めぐみんの手により、ハンスへと放たれた爆裂魔法は、辺りに轟音を響かせながら地面を揺るがした。
木々が吹き飛び地面を抉り、壮絶な破壊跡を森に刻む。
「ふう。……やっぱり爆裂魔法は最高ですね。はち切れんばかりの魔力を貯めに貯めて、それを撃った瞬間の快感といったらないですよ。なんかもう、全ての力を出し尽くしてしまいますが」
いつものごとく、地面と熱い抱擁をしているめぐみんが、うつぶせのままピクリとも動かずそう語る。
仕方がないこととはいえ、年頃の少女だというのに顔とか服の汚れを気にしないとか、女らしさを全て投げ出し過ぎだと思うが。
「よくやってくれためぐみん。やっぱりお前もパーティに入れて正解だったわ」
「ふふふ、そうでしょうそうでしょう! やはりカズマは我と同じ道を歩める選ばれし者! 私の戦いぶりを見るなりやんわりと追い出してきた凡人とは一線を画すウプ」
得意げにどや顔をしてくるめぐみんを抱え起こし、かばんから取り出した濡れタオルで砂まみれのその顔を拭ってやる。
服も汚れてしまっているけれど、流石にめぐみんでも、野郎にあらぬところを触られたくはないだろうし。
「ドレインタッチで魔力を少し分けてやるから、服は自分で拭いとけよ。しんどいんだったら街までおぶっていくけど大丈夫か?」
「……ええ、大丈夫ですよ。少し感覚が鈍ってる感じはありますが、歩く分には十分です」
点検するかのように自分の身体を軽く動かして、めぐみんが立ち上がった。
あとは散り散りになった奴らに集合をかけないとな。
「ダクネスはどうだ? 毒の影響はないか?」
「ああ。鎧も剣も損傷はない。なんならもう一時間ぐらいならハンスとも切り結び続けられるくらいだぞ」
そう言いながら、ダクネスは腕を力強く曲げて、力こぶを作る。
本当にこいつの体力は底なしだな。
「欲を言えば、私自らの手でハンスを倒してしまいたかったのだが……」
「あれじゃ無理だろ。押し込んだりすることはできても、討伐できるほどのダメージは通ってなかったみたいだしさ」
むしろ、物理攻撃無効の相手に僅かながらも傷を負わせられたことを自慢していいレベルだ。
うん。俺の世界のスライムは冒険者にはとんでもなく優しいんだなって思いました。はい。
「いやはや私もまだまだ未熟だな。今度スライムと相対するときは、私一人で討伐できるようにならねば!」
「ダクネス。単独でそこまでできてしまったら人間をやめてしまっているのと同義ですので、できればダクネスには我々の理解の範疇の生物であり続けることを望みます」
とんでもない目標を掲げようとするダクネスに、めぐみんが待ったをかける。
ダクネスだけでは倒せるわけがない、と断言できないあたり、こいつの底力が恐ろしい。
「あ……皆さん……ハンスさんは倒せたんですね……」
「なんとかな。ウィズには頑張って……お、おい大丈夫か? 心なしか腕を重点的に、透けてるように見えるけど」
「こ、これくらいなら、一日休めば……」
「ごめんね……、私が女神でごめんね……! 女神としては成仏はして欲しいところだけど、友人としてはまだまだ一緒に居たいから、なんとか堪えて……!」
アクアにおぶられてやってきたウィズが、息絶え絶えに呟く。
やはり、即座にめぐみんに受け渡したといっても、アクアの魔力はウィズには悪影響を及ぼしたらしい。
元々は、ウィズに爆裂魔法をそのまま撃ってもらう予定だったんだが、直接的に人間を殺していたわけではないハンスに攻撃するのは遠慮したいと言ってたいたので、せめてサポートだけでもということで、こうなったわけだ。
……アクアとウィズ、本人たちの相性はとてもいいのに、どうしてここまでかみ合わないのか。
「か、カズマさん。スライムは倒せましたか?」
「ああ、よくやってくれたなゆんゆん。お前の合体魔法があって助かったよ」
「え、えへへ……」
山の上から駆け下りてきたゆんゆんにねぎらいの言葉をかける。
実際、ハンスがウィズの魔法だと勘違いする程度には、合体魔法の威力は桁違いのものだったのだろうし。
こんな優秀なウィザードである二人を輩出している紅魔族というエリート集団がいるのに、なんでこの世界の人間は魔王軍の恐怖におびえているのだろうか。
「さてと、前回の魔王軍はアクアが倒しちまったからあれだけど、今回のとどめはめぐみんがやってくれたんだ。アークウィザードは成長しにくいとはいえ、さぞかしレベルアップできただろ」
アクアのステータスは最初からカンストしている。
スキルポイントも最初から全部のスキルを習得できるほどに保有していたため、アクアにはレベルアップをする必要性が全くない。
そんな事実を初めて聞いた時、俺はひっそりと涙を流した。
――だってそれは、アクアがこれから先どれだけレベルを上げても、アクアの幸運値が改善することがないということを意味しているのだから。
なんでアクアは毎度のように、このような酷い仕打ちを受けなくちゃいけないのか。
そんな悲しみのあまり、改めて俺は、アクアを天界に帰してやることを固く誓ったのであった。
ま、そんな話はさておき、今はめぐみんの冒険者カードの確認の方が先決だ。
このレベルアップで、めぐみんが爆裂魔法を撃っても力尽きないようになってくれればいいんだが。
「めぐみん、お前の冒険者カードを貸してくれ」
「いいですよ。はいどうぞ」
俺から魔力を受け取ったとはいえ、まだまだ疲労が残っているのか、めぐみんは少しばかり億劫そうに懐から冒険者カードを取り出した。
それを受け取った俺は、なんとなしに討伐録の項目を視界に入れ……、
「――アクア! 今すぐダクネスに支援魔法を掛けられるだけ掛けろ!」
「え、え? ど、どうしたのカズマ!?」
「いいから早く!」
怒号に近い声で、アクアに指示を出した。
「ダクネスは剣を構えて森の方へ警戒! 体力の方はまだまだ余裕あるか!?」
「あ、ああ。正直暴れ足りないと思っていたところだからな」
「よし、その言葉だけで安心感が段違いだ! どうしてもヤバくなったら、ゆんゆんを背負って下山しろ!」
俺の態度の急変に、ダクネスが戸惑い気味に応答する。
だが、今の俺にそれに気をかけていられる余裕はない。
そのまま矢継ぎ早に魔法使い組の方を向き、
「ゆんゆん、魔法はあとどれくらい撃てる? 合体魔法の方で換算してだ」
「えっと、一発なら確実ですけど、もう一発となると……」
「めぐみんはもう爆裂魔法は使えないだろうから、魔力探知に傾注。今度は小さな魔力も見逃さないでくれ」
「……了解しました。ったく、爆裂魔法と合体魔法を受けても倒れなかったベルディアと言い、魔王軍と言うのは本当にしぶといですね……!」
めぐみんは頭の回転の速さゆえか、俺の考えというものを即座に理解してくれたようだ。
ウィズが今、アクアの魔力にやられて戦闘不能なのがとても痛いが仕方ない。
それにしても何が足りなかったんだ?
爆裂魔法を撃つ、めぐみんのレベルが、ハンスを倒すまでに至らなかったのか?
こんなことなら、これまでの討伐で、めぐみんにもっと爆裂魔法を使ってもらうんだった!
そんな今更どうしようもないことを、
「ハンスはまだ生きてるぞ! 皆気を抜くな!」
『!?』
俺の掛け声に、この場に居る全員がめぐみんを除いて驚愕した。
けれど、そんな衝撃の事実に一番驚きたいのは俺だ。
ヤバイヤバイヤバイ!
めぐみん以上の火力をたたき出せそうなウィズはダウンしてるし、唯一攻撃が通用しそうなゆんゆんの魔法も一発ほど。
どうあがいても詰んでるとしか思えない。
どうにかできないものかと冷や汗を流しながら思考の渦にのまれていると、
「カズマ、カカ、カズマ……!」
怯えたような声を出すめぐみんが、森の方へと指さす。
その先には、何かを破壊するような音を立てながら、
「で、でけえよぉぉぉ!?」
大きな屋敷ほどにまで膨れ上がったスライムの姿があった。
「待て待て待て待て! あんなんどうしたらいいんだ!? あんなんじゃ凍らせたり燃やしたりするにしても巨大すぎるじゃねえか! つーか、あの質量がどうやって人間サイズの大きさに留まれてたんだよ!?」
「あれはハンスさんがスライムとしての本能に従った形態でして……あの姿に変身すると、何もかもを取り込んで捕食、どんどん巨大化する性質を持つようになるんです……あそこまで巨大化されると、私の魔法でも凍らせることはできません……」
力を振り絞ったウィズの説明を聞いて、俺は絶望感に打ちひしがれた。
今の状況はまさに、第二形態があるとも知らずに全力を尽くして倒したボスが、パワーアップして復活したっていうあれに等しい。
これがゲームだったらセーブポイントで復活するか、リセットするかすればいいが、生憎俺達の眼前に差し迫っているデッドリーポイズンスライムは現実の物。
もはや、目の前にいるハンスをどうやって倒すかではなく、こいつからどうやって生き延びるかという段階に移行している。
……街の人達には申し訳ないけど、撤退するか。
「おいめぐみん。魔力が尽きているところ悪いが、全力で走ってもらうぞ」
「は、はい? そうしたいのはやまやまですが、私の魔力はすっからかんで……」
「今度は俺がドレインタッチで受け渡す。という訳で、アクアかウィズに……」
そうしてウィズの方を見ると、それをおぶっているのはアクアではなく。
「あ、あれ? なんでダクネスがウィズを? お前、前に出たんじゃ?」
「そ、それが今しがたアクアに頼まれて……」
アクアからバフをかけてもらっていたはずのダクネスだった。
幸いハンスはこちらのことなど見向きもせず、本来の目的である源泉の方へと向かっているから防衛の必要がないとはいえ、あのバーサーカーであるダクネスがなんで突撃もしないでこんなところにいるんだ?
というか、ウィズを背負っていたはずのアクアはいずこに?
……まさか!?
いやな予感と共に、ハンスの進路方向へと目をやると。
「こ、ここから先は絶対に行かせないんだからーっ!!」
源泉を守るかのようにハンスの目の前に立ちふさがるアクアの姿が。
「ば、バカ! アクア、何でそんなところにいるんだ! お前がそこに居たってどうしようもないだろ!!」
「だってだって! ここを守らないと私の信者たちが困っちゃうじゃない! 勝手に動いたことはカズマ達に悪いとは思ってるけど、私を信じてくれているあの子達を見捨てるだなんて女神としてできないの!! せめて、せめて私が犠牲になって汚染されるまでの時間を少しでも稼がなきゃ……!!」
いつもなら自制できているはずなのに、女神としての使命感で、アクアが自分で考えて行動してしまっている。
本来ならそれは喜ばしいはずなのに、アクアの場合は話が変わってしまう。
なんせ、本人曰く、『自発的に行動すると、いっつもロクなことにならない』のだから。
「私の事はいいから、皆は下山して助けを呼んできて! 私がなんとかして持ちこたえて見せるから!」
アクアが悲痛な思いで叫ぶが、それを了承する気は一切ない。
そんなことをすれば、アクアが間違いなく犠牲になってしまう。
ああ、戦う気はなかったって言うのに、本当にしょうがねえな!
「そんなことさせられっかよ! ウィズ、お前の力を借りてもいいか!? 直接的にお前がハンスを倒すわけでもないんだし!」
「そ、それはもちろん構いませんが……」
「ゆんゆんは飛び散ったハンスを凍らせてほしいから、なるべく魔力は温存しろ! ダクネスはできる限りハンスの攻撃から俺達を守ってくれ!」
「は、はい! 可能な範囲でサポートしますね!」
「任せておけ。私がいる限りお前達には指一本触れさせんさ」
なんとも頼もしい仲間達だ。
さて問題は、
「めぐみんに魔力を供給するまでの時間稼ぎか……」
魔力を供給する側、俺、めぐみんの三人が行動不能になる以上、残った皆に頑張ってもらうほかない。
アクアは自棄になってるし、ウィズも現状では魔法を使うのも難しいのだから、実質ダクネスと力を抑え気味のゆんゆんのみが戦力という逼迫した形勢。
普通なら投げ出してしまいたいのだけれど、やるしかないのリーダーの辛いところだよなぁ。
「ウィズはそこで待機しといてくれ。俺とめぐみんは一旦アクアを回収してくる」
「回収って……一体どうやって……」
「その時に考える! 体力もほとんどないだろうし、めぐみんは俺の背中に乗れ。おんぶで連れて行ってやる」
「了解です。何か異変があれば適宜報告しますので、後ろへの注意は任せてください」
さすがはめぐみん。話が早い。
振り落とさないように、めぐみんの身体を鞄から取り出したロープで縛りつけると、俺は一目散にアクアの所へと走り出す。
「ダクネス! マジでお前に全てがかかってるんだから攻撃をこっちに漏らすなよ!」
「言われずとも!」
叫びながら、俺達に降りかかるはずだった毒の塊をダクネスが弾き返す。
本当に命懸けだな! 少しでも触れるとアウトとか! 物理攻撃が効かないとか!
こんなの序盤に戦っていい敵じゃねえぞ!
「『ライト・オブ・セイバー』! ……ここは何とか持ちこたえます! カズマさん、急いで!」
「サンキューゆんゆん!」
襲い掛かってくるハンスの身体を、ゆんゆんが光の剣で両断する。
マジでゆんゆんは能力的に使い勝手がいい! あいつがいないパーティなんて考えられないってもんだ!
そうこうしているうちに、ようやくアクアの近くまで駆け寄れた!
「おいアクア」
「い、いくらカズマの頼みでもここから立ち退くつもりはないわよ! そりゃあ私はカズマの特典で付いてきたけど、こればっかりは譲れないわ! 私なんかが居なくてもカズマはやっていけるだろうし、なんならクリスに声をかければ痛いっ!?」
何やら見当違いなことを宣っている女神様の頭を軽く小突いて黙らせる。
ほっといたら、延々と時間を無駄にするだけだ。
雑な扱いをしたことについては後で謝るとして。
「いろいろ言いたいことはあるけど時間がない。要点だけ伝えるぞ。ダクネスとゆんゆんが食い止めているうちに、お前の魔力をドレインタッチでめぐみんに与えるんだ」
「そ、それで爆裂魔法をもう一回撃つのね?」
「そうだ。その爆裂魔法で飛び散ったハンスはゆんゆんとウィズに凍らせるから、お前にはその後の浄化を頼む。できるか?」
「も、もちろんよ! むしろ望むところだわ!」
よし、これで何とかなりそうだ。
後は安全のために、源泉とは反対方向に移動して魔力供給。
それからどうにかハンスを源泉から離れた場所に誘導して、再度爆裂魔法をぶち込むだけだ。
……その誘導をどうすればいいのかが分からんが。
「とにかく俺を信じてついて来い。ここでお前が立ち往生しても事態は好転しないぞ」
「わ、分かったわ! ……その、勝手に行動してごめんなさい!」
「謝罪とかはこの場を切り抜けてから改めて頼む! そんじゃ行くぞ!」
幸い、源泉への被害を考えて、ある程度目的地から離れた場所で勝負を仕掛けたおかげで、ハンスが頂上にたどり着くまでの猶予はまだまだある。
アクアの手をひっぱって、一先ずこの場を離脱して……。
「カズマ、良い報告と悪い報告が一つずつあります」
突如、めぐみんが非常に不吉な言葉を口にした。
今この事態以上に悪いことなんて何があるってんだ。
「……良い方から頼む」
「ハンスの進行方向が源泉の方角ではなくなりました。これで時間稼ぎができますね」
へー、それは非常に良い情報だ。
源泉から離れてくれるって言うなら、めぐみんの爆裂魔法も遠慮なしにぶっ放せるというもの。
……悪い報告がなかったなら、諸手を上げて喜べたのに。
「で、悪い方は?」
「ハンスの意識が、なぜか私達に向いてます。このままでは我々が潰されるのも時間の問題かと」
「ふざけんな!」
ええ、薄々感づいていましたとも!
だってさっきから、何かを押しつぶすような破壊音が背後で鳴り響いて止まないんだからな!
「どういうことだよ! 何でハンスの野郎は俺達を追っかけてるんだ!?」
「恐らく、カズマの背負っているこの鞄が原因ではないでしょうか。ハンスのあの姿が本能に従ったものなら、高カロリーなものを優先的に捕食するという性質が強まっているせいで……」
ってことはあれか?
いざという時のためにと準備しておいたこの鞄の中に入ってる食料やらに、あの魔王軍幹部様は引き寄せられてると?
バカなの死ぬの? なんでそういうどうでもいいところに弱点みたいなもんをつけてんだ!
鞄を投げ捨てようにも、めぐみんと一緒に括り付けた縄のせいでそれどころじゃねえし!
「くっそ! これじゃドレインタッチもできねえ! アクア! お前は一旦離れて――」
不意に、下半身の感覚が消えうせた。
それに引き続いて、俺の顔面に激痛が走る。
あれ? なんだ? 何が起きた?
眼前に地面があることから、俺は転んだのだろう。
でもなんでだ? 何かに躓いたわけでも、バランスを崩したわけでもないのに。
何と無しに倒れ伏した俺の身体の下の方を見やる。
そこには、痙攣するばかりで俺の言う事を全く聞こうともしない足があった。
「ま、まさか……麻痺毒……か……?」
もしかして、めぐみんの爆裂魔法のせいで、ハンスの身体にある毒素が大気中にぶちまけられてたのか?
いや、そんなことを考えていられる余裕はない。
早く、ここから逃げ出さないと……!
「い、今すぐ解毒魔法を……!」
「それは後で良い! アクア、悪いけど俺達を担いで……」
ヤバイ。
もう、すぐ傍まで来てる。
いやこれ無理じゃね?
アクアが俺達を担いでたら、どうあがいても逃げられないくらい近づかれてるんですけど。
…………。
「アクア! 今すぐ俺を蹴り飛ばせ!」
「え、でもそんなこと!」
「あいつの目的は俺だ! 良いから早くやってくれ!」
「……ゴメンね! 本当にゴメンねカズマ!」
「グヘェッ!?」
鋭いキックが俺のどてっぱらに突き刺さる。
痛い! メチャクチャ痛い!
俺の命令とはいえアクアに蹴られた痛みが、熱を持ったかのように俺の腹部を暴れまわる。
で、でも逃げるにはこうするしかなかったんだから仕方ない!
だけどやっぱりメチャクチャ痛い!
慣性の法則に従って、俺の身体は放物線を描いて遥か彼方に吹き飛ばされる。
だが、このまま地面にぶつかるとめぐみんが俺の下敷きになってしまう。
なんとかそれだけは回避しないと……!
「バ、『バインド』!」
近くにあった樹木に対して『バインド』を発動する。
ターザンよろしく枝に引っかかったロープによって、俺達二人は宙ぶらりんに。
それにより、何とか地面との衝突は避けることができた。
「めぐみん、無事か!?」
「は、はい……なんとか……」
「鞄の中にナイフがあるからそれで縛ってるロープを切ってくれ! 距離が取れたとはいえ、まだハンスの奴が俺を狙ってるから手早く頼む!」
視界の端に映る、こちらへ猛然と進行してくるハンスの姿。
……本当に本能がむき出しになってる形態なのか?
俺に散々煽られまくった恨みとか出てねえか、あれ。
「ロープの方は切れました! しかし、どうするつもりなのですか?」
「俺が囮になれたらいいんだけど、ドレインタッチするには俺がフリーにならないといけないし……」
いや、鞄を狙ってるんだから、こいつをダクネスなりに手渡せば。
ダメだ。ダクネスと距離が離れすぎてる。
今でこそハンスはこいつを狙っているが、気まぐれなんかを起こされたら目も当てられない。
もう少し、もう少しだけ人手があれば……!
そんなない物ねだりをしていると、
「お困りですかね。冒険者の方々」
突然俺の背後から、誰かに声をかけられた。