「は、初めまして、ゆんゆんと申します! 不束者ですがよろしくお願いします!」
開幕から重たいことを言われたけれど、俺は一体どういう反応をすればいいんだろうか。
「すみません、この子ボッチをこじらせていて、他人との距離感を測るのが非常に苦手なのです」
「め、めぐみん!」
ゆんゆんはめぐみんに抗議の声を挙げるが、めぐみんの言葉は正しいのだろうと納得した。してしまった。
さっきから、すっごい挙動不審だものこの子。視線があっちに行ったりこっちに行ったり、意味もなく顔面は真っ赤だし。
どうも話を聞いている限り、この二人は同い年のはずなんだが、両者にはすさまじい差がある。見た目的な意味で。
この子の方が年上に見えてしまうが、めぐみんの方がしっかりしているとはこれ如何に。
……ああ、反比例しているのか。
「おい、今私達を並べて見た時に何を考えていたのか聞こうじゃないか」
「まるで姉妹みたいだなって思ってました」
嘘は言ってない。
どちらが上でどちらが下かを明言してないんだから。
「それにしても、片や最上級クラスの魔法を、片や上級魔法を使いこなす魔法使いか」
上級職の魔法使いであるアークウィザードが二人もパーティに加わるなら、非常に美味しい話ではある。
そう、あまりにも美味しすぎる。美味しすぎて怪しいくらいだ。
なんでそんな実力を持っていて、美少女の二人が、三日も空腹で、弱小パーティの俺達の所にやってきたのか。その理由が全く見えてこない。
俺の第六感が囁いている、こいつら厄ネタ持ちだと。
「まあ、なんか頼めよ。アークウィザード達」
それでも、こんな誰も寄り付かない俺達の所に来てくれた以上、それを無下にするほど落ちぶれてはいない。
先ほどから腹の中にいる虫が文句を垂れ流している二人にメニューを手渡した。
―――………
「まずは私の実力をお見せしましょう。爆裂魔法は最強魔法、その分準備に時間がかかるので、足止めをよろしくお願いします」
「その前に一つ質問。その爆裂魔法の範囲ってどれくらいだ?」
「20mは優に超えますよ。なので、巻き込まれないように注意してください」
よし、それを聞ければ十分だ。
めぐみんの言葉が事実であるなら、いっそのこと複数のカエルを纏めて葬ってもらうことにしよう。
前の世界のゲームでも、効率的に経験値を稼ぐために、広範囲攻撃を使う時はなるべく多くのモンスターをターゲットにして一網打尽にしたもんだ。
ここは、一番身軽な俺が囮になろう。
「アクア、モンスターを引き寄せる魔法ってあるか? あんまり効果は強くなくていいぞ」
「それなら任せて! 『フォルスファイア』!」
アクアの手に青白い炎が灯り、その火を見たモンスターではない俺ですら、何だかアクアに襲い掛かりたい衝動にかられる。
……いや、ちょっと待て。
「もしかしてこれ、アクアに引き寄せられる感じの魔法か?」
「? そりゃ、術者が使うんだから術者に向かうに決まってるじゃない」
「おう、俺が言葉足らずだったのが悪いんだが、できればお前じゃなくて俺に……」
そこまで言って、不意に俺達に暗い影がさしかかる。
……ああ、うん、この後の展開が読める。
最悪な事態にならないように、俺は矢継ぎ早に指示を出す。
「めぐみん、ゆんゆん、二人はここから動かず、魔法を撃つ準備だけしていろ。アクアは二人を巻き込まないように全力でここからダッシュしろ。何かあれば俺が援護する。分かったな? 分かったって言え」
三人そろって何度も首を縦に振る。
このパーティを結成して間もないというのに、以心伝心なようで何よりである。
それではヨーイ――
「――ドン!」
見事なクラウチングスタートを決めたアクアの背後を、地中から這い出た6体のカエルが追いかけていく。
この水がない場所で、カエルがどうやって生きているのか疑問に思っていたが、そういうことだったのか。
流石の高ステータスのおかげか、昨日は俺を追い詰めていたはずのカエルたちは、アクアには中々距離を縮められないようだ。
……ただ、アクアがすごい絶叫を上げて逃げているのがアレだが。
「わあああああああ!! 食べないで! 私食べてもおいしくないから!」
「アクアーーッ! 安心しろ、お前の脚力だったら絶対に追いつかれないから! 実際傍から見てても結構余裕そうに見えるぞーーッ!」
「そ、それでも怖いものは怖いのよおおおお!! めぐみーーん! めぐみんさーーん! 早く魔法の準備を終わらせてえええええ!!」
怖い怖いと言いながらも流石は女神、身を挺して時間稼ぎをしてくれている。
……と、めぐみんの周囲の空気がビリビリと震えだした。
魔力というものには縁がなかった俺でも、これからとんでもない魔法が飛び出すことは理解できる。
「これが、人類が行える中で最も威力のある攻撃手段。……これこそが究極の攻撃魔法です!」
めぐみんの杖の先に、膨大な光をビッグバンでも起こすのかと見紛うほどに無理矢理圧縮された光が灯る。
そして、それがついに解放された。
「『エクスプロージョン』ッ!」
『凄まじい』という言葉でさえも生温く思えてしまうほどの破壊が起こる。
杖の先に灯った光がカエルに吸い込まれた途端、強烈な光と轟音、立っていられないほどの振動と爆風に襲われた。
余波を食らった俺でさえ到底無事ではいられないこの魔法を、直接食らったカエルがどうなったかなど見るまでもないと思わせる説得力がそこにあった。
事実、爆炎が晴れると、そこには宣言通り、20m以上のクレーターが残されているだけで、カエルがいたという痕跡はどこにもなかった。
「……すっげー。これが魔法か……」
俺がめぐみんの魔法の威力に感心しているその時。
「ありがどう……! めぐみん、ホントにありがどうね……!」
昨日よりかは幾分マシだが、少し涙ぐんでるアクアがこちらに戻ってきた。
もう敵寄せの魔法の効果は切れてるようで、さっき少し覚えたアクアへの嗜虐心も消えている。
「お疲れ様めぐみん、おかげで一気にノルマ達成できた……」
そこまで言いかけて、めぐみんの方を振り向くと。
俺の目に、大地に全てを投げだしているめぐみんの姿が飛び込んできた。
「ふ……。我が奥義である爆裂魔法は、その絶大な威力ゆえに、消費魔力もまた絶大。……要約すると、限界を超えた魔力を消費したので、身動き一つ取れません。すみません、誰かおぶっていただけないでしょうか」
「えぇ……」
―――………
「『ライト・オブ・セイバー』!」
めぐみんはアクアにおぶってもらい、少し離れた場所でゆんゆんの戦闘力を見させてもらっている。
ゆんゆんの作り出した光の刃は何の抵抗もなく、あらたに湧き出たカエルを一刀両断していく。
……本当にすごいな、魔法って奴は。
「ゆんゆん、今度はこっちのカエルを足止めしてくれ」
「わ、分かりました! 『パラライズ』!」
ゆんゆんの魔法を食らい、カエルがマヒした。
その隙に、俺がショートソードでとどめを刺す。
めぐみんは倒れているから確かめようがないが、ゆんゆんが戦闘時においてどれだけのことができるのかを把握するために色々とやらせているのだが、なるほど、味方への補助もできるのか。
「ありがとな、ゆんゆん。助かるよ」
「い、いいいいいいえいえいえ! こちらこそ本当にありがとうございます!」
なんで助けている側が感謝するのだろうか。
いや、大体察しはつくけど。
ぼっちって、誰かと交流できるだけでありがたみを感じてしまう、悲しい生き物だからな。
「……結局、倒したカエルは昨日と合わせて合計10匹か。魔法使いがいるとこんなに変わるもんなんだな」
昨日を思い返すと、ステータスが高いはずのアクアでも、カエル一匹に苦戦していた。
それを考えたら、ステータスはあくまで飾りで、スキルこそがこの厳しい世界で生きていくのに必要な要素なんじゃないか?
「だったら、『冒険者』になったのも悪くはないのかもな」
様々なスキルを覚えられる特性は、『冒険者』特有のものだ。
俺は幸運の値が高いようだから、探せば幸運値に左右されるスキルもあるのかもしれない。
だったら、そのあたりの習得を検討してもいいかもだ。
「あ、あの……もう、これで終わりですか?」
「ああ、お疲れさん。二人ともよく頑張ってくれたな」
そう言うと、アクアの肩に顔をうずめためぐみんが、右手だけ持ち上げ親指をグッと立てた。
……実際『爆裂魔法』は頼りになる魔法だけど、撃つたび倒れるなら使い勝手が悪すぎる。
今度からは、緊急時以外は『爆裂魔法』は使わないようにしてもらおう。
―――………
「…………私は、爆裂魔法しか使えません。他には、一切の魔法が使えません」
「…………マジか」
「…………マジです」
アクアの代わりにおぶっためぐみんの口からとんでもない事実が発覚した。
めぐみん、『爆裂魔法』以外使えない子だった。
「爆裂魔法って、上位の魔法なんだろ? 何で他の魔法が使えないんだよ?」
「……他のスキルを取れば楽に冒険ができるのでしょう。火、水、土、風。この基本属性のスキルを取っておくだけでも違うでしょう。でも、ダメなのです。私が自らの手で愛すると決めたのは、他の魔法ではなく爆裂魔法。例え今の私の魔力では一日一発が限界でも。例え魔法を使った後は倒れるとしても。それでも私は、爆裂魔法を裏切る真似だけは死んでもできません! だって、私は爆裂魔法を使う為だけに、アークウィザードの道を選んだのですから!」
……つまり、アークウィザードになったのは、爆裂魔法を覚えるために必要だったからなっただけで、他の魔法は使う気は一切ないと。
しかも、よしんば覚えたところで爆裂魔法を使うと魔力が空になる以上、他の魔法は使えないと。
「なあゆんゆん、なんでお前はこいつと友達をやってるんだ? いや、友達なのはまだいい。何故にペアを組んで冒険者としてやってるのか甚だ疑問なんだが」
「ゆんゆんは、私がいないとまともに他人と会話ができないからです」
「え、いや、そ、そんなことないから!? ちょっと、カズマさんもなんで納得したような顔をするんですかっ!?」
凄まじい説得力だった。
ゆんゆんの実力があればソロでも冒険者としてやっていけるだろうが、むしろソロでしかやっていけない性格だったわけだ。
思えば、初対面の時から俺達との対話はめぐみんに任せて、柱に隠れていたっけか、この子。
「……片や使い勝手の悪い上級魔法を使うせいでパーティからは敬遠されて、片やコミュニケーションが取れないからパーティに入れないと」
まだゆんゆんだけならやっていけるかもしれないが、どうしてもめぐみんと抱き合わせ商法になっちまうからパーティに入ってなかったのか。
なんで上級魔法使いが俺達の所に来たのかが魂レベルで理解できた。
しかし、どうしたものか。
別にめぐみんは一発撃てば戦闘不能になる魔法を使いたがるだけで、今のところ性格面では厄介な奴には思えない。
そも、その魔法だって当たれば一撃必殺と言っても過言ではない威力なのだから、強敵相手だったら頼りになりそうだ。
なにかと小回りが利くゆんゆんと、万が一の時の切り札のめぐみん。この二人を採用するのは普通に有りな気がしてきた。
……よし、決めた。
「そっか。多分茨の道だろうけど頑張れよ。お、そろそろ街が見えてきたな。それじゃあ、ギルドに着いたら今回の報酬を山分けにしよう。二人とも疲れてるだろうし今日はこれで解散な」
そんじゃ、また明日からもよろしく。そう言おうとしたのだが、その直前に俺は言葉を詰まらせた。
俺を掴んでいるめぐみんの手の力が徐々に強くなってきたからだ。
「ふ……。我が望みは、爆裂魔法を放つ事。報酬などあくまでおまけに過ぎず、何なら山分けでなく、食事とお風呂とその他雑費を出して貰えるなら、無報酬でもいいと考えている。そう、上級職であるアークウィザードである我が力が今なら食費とちょっとだけ! これはもう、長期契約を交わすしかないのではないだろうか!」
「いやいや、めぐみん、お前は何か勘違いをしている。ひとまずは俺の話を聞け。というか一旦この手を放せ。ちょっと頭に行く血の量が足りなくなる気がするから」
「もう少しレベルが上がればきっと魔法を使っても倒れなくなりますから。で、ですから、ね? 私を追い出そうとしないでほしいです」
「い、いやいやいやいや、だからちょっと落ち着け、そして手を放せ。いや、いい、放さなくていいからちょっと緩めろ! 本格的に意識がやばくなってきてるからマジで! くっ、こいつ魔法使いのくせに意外な握力をっ……! おいコラめぐみん、人の話を聞け! 聞いてください!」
「見捨てないでください! もうどこのパーティも拾ってくれないのです! 魔法が使えない状況だったら荷物持ちでもなんでもします! お願いです、私を捨てないでください!」
「だーーっ! 分かった! 見捨てないから俺の脳への酸素供給を断つんじゃない!」
「…………え、本当ですか?」
ようやく、俺は靄がかった視界から解放された。
ああ、生きてるって素晴らしい。空気が美味い。
「ふー……。つーか最初っからゆんゆんだけ仲間に入れてお前だけ追い出すとか考えてもねーよ。追い出すなら二人ともだ」
めぐみんは、ゆんゆんと組めているからなんとかこの日まで死なずに済んでいたんだろう。
そうでもなかったら、爆裂魔法を撃って戦闘不能になった瞬間にあの世行きになってしまう。
それなのにゆんゆんだけ採用してめぐみんを追い出す? 流石に無理だ。寝覚めが悪すぎる。
「んで、めぐみんの魔法もあれならあれで使い道があるし、ゆんゆんもいるならなおさらだ。むしろ明日からもよろしくな」
もしも、めぐみんだけで俺達の所に来たら、迷わず追い出していただろうけども。
一日一発しか打てない魔法使いを採るくらいなら、足手まといがいない分二人の方がマシだし。
「あ……ありが……」
「あん? なんて?」
「貴方は正しい選択をした! 我が強大な力を恐れることなく手中に収めんとするとは、汝を選んだ我が眼は確かであったすみません、調子に乗りました! 謝りますから宙づりにしないでください! やめっ…ヤメロォー」
めぐみんの手の力が抜けた瞬間に、思いっきりのけぞって逆さづりにしてやる。
さっきの俺の苦しみを味わうがいい。
まだめぐみんの変態っぽさが出てきてない?
元から割と爆裂魔法絡みで変態だから目立ってないだけです。
次か、その次あたりで違いが出てくると思います。