「あ、あんたは……」
「おや、どうやら麻痺毒を受けている様子。で、あるなら回復魔法の方をかけさせてもらいましょう」
俺の目の前に現れた男――ゼスタさんが、俺の足に向かって手を翳すと、途端に先ほどまで襲っていた痺れが、綺麗さっぱり消え去った。
回復してくれたことに関してはありがたいとしか言えないのだが、なんでこの人がこんな山奥に?
「状況を見るに、貴方達は疲弊しきっているのではないでしょうか? 差し出がましいようで恐縮ですが、ここからは
「は? いや、そりゃあ願ったりかなったりなんだけど、どうして……」
「話は後です。――ウィザード組! あのデカ物にありったけの氷結魔法を浴びせてやれ!」
『はっ!!』
ゼスタさんの号令と共に、森の中から夥しいほどの氷魔法がハンスに殺到する。
あれだけの数ということは、よっぽどな人員が集まっているのだろう。
待て。一体どういうことなんだ。
なんでこれだけの人数の魔術師がやってきてんの?
あまりにも急展開過ぎて俺の理解が追い付かねえ!
「ゼスタ様! 一時的ではありますが、目標の凍結完了しました!」
「よし、次は剣士組だ! 固まった奴の身体を切り刻め! 如何に奴が巨大であるとはいえ、消費させ続ければいずれは果てる! ウィザード組は引き続いて魔法を撃ち込み続けろ!」
そう言い切るや否や、ゼスタさんの命令を受けたであろう人影達が、その背後から次々と飛び出した。
続いて響く、落雷があったかのような轟音、隕石でも衝突したかのような破壊音、崩れ落ちていく衝撃音。
凍り付いたハンスの身体が、見る見るうちにそぎ落とされていく。
物理攻撃が効かないと言っても、固まらせてしまえば通じるって言うことか。
……なんか、目に見えないぐらいに高速移動してる奴とか、5mはありそうなハンマーを軽々振ってる奴とか、闇の力的な物を解放している奴とかいるのは、目の錯覚ではないのだろう。
「プリースト組は、辺りに飛び散ったスライムの破片の浄化に集中せよ! 皆の者、少しでも痛いとか、あ、これヤバいなってなったら即座に離脱してプリースト達に回復してもらうのだ!」
どんどん湧き出る人の山、山、山。
なんだこれ。なんだこれ。なんだこれ!
誰か、俺に状況を説明してくれ!
「……いやはや貴方達には申し訳ないことをしてしまいました。我々の準備が遅れたせいで、魔王軍幹部の討伐をたった六人でさせてしまうなど」
やっぱり、少人数で魔王軍を倒すというのは無謀だったらしい。
そりゃそうだよな。冷静になればそんなの当たり前というものだ。
前回のベルディアが型にはまりすぎただけで、あんな幸運は二度は訪れないのが普通なんだから。
……ちょっと、調子に乗ってたのかな、俺。
「ですがご安心ください。私たちアクシズ教徒が来たからには、これ以上カズマ殿らが苦しむことなどないと断言いたしましょう。さあ、貴方達の討伐を、我々にも手伝わせてください」
俺がそんな風に自己嫌悪していることなど素知らぬように、ゼスタさんは人の好さそうな笑顔を浮かべてこちらに手を差し伸べてくる。
その手を借りて起き上がった俺は、図に乗っていた俺への羞恥心からか、あまりにも思い通りにいかなかったことへの苛立ちか、変なテンションになってしまったらしい。
今心に浮かぶのは、あのバカでかいスライムを何としてでもぶっ飛ばすということばかり。
……ああ、もう、こうなったら全力を出してやろうじゃねえか!
「ありがとうございますゼスタさん! めぐみん、今度こそアクアと合流するぞ! あの人たちが食い止めてくれている間がチャンスだ!」
「分かっていますとも!」
鞄を投げ捨て、俺とめぐみんはアクアの元へと駆け出した。
このまま放っておけば、アクシズ教徒の人達だけで倒してしまえるのではないかと思ったが、流石は魔王軍幹部だけあって、彼らの猛攻を上回るほどの再生力で圧倒していた。
あの様子なら、めぐみんには美味しいところをもっていかせるしかないようだ。
「アクア、無事か!?」
「ええ! むしろ今なら絶好調な気分よ! 私の可愛い子供たちがあんなにも頑張ってるんだから! さあ、めぐみん、私の分もあのスライムに叩き込んでやって!」
「任されました!」
「じゃあ行くぞ! 『ドレインタッチ』! ……あばばばば!?」
アクシズ教徒達の奮闘ぶりに、アクアの調子も良くなっているらしい。
女神の力が、信者の信仰心によって増すのなら、アクアの力は今まさに過去最大とも言えるのだろう。
アクアからめぐみんに『ドレインタッチ』で魔力を仲介するも、その勢いのあまり、ウィズではないが腕が少し痺れるほどに。
「カズマ、大丈夫ですか? 何やら奇怪な声を出してましたが」
「え? まさか、カズマまでアンデッドに……!?」
「ち、違うから! つーかめぐみんは平気なのかよ? あんな暴力的なまでの魔力をぶち込まれて」
「確かに、ちょっとヤバいかもです。具体的には少しの衝撃でもあると、『ボンッ!』ってなりそうな……」
「『ボンッ!』!? それどういうことだ! まさかお前の身体が爆発四散したりしないだろうな!?」
過剰に魔力をいれ過ぎたか?
でも、さっきのあれで足りないとなったら、めぐみんの容量ギリギリまで注ぎ込んだ方が……。
ま、まあ良い! めぐみんには悪いけど、死ぬ気で我慢してもらおう!
「めぐみんは、俺の合図があったらすぐに爆裂魔法が撃てるように待機! 今からちょっと最後の下準備をしてくるから! アクアはめぐみんに何かあったときのために、傍にいといてくれ!」
俺がそう言うと、気合を入れるためか、めぐみんが杖を握りなおした。
めぐみんのことはアクアに任せるとして、最後の仕上げが待っている。
……いや、いっそのこと、万全を期して、ゆんゆんにも頑張ってもらうか。
「ゆんゆん、ちょっと戻ってきてくれ!」
「は、はい! どうしましたかカズマさん!」
「ハンスの後処理に魔力をとっておく必要はなくなったから、お前にも全力を出してもらう! あのデカ物を一瞬でもいいからダメージを与えずに足止めできるような魔法ってあるか?」
「それなら、『ボトムレス・スワンプ』っていう、泥沼を作り出す魔法がありますけど、あの大きさになると……」
「構わない。ゆんゆん一人じゃ無理でも、二人がかりならなんとか行けるだろ」
「え? 二人って……きゃっ!?」
答えている暇はないので、ゆんゆんの手を引っ張り目的の人物のところまでダッシュする。
これこそが作戦における最終工程。
まあ、これを最後に置いたのは、これをやっちまうと俺が行動不能になるからなんだがな。
「待たせたなウィズ! 早速で悪いけど、『ボトムレス・スワンプ』って魔法をハンスに撃ってくれ! それなら直接ダメージを与えなくて済むだろ?」
「良いですけど……今は少し体調が……」
そう。今のウィズは生命力が少なくなっているせいで、体調不良になっているわけだ。
なら、それを補ってやればいい。
薄くなりかかっているウィズの首元を掴み、俺はドレインタッチを行使する。
俺のなけなしの生命力をウィズへ送ると、透明になっていたウィズの身体がくっきりしだし。
「あら……? 体の気怠さが……っ、か、カズマさん!? 急に倒れてどうしたんですか!?」
「き、気にするな……それより…………さっきの魔法の件、頼んだ……ぞ……」
リッチーの生命力を回復させるとなると、これほどまでに体力を持っていかれるもんなのか……!
急激な脱力感に膝を崩してしまったが、それでも何とか立っていられる程度には生命力は残っている。
これなら、めぐみんへの合図くらいはできるはずだ。
「わ、分かりました。それで魔法の方は、もう使ってもよろしいのでしょうか?」
「ああ……ゆんゆんも、手伝ってくれ……」
「了解です! それでは、行きます!」
二人が揃って詠唱を始める。
頼む。これで上手くいかなかったら、本当に万策尽きちまうんだ。
今度こそ……!
「「『ボトムレス・スワンプ』!!」」
ウィズとゆんゆんが作り出した巨大な泥沼は、果たしてハンスの全身を泥中に引きずり込むことに成功した。
とはいえ元はスライム。あの程度の足止めなんかすぐに脱出してしまうだろう。
でも、この一瞬だけでも動きを封じることに意味がある!
「ぜ……全員逃げろ!! 爆裂魔法が飛んでくるぞ!!」
『!!!』
そう、これは、ハンスの足止めをしている皆を退避させるための時間稼ぎ。
俺の最後の力を振り絞った大声での呼びかけに、ダクネスとアクシズ教徒達が一斉にスライムの身体から距離をとる。
今度こそ、確実に決めちまえ!
「……それじゃめぐみん、任せたぞ! やれっ!」
「ええ、今度こそ仕留めて見せます! いきますよ! 『エクスプロージョン』ーーーッッッ!!」
めぐみんの爆裂魔法がハンスに刺さり、木っ端微塵になったのを見届けると、
「あ……もう、だめ……」
緊張の糸が切れた俺は、ついさっきの――そして恐らく、今しがたの――めぐみんのように、重力に逆らうことなく地に伏したのだった。
「皆の者! スライムの残骸を凍らせよ! あの方達の労力を無駄にするでない!」
『了解です!』
……どうやら、ハンスの後始末もアクシズ教の皆さんがどうにかしてくれるようだ。
これでようやく、俺の役割も、
「カズマ!!」
目を閉じようとした瞬間、ダクネスが俺を庇うように駆け寄ってくる。
なんだ? 飛び散った破片が俺の方にでも飛んできたか?
胡乱気になりながらも、ダクネスの視線の先にへと目をやると。
「まだ、まだだ……!」
可愛らしいサイズになったハンスの姿が、そこにあった。
マジかよ。あんなになってもまだ生きてやがるのか。
やべえ、このままだと、またエネルギーを補給して巨大化しちまう!
「まずはお前らを食らって、この身体を……!」
俺とダクネスを標的に、ハンスが毒々しい色の触手を伸ばしてくる。
マズイ! あれに触れちまったら!
「『リフレクト』」
そうやって身構えていたが、ハンスの攻撃が俺達に届くことはなかった。
何やら、光の壁のようなものに阻まれて。
「ふむ、魔力生命体の攻撃なので、魔法反射で防御できると思ったらその通りであったか。――お二人とも、無事ですかな?」
俺の前に立ちはだかるダクネスの、そのさらに先で、ゼスタさんが魔法を発動していた。
この人、何でもないかのように行使してたけど、実はさらっと凄いことをやっていたのでは?
あの攻撃を涼しい顔で防ぐだなんて……。
「さて、その外見からして、貴様はデッドリーポイズンスライムのハンスで相違ないな?」
「それがどうしたって言うんだ。俺が街に潜入したことにも気づかなかった、アクアなどと言うくだらない女神を信奉する、アクシズ教団の最高責任者のアークプリースト様よ」
ハンスがあえて小馬鹿にするような口調で、ゼスタさんを挑発する。
この街のトップの人じゃねえか。
俺とゆんゆんは、そんな偉い人に教会の案内をさせてたってことかよ。
大丈夫か俺? 舐めた口をきいたとかで処刑されないだろうな?
「いやいや、何を言う。貴様がこの街にやってきたことは
「強がりを言いやがって。なら、どうしてこの俺が潜入したときに俺を討伐しようとしなかったんだ?」
ゼスタさんを嘲るように笑うハンス。
それを見たゼスタさんは、心底哀れそうに眺めて。
「このアルカンレティアは、来るものはどのような者でも拒まずだ。心の内でエリス教を信奉していてもマイナーな宗教を信じていても、何なら悪魔崇拝していようと構わない。そしてその受け入れる者達の中に、魔王軍の手先であろうとも含まれるのだ」
「……なんだと?」
……そう言えば、出店の連中の中に悪魔もいたな。
あれって、普通にこの街公認だったのか。
「貴様が何もしないうちは、決して我々も手出しするつもりはなかった。例え今は人類の敵であろうと、もしかすれば共存できる良き隣人になれる可能性があるのだから」
だが。と、ゼスタさんは区切り。
「貴様、この街に入ってきたときのことを覚えているな? 確かそこでは、ある決まり事を守ってもらうように告げたはず」
ああ、あの十戒とかいう奴か。
たしか、あれの内容は……。
「貴様が破った十戒は三つ! 一つは『汝、無暗に他者を傷つけることなかれ』、一つは『汝、意図的に公共物を破壊することなかれ』」
温泉に毒物を混入しようとしているのだから、ゼスタさんの言う通り、ハンスはその二つは確実に破っている。
では、最後の一つは?
「そして最後に! たった今貴様が破った、『汝、アクア様を侮辱する行為は慎むべし』! 司祭として恥ずべきことだが、個人的にはこれを破られたことで貴様をメチャゆるせんよなああああ!? って気分に私はなっている! 無意識のうちや、無知であることでそのようなことをしたのなら笑って注意するくらいに収めるが、あろうことか貴様は、そうと知りながら蔑むかのようにその禁忌に触れた!」
ぶっちゃけやがった。
というか、あれか。
ハンスが最初の二つを破ってたから、こいつを討伐しようとこれだけの人数を引き連れてこの源泉までやってきたのか。
もしかしたら、あの時ゼスタさんがプリーストに呼び出されたのも、これの件だったのかもしれない。
「我らはアクア様の意志を尊び、その教えを大衆に触れさせる者。今の我らが使命は、我がアクア様の教え、尊厳を無意味に侮辱する者、そして、我らが同胞を傷つける者をシバキ倒し、心の底から反省させること。……しかし、貴様の性根は、その程度ではどうにもならないようだ」
ゼスタさんの言葉に従うかのように、アクシズ教徒の皆様が徐々にハンスを取り囲むように近づいてくる。
その彼らの目には、街中でひっきりなしに見かけた優しげで穏やかなものは一切無く、むしろ、親の仇や怨敵を睨みつけるかのように鋭いものが秘められていた。
その中には、俺が観光していた時に知り合った人達の姿もちらほらと。
どうもここに集結した人間は皆、十戒を悪意を持って破ったハンスの事が許せないらしい。
――俺は、ここに来るまでに、このアルカンレティアについて、皆からこう聞いていた。
魔王軍にとっては憎き相手を奉っている本拠地であるにもかかわらず、アルカンレティアは平穏である。
一度だけ魔王の手先と事を構えたことがあったらしいが、それ以降、魔王の魔の字も見受けられないほどにこの街には近付いてこないらしい。
曰く。プリーストを数多く抱えるこの街は、魔王軍の者にとって戦い辛い相手だからだ。
曰く。この街は、水の女神、アクア様の加護に守られているからだ。
曰く。――この街は大量の逞しいアクシズ教徒がいるから、それに関わりたくないからだ、と。
最初は、こんな気の良い人達ばかりなのに、なんでそんな噂が流れているのかと首を傾げていたが、この光景を目の当たりにした俺は、その噂が正しいどころかそれ以上であったと魂で理解できてしまった。
普段は非常に心優しくおせっかいを焼いてくるような人達が、実は地雷を踏まれたら一転してシグルイ状態になる集団だったなんて、誰に想像できようか。
「だからこの俺を断罪すると? やれるものならやってみろ!! この俺の本性を見ても尚挑もうとする、勇敢でありながらも愚かな人間どもよ! ここまで俺を追い込んだことは褒めてやるが、そう簡単に俺を打倒できると思うなよ!!」
しかしハンスは、それを見ても怯えるどころか、却ってやる気を奮い立たせている。
……最初の印象だと、あのスライムはキレやすいチンピラみたいな性格だと思ったんだが、崖っぷちでも諦めなかったり、相手の力を評価したりするところは、意外と悪役っぽいというか、武人肌なところはあるんだな。
ダクネスの攻撃が通じたことや、俺に翻弄されてたことで慌ててたから、あんな残念な感じになってただけで。
つーか、こいつはどれだけ形態を残してんだ。
これで三回目だぞ。
「って速っ!? 何だあの速度!?」
小型化したハンスの姿が一瞬でブレたかと思ったら、凄まじいスピードで移動し始めた。
体重が軽くなったことで素早さでも増したのだろうか、今では目で追いかけるのがやっとな位、縦横無尽に駆け回る。
何だあいつ! スライムだからって、はぐれメ〇ルみたいな動きしやがって!
あれじゃ、誰を捕食するのか判断が……!
「まずは貴様だ!」
「って俺かよ!?」
そりゃ、身動き取れない奴がいたら、まずはそいつを狙うってのは分かるけども!
逃げようにも俺の身体はピクリとも動かないし、俺を庇ってくれているはずのダクネスも、ハンスのあまりの速さに反応しきれていない。
ここまで来て死んじまうだなんて……!
「『ゴッドブロー』!!」
「ウゲッ!?」
重量のある音が響き渡るとともに、ハンスがあらぬ方向へ弾き飛ばされた。
というか、何だゴッドブローって。
そんなスキル、今まで見たことも。
「散々迷惑をかけちゃったわねカズマ」
いや、一度だけ見たことがあった。
あれは、アクアのスキルを教わるために、冒険者カードを見せてもらった時。
今まで使ったことがなかったから忘れていたが、そんな打撃系のスキルがあったはず。
「ここから先は私が片を付けたいんだけど、カズマの判断的にはどうかしら?」
闘志を燃やしながらも、不安そうにアクアが訊ねてくる。
先ほど自分勝手に行動したことに負い目でもあるのだろうか、それともアクア自身の不運を呼び寄せる体質から来た確認だろうか。
……だが、まぁ、そんなアクアにかけるべき言葉なんて決まってる。
「大丈夫、全責任は俺がとる。……だから、派手にぶちかましてやれ、女神様!」
「――! ええ、この水の女神、アクアに任せなさい!」
迷いの晴れたような笑顔でそう言い切り、即座に気を引き締めたアクアは、猛烈な勢いでハンスとの距離を詰め、駆ける勢いそのままに、拳に白い光を宿して殴りかかった。
「何かと思えば、ただの打撃技か! それくらいでは、さっきの女騎士のように吹き飛ばすことはできても、俺は倒せんぞ! このへなちょこプリーストが!」
アクアの拳は、間違いなくハンスの身体を捉えていた。
けれどハンスの言う通り、単なる物理攻撃ではスライムを倒すことなどできはしない。
そう、単なる物理攻撃なら、だが。
「……確かに私はへなちょこプリーストよ。自分の判断で行動したら皆の足を引っ張るし、一人じゃこの温泉を守ることもできなかったし、今だってカズマ達に迷惑をかけちゃってる」
拳の光がさらに輝く。
今は夜中だというのに、急に太陽が出現したかのように。
「それでも、私を信じてくれる信者達や、私の仲間達の前で、彼らに仇なそうとする敵を相手に引き下がる様な、そんな無様な姿は女神として見せられないのよ!」
「な、何ぃっ!?」
女神の力は、信者の信仰心によって増加する。
だったら、フルボルテージのアクシズ教徒達を前に、絶対に負けられないと決意を抱いたアクアの拳は、もはやただの攻撃ですらない。
軟体であるスライムの体にひびが入る。
アクアの本来の権能である浄化の力と、確実に倒すという意志が合わさり、ハンスと言う存在そのものにダメージを与えているのかもだ。
さらに、そこへアクアはとどめの一撃と言わんばかりに左手を固く握りしめ。
「何の罪もない人々を苦しめるため、可愛い信者たちの温泉を汚そうとしたその罪、万死に値するわ! 神の救いを求め、懺悔なさい! 『ゴッド――」
「ま、まさか貴様は本当に――!」
「――レクイエム』!!!」
光り輝く一対の拳を叩き込まれたハンスは、断末魔を上げるまでもなく、蒸発したかのようにその存在を消したのだった。
「……ハンス、お前の不幸は、この街に来たことや、ましてや俺達を相手にした事じゃない」
そんなデッドリーポイズンスライムの最期を見て、呟く。
「この街を――アクアを敵に回したことだ」