声で指示を出す。

 俺とめぐみんは近接においては完全に無力のため、『千里眼』スキルで監視しながら遠く離れた場所に避難している。

 いざという時には、ここから『狙撃』で援護をするつもりではあるが……、

 

 

「どうしたどうした! 動作があまりにも遅すぎるぞ! 先に戦ったデュラハンならば、この程度造作もなくかわしていたというのに! それでも貴様は魔王軍の幹部か!」

 

「ぐっ!? クソッ! なんでだ!? どうしてこの俺が剣なんかでダメージを受けてやがる!?」

 

 

 ダクネスの剣戟に、スライムは防戦一方になっていた。

 普通なら、スライムの身体は拳や剣、槌や矢もほぼ無力と化すはずだというのに、何故かダクネスの攻撃があいつに僅かではあるが通用している。

 確かにダクネスが今使っているのは、ベルディアから強奪した大剣ではあるものの、あれ自体には何かの魔法が付与されているということはなかった。

 もしかしたら、普通の方法では検知できない魔王の加護とやらが働いているのかもしれないが、一番の大きな理由は推察できている。

 

 単に、いくらスライムの身体が流体で、どんな衝撃でも受け流すことができるのだとしても、ものすごい質量の物を、ものすごい勢いで叩きつけられたら、その威力全てを殺し切ることは不可能だと言うだけの話だ。

 殴った程度では割れたりしないバスケットボールでも、新幹線に撥ねられたら粉砕するように、ダクネスのあれも、とても簡単な物理法則に則っているだけだ。

 ……そんな馬鹿力を出してるあいつは一体何なんだという疑問が、新たに浮上するけれど。

 

 

「その調子だダクネス! そのままそのスライム――いや、ハンス(・・・)を源泉に叩き込め!」

 

「な、どうして俺の名前を!?」

 

 

 驚きのあまり叫ぶようにして問うてくる。

 どうしても何も、

 

 

「ウィズから聞いただけですけど?」

 

「う、ウィズだと!? どうしてここにウィズがいやがる! あいつ、城を出た後はどこかの街で店を出すって言ってたじゃねえか! 何あいつ働きもせずに温泉街に観光なんかに来てんだ!」

 

 

 ハンス討伐の準備段階の時に、ウィズがポロリと漏らしたのだ。

 そこまで強力なスライムなら、恐らくはハンスさんだろうと。

 私、魔王軍の幹部の一人だからよく知ってますとも。

 

 その事実が暴露されたとき一悶着はあったが、それはまた別の話。

 ウィズから聞き取れるだけの情報を集めた結果、ある程度はハンスについて俺達も知ることができたという訳で。

 

 

「とにかく、ハンスを源泉に放り込めればそれで詰みだ! 元は液体に近いスライムならそのままお湯に溶けるから、そこを源泉ごと凍らせちまえばいくら魔王軍の幹部でもどうにもできない! だから、どうにかがんばれダクネス!」

 

 

 そこまで俺が言った途端、ハンスの口元がゆがんだ。

 だが、それは一瞬の事で、即座に訝し気な表情へと変わり、

 

 

「おい、さっきから遠くで喚いている野郎、そんなことしたら結局この街の温泉はダメになっちまうぞ? お前は何を考えてるんだ?」

 

「一時的に汚染されたって、アクアならまた浄化できる! 要はお前さえ倒せればいいんだよ!」

 

「はっ! この俺の毒を浄化できる奴がいるとは思えないが……いや待て、それでも浄化するには直接源泉に触れないといけなかったんじゃなかったか? 火傷するぞ?」

 

「うちのアークプリーストは無辜の民のためなら、自分がどれだけ傷付こうが我慢できる強い子なのでお気遣いなく。熱くても『フリーズ』と『ヒール』をかけ続けてたら行けるだろ」

 

「鬼かお前は!?」

 

 

 おや、極悪非道の魔王軍にそんなツッコミをされるとは。

 

 

「くっ……そこまでの覚悟があるなら掛かってくるがいい! そう易々とはやられんぞ!」

 

 

 ハンスがそう言うと、自らの体の一部をちぎり、ダクネスめがけて投擲する。

 それを満面の笑みで真正面から受け止めようとしているダクネスの姿を認めると、

 

 

「ダクネス、躱すか弾き返すかしなかったらバインドでも何でも使って即座にそこを撤退させるからな」

 

「やむなし!」

 

 

 ダクネスがベルディアの剣を振るって、ハンスの毒を退ける。

 思った通り、ダクネスの奴、いい勝負が出来てるせいで、全能感に支配されかけてやがったか。

 どうしてこう、良いところまで行ったら調子に乗りたがるんだ、あいつは。

 

 つーか、あの剣丈夫だな。結構な頻度で毒に触れてるって言うのに、腐食する予兆すら見せてこない。

 マジであのデュラハンから『スティール』しといて良かった……。

 

 

「カズマ、ハンスがもう少しでポイントにたどり着きますよ」

 

「そうか。じゃあそろそろだな」

 

 

 めぐみんの報告を聞いて、俺は木から飛び降りダクネスの背後へと回る。

 いつものように、炸裂弾を弓に番えて、

 

 

「もう一押しだ! いくら物理攻撃に強いったって、爆風で吹っ飛びはするだろ!」

 

「ぐおっ!?」

 

 

 爆発した衝撃で、ハンスが軽く吹っ飛ぶ。

 よし、目標地点まであと少し……。

 

 

「ったく、お前らは本当におめでたい奴らだな」

 

 

 内心でガッツポーズをとっていると、ハンスがこらえきれないと言った様子で笑い始めた。

 

 

「……何が言いたい?」

 

「お前の考えた作戦とやらは、最初から成功するはずもねえ愚策だったってことだよ!」

 

 

 そう言いながら、ハンスは目の前に現れた俺に指をさし、

 

 

「この俺が、あの程度の規模の源泉に入ったところで、溶けたりなんかしないんだよ! どうしても俺を倒したいって言うなら、溶岩にでもぶち込んでみろ!」

 

「…………」

 

 

 俺が黙り込むと、それを見たハンスがさらに上機嫌になって口を開く。

 

 

「お前がやろうとしていることは、むしろ俺への援護に等しい行動だったって訳だ! 残念だったな、当てが外れて! 俺はこのまま源泉を汚染して、」

 

「おい、ハンス」

 

 

 スライム野郎の言葉を遮り、俺は心底呆れたような表情を浮かべながら、

 

 

そんな作戦嘘に決まってんだろ(・・・・・・・・・・・・・・)

 

「…………は?」

 

 

 先ほどまで浮かべていた笑みが完全に消え失せ、呆気にとられた魔王軍幹部の姿がそこにあった。

 

 

「魔王軍の幹部が100℃程度の熱湯で倒せるくらい貧弱だったら今までで倒されてるだろうし、温泉の汚染を阻止しようってのに討伐するためにわざと汚染させるとか目的と手段が入れ替わってるし完全にギャグじゃねえか。え? 何? まさか、俺がそんなしょうもない作戦を考えたって本気で思い込んでたわけ? マジうけるんですけど」

 

「じゃ、じゃあなんで俺をわざと……!」

 

 

 本気で慌て始めたハンスの言葉を無視し、俺は源泉の方に顔を向けて叫ぶ。

 

 

「おいウィズ(・・・)! もう、射程圏内に入っただろ! そこから全力で魔法をぶち込んでくれ!」

 

「な、ウィ……」

 

 

 ハンスが何か言いかけたところ、その横っ面に炎の渦が叩き込まれる。

 流石アークウィザード。火力が違うな。

 けれど、それでもハンスにはさして効果も無かったようで。

 

 

「ウィズだと!? あいつは俺達とは結界の維持以外では互いに不干渉のはず! どうして攻撃を……!」

 

「いや、それって確か戦闘に携わる奴ら以外に手を出さなきゃって話だろ? お前がやろうとしてることって、思いっきりここの住人に対するテロ行為じゃねえか。何を寝ぼけたこと言ってんだ」

 

「ぐっ!?」

 

 

 ……やっぱり、元がスライムだからそんなに頭は良くねえのかな。

 だが、あの魔法を食らってもハンスはぴんぴんしている。

 戦闘力と言う分野では、それだけで十分脅威と言えるだろう。

 

 

「さあどうする? 源泉に近づけば、ウィズの魔法が飛んでくる。こっちに来ればバーサーカーと俺の相手をしなくちゃいけなくなる。これで挟み撃ちの形になっちまったぞ? なんならそこの崖から飛び降りて、尻尾を撒いて逃げ出すか? 言っとくが、空中だと俺達が魔法で狙い放題だから、あんまりお勧めはしねえぞ?」

 

「……チッ! ここは一旦仕切りなおす!」

 

 

 現状は不利だと判断したハンスが、俺が元々隠れていた森の方へと駆け出していく。

 成程、森の中に潜んで、闇討ちで各個撃破するつもりなのか。

 この夜闇に紛れ込めば、敵感知ができる俺ならともかく、他の奴らなら倒せるだろうと。

 思ったよりは賢い選択だな。

 ……ただ。

 

 

「ああ、そうそう、さっきの作戦内容についてなんだが、もう一つだけ付け加えておきたいことがある」

 

「お前の言うことはもう聞かん! お前と話をしていると頭がぐちゃぐちゃになってくる! クソッ! 雑魚の癖に今までの敵で一番戦いにくいなお前は!」

 

 

 なぜか、またもベルディアと同じような評価をされた俺。

 そんなに俺って詐欺師臭いだろうか。

 

 

「まあ、聞けよ。こればっかりは真面目な忠告だから。バカなお前にも分かりやすいように解説してやろうと思っての親切心だぞ。ありがたがれ」

 

「お前はいちいち人を小バカにしないと会話が出来ねえのか!?」

 

 

 人じゃなくてスライムじゃんと言うツッコミは心の内にしまっておく。

 

 

「いやな、もう俺の思い通りに話が進んで申し訳ないって気持ちが溢れてきてよ。何も知らないで倒されるよりは聞いといた方が良いだろ?」

 

「はぁ? 何が思い通りだって、」

 

「作戦上、お前には源泉に近づいてほしいはずなのに、どうしてそこに至る道の中腹で俺達はお前に奇襲を仕掛けたのかって疑問に思わなかったのか? ほっといたら、勝手に罠にはまってくれるはずなのに」

 

 

 俺の本当の作戦が、頂上で待機しているウィズの魔法攻撃での殲滅であったなら、何もそれが始まる前からダクネスと共に戦う必要性が全くない。

 登場するのであれば、ウィズの攻撃が始まってからの方が安全性が高いのは一目瞭然なのだから。

 だというのに、俺達はこうして危険を冒してまでハンスに対峙している。

 ……約一名、個人的な趣味と合致していることが否めないのが残念だが。

 

 

「何より、敵の目の前で作戦の概要を喋っちまうなんてありえないだろ。敵に目論見がばらしちまえば、その作戦は無力化される危険が高いんだからな」

 

「な、何が言いたい!?」

 

「つまり、だ」

 

 

 そこで俺は不敵な笑みを浮かべて、ハンスに人差し指を突き出す。

 

 

「今まで俺がさんざん喋ってたハンス討伐作戦の内容が全くの嘘っぱちだって言うことだよ! 全部、本来の作戦を達成させるためのブラフって奴だ!」

 

「何を訳の分からないことを……、だが、こうして森の中に隠れればそう易々と追いかけてくることができないのは事実だろうが!」

 

 

 それは確かにハンスの言う通りだ。

 いくらダクネスでも、暗闇の中触れただけで即死する可能性がある敵を追いかけさせるなんて真似はできない。

 魔法での攻撃も、木々が遮蔽物になって狙いがつけにくいし、威力だって減衰するだろう。

 ……『あの魔法』以外なら、の話だがな。

 

 

「俺達の本来の目的は、『お前を源泉に誘導する』ことじゃない。むしろその逆だ」

 

 

 実は、最初からハンスを倒す手段自体は確立していたりする。

 だが、それを考え無しにやると、飛び散ったハンスの身体のせいで辺り一面汚染されてしまうから、こうして回りくどい方法で『特定の場所』へと追い込んでやる必要があったわけだ。

 そう。

 

 源泉から離れ。

 住人への被害を抑えられ。

 ハンスの身体が飛び散っても、それを遮るものが林立している、そんな場所に。

 

 

「めぐみん! ハンスの隠れてる場所は分かるな!?」

 

「バッチリです。精密な場所の割り出しとまではいきませんが、我が魔法の効果範囲を考えれば誤差レベルと言えましょう」

 

 

 ハンスとは入れ違いの形で、俺の傍にめぐみんが駆け寄ってくる。

 めぐみんはご存じの通り、頼りになるパーティの参謀役であり、

 俺の魔法の教授であり、

 普段の口喧嘩の相手であり、

 

 

「カズマに指示された通り、時間の許す限りあの森の中で、ウィズの『ドレインタッチ』でアクアから魔力の充填も受けています。これは、過去最大の爆裂魔法が撃てそうですよ」

 

 

 人類の行える最大威力の攻撃魔法――爆裂魔法を操る者。

 そのめぐみんが、紅い瞳を輝かせ、ハンスの逃げ込んだ森を睨みつけている。

 

 俺達の本来の目的は、『ハンスを如何にして源泉から遠ざけるか』ということ。

 そして、それが実現したのなら。

 

 

「よし! じゃあ、派手にぶちかましてやれ! ハンスに合体魔法で攻撃したゆんゆん(・・・・・・・・・・・・・・・・・)に負けない気持ちでな!」

 

「勿論です。親友として、魔法の師匠として、まだまだ遅れをとるわけにはいきませんからね……!」

 

 

 あとは、この天才魔法使い(へんたい)がとどめを刺してくれるはずだ!

 

 意識を集中させためぐみんが、静かに、けれど力強く詠唱を始め……。

 

 

「さあ、覚悟することです。我々と敵対したこと、そして何より、アクアの聖地に被害をもたらそうとしたことを。受けるがいい、我が究極の破壊魔法!」

 

 

 怒りの籠った眼差しを向けながら、会心の爆裂魔法を炸裂させた。

 

 

「『エクスプロージョン』――――ッッ!!」




(ハンス戦は)もうちょっとだけ続くんじゃよ。

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